太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
公衆浴場の予定を切り上げて、あたしたちはシュミッツさんの店へ。
無論、完成の遅いジーク用のオーダーメイドマキナを完成を急いでもらうためである。
道中で高級そうな酒を購入して、ご機嫌取りは万全という
「無理だな。これ以上ペースは上げられねえ」
シュミッツさんからの無慈悲な返答。
早速詰んでしまった。
「どうしてなんですか!」
「単純に、大事な素材がこっちに届いてねえのさ」
なるほど、そんな事情があったのなら、急ピッチで仕上げろと言われても、無理ゲーでしょうね。
「一応マキナの器となる武器は、そこのちっこいのから言われた通りの仕様で仕上がってる。だが、肝心なモノをくっつけなきゃ、マキナとして完成するには至らねえ」
「シュミッツ。もしや足りん素材とは、氷の精霊石じゃな?」
リテラの推測に、シュミッツさんは無言で頷き、在庫もねえ、と付け足した。
「精霊石って、姉貴のマキナにもあるアレか?」
「マギニウムに次ぐ、マキナ製錬の必需品、ですよね?」
「そうじゃ。精霊石はその名の通り、精霊のマナを宿す石。属性によってその出処は違うのじゃが、氷属性の精霊石は、一年を通してそこそこ温暖な気候の王都周りでは手に入らんのじゃ」
「確か北方のバウツェン山脈でしか入手出来ない、という話でしたわね」
北方な上に山脈。
行ったことはないが、イメージだけで寒いと理解できる。
そこでしか取れない素材の到着が遅れているということは、つまり――。
「精霊石を運んでいた馬車に何かあったんじゃ?」
「ただでさえ希少なブツだ。マキナユーザーの護衛を雇ってても、何も起きないなんてこたあない。注文していた貴重な素材が届かない……なんてのは、よくある話さ」
「厳しい気候の中で持ち帰れるだけでも奇跡、なんて話もよく耳にしますわ」
「そのバウツェン山脈、王都から片道でどれくらいかかるの?」
「馬車で限界まで飛ばしても七日はかかるぞ。レヴィンの脚でも明日の決闘には到底間に合わん」
片道七日、往復十四日。
情報通のリテラの口から言われれば、あたしが直接精霊石の採取に向かおうにも、諦めざるを得ない。
リミットは明日の昼。かつてモンド王子が与えてくれた猶予よりも短い。
どうしようもないのだろうか。
「明日の決闘、ねえ。それで慌ててたのか」
「相手は契約型の大剣を使ってたんですよ。マキナユーザー同士の決闘なら、対等な条件で挑むべきなんです」
「そりゃそうだが、手元に氷の精霊石はねえ。それに人それぞれ、向き不向きの属性がある。この嬢ちゃんに一番向いてるのが氷だってんなら、諦めてくれ」
「そんな……」
拳を握って立ちすくむあたしの肩に、ジークの手が乗った。
「レヴィン、そう自分のことのように嘆いてくれるのは、私としても嬉しい限りだ」
「ジークは、悔しくないの?」
「仕方ないと思える現実を散々見てきた。これもそのひとつに過ぎないと思っているよ」
「やけに落ち着いてるのね、準備の時間もそんなにないっていうのに。やっぱり羨ましいわよ、その前向きっぷり」
「それほどでも! あるがな!!」
ほら、そういうとこですよ。
本当に調子のいいヤツね、ジークって。
「精霊石が届かないアクシデントとなると、しょうがないのう。
「ぷらん、びぃ?」
「リテラさん、何か代案があるんですか?」
「契約型の完成は間に合わんが、汎用型ならここにいくらでもある。そういう事じゃ」
「まさか――」
あたしが察する前に、ジークは動いていた。
多くの汎用型マキナを抱えて、シュミッツさんの前へ。
「氷属性汎用型マキナ全種類、頂こう!」
傭兵史上類を見ないであろう、大人買いを敢行していた。
当然あたしは驚きで声を上げた。
※※※
汎用型マキナの出力は、契約型に大きく劣る。
何故かと問われれば、汎用型は集団での使用が前提の造りになっているからだ、というのはリテラの弁。
だからって色々な種類の汎用型マキナを使って、契約型に対抗するというのは、脳筋方程式とはいえ無理があるのではないか?
小さな氷の精霊石を埋め込まれた
拠点までこれらを運んでいる道中、あたしはジークに質問していく。
「いくら武器の数を増やしたって無理でしょ。アンタ、これだけの種類の武器使えるの?」
「使えないことはないな。騎士学校時代は、自分に合う武器を見つけることから始めたほどだ」
「そういえば自警団時代でも、手に持った武器の扱いを、即座に理解して使いこなしていましたわね。エメルが絶賛していたのを思い出しますわ」
「どんな武器でも扱えるってことか!? ジークすげぇ!」
「それほどでもある、と言いたいが。弓矢や投げる武器はどうもな。思うように狙いが定まらん」
近接武器専門のオールラウンダー、とでも言えばいいのか。
いや、普通に凄いんだけど。ジークはやはり感覚型の天才というか。
「そういえば、騎士学校でおぼろげに思い出したのだが」
「もしかして、ハンネマンさんのことですか?」
「そういった名前の先輩を、かつて決闘で返り討ちにしたことがあったな」
衝撃発言。
それだよ、あたしたちが求めてた情報はさぁ!
そりゃ恨まれてもしょうがない!
そりゃ今まで忘れててもしょうがない!
「最初にそういうことを思い出してくれればなぁ~!」
「でも、無謀にも挑んできた有象無象のうちのひとりでしょう? 忘れてても仕方ないのではと、アタクシも思いますわ」
「わしですら、興味のないものは覚えきれんからのう。そういうモンじゃ」
それもそうか。
ヤーナとリテラの言いたいことはわかる。
大して印象に残ってないキャラクターが続編でリストラされても、誰も気にも留めず忘れ去られる。
ジークにとってのハンネマンさんは、まさしくそれに似た存在だったのだろう。
「まあ、あの時なぜ決闘になったのかは、皆目見当がついてないのだがな!」
なんとなく察してしまう。
ジークは無自覚に敵を作りやすい、良い意味で己の信念に忠実な阿呆だ。
騎士学校時代でも散々無自覚にモテたりして、同時にアンチ勢力を作り上げてきたに違いない。
ジークリンデ・シグルドは、罪作りという言葉が一番似合う。
あれこれ話していると、あっという間に時間は過ぎて、我が傭兵団の拠点に着いたのは、陽が沈みかけている夕暮れ時だった。
玄関まで汎用型マキナを積んだ貨車を運んだところで、ヤーナが突然こんなことを言い出す。
「帰ったばかりで申し訳ありませんが、アタクシはしばらく別行動を取らせていただきますわ」
「どうしたのよ、急に?」
まさか、帰路で傭兵ギルドに寄り道したのが関係しているのだろうか。
「よりによって、こんな時に賭場へ行かずともよいだろう。ヤーナは私の鍛錬に付き合ってもらわねばな!」
「丁重にお断り致しますわ。それに行き先は賭場ではなく、
「まさか、アンタだけ討伐依頼受けちゃったの!?」
抜け駆け、と呼ぶにはあまりにも不自然。
ヤーナの意図が全く読めない。
「他の傭兵団の依頼に便乗しただけですわ。フリーの頃はいくつも助っ人を転々としていましたから、慣れたものでしてよ」
「そんなことを聞いてるんじゃないの。一体、何が狙い?」
「鈍いリーダーですこと。
さっき終えた依頼で王都に着く直前にも相対したが、収集癖がある、という情報は初耳だった。
まあしかし、武器を正しく扱えるほどの知能はあるから、価値のある物を見極めて盗賊行為をしていてもそこまで不思議ではないか。
「つまり……どういうことなんだ?」
「
「結構頭いいんだな、そいつら」
要点を絞らないまま説明しているヤーナに代わり、ニューに
「その頭のいい
や、夜襲!?
昼行性の獣ならまだしも、魔獣相手に夜襲って……!
「危険すぎるでしょ! 魔獣は夜になると活性化して危ないのよ! そもそも、何でアンタだけそんなリスクを負わなきゃなの!?」
「理由は三つ、ありますわ」
ヤーナは指を三本立ててみせる。
「一つは可能性の話。今回の依頼で指名手配されている耳長
うわっ、出た。ヤーナの大穴ぶっ込み宣言。
こういう意外性で殴ってくるから、いまいちアンタの思考が読めないのよね。
「二つ目はタイムリミット。明日の昼頃なんて、呆けていればすぐ来るほどの時間。それまでに氷の精霊石をゲットしてマキナを完成させようなど、あらゆるルートを考えても無理な話ですわ」
「だからこんな分の悪い賭けに出ようっての? だったら、あたしも付き合わせて――」
「お待ちになって。アナタの『ソルマドラ』は夜だと全力を発揮できない。これが三つ目の理由ですわ」
「ぐぬっ……」
少し
自分の弱点は理解しているが、それでも確率を上げるためにヤーナの賭けに乗ろうと思ったのに。
ヤーナはおそらく、あたしたちの為を思って博打を打とうとしているのだ。
「他にも、ジークは決闘に備えていただかねばなりませんし、ニューやミュウくんに徹夜をさせるわけにも参りません。リテラさんも、知識以外で戦力にはなりませんし」
「割と真っ当に考えてくれておるんじゃな。わしだけちょっと辛辣な気もするが」
「気のせいですわよ」
遠回しな罰当たり発言。
アンタ本当にテラ様を信仰する孤児院の出身か?
「おまけに今夜はふたつの月が隠れる
いかん、いかんですよ、その慢心は。
駄目そうなフラグが着々と積み上がっている気がする。
「そんなわけで行ってきますわ」
「ヤーナさん。作り置きですけど、お弁当です。持って行ってください」
「ナイスで気が利きますわね、ミュウくん。では皆さん、吉報をお待ちくださいませ!」
ヤーナが高らかに笑いつつ、拠点を出て行く。
マジで大丈夫だろうか。
分の悪い大穴賭けが、今から心配になってきた。