太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第五十八話 「必ずコイツをモノにしてみせる」(4)

 放棄された貴族の屋敷を改修したギラソール傭兵団の拠点には、大きな浴場がある。

 

 魔導具を用いたインフラ整備により、水道などのライフラインが一通り開通している王都ではあるが、水をお湯にする魔導具の導入は家ごとにしなければならないのが面倒なところ。

 

 元々あったその魔導具は経年劣化による摩耗が酷かったので、屋敷改修の時に新品を買い替えたのだが、これがもういい感じに水温が調整できてありがたい。

 

 そんな経緯もあって拠点の風呂場は快適そのもの。

 

 あたしとリテラ、そして今まであたしと鍛錬していたジークは、公衆浴場の予定がオジャンになった代わりに、いつも使うこの風呂場で汗を流しに来ていた。

 

「くぅ~っ、鍛錬後の風呂は、五臓六腑に染み渡るなぁ!」

 

 湯船に浸かるジークは両手を伸ばしてストレッチ。

 疲労すら顔に出さないクセによく言うよ。

 

「それにしても、まさかあれだけの種類の汎用型マキナを、本当に使いこなすとはね」

「騎士だから、とかそういうレベルでは片付けられんぞ。武器戦闘センスという一点で尖っておる感じじゃな」

 

 あたしは湯船に浸かって、ジークと向かい合っている。

 リテラは鏡の前で髪を洗っていた。

 

「物心ついた時から、父の手ほどきを受けていたからな」

「どう考えても、そんな理由だけじゃ片付けられないわね。感覚派の天才サマは羨ましいなぁ」

「それほどでもある! しかし、羨ましいのは私も同じだ」

「力んで武器を壊しちゃうあたしの、どこが羨ましいって?」

「なに、そんな自分の弱点にもめげずに、我流で素手の殺法を若くして編み出すところが羨ましい、と言った」

「あーもう、恥ずかしい! 弱点もまた美点って感じで褒め倒さないでよ!」

 

 まったくジークときたら。

 裏表なく屈託のない言葉ばっかり口から出てくる。

 

 褒め倒していくのはまだ未熟なあたしじゃなくて、他の自信がない誰かにしなさいって。

 短時間であたしをのぼせようったって、そうはいかないから。

 

「当然じゃが、そういう素直じゃないところも推せるのう……しゅき……」

 

 ありがとう、リテラ。

 限界オタク発言であたしの心をクールダウンさせてくれて。

 

「それよりさ、あのハンネマンさん、だっけ。あの大鬼(オーク)を両断できるほど強いのに、よく学生時代に返り討ちできたわね」

「別に不思議ではない。彼が武器に頼りすぎただけだ」

 

 武器っていうと、大鬼(オーク)を斬った時は大剣のマキナ使ってたっけ、あの人。

 

「聡明な私のルームメイトが言うところによれば、武器の力を己の力と過信していたようでな」

「つまり、イキってたってわけね」

「その過信を突けば、後は消化試合だった、らしい。自分でもよく覚えていないのだがな!」

 

 彼はまあ、そうやって完敗してしまったもんだから、ジークの記憶からは消えてしまったのだろう。

 お気の毒に、ハンネマンさん。

 

「そもそも、何でその時に決闘申し込まれたのよ?」

「わからん!」

 

 でしょうね。

 

「決闘を申し込まれたことも一度や二度ではなかったし、その尽くを受けて勝ってきたからな。『決闘無敗』などという、近寄りがたさを思わせる二つ名で呼ばれるようになって、肩身が狭い思いをしてしまったが」

 

 なるほど、ジークのアホ以外の弱点は、そこにあったのか。

 彼女自身の根っこにあるのは、決して人を悲しませぬという善意。

 

 しかし、それは必ずしも万人に伝わるものではない。

 

 例えばAちゃんが良かれと思って、Bくんを助けたとする。

 そのAちゃんの善意がBくんにとっては地雷だった、というすれ違いも、可能性として起こりえるのだ。

 

 ジークリンデ・シグルドは、その精神性に反して、誤解されやすい人間である、といえる。

 この間、冤罪で捕まった件に関しては、本人のポカもあるし擁護しきれない。

 

 だが、かつてモンド(元)王子に嫌われているという話を聞いていたのに、彼と共にエメルの窮地を助けた、という流れから、誤解を解く時間があれば、自分から解くぐらいの行動力はあるのだろう。

 

 それでも、誤解に気付くまでが遅いのは問題だが。

 

「私は自分の心に従って動いただけだ。なのに、何故ここまで恨まれなければならぬのだろうな?」

「さあね。ただ――」

 

 あたしはのぼせる前に立ち上がる。

 奇しくも仁王立ちみたいになってしまった。

 

「そう難しく考えなくてもいいんじゃない?」

「ほう?」

「挑戦状を叩きつけられるほどに、アンタは良い強者よ。恐れられるより、ずっといい」

「そうじゃな。ジークは人を惹きつけるタイプの強者という感じがするわい」

「だからアンタ自身は、そういうことを気にせずに、自然体でいればいいのかもね。ハンネマンさんは、自分に対してアクションを起こしてくれる人なんだし、その想いを大事に受け取ってあげないと」

「細かいことを気にせずに、彼の憤りを受け止めろ、か……」

 

 うん、そういうこと。なぜか要訳が上手いのよね、ジークは。

 

 嫌いなのに突っかかるのは、それこそ気にしている気持ちの裏返し。

 好きの反対は無関心、なんて話もあるぐらいだし、『決闘しろ』だなんて宣言する人間が本当にジークを嫌っているのならば、こんな事態にはなっていない。

 

 おそらくハンネマンさんの本音は……と、推測だけ並べるのは一旦置いておこう。

 

 目下の問題は、ジーク自身のコンディションだ。

 決闘の勝敗は、彼女が気持ち良く戦えるかにかかっている。

 

「まあ、今までもそうしてきたし、大したことではないな!」

 

 まあ、とっくにそんな問題は彼女自身の切り替えの早さで解決済みなわけだが。

 

「やっぱり羨ましいわね、アンタのアタマ」

「ん? 別に私は石頭ではないぞ?」

「いや、そこじゃなかろう」

 

 あたしも一度でいいから馬鹿になってみたい、なんてことを考えつつ、決闘前夜は更けていった。

 ヤーナは、心配するだけ無駄か。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 そして翌日、決闘の刻。

 

「あれがカエサール遺跡じゃな」

 

 リテラのナビで辿り着いた遺跡は、コケが生え、ツタが絡みつく、まるでジャングルの隠れ家。

 かつて貴族の屋敷だった我が傭兵団の拠点以上に、手入れが行き届いていない。

 

 まさかこんなところで闘うとは。

 柄にもなく格闘ゲームの背景みたいだと思ってしまった。

 

「太陽竜の墓よりは少し広い、って感じかしらね」

「墓、ですか……あの遺跡にも何か墓のような意味があるんでしょうか?」

「わしが聞いた話によれば、カエサール遺跡は怪物を封印する目的で建てられた、という説が有力らしいぞ」

「か、怪物!?」

 

 うわぁ、こりゃまた厄ネタの匂いが。

 

「なんでも、突然変異で進化した大きな蛇の化け物だったそうじゃな。奴は地中を自在に潜り、口から火や毒を吐き、村々に壊滅的な打撃を与えたという」

 

 地中を潜る大蛇か。

 ツチノコが巨大化した感じなのかな?

 

「その名を『ピュトン』。言い伝えによれば、この遺跡には光の精霊の加護を受けた石が使われておって、ピュトンはそれで封印されたという。戦争よりも前の話らしいし、今頃は(むくろ)になっておるじゃろうて」

 

 決闘の前に気味の悪い話を聞いてしまったが、さて。

 

 ――南の太陽が昇りきった頃、王都北口を出た先のカエサール遺跡、石の門にて待つ。

 

 かつてそう言ってきたハンネマンさんは、既に鎧を着て、石の門を背もたれに鎮座していた。

 

「うわっ、もう居るし」

「いつから待ってたんじゃろうな?」

 

 大量の汎用型マキナを荷車で運ぶあたしと、あたしの肩に乗って楽をしているリテラ。

 そして荷車に乗っている双子と、徒歩でついて来たジーク。

 

 一対一(サシ)の決闘だというのに、これだけの面子で来たことに業を煮やしたのか、渋々とハンネマンさんは立ち上がった。

 

「待っていたと言いたいが、これは何のつもりだ?」

「誤解させたのなら申し訳ない。レヴィンには決闘立会人として、見届けに来てもらったまで」

「立会人に荷物持ちさせねえよ、普通は。で、何でガキどもまで居やがる?」

「不測の事態が起こった時のための、救護員とでも思っていてください」

「あっしは観客!」

「わしは決闘仙人!」

 

 リテラ、決闘仙人ってもはや何様よアンタ。

 

「……まあ、決闘の邪魔だけはすんなよ」

 

 渾身のギャグをスルーされたリテラはショックを受けたようだが、それは置いといて。

 

 血生臭くなる予定の決闘に双子を連れてきたのは、あたしも考えがあってのこと。

 

 ミュウくんは彼自身も言ったように、不測の事態のための治療役。

 ニューには観客として、ハンネマンさんの一挙手一投足を見張る役目を与えた。

 

 いくら彼が正式な騎士団員といえども、何かしらの感情でジークを恨んでいる男だ。

 もしかしたら非道な手段を使う可能性だってある。

 

 だから、そういうルール違反的行為をニューが見つけたら、あたしが止めることにしている。

 

「とはいえ、この遺跡はうちの隊で昨年調査したばっかりだ。とっくに魔獣の縄張りじゃなくなってるし、他の邪魔も入りゃしねえが」

「邪魔はしないけど、ある程度の交戦規定は守ってもらいますよ、ハンネマンさん」

「交戦規定ね。別にいいぜ」

「ひとつ、殺害行為の禁止。騎士のイメージを崩したくなければ、線引きはちゃんとすること」

 

 まずは、最低ラインの約束を厳守していただく。

 当然、騎士として真っ当に教育されていれば、これくらいのことは出来て当たり前だと思いたい。

 

「ふたつ、第三者による妨害の禁止。ハンネマンさん、ここにはひとりで?」

「そんなの当たり前だろ、これは俺の私情だ。休暇ってことにしてあるから、副隊長のロビンにも決闘のことは言ってねえ」

 

 隊長の急な休暇申請で、さぞ困ったことだろう、副隊長のロビンさんとやら。

 

「それを聞いて安心しました。最後に、みっつ目。勝敗はどちらかが負けを認めるまで。自分が心の底から負けたと思ったら、きちんと宣言してください。それで決闘は終わりです」

「シンプルかつ、真っ当な交戦規定(ルール)決めやがって。奇しくも騎士学校時代の決闘規定と同じだな」

「その方がやりやすいと、私が提案したのだ」

 

 ジークが荷車から汎用型マキナを厳選しつつ、ハンネマンさんに言葉を返した。

 

「そちらも同じだろう?」

「チッ。違いねえが、テメェに負けたあの決闘を思い出しちまうな」

「そのリベンジのために、貴殿はここに居るのではないか?」

「そりゃそうなんだが、あまり弄るなよ、人の古傷ってヤツを」

 

 まるで旧知のやり取りだった。

 双方の認識に若干の差はあるが。

 

「そうだ、お互いに勝ったらどうするのかを、決めていなかったな」

「あるのと無いのとでは意欲が違うからな、いいだろう。して、そちらが勝てば如何がする?」

「俺が勝てば、テメェには傭兵を辞めてもらおう」

「これはこれは、負けられぬ条件を突きつけてくれる。なら私が勝てば、貴殿にはそちらの行きつけの店で、私にご飯を奢ってもらうとしよう!」

 

 これにはハンネマンさんもしかめっ面。

 うん、まあそのレベルでモチベ上がるのがジークだよね。

 

 ジークが荷車からひとつの汎用型マキナを取り出す。

 氷属性の精霊石を埋め込んだ槍。

 名前は確か、『フリューゲル』だったか。

 

 彼女の選択に合わせるかのように、ハンネマンさんが自分の契約型マキナを顕現させた。

 あの大鬼(オーク)を両断するほどの大剣、その名を――。

 

解放(リリース)、『バルムンク』」

 

 彼の身の丈ほどに大きい剣が、地面に突き刺さる。

 

「まさか『バルムンク』とはな」

「知ってるんですか、リテラさん?」

「名前だけはな。知ってるのとは別物じゃろうが」

 

 リテラの言う『名前だけ知ってる』というのは、おそらくこことは別の世界、つまり地球に伝わる名前と同じだったからだ。

 

 おそらくはアーサー王のエクスカリバーに並ぶほどの知名度があるであろう、『バルムンク』。

 地球では、叙事詩にて伝わりし、邪竜を屠った伝説の剣の名として知られている。

 あたしはその辺りの話をリテラから聞いて知っているだけだが。

 

 しかしリテラ、地球被れにも程があるでしょ。

 前世で病室暮らしだったあたしより、地球の伝承とかに詳しいって、マジで何なのよアイツ。

 

「まったく、どうせなら契約型を手にしたお前と闘いたかったぜ」

「私の技量のみでは不服かな?」

「いや、鈍ってなきゃいい」

 

 決闘の場が静寂に包まれる。

 

 周りに魔獣の影、なし。

 ニューの魔眼も、見たところ反応、なし。

 

 ほぼ万全といえるシチュエーション。

 立会人のあたしが号令をかければ、すぐにでも激突しそうだ。

 

 ジークに多少の不安はあるが、まあ大丈夫だろう。

 本人が大丈夫だと思っていれば、だが。

 

 あたしは両手を広げて、ボクシングの審判がどんなものかと思い出しつつ、開始のゴングを声で鳴らした。

 

「はじめっ!」

 

 動いたのは、ほぼ同時だった。

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