太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第五十五話 「必ずコイツをモノにしてみせる」(1)

 あれは、あたしたちギラソール傭兵団で、王都市場へ向かう農産物を載せた馬車を護衛する依頼を受けていた時のこと。

 

 案の定魔獣は街道沿いの森から、群れをなして出現。

 おそらく『眷属』であろうその外見は、緑色の肌と特徴的な腹回りから、餓鬼と呼ばれている妖怪のように見えた。

 

小鬼(ゴブリン)……武器を扱えるほどの知性がある『眷属』。数だけは多いのが厄介な奴ですわ」

 

 あたしとヤーナ、そしてジークは、馬車を囲むように配置につく。

 

「『王』クラスの姿は、なさそうね。どうする、ヤーナ? 幸い日中だから、群れを全滅させるぐらいなら、あたし出来そうだけど」

「タフなアナタが囮になる分にはよろしいですけど、『眷属』を全滅させたとしても、また『王』が新たな『眷属』を増やすだけですわ」

 

 それは確かに。

 護衛の依頼で追手が途絶えない状況が続いてしまうと、それだけでもジリ貧だ。

 

「せめて『王』さえ見つけられたらいいんですけど」

「ぐらぁう」

 

 馬車に乗っているミュウくんの服に潜り込んでいるグラウも、心なしか不安そうだ。

 

「あっしが偵察してこうか?」

「汎用型のマキナすら持っておらんのに、無謀すぎじゃろ。ここにおれ、ニュー」

 

 ミュウくんと同じく馬車で待機しているニューが考えなしに飛び出そうとすると、リテラが止めてくれた。

 

 小鬼(ゴブリン)の数はどれくらいだろう。

 気配だけなら五十はくだらないかもしれない。

 

 しかし『王』が姿を現さない以上、数を減らしても無意味なのは事実。

 護衛依頼で持久戦だけはやりたくないなぁ……。

 

 双子と一緒に馬車に乗ってる依頼人の農民おじさん――名前はコルクさん――も怯えている。

 

 どうにかこの状況を打破する手段はないだろうか。

 散々迷っていたところに、聞き慣れた大声が響き渡る。

 

「やあやあやあ! 我が名はジーク!」

 

 多くの小鬼(ゴブリン)に狙われているこの状況で、前に出て声をあげる元騎士のアホ女。

 まるで話を聞いていなかったのか、群れの前にその身を晒していく。

 

「我々は無駄な争いを好まん! 無事にここを通りたいだけなのだ! 貴殿らの血で荷物を汚したくはない!」

「いやいやいや、魔獣相手に交渉とかアホなの!?」

「しかし小鬼(ゴブリン)は知性のある魔獣。ジークは、小鬼(ゴブリン)が人語を理解できる可能性に賭けたんですのよ! 多分!」

 

 多分とかヤーナにしては曖昧な推論すぎる!

 

「故に! 貴殿らの(カシラ)との、一対一の果たし合いを所望する!」

 

 ジークってば、何考えてるんだろ、マジで。

 

 確かに『眷属』を束ねている『王』の魔獣さえ何らかの形で誘き出せば、群れている『眷属』は全て消える。

 だがいくら知性のある小鬼(ゴブリン)種であるとはいえ、あちらが有利な状況下で『王』が尻尾を出すだろうか?

 

「あのジークって人、どういうつもりなんだべ!?」

「多分コルクさんにも荷物にも、被害が及ばないような方法を思いついたんでしょうけど……」

「ジークって基本、後先考えないからな」

「何で誰も止めねんだ!? アレ一本だけ使って、親玉さ誘って! 死にに行くようなもんだど!」

「えっと、何でと言われても」

「ジークはアホだけど普通に強いし、決闘するつもりなら、邪魔しちゃ悪いじゃん?」

「そういう問題じゃないっぺ!」

 

 馬車では困惑するコルクさんを双子がなだめている。

 うん、気持ちはわかるよ、コルクさん。

 

 でも、もし相手が果たし合いに乗れば、荷物と依頼人を傷つけることなく、場を収められる。

 相手がバーリ・トゥード(なんでもあり)を旨とする本物の蛮族じゃなかったら、だけど。

 

 かくして小鬼(ゴブリン)の群れは、なぜかふたつのグループに分かれた。

 

「えっ、ウソでしょ……?」

 

 否、道を作ったのだ。

 

 重量感のある足音でわかる。

 小鬼(ゴブリン)という『眷属』を束ねる『王』が、開けた道から堂々と入場。

 

 その『王』の姿は、小鬼(ゴブリン)と同じ緑肌なれど、その体躯は優に小鬼(ゴブリン)三匹分ぐらいあった。

 

 『王』クラス魔獣、通称『大鬼(オーク)』。

 傭兵ギルドで討伐依頼を結構な確率で見かけたのを覚えている。

 戦後の魔獣黎明期において、世界で最も多く確認されたと聞く、『王』クラスの代表格。

 

 あたしは初めて遭遇したけど、ひとりだけで挑むには油断できない相手であることは確かだ。

 

「賭けに勝ったようですわね、ジーク」

「別に賭けてはいないし、まだ果たし合いすら始まっていないぞ。私が勝つのは、これからだ」

 

 ジークが腰から細剣(レイピア)の形をした汎用型マキナ・『ドゥルヒブルフ』を抜く。

 

 大鬼(オーク)もまた自らの大きな棍棒を肩に担いだ。

 あれ? 意外とノリがいいな、この『王』クラス魔獣。

 

「御膳立て、感謝する……いざ!」

 

 一触即発の緊張感の中、先に仕掛けたのはジーク。

 

 お得意の足運びで、あっという間に大鬼(オーク)との距離を詰めていく。

 早々に弱点を突いて終わらせようという魂胆だろうか。

 

 しかしその戦法が成功するのは、単純な思考回路を持った相手に限られる。

 武器を扱える知能がある相手に対しては、悪手だ!

 

「ジーク、棍棒に気をつけて!」

 

 あたしは思わず助言していた。

 

 大鬼(オーク)が雄叫びをあげて棍棒を、近づいてきたジークめがけて振り下ろす。

 ジークはあたしの助言を聞いていたのか、右にローリング回避。

 

「やはり身のこなしは鈍いようだな!」

 

 素早く起き上がり、剣に氷の魔力を纏わせたジーク。

 跳び上がって大鬼(オーク)の脳天を刺そうと動いたが。

 

「何っ!?」

 

 歯ぎしりの音と共に、ジークの攻撃が止まる。

 あろうことか大鬼(オーク)は凍傷を承知で、ジークの剣を歯と顎で止めたのだ。

 

「ここまで勘がいいとは予想外ですわ!」

「ジーク、剣を放して退いて! 後はあたしが――」

 

 瞬間、大鬼(オーク)はジークの剣を噛んだまま自らの頭を勢いよく振って、ジークを剣から振りほどいた。

 

「そこまでして私から剣を取ろうなど、小癪な!」

 

 ジークの身体が宙に舞う。

 こちらに吹っ飛んできたところを、あたしは身体で受け止めた。

 

「すまん、レヴィン!」

「どんな形でも、『ドゥルヒブルフ』が壊れるのは想定済み! あとはあたしに引き継がせなさい!」

 

 大鬼(オーク)は、ジークの魔力が通っていない『ドゥルヒブルフ』を口から器用につまみ、握り潰す。

 

 まさか魔獣に通用する武器が、魔獣の手でオシャカになるなんて。

 とはいえ、汎用型ならばこんなものだ。

 単体火力は契約型に大きく劣り、重めの物理攻撃には脆い。

 

 ジークが『シュニーロマンサー』を王家に返していなければ、こうなることもなかっただろうか。

 

 ないものねだりをしてもしょうがない。

 次はあたしが、大鬼(オーク)を殴り倒す!

 

解放(リリース)、『ソル――」

 

 だが、あたしが仕掛けようとした、その時。

 

 大鬼(オーク)の肉が、()()()()()()()()

 

「ボ……ブォ……」

 

 一刀両断。

 あれだけ大きかった大鬼(オーク)が、次の瞬間には霧散し、斬撃を与えた者の姿を露わにする。

 

 身の丈ほどの大剣を握る、軽装鎧を着た茶髪の、無精髭が特徴の男性。

 

「ハァ……拍子抜けだな」

 

 それでいて、覇気のない男だった。

 

大鬼(オーク)を大剣で一閃……相当な実力者とお見受けしますわ」

 

 『眷属』の小鬼(ゴブリン)が魔石を残して消滅したことを確認して、ヤーナが男に声をかける。

 まあ結果的には助かったわけだし、あたしからも感謝を伝えておこうか。

 

「ありがとうございました。これで王都に戻れます」

「その徽章、傭兵か。別に助けたわけじゃねえ。デケェのが居て、邪魔だから斬っただけだ。これでも遠征の帰りでね」

 

 この人、よく見ると首元に獅子っぽい徽章があるな。

 似たものを見た覚えがあるけど、あれは確か――。

 

「ほほう、では貴殿は騎士団の!」

 

 そうだ、確か王国騎士団の本部で見たのと同じ……って!

 

「ジーク、元同僚とか?」

「いや、知らん」

 

 知らんのかい!

 

「騎士団の総数は数えたことないほど多いからな。実は知らない顔の方が多い。共同で討伐に行ったことのある隊長ならば、顔は覚えているのだがな」

 

 あたしはジークの言葉を聞いて、顔を強張らせる無精髭騎士に気付いてしまった。

 おや、ジークの方は彼を知らないのに、彼の方はジークを知っている? どゆこと?

 

「ジーク……ジークリンデ・シグルド……貴様ァッ!!」

 

 無精髭騎士が突然大剣を振りかぶって、ジークに襲いかかる。

 

 急なことだったのであたしの対応は遅れてしまったが、ジークは無事普通の細剣(レイピア)で、騎士の大剣を受け止めていた。いや、凄いな!

 

「貴殿のことは知らんと言った! なにもそこまで怒ることはなかろう!」

「傭兵に堕ちて随分と腑抜けたようだな、ジークリンデ・シグルド! 貴様が覚えていなくても、この俺はあの時からずっと! 貴様を忘れたことがない!」

「だから、誰なのだ貴殿は!? 名乗ってくれんと会話にもならない!」

「今度こそ覚えておけ……俺の名は、バルドゥール・ハンネマンだ!」

 

 なるほどね。

 ジークと何があったかは知らないけど、流石にいきなり斬りかかってきたのは見過ごせない。

 

 あたしは素早く騎士ハンネマンの背後に回って、羽交い締めを敢行した。

 伊達に鍛えてはいないので、大の男を取り抑えるなぞ朝飯前よ。

 

「なにっ、くそっ……なんて力してやがる!」

「落ち着いて! マキナでいきなり斬りかかるなんて、騎士のすることですか!?」

「うるせえ! 離しやがれ!」

 

 羽交い締めにしていても、まるで釣りたての魚のように活きが良い。

 簡単には落ち着いてくれそうにないかな、これは。

 

 しょうがない、これだけは使いたくなかったのだが。

 

「いい加減、落ち着けえッ!」

「おふぅっ!?」

 

 騎士ハンネマンを抑えたまま、その股座にかけて膝で蹴り上げる。

 

 そう、あたしが蹴ったのは彼の股間のゾウさん。

 男性特攻の禁じ手である()()を炸裂させたのだ。

 

 彼の脱力を確認して、あたしは羽交い締めを解く。

 案の定、彼は股間を抑えてうずくまった。

 

「おまっ……おまえっ……俺の大事な……シモのドラゴンキラーをっ……」

「ちょっと強く蹴りすぎたかな……シモの果物ナイフ大丈夫ですか?」

「ネタで返す余裕があるなら大丈夫ですわよ、多分。あと、レヴィンさんも容赦ない返しですわね」

 

 まあ、男は大体見栄っ張りって聞きますし?

 とりあえず現実は突きつけなきゃってことで口に出してしまった、失敬。

 

「何やってるんですか、ハンネマン隊長ーっ!!」

 

 と、そこへ軽装鎧の集団がやって来た。四、五人ほど。

 どうも彼のことを隊長って言ってる辺り、隊の部下なのだろう……えっ、隊長!?

 

「遅ぇよお前ら……おかげでこっちは酷ぇ目に遭った」

「うわああ! 隊長が股間を抑えて生まれたての子鹿みたいなことに!」

「隊長が股間を負傷するほどの相手!?」

「一体どれほどの魔獣だったんだ!?」

 

 彼の部下のノリが良すぎて、あたしは何を見せられているんだろうって気になる。

 

「あー、合流できたんなら、その隊長さん連れてってくれませんかね? なにぶんこっちも依頼の途中なんで」

「なに言ってんだ……ラグナ族の嬢ちゃん……こっちの話はまだ――」

「隊長を助けていただいて、感謝いたします! この礼はいずれまた!」

「おい、待てロビン……俺ァ隊長だぞ! 服を引っ張るなっ! まだタマの痛みが……いだだだっ!!」

 

 ロビンと呼ばれた副隊長っぽい青年に引っ張られて、バルドゥール・ハンネマン率いる騎士小隊は王都に向けて去っていった。

 

「一体何だったんじゃ、あ奴は……?」

 

 周囲に魔獣の影がないことを確認しつつ、リテラが馬車から出てきた。

 流石の創造神(分体)も若干ドン引き気味である。

 

「さあね。無駄な足止めだったことは確かだけど」

「ですわね、行きましょう。王都はもう目と鼻の先ですわ」

 

 ヤーナにつられる形であたしも馬車に戻ろうとする。

 だけどあたしは、その途中で柄にもなく頭を抱えるジークを見かけて、疑問に思った。

 

「どうしたのよ、ジーク?」

「いや、名前と照合して彼のことを思い出そうとしたのだが――」

 

 彼、とは騎士ハンネマンのことだろう。

 普通は名前と顔さえわかれば、思い出すのは容易なハズなんだけど。

 

「全くもって記憶にないことが判明してな! 私としたことが!」

 

 うん、知ってた。

 

 ともあれ、多少の妨害はありながらも、あたしたちは依頼遂行のため王都まで帰るのだった。

 

 あたしが騎士ハンネマンに金的した、少年にとってはおぞましい光景を目にしていたミュウくんは、若干青ざめてたけど。

 やっぱりタマキンの痛みって想像以上なんだろうな……反省。

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