太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第六十五話 「あっしの憧れは、邪魔させねぇ!」(4)

 ニューは腕封じの修行を始めてから、お手洗いなどのどうしても手を使わなければいけない習慣、そして人目につくような場所以外は、足を使って物事をこなすようになった。

 

 足でフォークを持って食事する姿も、最初は失敗が多くて見ていられないほどだったが、心を鬼にして助けないことにした結果、たった三日でミュウくんの用意した料理を完食できるほどに、足の使い方が上手くなってきている。

 

 上達や成長は喜ばしいことのハズなのに、危うく感じてしまうのは何故だろう。

 あたしはそんなことを、ヤーナに相談することにした。

 

 王都市場で、材料買い出しの荷物持ちに付き合わされた時のことである。

 

「ヤーナはさ、師匠として甘いと思う? あたしのこと」

 

 休憩がてら寄った傭兵ギルドのテーブル席で。

 ヤーナと向かい合って、そんな質問をしてみた。

 

「子供に『足だけ使え』なんて無茶振りをするのと、一定の条件で両腕を使ってもいいという優しさを加味しても……ゲロ甘ですわね」

「そこまで!?」

 

 流石は副団長、容赦ない意見をぶっ込んでくれてありがたい。

 

「やっぱり千尋(せんじん)の谷に落とすくらいじゃないと駄目、ってこと?」

「まさかこういう所で、レヴィンさんの蛮族性を垣間見るとは思いませんでしたわ」

 

 それは肉食獣の教育方針でしてよ、と付け加えて、ヤーナはゲロ甘評価の真意を語る。

 

「それを抜きにしても、厳しい条件を設けたクセに無理をさせない姿勢はマジで何なんですの? 指導に関してはアメとムチの緩急をきちんとつけろとは聞きますけども、ムチを打った瞬間アメを口に投げ入れるような人間は、もはや師匠ではなく親も同然ですわ」

「そこは姉って言いなさいよ! 子供とはいえ、そこまで歳離れてないでしょ!」

「えっ、ツッコむ所そこですの……?」

 

 論点が微妙にズレてしまったので、強引に話を戻しにかかることにした。

 

「まあでも、的を射てるかもしれないわね。自分の技術を誰かに教えるなんて初めての経験だし」

「そういえば、エメルの弟子入りも断ってましたものね」

「あたし自身もまだまだ修行中って思ってるから、どの程度まで何をすればいいのかが、まるで掴めてない段階で。厳しすぎたら身体壊しちゃうかもだし、甘すぎてもニューが成長しないし」

「その結果、中途半端な修行内容になってしまう、と。ニューの身を案じるあまりの空回りというわけですのね」

「ま、空回りでも何とかなるもんね。足で食事できるくらいにはなってるみたいだし」

 

 成長しやすいのは、子供の利点だ。

 だが、それでも割り切れないこともある。

 

「絶対ニューってば、あたしの見てないところで自主トレしてたのよ。まったく、そこまでする必要ないのに」

「過保護なお姉様ですこと。そういう所がゲロ甘と言ってますのよ」

「孤児院のシスターやってたクセに、ヤーナはニューみたいな子供が心配じゃないっての?」

「心配はほどほど、子供の自主性に任せるのがアタクシのスタンス。ひとりひとりに構っていられるほど、孤児院の子は少なくありませんもの」

 

 うん、物は言いようね。

 ヤーナが本当に孤児院のシスターをやっていたのか、今更疑わしくなってきた。

 まあ経験者だからこその皮肉という風にも取れそうだけど。

 

「今回のことも、ニューの気持ちを尊重すればいいだけの話。押し付けがましい優しさは逆効果ですわよ」

「うぐっ……。わかってるけど、知ってるでしょ? ニューの向こう見ずなところは」

「でもちゃんと、アタクシ達の言うことは素直に聞きますわよ?」

「その素直で向こう見ずなところが、危なっかしいんじゃないの!」

 

 ああ、もう。

 柄にもなく声を荒らげてしまった。

 最近のあたしは、心配のしすぎでおかしくなっているのかもしれない。

 

「素直に言うこと聞きすぎるから、あの子は多分、どんな無茶もやろうとする。あたしやみんなのために強くなりたいって気持ちは、痛いほどよくわかるのよ。でもね――」

 

 あたしはテーブル上の自分が注文していたブドウ味のモクテル――ノンアルコールカクテルのことをそう呼ぶらしい――を一気に飲み干して、喉を(うるお)し、言葉を続けた。

 

「でもね、それで傷ついたり、死んじゃったりしたら……あたしは自分を許せない」

「そこまで行くと、責任感重すぎという言葉しか出ませんわね」

「師匠になるって、先達として指導するって、そういうことじゃないの?」

 

「それは流石に気負いすぎじゃ、阿呆」

 

 聞き覚えのある声が、ぬるっと会話に入ってきた。

 気付けばいつの間にか、リテラがテーブルの上でくつろいでいる。

 

「その『うわっ、出たよ』みたいな顔はやめんかい、レヴィン」

「どこから聞いてたのよ、地獄耳」

「ふたりが席に座ったところからじゃな」

「最初から、ですわね。待ち伏せでもしてましたの?」

「茶々を入れるだけの用事なら、わざわざ待ったりはせんよ。ただ付き添いで来たところに、丁度お主らがおっただけじゃ」

「付き添いって、誰の?」

 

 あたしの疑問に、リテラは『ほれ』と受付の方角を指差して答える。

 

 受付にはいつも通り仕事をしている、もはや見慣れたメカクレ受付員のリーネと、どこか見覚えのある少女たちの姿があった。

 

「えっ、ニュー!? なんでここに?」

「それにあの子は確か、オットー子爵の娘さんじゃありませんの。ほら、この間アタクシたちが救助した、あの子ですわ」

 

 ああ、ラウラって名前の子か。

 アウトローのたまり場に一番来ちゃいけないような子が何で……?

 

「どうも、父親の誕生日が近いようでな。誕生日プレゼントを探すための依頼を申請しに来たんじゃと」

「ますます意味わかんないわよ。その誕生日プレゼント、傭兵ギルドに依頼してまでして手に入れたいような物なの?」

「押し花の(しおり)を作りたいらしくての。ルーエサビアという珍しい種類の花が必要という話になって、こうなっておる」

「ルー、エ……何?」

「ルーエサビア。サビアという黄色い花の群生地においてひっそりと咲く、希少な橙色の花だと聞いていますわ。身につけた者に幸運が訪れるという迷信とセットで、メルヘン好きな王都民の間でも評判になってるそうですわよ」

 

 サビアという名前の花、見たことはないけどサルビアって名前の花とごっちゃになってややこしいかもしれない。

 

 それはさておき、群生地に混ざる希少種か。

 四つ葉のクローバーみたいなものかな?

 

「できる限り父親には内緒で手に入れたいのと、道中での護衛も必要とあれば、ニューが『ここしかない!』などと言い出してのう。サポーターとはいえ傭兵であるのをいいことに、あやつはその依頼を単独で受けるつもりでな」

「ウソでしょ……試練をひとつ乗り越えたからって、調子に乗ってるんじゃ――」

「子供じゃから調子に乗りやすいのはあるじゃろうが、ニューは魔眼のおかげで生存能力は高い。おまけに汎用型マキナ持ちでも楽にこなせる程度の依頼じゃ。例の群生地も王都の壁に近い場所じゃと聞いておる」

「つまりアタクシたちの出る幕ではない、と。いずれにしろアタクシは相応の報酬が無い限り、規模の小さな案件に手を出すことはありませんが」

 

 本当にそうだろうか。

 希少種の花を一緒に探してくれ、なんて依頼、おそらくは駆け出し傭兵がやるようなもの。

 

 それでも、大なり小なりイレギュラーの可能性が付きまとう。

 

 あたしがソロで傭兵をやっていた頃は、特定の薬草を摘むとかそういう類の依頼で、うっかり魔獣の縄張りに入ってしまい、不可抗力で自衛して魔石を持ち帰ることになってしまう事例も多かった。

 ニューが受けたラウラちゃんの依頼だって、壁の近くとはいえ、花の群生地が魔獣の縄張りである可能性を考えなくちゃいけない。

 

 うーん、ますます心配になってきた。

 

「そんなに心配なら、こっそり尾行するのも手ですわよ」

「さらっと心読まないでよ、うざい」

「わかりやすく葛藤が顔に出てただけですわ」

 

 そんなに顔芸状態だったのか、あたし。

 今、鏡で自分の顔を見せられたら、卒倒しちゃうかもしれないほどだったり?

 

「レヴィンよ、お主が海より深い慈愛の精神でニューを大切に想っているのは重々承知しておる。しかし尾行するにしろ、安易に手を出してはいかんぞ。あやつの成長の妨げになるやもしれん」

「見守るだけにしろってこと?」

「そうじゃ。ニューだけで手に負えない、となった場合は話が別じゃがな」

 

 自分の裁量で、手を出すべきか出さないべきかを見極めろ、ということでもある、か。

 

 ふと、ギルドの受付で果物ナイフのような汎用型マキナを受け取っているニューを見やる。

 あれは確か、エメルも持っていた『マギメッサー』だったっけ。

 

 この傭兵ギルドはギルド長ロッソママの人柄もあってか、サービスが良い。

 例えば今のようにサポーターに徹する傭兵が魔獣討伐以外の依頼をソロで受ける、という特殊な事例になった場合。

 ギルド側からの支援として、汎用型マキナのレンタルサービスを受けられるようになっているのだ。

 

 ニューほどの身のこなしなら、魔獣に対する護衛くらいには役立ちそうだが、今のところあたしはニューに足を自在に扱える鍛錬しか施していない。

 彼女の練度不足を補えるものは経験のみ、ということにはなるが。

 ニューの師匠になってしまったからには、見届けるしかあるまい。

 

「しょうがないわね。アンタの言う通り、なるべく手を出さないように頑張ってみますか」

 

 精神の鍛錬にもなるし、とは空気を読んで言わないでおく。

 あたしが葛藤している間に手続きを済ませたのか、ニューはラウラちゃんの手を引いて、ウキウキな足取りで傭兵ギルドを出た。

 緑の宝石に羽飾りのついたイヤリングを無意識に揺らしながら。

 

 よし、早速尾行開始だ。

 と、その前に。

 

「お、あんたら今日はオフの日かい? 随分買い込んでるみたいだが」

 

 あたしらのテーブルに、わかりやすくひと仕事終えて汗だくな、土方みたいな傭兵がやって来た。

 

「あら、三馬鹿のふくよか熊さんではありませんの。見ての通りですわ」

「三馬鹿って……あいつらと一緒くたにしねえでくれよ。あと、おれはブランロート傭兵団のカール・ベアな」

 

 確かリバーがリーダーやってる傭兵団の苦労人担当だっけ。

 このまともそうな傭兵に頼み事をするのは気が引けるが、仕方ない。

 

「ちょうど良かった、カールさん。うちの拠点まで荷物運んでくれませんか? あたし、急用ができたので」

「あっ、待てよ! どうしたんだ一体!?」

 

 カールさんが止めるのも聞かず、あたしはニューを追うために席を立って、そそくさと傭兵ギルドを後にした。

 すいません、見失いたくないんで!

 

「ご愁傷さまですわね、熊さん。荷物持ちのアルバイト料は出ませんけど、よろしくて?」

「いいさ、別に。タダ働きは慣れっこだよ」

 

 本当にごめんなさい、カールさん。

 今度ミュウくんの料理食べさせてあげるから。

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