太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
素早く脚を踏み込んで槍を突くジークと、その行動を見透かしたように大剣を盾の如く構えたハンネマンさん。
エーテルメタルのかち合う音が、響いた。
「なんと! まさに鉄塊の盾!」
「驚くのはまだ、早ェ!」
ハンネマンさんはジークの槍を防いだまま、大剣『バルムンク』を地面に突き刺す。
するとジークの足元に変化が。
地面が突如隆起し、アイドルのライブステージの仕掛けの如く、ジークの身体が宙を舞う。
「土属性の大剣……パワー型かのう」
いや、土属性ってほぼ大地の力だから大体パワー型では?
心の中でリテラにツッコミを入れている場合ではない。
ジークが空中に射出されたということは、避ける手段を失ったということ。
「簡単に死んでくれるなよ!」
彼女に待つ運命は、トスバッティングのボール。
ハンネマンさんの大剣フルスイングが、落下中のジークに迫る。
そしてエーテルメタルのかち合う音と共に、
「ジークさん!」
「やはり単純な力だけならば、あやつが有利じゃな」
「骨とか折れてないよな!?」
「心配ないわよ。伊達に騎士団で鍛えられてないし」
あたしたちが歓談している間に、柱にぶつかって倒れていたジークが立ち上がる。
その手に持っていた『フリューゲル』という名の槍は、既に折れていた。
大剣を盾にしたハンネマンさんと同様に、槍を防御に使ったのは見えていたが、流石に契約型のパワーは段違いだ。
「あっさり折れちまったようだが、その程度で降参――」
「するわけがないだろう。まだ始まったばかりだものな!」
ジークが、使い物にならなくなった汎用型の槍をあっさり捨てる。
打ち合わせ通りの、次のマキナをくれ、という合図だ。
「レヴィン、次を頼む! 手斧だ!」
「手斧、手斧、と。これね!」
あたしはジークに言われた通りの手斧を荷車から探し当てて、彼女へ投げ渡す。
ジークの目の前に、氷の精霊石が埋め込まれた汎用型マキナの手斧、『エーギル』が刺さる。
すかさず彼女はそれを抜いた。
「貯蓄がなくなるまで、手数で押すってハラかよ」
「契約型が間に合っていれば、こんな手を使わずに済んだのだがな。スマン」
「構わねえよ、むしろいいハンデだ!」
まあそもそも、契約型とやり合うならって、リテラの提案だし。
とやかくは言えないが、アイディアが脳筋選択肢しかないのはどうよ、などと心中ツッコまずにはいられない。
「ならば良し! 全力で使い潰させてもらうぞ!」
ジークは手斧を地面スレスレに振り上げ、氷の波動を疾走らせる。
奇しくも『サンライト・ウェイブ』のような地を駆ける飛び道具になったが、その軌道は当然ハンネマンさんに見切られていた。
何ら慌てる様子もなく回避される。
「無駄なんだよ、その程度の
すかさずハンネマンさんが突っ込んでくる。
彼の間合いに入られたらまずい!
鉄塊のような大剣の突きがジークに迫るが、しかし。
「おっと危ない!」
ジークは姿勢を低くして、ハンネマンさんとすれ違うように、一瞬で一メートルほどの距離を駆けて、攻撃を華麗に回避した。
「ジークさん、すごい! パワー面での不利を物ともしてません!」
「ジークも騎士をやっておった身、ああいう手合いと戦った経験もあったのじゃろうな」
「おまけにアレ、見てくれよ姉貴」
ミュウとリテラによる実況解説の傍ら、ニューがハンネマンさんの足元を指差す。
「脚を凍結させて動きを封じたのね、さっきの一瞬で」
早業という他ない。
普通であれば魔法は呪文を詠唱して放つ術だ。
詠唱という手間をある程度省いたマキナの出現は、魔法戦闘の高速化を促した。
普段から拳や脚に魔力を集束させて戦っているあたしからすれば、ごく当たり前の光景に映るかもしれないが。
この決闘は自分にとって、有意義なものとなるだろう。
少なくともダリアや魔人王よりも速く動いて、致命的な一打を放たなければいけない、ということを考えると、こうやって傍から見る対人戦は参考になる。
「動きを封じたつもりなら、甘いぜ!」
足元を凍結されているハンネマンさんが次に打った手は、脱出だった。
大剣を足元に突き刺し、自分が立っている地面を隆起させる。
彼を封じていた氷は途端に砕け、その身体は先程のジークと同じようにカタパルト射出の如く跳んでいく。
ジークのいる方向に、狙いを定めて。
「面白いことをするようになった!」
振り向いたジークは、すかさず斧を地面に振り下ろし、氷の壁を瞬時に形成する。
「なにっ!?」
当然、空中制御の術を持たないハンネマンさんは、言葉にならぬ奇声と共に顔面から衝突。
うつ伏せに倒れる他なかったのであった。
「ふむ、やはり耐久性はイマイチか」
一方のジークは、おそらくは魔力の送りすぎで折れた手斧を見つめて呟く。
「汎用型の被害はふたつで済んだかしらね」
「いや、流石にこの程度で降参するようなヤツではなさそうじゃな」
リテラの分析通り、ハンネマンさんがゆっくりと起き上がる。
鼻血や凍傷によるしもやけが目立つが、体格に見合うタフネスはあるようだ。
「戦闘センスの良さ、華麗な足運び、そして上級生だったこの俺を
はて、ジークはそんな顔だっただろうか。
ハンネマンさんにとっては、ジークが何か怖いものにでも見えていたのだろうか。
「何もかもお前が悪いんだ……お前さえいなければ俺は――」
「そこまで私を恨むのなら、降参してくれ」
おっと、ジークにしては機転の利く発言。
ハンネマンさんも少し
「ケッ、ふざけるなよ……降参してくれ、なんてのは最大級の愚弄だぜ、騎士にとってはな」
「私は貴殿をあまり知らない。挑戦者のひとりとしか認識していなかったからな。だからこそ、今気になった」
「何がだよ?」
「私を恨む、その根本だ」
確かに、あたしもそれは気になっていた。
何が彼を、そこまで駆り立てるのか。
「私は何かと、一部の人間に誤解されやすいらしい。もし私がやったことが原因で恨んでしまったのなら、それは私の責任だ。だからどうか、私にもわかるように話して欲しい」
なるほど、ジークは自分でもわからないなりに、自分の風評を気にしていたらしい。
それに気付くまで、自分が正しいと思ったやり方で色々無法しちゃったのは擁護できないけど。
「覚えがないってわけか。だったら教えてやるよ」
ハンネマンさん、執着で熱くなっているかと思えば、意外と冷静だな。
「同じ騎士学校にいた、エイミー・シュタットフェルトという名を覚えているか?」
「お、その名前は覚えているぞ。私をよく慕ってくれていた同級生だな。苦手だった座学の時も世話になって――」
「彼女は、俺の婚約者だった」
おっと、空気がガラリと変わってきたぞ。
「歳は違うが、親同士が決めたことだ。だが俺としては不満はなかった。顔も性格も美人ではあったし、何より跡継ぎとしての使命に燃えている、真面目な女だった。ジークリンデ・シグルド、お前が現れるまでは」
「なぬ?」
「エイミーは婚約者である俺を差し置いて、
「はあああぁぁぁっ!?」
思わず驚きが声に出てしまった。
「ウソでしょ……まさかの、痴情のもつれ!?」
「リテラ、『ちじょー』ってなんだ?」
「ニューにはまだ教えん」
ニューが無知無知に疑問を抱いた一方で、頭脳が比較的大人なミュウくんは両手で顔を覆っていた。
ミュウくん、まだ色を知る歳でもないでしょ。
「まさかエイミーがそんな趣味に走るなんて、誰もが思いもしなかった。俺と顔を合わせる回数も日毎に減っていき、しびれを切らした俺は、尾行することにしたのさ、エイミーを!」
婚約者のプライベートなんて、好きにさせておけばいいのに。
尾行は流石に気持ち悪いんじゃないの?
信じられないのはわかるけども。
「そして俺は見てしまったのさ……あいつが、あのエイミーが! お前に花束を渡していた光景を!」
あちゃあ、これはアウトか?
いや、多分セーフだろう。
花束を渡すくらいは、親しい関係でも割とよくあることだ。
本当にアウトなのは、愛の告白とかキスとかその辺り。
ハンネマンさん、そのエイミーさんに随分惚れ込んでたみたいね。
「許せなかった……エイミーの好みがお前だったなんて……!」
「貴殿、その程度のことで――」
「その程度、だと? 惚れた女との逢瀬を尽く邪魔してくれたお前に、俺の気持ちなどわかるまい!」
ハンネマンさんが再び仕掛ける。
彼の予備動作を見てあたしは我に返り、慌ててジークに向けて次の汎用型マキナを投げた。
ジークがそれを受け取った頃には、既にハンネマンさんとの距離が縮まっていた。
エーテルメタルのかち合う音。ジークの防御が間に合ったようだ。
ちなみにジークが今手にしている汎用型マキナは、『トレーネ』というショートソードだ。
「わかるわけがなかろう! 私は彼女を
「エイミーに問題があると言いたいのか! あいつに限って、お前如きに惚れるなど! あるわけないだろうがァ!!」
大剣自体の重みか、魔力の重みか、それとも彼の心の重みか。
鉄塊の攻めを受けきれず、ショートソードが砕かれた。
「くっ……!」
「消えろ、人生の汚点!」
ハンネマンさんが振り下ろした大剣を頭の高さまで引いて、突きの予備動作に入る。
まずい、汎用型の
彼はジークを殺す気でいる。止めなければ!
「ジークっ!!」
あたしが止めに入ろうとした、その時である。
大地が、大仰に揺れたのは。
「うわっ、地震!?」
咄嗟に荷車に掴まるミュウくん。
幸いにもこの地鳴りで、ハンネマンさんの動きは止まっていた。
いや、そんなことで安堵している場合じゃない。
この揺れは一体、何の揺れなのか。
「まずい、何か地面から来る!」
「視えたのか、ニュー? 何が来るんじゃ!?」
「とにかく長くてデカいの! ジーク、遺跡から離れて!」
どうやらニューの魔眼が発動したらしい。
つまり遺跡の近くにいたら危険だということ。
あたしたちはある程度離れているから大丈夫だが、遺跡の上で戦っていたふたりは、確実にヤバい。
「チッ、何がどうなってんだ!?」
「わからんが、場所を移すぞ! 貴殿も共に――」
ジークがハンネマンさんに手を差し伸べた、その瞬間。
遺跡の地から出現した
その衝撃と風圧を受け、ジークの身体も吹き飛んでしまう。
「騎士ハンネマン――!」
あたしは素早く助けに入った。
落下地点を予測して、吹き飛んだジークをその身で受け止める。
「ジーク、大丈夫!?」
「私は問題ない、騎士ハンネマンは!?」
遺跡に目を向ける。
そこには、怪物の姿があった。
カエサール遺跡を地面ごと蹂躙する、長く太い紫色の胴体。
蛇と呼ぶには規格外すぎるその怪物の頭には、金の瞳と鋭い牙。
ただ落ちるだけの人影を飲み込むくらいには、口が大きかった。