太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第六十二話 「あっしの憧れは、邪魔させねぇ!」(1)

 魔獣の出現で廃れたとされる、フロイデヴェルトの格闘術。

 なぜ廃れたのかは言うまでもなく、魔獣に普通の徒手空拳が通用しないからだ。

 当然、魔獣への対抗手段はマキナに頼りきりになるし、鍛えた身体のみで向かってもどうにもならない。

 

 あたしは『ソルマドラ』というマキナの鎧があったから、ライジングアーツという架空な上に模倣、我流アレンジした格闘術を使えている。

 まだ完成には程遠いものの、自分の生命線と呼ぶべきものなわけで。

 

 その一方で、この世界で格闘術が廃れたのは、実に惜しいと感じている。

 魔獣に敵わないから、というだけではない。

 人間同士の殴る蹴るが、暴力という言葉でしか表せなくなるのではないか、という危惧。

 

 魔獣には容赦ない一方で、なるべくあたしは人の命を奪わないことを心がけているが、何かの手違いで武術が暴力になってしまうこともあるだろう。

 格闘術を使う上で一番の難易度を誇るのは、自分の命を守りつつ、相手の命を絶たずに勝利すること。

 だからなるだけ、人には教えられない。

 

 まあ、そう思っていた頃があたしにもあって――。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 洞窟の中に複数設置されている木製の衝立(ついたて)と魔導具のランプが、人の形跡を物語る。

 あたしは枷で手の自由を封じられて、複数の男たちに連れられながら、洞窟を見回していた。

 

 要するに、ガラの悪い男たちに無様にも捕まった、ということ。

 

「それにしても、よく蛮族で有名なラグナ族があっさり捕まったモンだな」

「腹筋バキバキで無駄に力はあるように見えるのに、何も抵抗しやがらねえんだもんな」

「まあいいじゃねえか。この辺りじゃ珍しいし、高値がつくだろうよ」

 

 人をここまで連れてきておいて『高値がつく』なんて台詞が聞こえれば、もうお分かりだろう。

 ここは人身売買をメインビジネスとする、ならず者たちのアジトだ。

 

 人類共通の敵である魔獣が現れたところで、邪な思想を抱く人間がいなくなる、なんてことはなく。

 

 魔獣を信仰してやりたい放題の魔獣教団みたいな連中に加えて、我欲のために弱者を踏みにじることで私腹を肥やす、おおよそ魔獣なんて関係ないとばかりに倫理観ガン無視の奴らは、未だ蔓延(はびこ)っている。

 

 この世界にも億単位の人間が生きているらしいから、そういうものだと割り切ることしか出来ないんだろうけど。

 しかしそれはそれとして、尊厳を踏みにじる輩には虫酸が走る。

 

「そらよ、てめぇはココだ!」

 

 格子の扉が開く音。

 あたしはならず者の男に背中を押されて、格子で遮られた岩檻の中へ。

 

 普通であれば突然押されると、うつ伏せにコケそうなものだが、枷という重しはあっても鍛え方が違う。

 そのまま足を止めた。

 

「ちっ、つまんねえヤツだ。そこでおとなしくしてろよ」

「せいぜい雑談にでも興じとけ」

「もっとも、喋れるかどうか知らねえけどな! ギャハハハ!」

 

 扉が閉められ、施錠も怠らない。

 あたしをここまで連れてきた三人のならず者は、上機嫌で檻から離れた。

 

 頭のネジが外れた連中は、どうしてこうも度し難いのだろう。

 まあ、あんな奴らのことは一旦忘れるに限る。

 

 あたしの目的は、あいつらを殴ることではない。

 

「さて、ここにはどれだけ――」

 

 岩檻の中を見渡す。

 

 女性が六名ほど。

 耳が長かったり、獣のような耳だったりと種族もまばら。

 いずれも身体を洗えていないのか、素肌に汚れが目立っていた。

 

 本来の目標は……別の檻か。

 

「さ、さっきラグナ族って聞こえた……よね?」

「ラグナ族って、あの!? な、なんでこんなところに?」

 

 全てに絶望した人、隅で怯えてる人、あたしを怖がる人。

 反応は様々だが、怖がる気持ちもわかる。

 あたしを草食動物と同じ檻に入れられたライオンか何かだと思っているんだ。

 

 少しはラグナ族の悪評も収まっていたと思ったのだが、軽く傷ついちゃうな。

 ここはひとつ、行動で信用してもらうしかないか。

 

「ふんぬうぅぅぅっ!」

 

 両腕の筋肉を唸らせる。

 ほんの数秒の間に枷はその形を崩壊させ、あたしの腕の自由を抑えていたそれは、呆気なく砕かれた。

 

「ひいっ!」

「魔獣よりとんでもない化け物じゃないの!」

 

 おかしい、これから敵じゃないことをアピールしようと思ったのに、更に怖がらせてしまった。

 

 冷静に考えればね、わかっちゃうよね。

 手枷を物理で解錠するなんて、それこそ人間技じゃない。

 化け物呼ばわりもしゃあなしですよ。

 

 そりゃ生まれが狩猟民族ですけども。鍛錬の結果ですけども。

 やはり少し、心が痛い。

 

「あの、別に怪しいラグナ族じゃないので……まずはその腕、前に出してくれませんか?」

「な、何をする気!?」

「こうする気ですね」

 

 長い耳が特徴的な女性が、あたしを怖がりながらも枷に繋がれた腕を前に出してくれたので、これでひとまず敵意がないことは伝えられる。

 とりあえずデコピンの要領で枷の中心から破壊、と。

 

 親指から中指を弾いたその瞬間、枷は一瞬で両腕の繋がりを断たれた。

 

「えっ、ウソ……!?」

「一体あんた、何者!?」

「しがない傭兵です。依頼を受けて、助けに来ました」

 

 ひとまずはこれで、信用してもらえただろうか。

 ここに集まっている人たちの顔に、少しばかりの安堵が見えたのは幸いだった。

 

 とりあえずこの岩檻にいる全ての女性の手枷を砕いてから、落ち着いて話を聞いてみることにした。

 

「ここに居るので、全員ですか?」

「いえ、他にも売り物にされそうな人が別の檻に」

「グループ分けはちゃんとしてるってわけね……檻の正確な数って、誰かわかりますか?」

「ここも入れて五つくらいだったと聞いてます」

 

 それほど広くない廃鉱をアジトとして再利用してるくらいだし、そんなものか。

 とはいえ、この岩檻の人数を基準とするならば、軽く三十人以上は商品として捕らえられたのだろう。

 

 一応想定通りではあるし、ヤーナとミュウくんが考えた策なら問題はない。

 

「なるほど、わかりました。少し待っててください。仲間と連絡取るんで」

 

 あたしは彼女たちに背を向けて、ポケットからある物を取り出した。

 一見すると小さな緑の宝石に羽飾りがついたイヤリングに見えるが、耳たぶにつけてから連絡を取る相手のことを考えて、指で揺らすと――。

 

《こちらレヴィン。ヤーナ、聞こえてる?》

《感度良好、バッチリ念話が聞こえますわ。さすがアタクシ》

 

 念じるだけで、離れた場所にいるヤーナと、双方向通信が可能になるという代物だ。

 このイヤリングはヤーナ特製の『念話通信器(ヴィントリーファン)』と呼ばれる魔導具で、風が吹く一定の範囲内であれば、念話で連絡を取り合える。

 今回のようにチームが分かれた作戦においては、とても便利な連絡手段だ。

 

 ちゃんと念話は届くことがわかったところで、あたしはヤーナに内部情報を伝えた。

 

《ふむふむ、檻は五つ。情報通りなら位置もこれで良し、と》

《大丈夫そう?》

《この廃鉱、入り組んではいますが、レールは連中が使っているのとは別の出口に通じております。トロッコの数が足りれば、どうにでもなりますわ》

《どうにでもなる、ねえ。やっぱり大雑把すぎるわよ、今回の作戦》

《『どうせなら捕まった人を全員助けたい』、なんて言ったのは……どなたでしたっけ?》

《うぐっ……》

 

 ジークじゃないが、返す言葉もない。

 

 そもそも今回受けた救出依頼は、特定の個人を連れ帰るというだけのものだったのだが、情報を集めるうちに相手が人身売買に手を染めている組織という事実が発覚して、みんなが(いきどお)った流れであたしの『全員助ける』発言が飛び出したわけである。

 

 つまり自分で難易度を上げてしまったわけですよ。

 

《あれはできればなぁ~、って感じのニュアンスだったんだけど》

《このご時世でそう言い切れる人はエメルとアナタぐらいのものですわよ。だからこそ、皆もやる気になっているのですから》

《……とんだ無茶振りでこんな作戦させて、ごめん》

《謝るくらいなら配置についてくださいませ。他の皆も、準備万端ですのよ》

 

 少しの後悔を押し殺して、振り返る。

 

 枷が外れて安心しきった女性たち。

 あたしはこの人たちを、誰ひとり欠けることなく助けなければいけない。

 

 やらなくては。

 彼女らの尊厳が踏みにじられる、その前に。

 

 念話で通信している間、あたしは地面や壁を拾った石で軽く叩いて、音の違いを調べていた。

 

「ここかな? 解放(リリース)、『ソルマドラ』」

 

 両腕の籠手を顕現させる。

 あたしが突然マキナを出したからか、それでビックリしたらしき耳長の女性が、あたしに質問してきた。

 

「それってマキナ? 一体、何する気なの!?」

「さっき言いましたよね、助けに来たって。今からここをぶち壊します」

「えっ!?」

 

 狙いを定めて拳を構える。

 ヤーナからの念話が、頭に響いた。

 

《よろしいですわね? では五つ数えて、同時にドゴン! と参りますわよ》

 

 おそらくこれは他のみんなも聞いている、広範囲念話通信。

 『念話通信器(ヴィントリーファン)』は傭兵団の全員が受け取っている。

 

 若干のタイムラグこそあるだろうが、気にしてはいられない。

 彼女らを助けることが大事なのだから。

 

《五……四……三……二……一……ゼロ!!》

 

「ふっ!!」

 

 ゼロの号令と共に、あたしは魔力を込めた右ストレートを壁にぶつけた。

 実際にドゴン、という音は響かなかったが、太陽の魔力を当てた岩壁は徐々に亀裂の数を増し、豪快な音と共に道を拓く。

 

 その先に見えたのはレール。

 やっぱり運搬用通路と近い位置だったのね。

 

「音を聞きつけて、いずれ連中が戻ってきます。今のうちに逃げましょう!」

 

 女性たちは呆気にとられながらも、あたしの先導に従ってくれた。

 しかし大変なのはここからだ。

 

 あたしたちが立てた今回の救出計画の全貌はこう。

 

 まずはあたしがならず者たちの活動時間を見計らって囮となり、意図的にアジトを空けさせる。

 次にもぬけの殻となったアジトに残りのメンバーを向かわせて、調査と仕掛けを任せてもらった。

 

 リテラがどこからか見つけた廃鉱の地図によれば、運搬用トロッコが通れる道は奥で枝分かれしているものの、基本的には出口に通じる一本のみ。

 それと各岩檻の位置を照らし合わせて、ヤーナ特製の発破用樽爆弾――これも立派な『フラムバレル』と呼ばれる魔導具らしい――を密かに設置、五箇所同時発破により捕まった人たちの脱出路を確保。

 

 あたしだけ自力で発破する羽目になったが、爆弾に使える素材が足りなかったとヤーナが言っていたので仕方ない……とんだ貧乏クジである。

 ともあれ脱出の道中でトロッコが残っていれば何人かを乗せて押し出し、出口まで避難させる。

 

 これが一連の作戦内容ではあるのだが、今振り返ってみると、やっぱり大雑把に思う。

 戻ってくるならず者連中を何ら考慮することなく立てられた作戦だしね。

 

 まったく、リテラめ。

 なにが『もしもの時は高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処するんじゃ』、よ……。

 行き当たりばったり前提の作戦じゃないの。

 

 愚痴っていても仕方ないので、周辺に女性たちを乗せるトロッコがないか探してみる。

 通路の端で無造作に横転しているものを、ふたつ見つけた。

 

「まったく、廃鉱にするくらいなら、散らかして放置するんじゃないわ、よっと!」

 

 トロッコ、持ち上げてみると案外軽い。

 ふたつともレールに乗せて女性たちを見ると、開いた口が塞がらない様子だった。

 

 うーん、この鍛えすぎてドン引きされた感。

 褒められたら恥ずかしいあたしだが、これはこれで心をえぐられる。

 

「早く乗ってください、奴らが来る前に!」

 

 我に返った女性たちは、あたしに驚いている場合じゃないとばかりに、慌ててトロッコに乗る。

 

 トロッコふたつで丁度三人ずつ。

 詰め込みすぎない良い塩梅だ。

 

「今度は一体何を?」

「これから出口まで押し出します。しっかり掴まっててください!」

「えっ、ちょっと待って! 雑すぎじゃ――」

 

 雑なのは百も承知の上で、女性六人分とトロッコ二台分の質量を、あたしの筋肉で押し出す!

 

「いっけえぇぇぇ!!」

 

 女性たちを乗せた二台のトロッコが、レールの上を走り始める。

 そのスピードは馬が全速で野を駆ける速さに匹敵し、絶叫マシンを味わったかのような彼女たちの声も届かなくなるほど、すぐに姿が見えなくなった。

 

「多分大丈夫よね……出口に着く頃には勢いも弱まってるだろうし」

 

 彼女たちの安全は出口で待機してるリテラにでも、後で聞いてみよう。

 あたしの分の仕事はこれでおしまい……と、一応はなるはずであったが。

 

《ごめん姉貴、しくじった!》

 

 突如届いたニューからの念話。

 反射的にあたしの脚は、通路の奥を目指して疾走していた――。

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