太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第六十四話 「あっしの憧れは、邪魔させねぇ!」(3)

 元々ニューとミュウくんは、帝国からの亡命者である。

 かつてラウラちゃんを救出する依頼をこなす前、ミュウくんはこんなことを言っていた。

 

 ――人の命を勝手に売り買いするような人達は、どうしても許せなくて。ニューも同じ気持ちです。

 

 おそらくはラウラちゃんのように誘拐された経験があったのだろう。

 救出作戦においては、かなりのやる気を見せていた。

 

 しかし気負いすぎて、ニューは爆弾の発破に失敗した。

 

 そしてニューはその失敗を繰り返さないために、弟子入り志願のような形で、あたしやジークに助けを求めたのだ。

 ちなみに同じ戦闘要員であるヤーナを指名しなかった理由は、

 

「魔法は別にいいよ。多分ヤーナに教えられても覚えきれないし」

 

 ということらしい。

 これを聞いたヤーナは、

 

「べ、別に無理に教えようとは……授業料でもないと士気が上がりませんし?」

 

 などと申しており、夕食の後に自分の部屋でシクシク泣いていたという。

 なんだか初めて孤児院のシスターっぽい一面を見た気がしたな。

 

 ともあれ、どうしてもとしつこく頼み込むニューを無下にはできず、結局あたしは乗り気になったジークと共に、体術を教えることと相成ったわけである。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 翌日の朝、拠点の庭園。

 

 ここにはあたしの提案で設置した、鍛錬用のアスレチックめいた遊具がある。

 いつも使っているそれに構わず、ニューは早速ジークと木剣での組手に挑んでいた。

 

「そうだニュー、もっと攻めて来い!」

「だあぁぁぁっ!」

 

 無論、熟練の師匠に師事を受けたわけでもないニューの剣さばきは滅茶苦茶で、ただひたすらジークの木剣を落とそうと焦り、がむしゃらになっていた。

 リテラとミュウくん、一晩眠ったらすっかり立ち直っていたヤーナ、そしてあたしは、固唾を呑んで組手の様子を見守る。

 

「それにしても、アナタが根負けするほどに体術の教えを請いたいたいだなんて。ニューはこの間の失敗を、思った以上に悔いていましたのね」

「あたしと出会う前は、それこそミュウくんを守るのと生き延びるのに必死だったって聞いてるし」

「それにこの間の依頼も、ボクたちと似た境遇の人たちを助けられるチャンスと聞いて、相当にやる気が湧いてましたから」

「似た境遇、のう。お主らも苦労しとったんじゃな」

 

 暗い話題になるのを避けたかったのか、リテラはそれ以上ミュウくんに何も聞かなかった。

 

「ところでレヴィンさんは何をやっておりますの?」

 

 やっとヤーナにツッコまれたので説明しておくと、今のあたしは両腕を前に伸ばし、空気椅子のような体勢を取って、水を入れたコップを頭の上と両肩と両膝に乗せた状態を保っている。

 要するに古いカンフー映画の修行シーンで見るような、アレだ。

 

「順番待ちで暇だから体幹トレーニングをね」

「傍から見ると凄い光景ですわね。まるで拷問を受けているような――」

「しかし理に適った鍛錬じゃぞ。飛行の姿勢制御に役立つじゃろうし、ヤーナもやってみんか?」

「コップを弁償したくありませんし、やめておきますわ」

「コップ如きでケチじゃのう」

 

 コップ自体は全然高級じゃないのだが、ヤーナがそんな言い訳でやんわりと断ったのは、翌日の筋肉痛が怖いから、ということにしておこう。

 

 さて、ニューがジークに木剣を落とされたのはこれで何度目だろう。

 もう既に息も絶え絶えなニューを見かねてか、ジークは構えていた木剣を下ろした。

 

「よし、そろそろ休憩にするか!」

「ぜぇ……ぜぇ……全然駄目だぁ……」

 

 仰向けにぶっ倒れるニューに、ミュウくんはあたしの頭に乗っけていた水入りのコップを差し出す。

 渡された水を、ぐぐいっと飲み干してみせた。

 

「ジーク、やっぱりニューに長物は無理があるんじゃない?」

「レヴィンもそう思うか」

 

 ジークもあたしの右肩のコップを拝借し、水を飲み干す。

 

「まだ未成熟とはいえ、身のこなしに関しては申し分ない。下手をすれば私以上のすばしっこさだ」

「だからこそ重い武器を持たせちゃったら、その個性が完全に死ぬってことね」

「私が言いたかったのはそれだ。木剣だからこそよく動けてはいるが、本物の長剣を装備させた場合、命取りになる可能性がある」

「ま、どうしても武器を持たせたいなら、ナイフ辺りが妥当ですわよね」

 

 会話に混じったヤーナが、あたしの左肩に乗っているコップを取り、水を一口飲んだ。

 

「徒手空拳以外だと、それくらいしか選択肢はなさそうね。素早い動きに、ナイフかぁ……」

「そこに魔眼の未来予知もとい危機感知能力と、生き残る術に長けるほどの器用さが合わされば、立派なシーフになれそうじゃな」

 

 リテラが右膝のコップの水を飲んで、そんなことを口にする。

 

 シーフって盗賊とかそんな類の意味だっけ。

 いつだったか、あたしの硬貨袋を盗り返してくれたこともあったし、義賊寄りではあるんだろうけど。

 ニューは器用か、と言われれば、失礼ながら疑問符を浮かべざるを得ない。

 

「よくわかんないけど、地味なことはやりたくないな、あっし」

 

 少し体力が戻ってきたのか、ニューはあたしのところまで歩いてきて、左膝のコップを取って、水を飲み干す。

 

「姉貴の『ライジングアーツ』、だっけ? そういうのが使いたい」

「言っておくけど、五年ほど練り上げてもまだ完成しきってない我流の模倣だから、教えられることは限られるわよ」

「ウッス、師匠!」

 

 いや師匠って何よ。リテラの入れ知恵?

 弟子は取りたくないから見習いってことでいいでしょ。

 

 体幹トレーニングをする必要もなくなったので、あたしは空気椅子状態から立ち上がる。

 

「それで、アンタに何を教えるかだけど……」

 

 ニュー、そうやって期待に満ちた眼で見ないで欲しい。

 きっと期待を裏切るだろうから。

 息を吸って、掛け声と共にハイキックをしてみせる。

 

「足技っていうのに、興味ない?」

「ある!」

 

 予想外にニューの瞳が輝いていた。

 

「武器を持つにしろ持たないにしろ、ニューが腕力を振るえるタイプじゃないのは、さっきの組手を見ていてわかった」

「腕の力ってことか? 確かに姉貴みたいに怪力じゃないのは自覚してるけど」

 

 ニュー……あたしを比較対象にすると色々な常識が壊れるので、やめようね!

 

「でも、アンタにはその欠点を補って余りある、足腰の強さがある。必死にサバイバルして鍛えられた基礎体力と、その身軽さを活かせるのは、足技以外にないわね」

「足って、逃げる時以外に使ってもいいんだな」

「そもそも人はなぜ二本の足で立てて歩けるのか。筋肉の密度が凄いからじゃ」

 

 なぜかリテラがあたしのレッスンに水を差す。

 多分自分の知識をひけらかしたいだけかもしれない。

 

「筋肉の密度が凄ければ、当然それが武器にもなり得る。蹴りは子供大人問わず、誰でも簡単に自衛が可能な手段というわけじゃな」

「へぇ、意外と簡単なんだな」

「簡単じゃないわよ」

「へっ?」

 

「そもそも足技には強いなりのリスクがあって、戦い方にもよるけど、基本は技を放った後に次の行動へ移行しにくい。例えばここぞという時のハイキックを避けられたとするでしょ?」

「ふむふむ」

「空振ったハイキックは当然、戻すのに時間をかけちゃうし、隙が生まれる。反撃を受けやすく、足を取られる危険性も高い。体勢を大きく崩しちゃうわけよ」

 

 あたしが普段、足技を多用しない原因はこれだ。

 

 回し蹴りの『リバーサル・スワロウ』や跳び蹴りの『メテオ・シュート』みたいな必殺技は、ここぞという時の決め手になるので温存しているだけ。

 拳主体のあたしからすれば、足技は機を伺って放つべきもの。

 メインとして使うには、厳しい。

 

「ニュー、実際にレヴィンを蹴ってみせい。納得できなくても理解はできるハズじゃ」

「わ、わかった」

 

 ニューはたどたどしくも構えを取った。

 奇しくもあたしと同じ構え、と言いたいが、実際は真似事の域を出ていない。

 まるでレントの構えを真似ていた昔の自分のようで、少し懐かしい気分になる。

 

「姉貴、本気で蹴るからな!」

「かかって来なさい」

 

 あ、我ながら今の台詞はなんだか師匠っぽくて良い。

 

「しゃッ!」

 

 気合のこもった掛け声と共に、ニューの右脚がしなる。

 あたしの胸元ぐらいの高さまで迫るハイキックは、やっぱり遅く見えて。

 左腕のガードが余裕で間に合った。

 

「あっ!」

 

 すかさず軸足狙いのローキックをちょこんと。

 バランスを崩したニューは尻餅をついた。

 

「いててて……」

「わかった? これが足技の危うさってヤツよ」

「身に沁みたよ、姉貴」

 

 ニューに手を差し伸べて起き上がらせる。

 

 さて、本題はここからだ。

 ニューに合いそうなスタイルを足技と定め、真っ先に足技の弱点を理解させる。

 となれば後は、足をどう使っていくか、という段階に持って行くことになるかな。

 

「ニュー、こうならないためには何をすべきだと思う?」

「足技を覚えていくんだろ?」

「まだそこまでの段階じゃないから、ハズレ」

「じゃあ何なんだよ?」

「身体を慣れさせるのよ。思うように蹴ることが出来るようにね」

 

 あたしはヤーナに合図を出す。

 面倒くさい顔をしてヤーナが投げてきたものを、あたしは手に取った。

 

「それ、なんだ?」

「木製の手枷。ヤーナに見てもらいながら、日曜大工の要領でちょちょいとね」

 

 いわゆる、無いなら作れでお馴染みのDIYってヤツ。

 昔取った杵柄というか、狩猟用トラップを作っていた経験が役に立った形だ。

 

「アンタにはこれを両腕にはめて、足だけで色々やってもらうわよ」

「え、色々って――」

「今までアンタが手を使ってやってきたこと、全部」

「マジか!?」

 

 ニューが驚くのも無理はない。

 あたし史上最大の無茶振りだってことは自覚している。

 両腕を骨折した人間の気持ちを味わえ、と言っているようなものだから。

 

「まあ強制はしないし、どうしても『これが無理』ってなったら、ミュウくんに甘えるのも構わない。鍵なしで外せるような工夫もしてあるから……ニュー?」

 

 珍しくニューが考え込んでいる様子だ。

 手枷を用意したのは少しマズかっただろうか。

 誘拐された頃を想起させたり、とか。

 

 でも、それはいらぬ心配だったらしい。

 

「わかったよ、姉貴。強くなれるんなら、どんな手でも試さなきゃな」

「言葉の綾とはいえ、枷をはめたら手はほぼ使えないんじゃがな」

「リテラ。妖精用の手枷も作ったから、座布団代わりにあげる」

「割に合わんじゃろ、その景品は!?」

 

 リテラの寒い大喜利回答はさておき、実際のところは参った、というべきだろう。

 

 ニューがやる気に満ち溢れている。

 それだけであたしは一抹の不安を覚えるのだった。

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