太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第六十三話 「あっしの憧れは、邪魔させねぇ!」(2)

 散々危惧していたように、今回の発破救出作戦は大雑把である。

 

 作戦の穴も多々あり、まずひとつ、発破の音でどうしてもならず者たちが気付いてやって来てしまう。

 ふたつ、爆弾をひとつでも発破できなければ、全員の救出は不可能。

 みっつ、一部のメンバーが対人戦闘経験のないサポーターである。

 

 特にみっつ目が致命的。

 

 ギラソール傭兵団のサポーターであるニューとミュウくんの双子。

 ミュウくんは治癒術式が使えるほど頭がいいし、いざという時にはメイルドラゴンの子であるグラウが、その硬い皮膚で凶刃から身を守ってくれる。

 

 問題はニューの方だ。

 条件付きだが遠見の魔眼で少し先の未来を見られるし、身のこなしはチンパンジー並だが、これは彼女がミュウくんと生き延びるために必死で身につけた能力、なんて話を本人から聞いている。

 

 つまりニューは恵まれたフィジカルがありながら、それを一度も戦うために使ったことがない、ということ。

 集団に囲まれては、逃げることすらままならないだろう。

 

「……いた!」

 

 幸いニューの位置は、あたしが壊した岩檻と近かった。

 

 しかし状況は悪い。

 ニューは五人ほどの男に囲まれていて、背後にはまだ発破できていない樽爆弾(フラムバレル)

 

 彼女が言うところの『しくじった』とは、爆弾のことだろう。

 まだ廃鉱道の奥では他のみんなの救出作業も進んでいるだろうし、早めに状況を打破しておきたい。

 それには、ニューの避難が先決だ。

 

解放(リリース)、『ソルマドラ』」

 

 疾走しながら籠手を顕現させていく。

 まずは発破の前準備。

 

「ニューッ!」

「姉貴!」

 

 遠目で緊迫顔に見えたニューの顔がほころぶ。

 

「なにっ、仲間がいたのか!?」

「構わねえ、ガキよりも価値のありそうなヤツだ!」

「まとめて引っ捕らえようぜ!」

 

 そうはいかない。

 あたしたちにもまだやることがあるしね。

 

「とにかくそこから離れて!」

「合点だ!」

 

 大雑把な指示ではあったが、難しいことを考えずにニューは従ってくれた。

 五人の男衆にも構わず、あたしの方向めがけて走り出す。

 

「こいつ、気でも触れたか!?」

「よほど俺とハグしたいらしいな!」

 

 一部の男が勘違いしてるのは、まあ放っておいて。

 

 ニューの身のこなしはチンパンジー並といったが、それはまだ未成熟の子供体型であるからこその身軽さだ。

 故に体格面で大きなアドバンテージを誇る成人男性に対しては、それが有利に働く。

 

「こっちから願い下げだよっ!」

 

 そんな声と共に、男の眼前からニューが消える。

 

「下ァ!?」

 

 正確には、男の股座をスライディングで抜けた、という表現が適切だ。

 あっという間にニューは男たちの包囲網から脱出した。

 

 よし、詠唱開始だ。

 

「『我流・ライジングアーツ』――」

 

 ニューは素早く起き上がり、疾走再開。

 あたしとの距離が近づくと跳躍し、あたしを跳び越えていった。

 

 技の邪魔にならないように避けてくれたとあたしは見ているが、すっかり察しがよくなっちゃってまあ。

 それじゃあ遠慮なくやらせてもらう!

 

「『サンライト・ウェイブ』!」

 

 地面に叩きつけたあたしの拳から、太陽の波動が疾走する。

 

「あぶねっ!」

「なんだぁっ!?」

「ヘッ、どこを狙って――」

 

 残念、狙いはあんたらじゃないんだな。

 あたしが狙ったのは当然、後ろにあるアレですよ。

 太陽の波動が、樽爆弾に届いた。

 

「やばい、離れろ――!」

 

 もう時既に遅く。

 刺激を受けた樽は、五人のならず者を巻き込んで爆発した。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それからの作戦はスムーズに進み、ならず者に掴まっていた男女子供、計三十人を全て救助することに成功した。

 ついでに救助の間引っ切り無しにやって来たならず者たちを締め上げたところ、この密売組織の頭目は既に別拠点へ移っているという。

 どうやら廃鉱は支部として使っていただけのようだった。

 

 多少の消化不良感はありつつも、今回の依頼は終了。

 あたしたちは今、報告と報酬の受け取りに、今回の依頼人であるとある貴族の屋敷を訪れていた。

 

「お父様ぁ!」

「おお、ラウラ! よくぞ無事で……!」

 

 再会を喜ぶ微笑ましい親子の図。

 

 彼らはクルップ子爵家の人間……つまり貴族である。

 今回の救出依頼において『連れて帰って欲しい』と言われていたのが、目の前の小太りな父親、オットー・クルップの娘であるラウラ・クルップちゃんだ。

 

 彼女は二日前、通っていた神学校から従者を伴い帰宅していたところに拉致され、オットーさんはボロボロの状態で帰ってきた従者から、そのことを知ったという話だった。

 そこで彼は傭兵ギルドに依頼書を出して、あたしたちギラソール傭兵団がその依頼を受けて、現在に至る。

 

 なぜ騎士団を頼らなかったのかという疑問に対しては、『親としての監督責任問題で公に糾弾されたくない』とのことで。

 貴族は保身第一、という風にも取れるが、普通に親として娘を想える良心が垣間見えただけでも、この依頼はあたしにとってのプラスになったのかもしれない。

 

「傭兵団の皆様、この度はうちの娘をありがとうございます」

「いえ、人として当然のことをやったまで!」

 

 傭兵団の中では一番貴族と交流した経験のあるジークが、ドヤ顔で感謝を受け取る。

 今回のジーク、珍しくそこまで目立った活躍はしてなかったけどね。

 

「でも人身売買業者の頭目には会えず仕舞いでした。今後も娘さんのような事案を増やさないためにも、頭を捕らえるぐらいはしておきたかったのですが」

「聞けば廃鉱のアジトに捕まっていた全員を助けてくださったのでしょう? それだけでも大した偉業じゃないですか」

「まあ、アタクシの作戦があってこそ。チョロいモンでしたわ」

 

 素直に感謝を受け止めきれないあたしに対し、ヤーナは素直に受け取りすぎて浮かれているような。

 全員救出の追加報酬でも期待してるんだろうか。

 

「いやはや、まだ年若いお嬢さんばかりなのに、よく頑張ってくださった。特にそこの双子のキミら」

「えっ、ボクらですか?」

「まだラウラと歳も近いだろうに、そこのお姉さんたちと並んで戦っているのだろう?」

「別に、そんな。ボクらは皆さんの戦いを後方で支援しているだけの、サポーターですから。ね、ニュー」

 

 ミュウくんが双子の姉に話を振るも、肝心の本人から反応がない。

 ニューはなぜだか上の空、といった感じだ。

 

「ニュー、どうしたのよ? ニュー!」

「うわぁっ!? ど、どうしたんだよ姉貴?」

「それはこっちの台詞よ。柄にもなくぼーっとしちゃって、疲れてるの?」

「た、多分そうなのかも。ごめんな姉貴、ミュウも」

「気をつけてよ。依頼人の前なんだから」

 

 ミュウくんに言われて、あっけらかんな態度で苦笑いするニュー。

 

 あからさまに様子がおかしい。

 後で話を聞いてみるべきかどうか。

 

「ははっ、別に構わんよ。子爵の家だからと堅苦しくなることはない。まだ子供なのだからね」

 

 まだ子供、ねえ。

 確かにミュウくんとニューはそうだけど、背伸びしたい年頃でもあるわけだし。

 

 オットーさん、ある意味その褒め言葉は逆効果なんじゃないか、と思うのであった。

 

「じゃあ娘さんを帰したことですし、あたしたちはこの辺で」

「もう帰っちゃうの、ニュー?」

 

 用事は済んだので帰路につこうとしたところ、ラウラちゃんが名指しで呼び止めてきた。

 なぜニューの名を呼んだのかといえば、救出後にこの家へ向かうまでの道中、ニューと彼女が友達と呼び合えるほどに打ち解けていたからだ。

 

「あっしはしばらくここでラウラと遊んでもいいんだけど、姉貴の言うことだしな」

「そっか。よかったらまた、遊びに来てね」

「おうさ!」

 

 ぱっと見、満面の笑みでラウラちゃんと約束を交わすニュー。

 少しは調子が戻ったように見えたけど、多分気のせいだろう。

 

「また困ったことがあったら、指名して頼らせていただきますよ。報酬金は玄関で待ってるうちの従者が持っておりますので、受け取ってください」

「ありがたく頂戴致しますわ」

 

 ヤーナ、報酬金と聞いてちょっと声が上擦ったね?

 いつものことだから、まあいいけど。

 

 それにしてもオットーさん、双子を気にかけてくれた辺り、貴族の中ではマシな部類なのかもしれない。

 

 この後は従者さんから追加分を含めた報酬を受け取って、案件終了となったのだが。

 ギラソール傭兵団の約一名にとっては、後悔を残す結果となったことに、誰も気付いていなかった――。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 救出依頼を完遂した、その日の夜。

 ギラソール傭兵団拠点、ミュウくん特製の料理で彩られた食卓にて。

 

「ミュウも姉貴もみんなもさ、なんであっしのポカを叱ってくれないんだよ?」

 

 ニューが唐突に零したその言葉に、皆が唖然とした。

 

「ニューのポカってもしかして、救出の時に発破できなかったって……アレ?」

「そう。あっしの失敗でちょっと厄介なことになっちゃったしさ」

 

 ああ、なるほど。

 失敗して足を引っ張っちゃったことに負い目を感じて、あの時は上の空だったのか。

 普段脳天気なニューにしては、らしからぬ落ち込み具合だとは思うが。

 

「みんな、本当にゴメン。あの時は爆弾に投げた石が中々当たらなくて……」

「タイミングを合わせなきゃって作戦で気負いすぎた、って感じかな?」

「多分、ミュウの言う通りだと思う。失敗できないってなると、身体が変にぎこちなくなってさ」

 

 つまり、肩の力を抜いて石を投げられなかった、と。

 

「姉貴に甘えちゃった自分が情けないや」

「ニュー、気にしすぎではないか? いくら失敗しようとも、我々にどんどん頼ればいいのだ」

「いや、それじゃあ駄目なんだよ、ジーク」

「駄目なものか。ニューは充分私達の役に立っているぞ」

「あの時は、足引っ張っちゃっただろ?」

 

 ニューにそう言われたタイミングで、ジークは喉に肉を詰まらせてしまったが、ヤーナがコップの水を飲ませて事なきを得た。

 

「おまけに魔眼が発動するほど、切羽詰まった状況でもなかったし。あっしはこれがなきゃ、ただの身軽な野猿だよ」

「不貞腐るのも結構ですけども、身軽な野猿で別にいいではございませんの。これ以上、何を求めますの?」

「姉貴みたいな、わかりやすい強さっていうのがさ、欲しいんだよな」

「えっ、あたし?」

 

 あたしは大げさに驚いてみせたが、ニューは出会った頃からあたしに憧れていた節はあったし、自分にない強さをあたしに感じていたとしても何ら不思議はなく。

 ただ彼女の舎弟ムーブに慣れきっていたせいか、あたしたちに向けての劣等感というか、そういうのを抱いていたのが少し意外だった。

 

「姉貴は基本、マキナの力とステゴロで何でもできるし。ジークだって、騎士の経験が強みになってるだろ? そういうのが、あっしには無い気がするんだ。だからさ――」

 

 ふとニューが席を立つ。

 ニューと近い位置でテーブルに座って、呑気にスープを飲んでいたリテラが、目を細めた。

 

「教えて欲しいんだ。あっしでも出来る戦い方ってヤツを」

 

 いつもは無邪気なニューの眼が、らしくなく、覚悟を決めていた。

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