太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第五十四話 「七人目の家族」(5)

「で、出たぁ!」

《アソボ……アソボ……》

 

 ここもまた屋敷という変異種魔獣の体内。

 それが真実なら、いずれここに来るだろうとは思っていた。

 

「日誌に書いてあった人形と特徴は同じ。やはりこの屋敷の核は、アレで間違いないようですわね」

「そしてあの胸元のブローチが、魔石!」

「なるほど、確かにシンプルだ! あの魔石さえ粉砕すれば――」

「ええ、この屋敷は正常化する!」

 

 あの『アソボウ』という言葉だって、死の間際にあの人形を抱いて息を引き取った少女ネレちゃん、その遺言のリフレインでしかない。

 声真似するインコの方がまだマシだ。

 

 幽霊の仕業でないとわかった以上、この屋敷は魔獣を屠れるあたしたちの独壇場と化す。

 

「今まであたしをビビらせたツケは、きっちり払ってもらうわよ。望み通り、遊んでやるわ」

 

 あたしの挑戦状を受け取ったのか、人形は『アソボウ』を連呼して、周囲のものを浮かばせ始めた。

 ベッドの傍にあった数々の人形、そして床に散らばっていた玩具の数々。

 それらは、一目散にあたしたちという異物をめがけて、襲ってきた。

 

解放(リリース)、『ソルマドラ』!」

 

 あたしはすぐさまマキナを顕現。

 全力の『ソルマドラ・オリジン』までリミッター解除しちゃったら屋敷が全焼しかねないし、今は太陽が顔を出していない夜中なので、あくまで両手甲だけの顕現だけど。

 

 飛んでくる物を落とすだけなら、両手で充分!

 

「セイッ!!」

 

 それぞれ飛んできた物を、必要最小限の動きで、避ける、弾く、受け流す、叩き落とす。

 

「おお! やはりレヴィンの身のこなしは凄まじいな!」

「でもあれだけ物を飛ばされたら、レヴィンさんの距離に持ち込めませんよ!」

「魔力の都合上、持久戦に持ち込んでも根負けするのは確実。本体は羽蟲の如く飛び回るので、何らかの方法で捕まえない限り、決定打は与えられませんわね」

「よくわかんないけど、ヤーナがそこまで言うレベルなら、どうにもならないってことじゃん!」

「いや、何かできるハズじゃ。ヤツが操っていない何かを使えば、あるいは――!」

 

 あたしは人形の飛ばしてくるあらゆる物を弾いて、しのいではいるが。

 

 ヤーナが言った通り、持久戦は正直キツい。

 なぜなら今は夜だし室内なので、太陽が見えていないから。

 人形があちこちに飛び回って、あらゆる方向から物を飛ばしてくるので、捕まえることもできない。

 

 このままでは、ミイラ取りがミイラになること必死だ。

 せめて一瞬でも止まってくれれば――。

 

「そうだ、アレを使えば! ヤーナさん、あのロープを風の刃で切ってください!」

「なるほど、それがありましたわね! 解放(リリース)、『シュツルムウォーダン』!」

 

 ここでヤーナが風の杖を顕現。

 ミュウくんが秘策を思いついたようだ。

 

 ヤーナは、かつてワーグナー氏が首吊り自殺に使ったであろう輪っか結びのロープを、小さな風の刃を飛ばして、天井の柱に結んでいたところから切り落とした。

 

「コイツでヤツの動きを封じるわけじゃな!」

「でも完璧に標的を捉えるにはまだ足りません。ジークさんはあの人形の行くところに氷柱を作って、動きをある程度封じてください!」

「逃げ道を塞げばいいのだな? 心得た!」

「ニューは動きを封じたところに、このロープの輪っかを人形めがけて投げて!」

「よし来た! あっしに任せろ!」

「ロープを締めるのはわしに任せい! 軌道修正もやっちゃる!」

 

 裏で仲間たちが色々と動いてくれている。

 それがわかっていても、ポルターガイストの猛攻は止まらない。

 人形との距離を詰めるどころか、飛んでくる有象無象を弾くのに精一杯で、一歩も動けずにいる。

 

 相手は魔石という名を冠した心霊紛いの災害。

 せめてそこに一発打ち込めるチャンスさえあれば。

 

 そしてそのための即興作戦が今、決行される。

 

「多少無理するが、壊れてくれるなよ、『ドゥルヒブルフ』!」

 

 ジークが汎用型マキナを床に刺し、じっと飛び回る人形を見据える。

 

 人形の近くで氷柱が隆起した。

 すかさず人形は身を翻して避けるが、その先にも氷柱。

 避ける先々に氷柱が現れていった結果、人形は前方と下方以外の逃げ場を失っていた。

 

「今だ、ロープを!」

「目ぇ回すなよ、リテラ! それぇっ!!」

「ぬおおおおおっ!?」

 

 さながら開拓時代のカウボーイが如し。

 ニューが振り回したロープの輪っかを、逃げ場なき人形めがけて投擲する。

 目を回しそうなリテラが掴まった状態で。

 

「ふん、逃げるなら下じゃと思ったわ!」

 

 人形が下降して氷の囲いから脱出するだろうと読んでいたリテラが、高度を下げて人形にロープの輪っかをかけ、両腕と両脚を使って輪っかを締める。

 

 よし、これで動きを封じた! チャンス到来!

 内心いい感じでテンションが上がってきたところで、突然背後から声がかかる。

 

「後ろ、失礼しますわよ」

「ヤーナ!? えっ、ちょっと待っ――」

「『ゼロディスタンス・(インパクト)』ッ!」

 

 突如あたしを襲う、背後からの強烈な追い風。

 ヤーナお得意の風爆弾が、脚を踏み込もうとしたあたしの身体を、まるで砲弾のように撃ち出す。

 普通に突進技の『ブレイク・フィスト』で殴りかかろうとしたところに、強烈な後押し(ブースト)が掛かったのだ。

 

 当然、動きが止まった人形との距離は、一瞬で縮まった。

 

 やばい、唐突なスピードアップだったから、『ブレイク・フィスト』の詠唱が不完全だ。

 もういいや、無詠唱状態の全力で、人形のブローチと化した魔石を一点集中で殴り壊す!

 

「届けええええッ!!」

 

 陽の炎を纏いし右拳が、狙い通りブローチに触れる。

 無論、ブローチとなっていた魔石は、人形もろともパンチと魔力の上乗せで砕け散ったのだが。

 

 ふと、右手甲の中で、薬指にはめていたオシャレ指輪が、震え出した。

 

「えっ――」

 

 そして違和感を認識する間もなく、何かが割れた音と共に。

 あたしが見ていた景色が、真っ白に染まった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 いつかどこかで見たような、青空が綺麗な世界に、あたしは立っていた。

 

 眼の前には、陽炎が揺らめいていて。

 やがて、人の形になる。

 

 九歳ほどの、少女だった。

 なんだか、どこかで見た顔をしているような。

 

 朦朧とした頭で誰だったかを思い出そうとすると。

 少女の陽炎が、あたしの心に言葉を伝えてきた。

 

 ――おねえちゃん、わたしとあそんでくれて、ありがとう。

 

 遊んでくれて、ありがとう――?

 そういえば近い記憶の中で、誰かに『遊ぼう』と呼ばれていたような。

 

 少女の陽炎は安らかに微笑むと、人の形を捨てて、青空の向こうへ旅立っていった――。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 不思議な夢を見たような気がして、目が覚めた。

 

「あれ? あたしは……」

 

 仰向けに倒れた状態で辺りを見回す。

 見上げれば、さっきまであたしが居た屋敷。

 二階の一室にあったはずのガラスが割れていた。

 

「そうか、殴り抜けた影響で外に出ちゃってたか」

 

 外は少し明るい。もう日の出の時刻になっていたのだろうか。

 

 何はともあれ、人形ごと魔石を砕いた手応えはあった。

 悪いのは全部魔石なので、人形には悪いことをしてしまったが、人を死なせたわけではない。

 いずれヤーナ辺りに修繕してもらうのもアリ、か。

 

 ふと、魔石を殴った右手を天に掲げて、あることに気付いた。

 

「指輪が消えてる……」

 

 ヤーナが見逃してくれた、あのオシャレ指輪が、薬指から綺麗さっぱり。

 

「お、やっと起きたようじゃな」

 

 気付けば、既にリテラを含めた団のみんなと外で待っていたリーネが、あたしの周りに集まっていた。

 

「屋敷の二階から音を立てて飛び出してきたのは、ビックリしましたっ。お疲れ様ですっ」

「……もう声は聞こえなくなったの?」

「アナタが魔石を跡形もなく殴ってくれたおかげで、この屋敷は元通りですわ。もう魔石の魔力も探知できなくなるほどに」

「ヤーナがそう言うんなら、もう大丈夫ってことね」

 

 ギラソール傭兵団の頭脳担当から差し伸べられた手を掴んで、あたしは起き上がる。

 

「大体元通りの屋敷にはなっているかと。拠点として使うには、改修が必要ってぐらいですね……ふわぁ」

 

 あたしが魔石を砕いてから色々調べていたらしいミュウくんは、少し眠そうだ。

 そうよね、本来子供が寝ている時間のところを付き合ってもらったわけだから、そりゃ眠いでしょうよ。

 

「ミュウは寝た方がよさそうだし、ここいらでお開きにしようぜ」

「うむ、そうだなニュー。屋敷のベッドは、今使えるのか?」

「アホですの、ジーク? 散々放置された屋敷で、安心して寝られるわけがありませんわ」

「あのっ。ベッドならウチのをお貸ししますっ。色々とお話したいこともありますしっ、ご馳走もさせてくださいっ」

 

 と、依頼主代行であるリーネの厚意もあって、感謝の朝食を振る舞ってくれる流れになったのだが。

 

「レヴィン、何をぼーっとしとるんじゃ?」

「やっぱり何か引っかかるのよね……ヤーナ!」

「どうしましたの?」

「あんたが見逃してくれたあの指輪、魔石殴ったらなくなっちゃって。結局あの指輪って何だったの?」

「ああ、やっぱり一回こっきりの効果でしたのね」

 

 えっ、何それ。

 

「あの指輪、『霊祈(れいき)の指輪』という魔導具で、本来はその指輪をはめた手で幽霊に触れることで、幽霊とコンタクトが取れるという使い方ができる物でして」

「つまり幽霊と会話できるとか、そういう?」

「大まかに言えば、そういう効果の指輪ですわね」

 

 ちょっと待って。待ってよ。

 じゃああたしが夢の光景だと思っていた、アレは――!

 

「まあ、死霊術師(ネクロマンサー)に分類されるような裏の魔導士が使っていたようなものが、巡り巡って露店の商人に渡ったような、効果があるかどうかもわからない眉唾モノと聞いてはいましたけど……レヴィンさん?」

「ミュウくん、まだ日誌持ってる?」

「あっ、はい! どうぞ!」

 

 あたしの気付きを察したのか、ミュウくんは日誌をあたしに渡す。

 日誌を開いたあたしが見たのは、挟まっていたメモに描かれたスケッチ。

 

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「あっ……ああっ……!」

 

 視界が濡れて、よく見えない。

 あの光景は、あたしが見た夢なんかじゃなかった。

 

 天に飛んだ陽炎はきっと、ネレちゃんの魂。

 屋敷と共に魔石に取り込まれたところを、あたしが魔石を壊して解放した。

 そういうことだったのだ。

 

 幽霊は確かに、いた。

 結果的にあたしが成仏させた、というだけで。

 

 なんてことだ、あたしはあれほど幽霊を怖がっていたのに。

 その幽霊のために、泣くことができるだなんて。

 

「うぐっ……えっぐ……」

「な、何で泣いてんだ姉貴!?」

「ごめん……落ち着いたら話すわ……あたしがあそこで見たものを……」

 

 かつての旧き貴族の敷地を、あたしたちは一度去っていく。

 リーネの集合住宅に着くまで、あたしの涙は止まらなかったという。

 

 嗚呼、やっぱり幽霊は苦手だ。

 一度地球で死んだから、化けて出たくない、というのもある。

 でも実際のところは、一度死んだからこそ感情移入してしまうのが辛いというだけ。

 

 ネレちゃん……せめて来世では、どうか健やかに。

 

 ギラソール傭兵団、結成初の依頼は、あたしの心にネレという少女を刻みつつも、無事に達成されたのであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 あれから七日。

 あたしたちギラソール傭兵団は、魔石から解放された屋敷の改修と引っ越し作業に、しばらくの間追われていた。

 

 傭兵団の拠点として恥ずかしくないように、隅から隅まで掃除するのは勿論、ツタの撤去、壊した箇所の修繕、更には王都を出た先の森で資材調達。

 無論、あたしの担当は力仕事の重量物運搬と土木作業。

 

 他のみんなとも作業を分担し、全ての作業が終わった頃には、新築かと見紛う立派な屋敷が建っていた。

 

 なんという達成感。

 廃校になった小学校を再利用しているような感覚だが、今日からあたしたちの家になる、という実感を確かに得たのは事実。

 

 拠点完成を記念して、ギラソール傭兵団随一の敏腕シェフ・ミュウくんが特製のオードブルな料理を振る舞ってくれる。

 せっかくなので近所のリーネも誘い、今宵はパーティーという流れになった。

 

 そんなパーティー準備の中で、あたしはというと。

 

「レヴィンさん、その人形は何なんですの?」

「衝動買いしちゃって。せっかくだから飾っておこうかと思ったんだけど」

 

 買い出しの時につい買っちゃった、黒いゴスロリ少女の人形。

 かつてこの屋敷にあった人形に似ていた気がするので、いわゆる一目惚れというヤツだった。

 

「ある意味アナタのトラウマ呼び起こしませんこと?」

「普通の人形だから大丈夫だって。むしろ七人目の家族みたいに思えて可愛いっていうか」

 

 ちなみにグラウはメイルドラゴンの子だし、一匹換算ということでひとつ。

 

 

「人形が家族って……いくら成人なりたてでも、その趣味はキツイですわよ」

「そういう勘違いすると思ってた。そこまで子供じゃないし」

 

 むしろあたしの場合、思い込みの対象は主に恋愛方面というか……。

 いや、この話はやめよう。

 

「レヴィンさーん、こっち手伝ってくださーい!」

「はいはい、今行くわよ」

 

 あたしは人形を暖炉の傍に置いて、ミュウくんを手伝いに行こうとするが。

 

 ――遊ぼう!

 

 そんな声が聞こえた気がして、振り返る。

 

「気のせい……よね」

 

 人形が何も動いてないことに安堵するあたし。

 いや、人形が動かないのは当たり前なんだけどね。

 

 でも、そんな動かない人形に、なんとなく言葉を返したくなった。

 

「パーティー終わったら、一緒に遊ぼうね」

 

 動かないとわかっているのに。

 人形の顔が微笑んだように見えた。

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