太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
ともあれ事態は収拾したので、みんなでジークに駆け寄る。
かつてピュトンがいた場に残されたのは、大粒の魔石と。
その胃液で消化されるのを待つだけだった、ハンネマンさんの姿であった。
「よかった、ハンネマンさん無事みたいね……って、何で鎧も服も無いの!?」
しかも全裸。
うつ伏せで倒れているから、大事なところが見えていないのは助かった。
何が助かったって?
言わせんな恥ずかしい。
「おそらく胃液に溶かされまいと奮闘していたんじゃろうな。伊達に王国騎士はやっとらんといったところか」
「あら、アタクシは服と鎧だけを溶かす胃液かと思ってましたわ」
「そんなの、あるわけないじゃないですか」
「どっちにしろ見てて嬉しい光景じゃないよな」
まあ、ニューの言うこともわかる。
ガタイの良い男が服だけを溶かされたって、そこまで嬉しくは……。
いやいや、想像しようとするのをやめろ、あたし。
「んっ……俺……何が……?」
あ、ハンネマンさんが起きた。
ひとまず彼の全裸を覆うものを探すも、手頃な物がなかったので、自分のマントを解いて被せた。
次のマントは、いずれ新調しよう。
「やあ、騎士ハンネマン。遺跡の大蛇は私が倒した」
「ジークリンデ……シグルド……。俺は、生きてるのか……?」
「私を見て、名前を呼べるのが、その証だろう?」
「違いねえ、な」
「待て待て、騎士ハンネマン。そのまま起き上がるのはオススメしないぞ。この場には淑女も多い」
「あん? 何を言って……」
ハンネマンさん、ここで初めて自分が何も着ていないことに気付く。
「そういや胃液から逃げるために脱いだんだったな。死にたくないから必死で、すっかり忘れてたぜ」
「あたしのマント、腰巻きに使ってください」
「ケッ、俺も堕ちたモンだな。ラグナ族に気を遣われるとは」
口ではそんなことを言ってても、顔がなんとなく気恥ずかしい様子のハンネマンさん。
あたしのマントを腰に巻いた彼は、起き上がる気力が失せたのか、仰向けに寝転がった。
「クソッ、蛇のクセに俺の体力奪いやがって」
「お主の自業自得、みたいなモンじゃろうが。ハンネマンよ」
「偉そうに呼び捨てすんじゃねえ、妖精のクセに!」
「何おぅ!? わしはお主より何倍も生きておる決闘仙人じゃぞ!」
まだそのネタ引っ張るのか、滑ったのに。
それはさておき、自業自得って何のことだろう。
「確か決闘前に言ってましたよね、ハンネマンさん。『この遺跡はうちの隊で昨年調査したばっかりだ』って」
「そうだよ。だからあんなバケモンが蘇るハズじゃなかったんだが」
「このカエサール遺跡は、かつて魔獣の縄張りだったと聞いていますわ」
「ああ。俺の隊はかつてここを根城にする『王』クラスの魔獣と戦って、勝利した」
「まさかその時に、回収し損ねた魔石が、時を経てピュトンの骸を媒介に変異した……ということですか?」
それを変異種と呼ぶ。
魔獣の残りカス――つまり魔石――が、時間をかけて周囲の物質を集めた結果現れる、カオスの権化みたいなヤツ。
まさか生き物の骸すら取り込むとは思ってなかったけど。
「……ガキのクセに相当冴えてやがるな」
「ミュウはこれでも治療師志望だからな!」
まるで自分のことのようにニューが胸を張ってドヤる。
いつもの光景なので特に気にすることはない。
「ったく、あの時魔石を落としやがったロビン辺りを恨むぜ。決闘を台無しにしやがって」
「まあ、部下を責めてやるな。許されない失敗ではあっただろうが、うっかりの類だろう」
「ジークリンデ・シグルド……やっぱりお前はお気楽すぎるぜ。エイミーは何でコイツなんかに――」
変異種ピュトンの謎が解けたのもつかの間、話題はかつての騎士学校時代の話にシフト。
そういえば、痴情のもつれ問題は全く解決していなかった。
「その事なのだが、よくよく思い出してみると……違うのだ」
「何が違うってんだ?」
「花束を渡されたあの時にエイミーから出てきた言葉は、貴殿が思うような内容ではなかった、ということだな」
あ、なるほど。
ハンネマンさんは勘違いの早とちりで逆恨みを……。
「確か、『ジークリンデ・ファンクラブを代表して、この世に生まれてきてくれてありがとうという、感謝の気持ちです』などと言っていた気がするな」
そ、そう来たかぁーッ!
確かにジークは背も高くてスラっとしてるし、顔面偏差値も高い。
おまけにフィジカル面で強くて天才とくれば、同性のファンが付かないはずがないのだが。
「ファンクラブ……だと……?」
「おや、知らなかったのか? エイミーの婚約者ならばとっくに知っているものと――」
「あいつのプライベートにはそこまで踏み込んでなかったから……って、そんなことはどうでもいいんだよ! 何だよファンクラブって!」
ハンネマンさんが急に元気になったぞ、口だけ。
「ったく、俺の勘違いでも何でもなかったんじゃねえか! 俺を放って
「騎士になってまでジェラシーを引きずるのはみっともないぞ、ハンネマンよ」
「うるせえよ妖精! テメェに俺の何がわかる!?」
「何がわかるか、じゃと? とんだ勘違いで自爆したお主のことなど、わかってたまるか!」
リテラ、やけに突っかかるわね。
一体何に対して怒ってるんだろう。
「お主にこれだけは言っておくぞ。『
いきなりレベルの高い話題になってきた。
「ハンネマン、お主はファン心理というものを何もわかっておらん。そもそも推すという行為そのものは、直接恋愛に結びつくようなものではなく、自分から見て遠い次元の存在を敬い、崇拝する宗教的行為に近いものじゃ。つまりファンは推しに欲情しておるのではない、推しを神のように崇めておるだけなんじゃよ」
偶像崇拝なんて言葉があるのだから、リテラの言うことも強ち間違いではないのだろうが。
話の論点、ズレてない?
「お主の婚約者のエイミーとやら、真面目キャラだったんじゃろう? だったら線引きはちゃんとしておったはずじゃ。彼女がジークをファンとして推していたとしても、お主はそれを浮気と決めつけた。もっとお主は彼女を信じて対話するべきじゃった」
「うぐっ……」
「もう過ぎてしまったアオハルをこれ以上責めはせんが、エイミーにお主を裏切る気がなかったのは確かじゃろう。それだけは覚えておくんじゃな」
「……クソッ」
なんだか推し活の話から随分強引に纏められた気がする。
推しと恋愛は別物、か。
まさしくリテラがあたしを推してるファンだからか、変な説得力がある辺り、ちょっとムカつくわね。
「結局悪いのは、俺じゃねえか……」
「騎士ハンネマン、騎士学校での決闘の後、エイミーとは――」
「分からず屋って罵られて、卒業まで上辺だけの関係を続けてた。婚約破棄は、卒業してからだ」
「それ以来、伝書でのやり取りもなし、と」
「笑えよ、ジークリンデ・シグルド。勘違いで勝手に暴走して、お間抜けに大蛇に喰われた、この俺をよ」
「はっはっはっ!」
いや、マジで笑わないでよジーク。
愚弄する意図で笑ったんじゃない、多分ジークもハンネマンさんの言ったことを勘違いしてる。
「大蛇に喰われた! いい土産話ではないか、騎士ハンネマン!」
「……は?」
「喰われながらも、貴殿は大蛇の魔獣と勇敢に戦った! その話を聞けば、きっとエイミーも貴殿を見直すだろう!」
ジークは何を言ってるんだろう。
あっ、まさかそういうこと?
「オイオイ、勘弁してくれ。あの蛇と戦ったのはテメェだろ。俺の手柄にしようってか!」
「今の私は傭兵だ。ここの大蛇を討伐する依頼は受けていない」
「だからって――」
「久々に、エイミーの顔が見たくなった。共に来て、彼女と話をして欲しい」
ジークの提案に、険しかったハンネマンさんの顔が柔らかくなっていくのが見えた。
ずっと自分のしたことから目を背けてきた男の、心が動いた瞬間であった。
「ケッ、敵わねえな。昔も今も」
決闘を通してジークという人間の一端を知った彼の一言が、人騒がせだったこの一幕に、終わりを告げる。
「俺の……完敗だ」
勝者、ジークリンデ・シグルド。
※※※
あの決闘から一夜明け、ジークはハンネマンさんと共にエイミーさんのお宅を訪問した。
エイミーさんはハンネマンさんとの婚約破棄の後、伯爵家であるシュタットフェルトの家を継いだはいいものの、いくらお見合いを繰り返しても、理想のパートナーが見つからない状況にあるという。
これ幸いとジークがハンネマンさんとよりを戻す提案をするのだが、当然すぐに復縁というのも難しい。
なにせ親同士が決めた結婚相手ではあるものの、一度縁を切った者同士。
いくら推しの頼みとはいえ、そう事は単純じゃない……とはエイミーさんの談。
しかしここでハンネマンさんが漢を見せた。
自分の小隊が、シュタットフェルト家の事業を優先的に支援すると申し出たのだ。
これにはエイミーさんもそこまでするか、と泣き笑い。
喜んで申し出を受けたという。
細かい問題は残っているが、ひとまずは定期的に会う合法的な理由を取りつけ。
ハンネマンさんとエイミーさんの止まっていた時は、ささやかにではあるが動き出した。
一度こじれた関係ではあるが、失われた信頼を取り戻すのに、そう時間はかからないだろう。
エイミーさんはジークへの推し活をしている間も、ハンネマンさんのことを気にしていたようだったから。
推し活と恋を割り切れる人、か。
少し興味が出てきたし、いずれジークを頼って会ってみるのもいいかもしれない。
※※※
その日の夜。
ハンネマンさん行きつけの定食屋にて。
「なあ、嬢ちゃん。ラグナ族の、何つーんだっけ?」
「レヴィン・ゾンネです、ハンネマンさん」
「レヴィンね、わかった。そんでな、確かに俺はアイツの約束通り、ここの飯を奢ることを了承した」
「しましたね」
「でも、でもなぁ……そこまで食うことを了承した覚えはねえんだよ! 何だその皿の量!?」
よし、状況を説明しましょう。
定食屋の料理が美味すぎる勢いで、ジークのリミッターが外れました、以上。
お出しされた料理をどんどん口に入れていくその姿は、まさに暴食の獣。
何杯目のおかわりだったか、あたしたちギラソール傭兵団も、ハンネマンさんが連れてきた小隊メンバーも、いつの間にか数えることを忘れている。
あの引き締まった身体に、一体どんな仕組みの胃袋を隠し持っているのか。
それは彼女しか知らないのだろうが、彼女自身もそこまでわかってないかもしれない。
とにかくジークは、勝者の特権を味わいまくっていた。
「ふぃいふぇふぁふぁいふぁ」
「一旦飲み込んでから喋れや」
「んっ……ふぅ。良いではないか。貴殿は決闘に負けたのだから、これくらいは許容してもらわねば」
「許容っつっても限度があるわ、限度が! 俺の懐を砂漠にする気か!」
「ん? 懐が砂漠になるのなら、砂金を探して売ればいいのではないか?」
「クソッ、言葉の綾が通じねえ! どんなトンチキだよそりゃあ!?」
助かるなあ。
この場限定ではあるが、ハンネマンさんがいるだけでツッコミの気苦労から解放されたような心地になる。
「ここまで豪快なジークの食いっぷりを見たのは久しぶりじゃのう」
「普段はミュウが作った分くらいで満足してるのに、この差は何なんだろうな」
「次に料理する時はもっと量を増やそうかな……」
「影響されないの、ミュウくん」
「彼の不足分は、アタクシたちで補うしかありませんわね」
腐れ縁系幼馴染のヤーナも、人の金で暴食するジークには呆れ顔。
「無駄な出費が増えると、投資もままなりませんわ……トホホ」
ちなみにヤーナの言う『投資』とは、ギャンブルの賭け金のことである。
連帯責任でしょうが、我慢しろ。
「何にせよ、覚悟しなきゃね」
「何をじゃ?」
「ジークが食料庫を空にして、この店を出禁になる覚悟を、よ」
「時間の問題じゃのう……」
それにしてもジークはいい笑顔で食べるな、などと感心しながら、定食屋の夜は更けていくのであった。
「シェフ、おかわりだ!」