太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第五十三話 「七人目の家族」(4)

 ~・~・~

 ◯◯の月 ××日

 

 大口の注文が来た。

 投石機、それにバリスタを五十台ほど。

 それほどまでにあの戦線は過酷なのだろう。

 マキナとかいう古代遺物の模造品の方が王国では支持されているという噂もあるが、やはり殺傷力においては、魔力を通さぬ武器に一日の長があることは明白。

 今後も世の風評に惑わされず、確実に人を殺せる武器だけを売っていこう。

 たとえ魔法の時代が訪れるとしても。

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 流石にこれは、吐き気のする文面だ。

 武器商人ではあるから、頭のネジがいくらか飛んでいると考慮していても、である。

 やはり魔獣が現れる前の大戦では、さぞ儲けていたのだろうか。

 落ち着いて、続きを見ていく。

 

 

 ~・~・~

 ◯△の月 ◯×日

 

 妻に怒られた。

 仕事を優先していて、あまりネレを構ってやれなかったからだ。

 稼ぎの三分の一を治療師の雇用に充ててはいるものの、ネレの持病はそう簡単に治るものではない。

 身体の新陳代謝は心の安らぎにも作用する、だからたまにでも顔を出してあげなさい、とは妻の言葉。

 だが妻よ、娘よ、わかって欲しい。

 今を逃してしまえば、二度と訪れないかもしれぬ商機。

 その一瞬のチャンスを掴めば、きっと今より豊かになるだろう。

 今度の大口が上手く行った暁には、家族サービスの余裕も出来るに違いない。

 新しいネレの()()()も買っていかなければ。

 きっと喜ぶぞ。

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 やっていた事業は褒められたものじゃないけど、家族を想う情はあったのか。

 腐っても父親、といったところね。

 

 

 ~・~・~

 ◯△の月 ×◯日

 

 想定外だ、こんなことは。

 王国と帝国の戦場に突如乱入してきた化け物の出現が、私の計画を大いに狂わせてしまった。

 なんと、我が商社で扱っていた武器が、その化け物に全く効かなかったというのだ。

 有効打を与えられたのが魔法だけだった、という情報がトドメになり、贔屓にしていた顧客は、軒並み離れていってしまった。

 武器市場が、あれだけ目の敵にしていたマキナに蹂躙されてしまう。

 どうしてもそれだけは避けたい。

 広げなければ、市場を。

 王国貴族との縁は断たれたも同然。

 一般国民にも売りつけなければ、我々は確実に没落する。

 ネレ専属の治療師を雇い続けることすら、困難になってしまう。

 この危機を脱するのだ。

 どんな手を使っても。

 ~・~・~

 

 

 雲行きが怪しくなってきた。

 件の化け物が魔獣であると仮定すれば、この頃には既に各地に出没していたのだろう。

 

 魔獣を撃退できるマキナや魔導具が普及した影響で、魔力を通せない物理武器の需要は激減。

 ワーグナー伯爵家は、この時点で時代の波に乗り遅れたことになる。

 

 なんたる諸行無常。同情の余地はないけど。

 

 

 ~・~・~

 ◯×の月 △△日

 

 無用の長物。時代遅れ。

 そんな罵倒を押しのけて、新たに展開したのは、無守衛の集落に防衛用や狩猟用の武器を売りつける戦略。

 マキナに必要なのは魔力伝導率の高い鉱石、マギニウムと聞いた。

 しかしながら、このフリーデン大陸において、その鉱床は数えるほどしか見つかっていないという。

 故に流通という点において、マキナ市場は遅れを取っていると言ってもいい。

 いずれ来る魔法の時代に備え、穴を突いておくに越したことはないが、それなりにリスクの大きい賭けではあった。

 現に営業の道中で、たまたま遠征中だった騎士団の中隊、その中でもマキナを持っていた騎士に遭遇していなければ、私は魔獣と呼ばれる化け物の餌食になっていただろう。

 そして過ぎる不安。

 我々が売る武器では集落全体の生存率は上げられても、日々増え続ける魔獣を消すほどの力はない。

 果たして武器は売れるのだろうか?

 格安マキナと偽って売るべきなのだろうか?

 よく考えて、決断を下さねば。

 帰りを待つ、家族のためにも。

 ~・~・~

 

 ~・~・~

 ◯×の月 △×日

 

 手遅れだった。

 我々の到着を待つまでもなく、目的の集落は魔獣の群れによって蹂躙されていた。

 付き添ってくれていた騎士中隊がどうにか群れを全滅させてくれたものの、私の新戦略は初手で頓挫してしまった。

 夢なら覚めてくれ。

 襲い来る絶望の中で一際輝いて見えたのは、滅びた集落の中で拾った()()()()()

 騎士団がこれと同じようなものをいくらか回収していたが、ひとつくらいは私の手元にあってもいいだろう。

 とんぼ返りする羽目になってしまったのだから、このくらいの報酬がなくては家族に顔向けができない。

 宝石に値打ちがつかなければ、オーダーメイドで服のブローチにでも加工してもらおう。

 願わくばこの石が、景気付けになってくれることを切に願いたい。

 ~・~・~

 

 

 ~・~・~

 ◯◇の月 ◯◯日

 

 営業から帰ってしばらくのこと。

 治療師の努力も虚しく、ネレの病状が悪化した。

 それだけではない。

 使用人が尽く身内の不幸や身体の不調を訴えて、屋敷を去ってしまった。

 何が起きている?

 ありえないだろう、普通に考えて。

 どこで呪いをかけられた?

 そう仮定するとしても、誰が誰を呪った?

 わからない。わからないが。

 あの焼けた集落で拾った宝石は、今でも一際輝いて見える。

 それだけが、確かな現実だ。

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「いかんな。この日誌の主は、拾った宝石を魔石として認識できてなかったようじゃ」

「魔獣が増え始めたばかりの頃だった影響で、まだ魔獣の詳細が世間的にあまり広まっていなかったことを考えると、魔石をただの美しい宝石と勘違いしてしまうのも、無理からぬことではありますわ」

 

 リテラとヤーナの推論、ワーグナー氏を取り巻いた不幸。

 そして、ポルターガイストが頻発するこの屋敷。

 これらを踏まえると、おおよその検討はついてしまう。

 

「全ては、日誌を書いたこの人が魔石を持ち帰ったことで招いた悲劇、ってことなんじゃない」

「結論から言えば、そうなりますよね。でも、全ての謎が明かされたわけじゃありません」

「どういうことだよ、ミュウ?」

「私にもわかるように教えてくれ」

 

 ニューとジークの低IQ組が、揃って首を傾げる。

 察しが悪いというよりは、残された謎って何だっけ、という感じだ。

 

「屋敷に入った時や、あの人形からも聞こえた『アソボウ』って声のことですよ。そもそもの原因が魔石であるのなら、魔石の意思で喋るなんてことは、まず無いと思います」

「魔石は魔獣の核である、濁った魔力の塊。長く放置すれば周囲に悪影響を及ぼし、スライムのように変異種となることもある。ですが、これはあくまで魔石の特性と考えてもよろしいでしょう」

「なるほど、魔石はちょっと危険な燃料、ぐらいの認識で構わないのか」

 

 ジークがそう纏めちゃうと語弊があるような気がしないでもないが、そういうことにしておこう。

 

「じゃあ、あの声って――」

 

 嫌な予感がする。

 おそらくこの先の文面次第で、あたしは腹の内から湧き上がるものを吐き出すことになるかもしれない。

 恐る恐る、日誌のページをめくった。

 

 

 ~・~・~

 ■■の月 ■■日

 

 この屋敷は、私とネレのふたりだけになった。

 使用人は全ていなくなり、妻はネレ専属だった治療師と共に駆け落ち。

 もはやただ堕ちるのみという状況。

 ネレが誕生日を迎える度にプレゼントしていった人形も、今年で十人目。

 あの時拾った宝石を、知り合いにオーダーメイドのブローチとして加工してもらい、服の飾りにした、世界にひとつだけの人形。

 ”また友達が増えた”とネレは喜んでいたが、その顔はすっかり痩せてしまい、今にも事切れそうだった。

 とんだ皮肉だ。

 かつては忙しなく動いて、親として娘に顔を中々見せてやれなかったものだが。

 幾多の不幸が重なった結果、娘とふたりで過ごす時間という、あの頃は思いもしなかった小さな幸運が訪れるなんて。

 こんな状況でなければ、嬉しくて泣いていたかもしれないのに。

 そして無情にも、私が守っていたつもりの幸せは、崩れ落ちた。

 私があげた人形に、”一緒に遊ぼう”と呼びかけたネレが、その言葉を最期に、息を引き取った。

 ネレ。私もすぐにそちらに行こう。

 とうさんも、おまえとあそびたいから。

 ~・~・~

 

 

 次のページは、白紙。

 ここでワーグナー氏の手記は途絶えている。

 

 あたしはふと、天井のロープを見上げた。

 彼はこれを書いた後すぐに、娘の後を追ったのだろうか。

 娘の亡骸の傍で、首を吊って。

 

「なんとも、後味の悪い最期ですわね」

「じゃが、わかったぞ。わしらが既に腹の中にいるということは」

「どういうことなのだ!?」

「つまり、こういうことでしょ?」

 

 リテラの言いたいことが、わかってしまった。

 ジークからスライムの話を聞いていなければ、この答えには至らなかっただろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 腹の中とは、そういうことだ。

 

「うむ、わしらはまんまと喰われたということじゃ。時を経て変異種魔獣となった、この屋敷にな」

「じゃあ、ここを調べに来た人たちは、みんな――」

「この屋敷のどこかには居ましたが、行方不明になった期間を鑑みても、既に屍と化していると考えてよろしいでしょう」

「くっ……とっくに手遅れだったとは」

「まさかボクたち、このままこの屋敷から出られないんじゃ?」

 

 さっきの強気な連携はどこへやら、屋敷の形をした魔獣の腹の中という、この世界の人間からすれば余程現実味のあるシチュエーションに遭遇した途端。

 下手をすれば、幽霊に怯えていたあたしよりも気落ちしている仲間たち。

 

 怖いのは、あたしだけじゃなかった。

 とても身近な脅威に恐怖している姿は、ちっぽけなことに悩んでいたあたしの目を覚まさせた。

 

「そうでもないわよ」

「えっ?」

「何か、思いついたんじゃな?」

「秘策とかそういうのじゃないけど、シンプルな答えは見つかったって感じね」

「聞かせてもらいたい。そのシンプルな答えとは何だ?」

「それは――」

 

 あたしが作戦とも呼べない指標を示そうとした、その時だった。

 部屋の窓ガラスが割れて、書斎にいたゴスロリ人形が再び姿を現したのだ。

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