太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第五十二話 「七人目の家族」(3)

 さて、そうこう駄弁ってる間にも屋敷の探索は進んでいく。

 今のところ幸いにも、墓地から死体が押し寄せてくる、なんて異常事態はないが、時々聞こえる『アソボウ』の声、主に天井の隅っこ辺りに巣を展開している小さな蜘蛛、それにどこからともなく漂う嫌な臭いなど、少しずつあたしの精神を削っていく要素が満載。

 

 あたしの心が落ち着かないまま、先頭のヤーナはひとつの扉を見つけて、用心深くドアノブに手をかけた。

 

 どうやらここは書斎らしい。

 大きな本棚に本がびっしりと収められ、窓際に机と椅子が置いてある辺り、間違いないだろう。

 

「手がかりの臭いがプンプンしますわね」

「確かに、本が浮かんで飛んで来そうな気はするかも……」

「警戒のしすぎで、微妙に会話が噛み合っておらんな、こやつ」

「とにかく、何か解決に繋がる手がかりを見つけないと」

「そうだな。難しい調査はそちらに任せる」

「ニューはジークと一緒に入り口付近を警戒していてくださいませ」

「ガッテンだ!」

 

 というわけで、IQ低めのふたりをガード役として、識字できるあたしとリテラ、そしてヤーナとミュウくんで書斎の本を粗方調べることになった。

 ヤーナたちは本棚、あたしたちは机の引き出しという役割分担である。

 

 おっと、早速一番上の棚でリテラが何か見つけたようだ。

 

「ほうほう、この書類の束は武器カタログのようじゃな。こと細やかにセールスポイントまで記載されておるわい」

「剣、槍、盾、鎧、投石機まである。結構幅広いものを扱ってたみたいね」

「じゃが、魔導具やマキナは載っておらん。情報通りの古株じゃ。幽霊屋敷の手がかりとしては弱いのう」

「でもここが本当に幽霊屋敷なら、在庫として残ってたこんな感じの武器が、あたしたちを襲ってくる可能性があるってことじゃない?」

「レヴィン、それはもしや『ポルターガイスト』のことを言っておるのか?」

 

 リテラの質問に、あたしは首を縦に振って肯定する。

 

 ポルターガイストとは、心霊現象の一種であるとされるもの。

 洋館を題材としたホラー映画なんかでよく見る、手を触れてないのに、家具やら食器やらがサイコキネシスの如く浮かび上がって人間を襲う、アレだ。

 他にも突然ガラスが割れたり、物音がしたり、灯りがチカチカしたり。

 特定の怖がりな人には優しくない、迷惑な現象である。

 

「可能性としては、なくもないのう。ポルターガイストは幽霊のイタズラだと言われておるから、リーネが夜な夜な聞いたという声にも、ここを調査しに来た人間たちが帰って来ていないことにも、合点がいってしまう」

「やんわりと『映画の見すぎ』って言われた方が、あたしは楽だったわよ」

「残念じゃったな、ここは魔法の世界じゃ。幽霊を信じる層が割と――ぬっ?」

 

 二段目の引き出しを引こうとしたリテラの手が、止まった。

 

「この引き出し、鍵がかかっておるな。レヴィン、少し力入れて引っ張ってみてくれんか?」

「鍵を探す時間が惜しいって? しょうがないわね」

 

 言われた通り、少し力を入れて引いてみる。

 鍵が壊れた音と同時に、上の引き出しより少し深い中身が露わになった。

 

「これって――」

「人形じゃな、女の子の」

 

 そこにあった少女の人形は、黒のゴスロリ服を着用しており、黒い石の胸飾りがあったものの、頬にヒビが入っている程度には劣化しているように見えた。

 おそらくはここに、長い間保管されていたのだろう。何故かはわからないけど。

 故にあたしの警戒センサーは、ビンビン反応してしまう。

 

「ゴスロリ人形……駄目でしょこんなの……絶対動くヤツじゃない……」

「まあ落ち着け。映画の見すぎじゃぞ」

 

 いや、確かにそう言われた方が楽だとは言ったけども。

 これは流石に直球ド真ん中でしょ。

 フォロー不可能案件でしょ。

 

「見なかったことに、しない?」

「流石のわしも、推しのこの世の終わりみたいな顔にドン引き」

 

 そんなヤバイ顔してんだ、あたし。

 とても人前には出られないね、死のう。一度死んでるけど。

 

「むっ? 何じゃ、この不自然な膨らみは?」

 

 と、リテラが人形の手前にある何かを見つけたようだ。

 止める間もなく、リテラが人形の下に敷いてあった布を取り、それを見つける。

 

「こんなところに隠しておったのか。ま、個人のプライベートじゃからの」

「『ヘルムート・ワーグナー』って書いてあるみたいだけど、これって――」

「間違いない。この屋敷の、最後の家主の日誌じゃ!」

 

 や、厄ネタの塊!

 

 見つけてしまった以上は、手がかりを探るために読むしかないんだ。

 故人のプライバシーに配慮できる余裕なんてないんだ。

 

 表紙を開くと、何やらメモが挟まれていた。

 そのメモには文字ではなく、見た目九歳くらいの少女のスケッチ画が描かれていた。

 

「誰なのよ、この子」

「日誌に挟むくらいじゃ。さぞ大切な誰かだったんじゃろうな」

 

 メモの隅に『ネレ』と書いてあるので、この子の名前なのだろう。

 おそらくは、この日誌を書いたヘルムート氏の娘か孫か。

 まあしかし、本題は日誌の中身だ。

 

 と、その時だった。

 あたしの危機を遠見の魔眼で予知したらしきニューが声をあげたのは。

 

「姉貴、上だ! よけて!」

 

 反射的に横っ跳び。

 さっきあたしが立っていた場所には、おそらく上から飛んできたと思われる羽根ペンが突き刺さっていた。

 

「誰よ、こんなん投げたのは!?」

 

 羽根ペンの飛んできた方向からして、うちの団以外の何かがいるに違いない。

 そう読んで天井を見上げると。

 

「えっ……」

 

 魔法にまみれたこの世界においても、その光景は異様に映った。

 引き出しの中で見つけた、あの黒いゴスロリ少女の人形が。

 フワフワと謎の力で、宙に浮かんでいたのだ。

 

「なに……これ……」

 

 信じたくは、なかった。

 まるで、呪いの人形。

 故人の未練を宿す、器。

 そして、この人形から聞こえる声が。

 あたしの理性に、トドメを刺す。

 

《アソボウ……アソボウ……アソボアソボアソボアソボアソボ》

「いやあああああああ!!」

 

 恐怖の救難信号が、部屋中に響き渡る。

 それを受けて最初に反応したのは、扉付近を警戒していたジークだった。

 

「そこっ!」

 

 『ドゥルヒブルフ』をすかさず抜き、弾丸サイズの氷弾を人形に向けて放つ。

 しかし人形は後ろに目がついているかのように、ゆらりとそれをかわした。

 

「貴様が何かは知らぬが、このジークが相手になろう!」

「でかした、ジーク! ヤーナ、レヴィンの腰が抜けておる、肩を貸せ。書斎から出るぞ! ミュウはこの日誌じゃ!」

「まったく、アタクシに肉体労働をさせないでくださいまし!」

「日誌確保しました! 逃げるよ、ニュー!」

「わかってる!」

 

 怪奇現象を見たショックで意識が朦朧(もうろう)とする中、みんなの声が聞こえる。

 情けないあたしと比べて、思った以上に冷静な退却判断。

 こればっかりは感謝しかない。ここまで集団行動で良かった。

 

「あの人形、中々氷弾を当てられん! 間に合わせの汎用型では、そう時間も稼げんぞ。ヤーナ、どうすればいい?」

「ひとまず部屋の外へ出たら、ドアを塞いでくださいまし!」

「心得た!」

 

 ヤーナはあたしを担ぎ、リテラとニュー、それに日誌を持っているミュウくんが先に部屋を脱出。

 ジークは殿となり、飛んでくる本を『ドゥルヒブルフ』で弾きながら、徐々に部屋の外まで退いていく。

 

「ニュー、今ッ!」

「おうさ!」

 

 ジークが部屋を出たタイミング、ヤーナの合図で、扉を閉めるニュー。

 そこへジークがすかさず左手で扉に触れて、無詠唱呪文で凍らせていく。

 扉は瞬く間に凍結し、人形は書斎に閉じ込められた。

 

「た、助かったの……?」

 

 息も絶え絶えになりながら、あたしは何とか言葉を絞り出す。

 

「どうじゃろうな。大型の棚が飛んでくるようなことがあれば、ここも無事では済まんじゃろう」

「とにかく移動ですわ。あの人形から離れて、落ち着いた場所で日誌の中身を――」

「ちょっと待って! 何か来る!」

 

 ニューの警告で、少し我に返る。

 そして聞いた。鉄が擦れるような音を。

 その音は段々とこちらに近づき、姿を現していく。

 

 ()()()

 

 三人分ほどの甲冑が、錆びた剣を持って、廊下を練り歩いている。

 

「ひっ……!」

 

 おそらくはさっき書斎で見たカタログに載っていた甲冑だろう。

 この屋敷にいる人間はあたしたちだけ。

 

 もはや疑いようがない。

 あの甲冑は幽霊が操る(むくろ)そのものである、と――。

 

「そう簡単には逃してくれない、というわけですのね」

「ど、どどどどどうするの!? 多分あれ、中身無いわよ!?」

「中身がなくとも、質量を操っていると仮定すれば、やりようはありますわ!」

 ヤーナが甲冑たちの前に出て、自分のマキナ、『シュツルムウォーダン』を解放(リリース)する。

 彼女の手に、暴風の杖が顕現された。

 

「『ショットクラスター・(インパクト)』ッ!」

 

 愛用の杖を薙ぎ払うヤーナ。

 三つの風の弾が散弾のように散らばり、それぞれの甲冑にヒット。

 三体の甲冑は壁に激突し、パーツごとにバラけたのだった。

 

「やったぜ!」

「どうせ肉の手応えはありませんわ。復活しないうちに早く避難しますわよ!」

「屋敷の間取り図は頭に入っておる! こっちじゃ!」

 

 リテラが先導し、戦略的撤退を促す。

 あたしはヤーナに加えてジークの肩も借り、皆でひとまずの危機を脱したのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 避難先の扉には、『ネレ』と書かれたプレートがぶら下がっていた。

 日誌に挟んであったスケッチ画の隅に書いてあった名と同じということは、かつてその子が使っていた部屋なのだろう。

 

 ニューに扉を開けてもらい、部屋の中へ。

 子供用のベッド、本棚、机、そこへ更に様々なタイプの人形がカーペットの上に散らかっている。

 

 そして天井からぶら下がっている、輪っか結びのロープ。

 何故こんな怖そうな部屋に避難してきてしまったのか、これがわからない。

 

「ここなら、落ち着いて日誌の中身を確かめられそうじゃ」

「そうは思えないんだけど」

「自慢ではありませんが、アタクシの眼鏡は魔力探知器の役割も果たしていますわ」

 

 初めて知ったよそんなの。

 

「探知できる魔力は三種類。派生系を含めた四大元素たる『マナ』。アタクシたちの中に眠る潜在魔力こと『オド』。そして未だ謎に満ちた魔石より発せられる魔力。どうもこの部屋は、他の場所より魔力の濃度が薄いようでしたので、ここに居ればしばらくはやり過ごせると判断しましたの」

「どうしてよ?」

「書斎で浮かんだ人形と、物が飛んでくるポルターガイスト。あれが幽霊の仕業ではない、としたら?」

「ウソでしょ……」

「アレが魔力で動いていた、というのか!?」

「ジークにしては察しがいいですわね。その通りですわ」

 

 あたしからすれば、とんだ怖がり損だ。

 こんなことが許されていいのか。

 

「確証を得るのは、日誌を紐解いてからにしましょう」

 

 ミュウくんがヘルムート・ワーグナー氏の日誌を開く。

 この中にある記録が、幽霊屋敷の秘密を暴くことになると信じて――。

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