太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
「まさかあの大蛇、ハンネマンさんを食べた……!?」
「そんな馬鹿な……隊長を務めるほどの騎士が、こんなあっさり……!?」
無情、と言うほかない。
なぜ、こんなことになってしまったのか。
その答えの一部は、リテラが知っていた。
「あれはもしや、
「その名前、確か遺跡に封印されていたっていう――」
「聞いていた特徴と一致しておる、間違いない。とっくに骸になったものと思っておったが、まだ肉の形を保っておったとは……」
「保存状態良すぎでしょ!」
騎士をひとり飲み込んだ害蛇・ピュトンの頭がこちらを向いた。
ヤバい、見つかった、と同時に新たな発見もあった。
「あっ、よく見て姉貴! アイツの額!」
「あれって……魔石じゃないの!?」
そう、魔獣の印である魔石が、ピュトンの額にあったのだ。
「そんな! ピュトンは魔獣が出現する前の害獣じゃないんですか!?」
「そのハズじゃが……来るぞ!」
ピュトンの頭が、あたしたちに迫る。
まとめて獲物にされてたまるか!
「
本気モードの全身鎧を顕現させる。
みんなの前に立って、ガードの構え。
その身ひとつで、ピュトンの頭突きを受け止めた。
「ふん、ぬうぅぅぅっ!!」
必死に踏ん張って、後ろのみんなには届かせまいと耐える。
やがて頭突きの勢いは弱まり、本能で反撃を察知したからか、ピュトンは頭を引いた。
どうにか守りきったか。
しかし、ここから先はどうなるかわからない。
奴が明確に敵意を向けている以上は。
「ジーク、ミュウくん達を守りつつ、ここから離れて! 後はあたしが――」
「そうもいかん」
「何言ってるのよ。汎用型がいくらあっても通用しそうにないわよ、コイツ」
「その程度で見切りをつけられるほど、私の頭は器用ではない」
ああ、そうだった。
そういう主人公みたいな精神してるから、あたしはジークが羨ましかったんだ。
「奴の中には、おそらくまだ騎士ハンネマンがいる。まだ決闘は終わっていないのだから、なんとしても助け出したいのだ」
まったく、自分を恨むほどの相手だっていうのに。
やっぱり馬鹿よ、ジークは。
「使っていないマキナもまだ残っているだろう。私はそれで――」
お互い荷車に目を向ける、が、しかし――。
「ウソでしょ……!?」
「なんという……荷車とあれだけ買ったマキナが……全滅だ!」
そう、ジークがピュトンに立ち向かおうというこんな時に限って。
多くの汎用型マキナが荷車ごと、スクラップになっていた。
おそらくはピュトンの胴体で潰されたものと思われる。
色々と台無しよ……この状況どうしてくれんの?
「くっ……アレが間に合っていれば!」
「しょうがないわね。あたしだけで対処するしか――」
そして更に、状況は過酷になる。
ピュトンがその長い胴体を使って、あたしたちの周囲を囲んできたのだ。
「うわっ、まずいぞこりゃ!」
「逃げ場を塞がれた……!」
まるで蛇肉の檻。
あたしたちは、完全に獲物として捕らえられてしまった。
「確か、このような状況を表す言葉があったような気がするな」
「万事休す、ですね」
「じゃが、勝機はあるぞ。レヴィン、奴に捕食される寸前に、全力の一撃を叩き込むんじゃ!」
「アンタは自分とみんなが、あたしの全力の余波に巻き込まれてもいいのね?」
「……すまんかった」
ピュトンの胴体に逃げ場を奪われ、集まった状態では全力を出せない。
倒せはするんだろうけど、倒せそうな状況にはない。
ジリジリ追い詰められる現状。
「こんな時に、あいつがいてくれたらな――」
珍しく弱音を吐いたジークに呼ばれたかのように。
打開策は
「『スラッシュ・
ドン、という衝撃にも似た音と共に、ピュトンの胴体の一部が、切断される。
脱出経路が、文字通り切り拓かれた。
「みんな、こっち!」
切断されてうめき声をあげるピュトンをよそに、あたしはみんなを先導して包囲網から脱出した。
ピュトンからある程度離れ、ようやく一息ついて『ソルマドラ・オリジン』を
杖を箒に見立てて、活路を拓いてくれた張本人が空から降りてきた。
「まったく、来るのが遅いわよ、ヤーナ」
「ごめんあそばせ。それにしても決闘と聞いていたのに、凄いことになっていますわね」
鋭く力のある風魔法の名手、ギラソール傭兵団副リーダーがようやく戻った。
それはいいのだが、まだ状況は好転していない。
「とっくに骸となっていたハズの害獣が、何かの拍子で魔獣となって蘇ったんじゃ」
「つまりアレは変異種ということですわね。『眷属』クラスの姿も見えませんし」
流石はヤーナ、理解が早くて助かる。
「騎士ハンネマンが奴に食われたのだ、早く助け出さねば消化されてしまう!」
「お待ち、ジーク。焦っても仕方ありませんわよ」
「しかしだな――」
ヤーナが、ジークに向けて何かを差し出す。
えっ、ちょっと待ってよ。
この世界に広く流通しているものではない、綺麗な石が埋め込まれた、異質な青い
ひし形模様のついた
あれはもしや……
「これは、まさか!」
「遅くなったのは、師匠が打っていたこれの完成を待っていたからですわ。見たことのない武器で戸惑いましたけど」
ヤーナが日本刀を知らないとなると、このフロイデヴェルトに日本っぽい国は無いのか。
「じゃあ、見つけたんですね。
「ホッとしましたわよ、賭けに勝って。
結局見つかってひと悶着あったんかい。
「おお、注文通りに仕上がっとるわ! 流石は王都の名工じゃ!」
「まさか、アンタがオーダーメイドのプロデュースをしたっていうマキナ……この刀のことだったの!?」
「カタナ?」
「片刃の剣のことを、そう呼ぶらしいよ、ニュー」
ミュウくんは刀についての知識があったのか、大雑把な感じでニューに説明している。
日本刀は無くて、刀という武器はこの世界にあるって、どういうことなんだろう。
まあ西洋にも中東にも刀と呼べる武器はあるみたいだし、そこまで深く考えなくてもいいのかも。
「どうじゃ、ビックリしたじゃろう!」
「私も最初、どんな武器かわからなかったぐらいだからな!」
そりゃジークはわからなかったでしょうよ。
日本刀って、頭のおかしい武器だからね。
「さあ、ジーク。すぐにこれと契約を始めてくださいませ。変異種であれば、いつ再生してもおかしくはありません」
「そうね。あたしらで時間稼ぎするっきゃないか」
あたしはすかさず『ソルマドラ』の籠手と
「それに、その刀から放たれる魔力は未知数。一撃で決められるほどの逸品ならば、狙いを固定できるように動きを封じる必要性も出てきますわ」
「流石にあのデカさで動きを封じるのは無理なんじゃないか? あっしでもわかるよ」
「おまけに、地中に潜れる大蛇……現状で取れる手は限られますね」
「大きくても蛇は蛇、魔石のある頭さえ抑えれば大丈夫よ」
とは言ってみたものの、潜れる怪物に致命傷を与えられるかどうか。
まだ不安が拭えないあたしなのであった。
「ありがとう、ヤーナ、レヴィン。必ずコイツをモノにしてみせる。ところでリテラ殿」
「何じゃ?」
「この刀の
「おっと、忘れるところじゃったな。名前がないと契約もできんわ。そいつの銘は――」
再びの地鳴り。
荒れたカエサール遺跡に視線を移すと、あんなに大きなピュトンの姿がないことに気付く。
奴は地中より来た変異種だ。
おそらくはモグラの如く、地中を自在に移動できるのだろう。
おまけに蛇の器官も備えていると仮定すれば、ここにみんなが集まっている状態は、まずい。
「このままじゃ……ちょっと囮になってくる!」
ひとまず引き離そう、双子やジークから離れた場所まで。
「姉貴!?」
「ニュー、レヴィンさんなら大丈夫だよ。太陽も味方してる」
「アタクシは空からサポートしますわ!」
「頼むぞ、ヤーナ!」
「ジークは自分のことに集中せい! わしの後に続いて
どこかで聞いたような文面がリテラから聞こえたが、いつものようにスルー。
あたしは全力で地を駆け、ピュトンの気配を感じ取った。
地鳴りも激しくなってきているし、間違いなくあたしの真下にいるのだろう。
無事引っ掛かってくれたようで何よりだ。
シャトルランの要領で
あたしがさっき立っていた地から、ピュトンの頭が飛び出してきた。
「来たわね!」
さあ、ここからだ。
蛇の特徴は、身体の長さとしなやかさ。
そして、獲物を逃さぬ
かつて故郷にあった近場の森でも、捕まえて毒を抜いて焼いて食べたことはあったが、意外に好みの味だった。
蛇食の下ごしらえとしてはそれ以外にも、皮を剥ぐという手順が大事。
そしてそれ以上に重要な手順といえば、頭と胴体をバッサリ切り離す作業だ。
そうしないとしぶとく暴れるし、次の工程に至れない。
閑話休題。
つまり蛇は、頭さえどうにかできればいいのだ。
どれだけ大きかろうと、魔獣になろうと、それは変わらない。
「そらっ、こっちよ!」
あたしは着地してそのまま、ピュトンの頭に背を向けて走る。
これは逃走ではなく、戦略的撤退。
長い胴体がある奴なら、あの手が使える、というわけだ。
「『器にたゆたう氷精よ、我は力を求めし無辜の魂――!』」
離れたところにいるジークが、マキナ契約の詠唱を始めたのが聞こえる。
やっぱり大声で詠唱してる……ジークらしい。
あたしもあたしで、仕事しなきゃ。
ピュトンの真上を飛んでいるヤーナを見かけて、声をかけた。
「ヤーナ、
「長い胴体ならば、その手がありましたわね! まずはそこの下を!」
「よしっ!」
スライディングで胴体の下に潜り込む。
ピュトンの頭はあたしを追いかけて、自分の胴体の一部を潜っていく。
この調子で騙していこう。
「『――ジークリンデ・シグルドの名において告げる! 人魔一体の契約に従い、その名を以て我と歩む力となれ!』」
紐結び作戦を進めているうちに、ジークの詠唱もクライマックスに突入していく。
それまでに間に合えばいいが。
「『汝の名は、【セツカ】!
ふと、足が止まった。
青白く天に昇る輝きが見えたからだ。
「きれい……」
「契約成立、ですわね」
そうか。契約型マキナって、契約するとあんな感じに光るんだ。
あたしの時は父からの譲渡って形だったから、そこまで契約したって実感は湧かなかったけど。
こんなにも、美しい光景だったのか。
「あっ! レヴィンさん、危ない!」
ヤーナに声をかけられて我に返り、振り返る。
ピュトンの頭が牙を向いてあたしに迫ってきていた。
「しまった!」
油断した。
このままでは喰われる――!
「なんてね」
寸前で、ピュトンの頭が動きを止めた。
何が起きたのか、答えは明白である。
ピュトンの胴体は混線状態。
結んで結んで、こんがらがり、絡まり、もつれ。
まるで身動きが取れない状態。
これで地中に潜られることもない。
「レヴィンさん、ここから離れますわよ。あとはジークがやってくれますわ」
あたしはヤーナの手に掴まり、空を飛んで戦域を離脱。
決め手は、ジークリンデ・シグルドに委ねられた。
「さあ、吠えろ『セツカ』! 私達で騎士ハンネマンを助けるぞ!」
「振り抜いてデカブツを斬るイメージじゃ! 『セツカ』はお主に応えてくれる!」
「心得た!」
リテラのアドバイスに押される形で、ジークは脚を踏み込み、左手で鞘を支え、右手で柄を握る。
まるで斬撃を飛ばすだけで、全てを終わらせる予兆であるかのように。
「セヤァァッ!!」
氷閃刀『セツカ』、抜刀。
煌めく業物の刃から、迸る魔力。
振り抜いた刀より飛び出す冷気は、一瞬でピュトン全体を氷漬けにした。
無詠唱の抜刀で膨大な冷気を飛ばした、という領域の話ではない。
ジークの近接オールラウンダーともいえる天才的なセンス。
騎士として鍛えられた足腰。
それらに追いつくほどの逸品、という点において『セツカ』は予想以上に仕上げられている。
おそらく彼女との相性は、『シュニーロマンサー』より上――!
「素晴らしい、思った以上にこれは馴染む!」
新たな相棒の威力を実感したジークは、しかし落ち着いて刀を鞘に納める。
納刀特有のチンッという音が聞こえた次の瞬間――。
「シャアァァァ……!」
ピュトンが断末魔と共に、氷に固められた複数の肉塊となって、砕けた。
無論、そいつとて魔獣と化した大蛇だ。
奴にとっては致命傷だったので、その肉塊は霧散していく。
「なによ……すごくカッコイイじゃない」
思わず感嘆が口から出てしまった。
ジークに聞こえてないだろうか。