太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第六十話 「必ずコイツをモノにしてみせる」(6)

「まさかあの大蛇、ハンネマンさんを食べた……!?」

「そんな馬鹿な……隊長を務めるほどの騎士が、こんなあっさり……!?」

 

 無情、と言うほかない。

 なぜ、こんなことになってしまったのか。

 その答えの一部は、リテラが知っていた。

 

「あれはもしや、害蛇(がいじゃ)『ピュトン』か!?」

「その名前、確か遺跡に封印されていたっていう――」

「聞いていた特徴と一致しておる、間違いない。とっくに骸になったものと思っておったが、まだ肉の形を保っておったとは……」

「保存状態良すぎでしょ!」

 

 騎士をひとり飲み込んだ害蛇・ピュトンの頭がこちらを向いた。

 ヤバい、見つかった、と同時に新たな発見もあった。

 

「あっ、よく見て姉貴! アイツの額!」

「あれって……魔石じゃないの!?」

 

 そう、魔獣の印である魔石が、ピュトンの額にあったのだ。

 

「そんな! ピュトンは魔獣が出現する前の害獣じゃないんですか!?」

「そのハズじゃが……来るぞ!」

 

 ピュトンの頭が、あたしたちに迫る。

 まとめて獲物にされてたまるか!

 

解放(リリース)、『ソルマドラ・オリジン』!」

 

 本気モードの全身鎧を顕現させる。

 みんなの前に立って、ガードの構え。

 その身ひとつで、ピュトンの頭突きを受け止めた。

 

「ふん、ぬうぅぅぅっ!!」

 

 必死に踏ん張って、後ろのみんなには届かせまいと耐える。

 やがて頭突きの勢いは弱まり、本能で反撃を察知したからか、ピュトンは頭を引いた。

 

 どうにか守りきったか。

 しかし、ここから先はどうなるかわからない。

 奴が明確に敵意を向けている以上は。

 

「ジーク、ミュウくん達を守りつつ、ここから離れて! 後はあたしが――」

「そうもいかん」

「何言ってるのよ。汎用型がいくらあっても通用しそうにないわよ、コイツ」

「その程度で見切りをつけられるほど、私の頭は器用ではない」

 

 ああ、そうだった。

 そういう主人公みたいな精神してるから、あたしはジークが羨ましかったんだ。

 

「奴の中には、おそらくまだ騎士ハンネマンがいる。まだ決闘は終わっていないのだから、なんとしても助け出したいのだ」

 

 まったく、自分を恨むほどの相手だっていうのに。

 やっぱり馬鹿よ、ジークは。

 

「使っていないマキナもまだ残っているだろう。私はそれで――」

 

 お互い荷車に目を向ける、が、しかし――。

 

「ウソでしょ……!?」

「なんという……荷車とあれだけ買ったマキナが……全滅だ!」

 

 そう、ジークがピュトンに立ち向かおうというこんな時に限って。

 多くの汎用型マキナが荷車ごと、スクラップになっていた。

 

 おそらくはピュトンの胴体で潰されたものと思われる。

 色々と台無しよ……この状況どうしてくれんの?

 

「くっ……アレが間に合っていれば!」

「しょうがないわね。あたしだけで対処するしか――」

 

 そして更に、状況は過酷になる。

 ピュトンがその長い胴体を使って、あたしたちの周囲を囲んできたのだ。

 

「うわっ、まずいぞこりゃ!」

「逃げ場を塞がれた……!」

 

 まるで蛇肉の檻。

 あたしたちは、完全に獲物として捕らえられてしまった。

 

「確か、このような状況を表す言葉があったような気がするな」

「万事休す、ですね」

「じゃが、勝機はあるぞ。レヴィン、奴に捕食される寸前に、全力の一撃を叩き込むんじゃ!」

「アンタは自分とみんなが、あたしの全力の余波に巻き込まれてもいいのね?」

「……すまんかった」

 

 ピュトンの胴体に逃げ場を奪われ、集まった状態では全力を出せない。

 倒せはするんだろうけど、倒せそうな状況にはない。

 ジリジリ追い詰められる現状。

 

「こんな時に、あいつがいてくれたらな――」

 

 珍しく弱音を吐いたジークに呼ばれたかのように。

 打開策は()()()()()

 

「『スラッシュ・(インパクト)』ッ!!」

 

 ドン、という衝撃にも似た音と共に、ピュトンの胴体の一部が、切断される。

 脱出経路が、文字通り切り拓かれた。

 

「みんな、こっち!」

 

 切断されてうめき声をあげるピュトンをよそに、あたしはみんなを先導して包囲網から脱出した。

 

 ピュトンからある程度離れ、ようやく一息ついて『ソルマドラ・オリジン』を封印(シール)する。

 杖を箒に見立てて、活路を拓いてくれた張本人が空から降りてきた。

 

「まったく、来るのが遅いわよ、ヤーナ」

「ごめんあそばせ。それにしても決闘と聞いていたのに、凄いことになっていますわね」

 

 鋭く力のある風魔法の名手、ギラソール傭兵団副リーダーがようやく戻った。

 それはいいのだが、まだ状況は好転していない。

 

「とっくに骸となっていたハズの害獣が、何かの拍子で魔獣となって蘇ったんじゃ」

「つまりアレは変異種ということですわね。『眷属』クラスの姿も見えませんし」

 

 流石はヤーナ、理解が早くて助かる。

 

「騎士ハンネマンが奴に食われたのだ、早く助け出さねば消化されてしまう!」

「お待ち、ジーク。焦っても仕方ありませんわよ」

「しかしだな――」

 

 ヤーナが、ジークに向けて何かを差し出す。

 

 えっ、ちょっと待ってよ。

 

 この世界に広く流通しているものではない、綺麗な石が埋め込まれた、異質な青い(さや)

 ひし形模様のついた(つか)に、手裏剣をあしらったような(つば)

 

 あれはもしや……()()()という代物では!?

 

「これは、まさか!」

「遅くなったのは、師匠が打っていたこれの完成を待っていたからですわ。見たことのない武器で戸惑いましたけど」

 

 ヤーナが日本刀を知らないとなると、このフロイデヴェルトに日本っぽい国は無いのか。

 

「じゃあ、見つけたんですね。小鬼(ゴブリン)の住処に、氷の精霊石を」

「ホッとしましたわよ、賭けに勝って。小鬼(ゴブリン)に見つかって小競り合いになった時は、気が気じゃありませんでしたけど」

 

 結局見つかってひと悶着あったんかい。

 

「おお、注文通りに仕上がっとるわ! 流石は王都の名工じゃ!」

「まさか、アンタがオーダーメイドのプロデュースをしたっていうマキナ……この刀のことだったの!?」

「カタナ?」

「片刃の剣のことを、そう呼ぶらしいよ、ニュー」

 

 ミュウくんは刀についての知識があったのか、大雑把な感じでニューに説明している。

 

 日本刀は無くて、刀という武器はこの世界にあるって、どういうことなんだろう。

 まあ西洋にも中東にも刀と呼べる武器はあるみたいだし、そこまで深く考えなくてもいいのかも。

 

「どうじゃ、ビックリしたじゃろう!」

「私も最初、どんな武器かわからなかったぐらいだからな!」

 

 そりゃジークはわからなかったでしょうよ。

 日本刀って、頭のおかしい武器だからね。

 

「さあ、ジーク。すぐにこれと契約を始めてくださいませ。変異種であれば、いつ再生してもおかしくはありません」

「そうね。あたしらで時間稼ぎするっきゃないか」

 

 あたしはすかさず『ソルマドラ』の籠手と脛当て(グリーヴ)解放(リリース)、戦闘態勢に入る。

 

「それに、その刀から放たれる魔力は未知数。一撃で決められるほどの逸品ならば、狙いを固定できるように動きを封じる必要性も出てきますわ」

「流石にあのデカさで動きを封じるのは無理なんじゃないか? あっしでもわかるよ」

「おまけに、地中に潜れる大蛇……現状で取れる手は限られますね」

「大きくても蛇は蛇、魔石のある頭さえ抑えれば大丈夫よ」

 

 とは言ってみたものの、潜れる怪物に致命傷を与えられるかどうか。

 まだ不安が拭えないあたしなのであった。

 

「ありがとう、ヤーナ、レヴィン。必ずコイツをモノにしてみせる。ところでリテラ殿」

「何じゃ?」

「この刀の()を、まだ聞いていなかったな」

「おっと、忘れるところじゃったな。名前がないと契約もできんわ。そいつの銘は――」

 

 再びの地鳴り。

 荒れたカエサール遺跡に視線を移すと、あんなに大きなピュトンの姿がないことに気付く。

 

 奴は地中より来た変異種だ。

 おそらくはモグラの如く、地中を自在に移動できるのだろう。

 

 おまけに蛇の器官も備えていると仮定すれば、ここにみんなが集まっている状態は、まずい。

 

「このままじゃ……ちょっと囮になってくる!」

 

 ひとまず引き離そう、双子やジークから離れた場所まで。

 

「姉貴!?」

「ニュー、レヴィンさんなら大丈夫だよ。太陽も味方してる」

「アタクシは空からサポートしますわ!」

「頼むぞ、ヤーナ!」

「ジークは自分のことに集中せい! わしの後に続いて(ささや)き、祈り、詠唱、念じろ!」

 

 どこかで聞いたような文面がリテラから聞こえたが、いつものようにスルー。

 

 あたしは全力で地を駆け、ピュトンの気配を感じ取った。

 地鳴りも激しくなってきているし、間違いなくあたしの真下にいるのだろう。

 

 無事引っ掛かってくれたようで何よりだ。

 シャトルランの要領で(きびす)を返し、今まで走っていた方向とは逆に、跳ぶ。

 

 あたしがさっき立っていた地から、ピュトンの頭が飛び出してきた。

 

「来たわね!」

 

 さあ、ここからだ。

 

 蛇の特徴は、身体の長さとしなやかさ。

 そして、獲物を逃さぬ専用(ピット)器官。

 

 かつて故郷にあった近場の森でも、捕まえて毒を抜いて焼いて食べたことはあったが、意外に好みの味だった。

 

 蛇食の下ごしらえとしてはそれ以外にも、皮を剥ぐという手順が大事。

 そしてそれ以上に重要な手順といえば、頭と胴体をバッサリ切り離す作業だ。

 そうしないとしぶとく暴れるし、次の工程に至れない。

 

 閑話休題。

 

 つまり蛇は、頭さえどうにかできればいいのだ。

 どれだけ大きかろうと、魔獣になろうと、それは変わらない。

 

「そらっ、こっちよ!」

 

 あたしは着地してそのまま、ピュトンの頭に背を向けて走る。

 これは逃走ではなく、戦略的撤退。

 長い胴体がある奴なら、あの手が使える、というわけだ。

 

「『器にたゆたう氷精よ、我は力を求めし無辜の魂――!』」

 

 離れたところにいるジークが、マキナ契約の詠唱を始めたのが聞こえる。

 やっぱり大声で詠唱してる……ジークらしい。

 

 あたしもあたしで、仕事しなきゃ。

 ピュトンの真上を飛んでいるヤーナを見かけて、声をかけた。

 

「ヤーナ、()()()を試したいの! ルート案内、頼むわね!」

「長い胴体ならば、その手がありましたわね! まずはそこの下を!」

「よしっ!」

 

 スライディングで胴体の下に潜り込む。

 ピュトンの頭はあたしを追いかけて、自分の胴体の一部を潜っていく。

 この調子で騙していこう。

 

「『――ジークリンデ・シグルドの名において告げる! 人魔一体の契約に従い、その名を以て我と歩む力となれ!』」

 

 紐結び作戦を進めているうちに、ジークの詠唱もクライマックスに突入していく。

 それまでに間に合えばいいが。

 

「『汝の名は、【セツカ】! 氷閃刀(ひょうせんとう)【セツカ】なり!』」

 

 ふと、足が止まった。

 青白く天に昇る輝きが見えたからだ。

 

「きれい……」

「契約成立、ですわね」

 

 そうか。契約型マキナって、契約するとあんな感じに光るんだ。

 

 あたしの時は父からの譲渡って形だったから、そこまで契約したって実感は湧かなかったけど。

 こんなにも、美しい光景だったのか。

 

「あっ! レヴィンさん、危ない!」

 

 ヤーナに声をかけられて我に返り、振り返る。

 ピュトンの頭が牙を向いてあたしに迫ってきていた。

 

「しまった!」

 

 油断した。

 このままでは喰われる――!

 

「なんてね」

 

 寸前で、ピュトンの頭が動きを止めた。

 何が起きたのか、答えは明白である。

 

 ()()()()だ。

 

 ピュトンの胴体は混線状態。

 結んで結んで、こんがらがり、絡まり、もつれ。

 まるで身動きが取れない状態。

 

 これで地中に潜られることもない。

 

「レヴィンさん、ここから離れますわよ。あとはジークがやってくれますわ」

 

 あたしはヤーナの手に掴まり、空を飛んで戦域を離脱。

 決め手は、ジークリンデ・シグルドに委ねられた。

 

「さあ、吠えろ『セツカ』! 私達で騎士ハンネマンを助けるぞ!」

「振り抜いてデカブツを斬るイメージじゃ! 『セツカ』はお主に応えてくれる!」

「心得た!」

 

 リテラのアドバイスに押される形で、ジークは脚を踏み込み、左手で鞘を支え、右手で柄を握る。

 まるで斬撃を飛ばすだけで、全てを終わらせる予兆であるかのように。

 

「セヤァァッ!!」

 

 氷閃刀『セツカ』、抜刀。

 

 煌めく業物の刃から、迸る魔力。

 振り抜いた刀より飛び出す冷気は、一瞬でピュトン全体を氷漬けにした。

 

 無詠唱の抜刀で膨大な冷気を飛ばした、という領域の話ではない。

 

 ジークの近接オールラウンダーともいえる天才的なセンス。

 騎士として鍛えられた足腰。

 それらに追いつくほどの逸品、という点において『セツカ』は予想以上に仕上げられている。

 

 おそらく彼女との相性は、『シュニーロマンサー』より上――!

 

「素晴らしい、思った以上にこれは馴染む!」

 

 新たな相棒の威力を実感したジークは、しかし落ち着いて刀を鞘に納める。

 納刀特有のチンッという音が聞こえた次の瞬間――。

 

「シャアァァァ……!」

 

 ピュトンが断末魔と共に、氷に固められた複数の肉塊となって、砕けた。

 無論、そいつとて魔獣と化した大蛇だ。

 奴にとっては致命傷だったので、その肉塊は霧散していく。

 

「なによ……すごくカッコイイじゃない」

 

 思わず感嘆が口から出てしまった。

 ジークに聞こえてないだろうか。

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