太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第六十六話 「あっしの憧れは、邪魔させねぇ!」(5)

 ニューとラウラちゃんの尾行を続けて、体感一時間ほど。

 

 王都の西門を出て目的の森に入るまで、特に重大なアクシデントは起きずスムーズな進行。

 もし魔獣が出たらニューに気付かれることなく倒すことも考えたが、心配は杞憂だったようで、小さな害獣や害虫が出てもニューが追い払える程度。

 

 ラウラちゃんという友人とのちょっとした冒険を楽しみながら、ニューは遂に目的地のサビア群生地に辿り着いた。

 まるで絵本の世界を垣間見たかのような幻想的な花畑に、一瞬見惚れてしまう。

 

「うわぁ、すっげぇ……!」

 

 あたしの右耳たぶに付けた『念話通信器(ヴィントリーファン)』から、ニューの感嘆声が聞こえてくる。

 

 ヤーナお手製のこの魔導具は、羽飾りを触りながら、同じ『念話通信器(ヴィントリーファン)』を装備した相手のことを念じると、相手の『念話通信器(ヴィントリーファン)』を中心とした周りの音を拾う、ちょっとした盗聴器になるのだ。

 この隠し機能のことを作った本人から聞いた時は、正直やり過ぎでしょ、と思わなくもなかったが。

 まさかこういう時に役立つとはね……。

 

「この中からルーエ何とかって花を探すのか」

「不思議だよね、魔獣にまだ荒らされてない綺麗な花園が残ってるなんて」

 

 ラウラちゃんの言う通り、確かに珍しい。

 うちの故郷みたいに、自然的な魔獣除けの結界でもあるのだろうか。

 

「ここは私しか知らない、秘密の場所。お父様の勧めで乗馬を始めた頃、お馬さんがサビアの匂いに釣られてここまで迷っちゃって」

「へぇ、ある意味運が良かったんだな」

「そうかも。ルーエサビアを見つけたら、栞にして、お父様にプレゼントして。この花園を、クルップ家の敷地として買い取れるように交渉してみるつもり」

「規模がデカい話で、あっしはよくわかんないけど。この風景を守りたいんだな、ラウラは」

「うん、そういうこと。さ、依頼受けてくれたからには、一緒に幸運の花探し、お願いね、ニュー」

「おうさ!」

 

 ニューとラウラちゃんは、早速ルーエサビアの捜索を始めた。

 それを茂みから見守るあたしと、いつものようにちゃっかりついて来ていたリテラ。

 

「まさかこれほどの規模とはのう」

「これを買い取るつもりだとか、ラウラちゃんって案外大胆よね」

「感心するのは後じゃ。日没までに見つからないようなら、わしが先導して拠点に帰すぞ。その時になればお主は最短ルートで戻るとええ」

 

 気取られないよう小声で応対する。

 リテラ用の『念話通信器(ヴィントリーファン)』がまだ出来ていないからなのだが、そもそも妖精サイズの耳飾りを作る気力がヤーナにあるのかどうか。

 

 それはさておき、四つ葉のクローバーめいたレアな花など、そう簡単に見つかるはずもなく。

 一緒に探してやりたい自分のウズウズを必死に堪えつつ、体感十分ほど見守っていたところで。

 

「あっ……!」

 

 ニューに変化が見えた。

 さっきまでしゃがんで花を探していたのが、何かに気付いて急に立ち上がり、ラウラちゃんの近くに移動していく。

 

「ニュー、どうかしたの?」

「うまく言えないけど。あっしら、誰かに尾行(つけ)られてたみたいだ」

 

「えっ!?」

 

 思わず声を上げたのは、あたし。

 ウソでしょ……上手く気配を消したつもりなのに、気付かれてたなんて。

 

「いるんだろ? 出て来いよ!」

 

 まずいことになった。

 まだまだあたしも修行不足だとか、ニューの成長速度早くないかとか、頭の中で色んな考えと感情が渦巻いている。

 

 でも尾行なんていずれバレることでもあったわけだし。

 おとなしく茂みから顔を出そう……と思った矢先だった。

 あたしの服を引っ張ってリテラが止めに入ったのは。

 

「待てい、レヴィン」

「何よ。どうせバレてるんだから、出て行っても――」

「微かにニューから魔力を感じた。わしらのことはバレてはいないようじゃぞ」

「えっ、ニューから魔力って……もしかして魔眼が?」

 

 ニューには『遠見の魔眼』が備わっており、魔眼となった右目を眼帯で隠している。

 任意では発動できず、自分もしくは周囲の生命が危機的状況に陥る状況を引き金として、少し先の未来を垣間見ることができる、予知能力。

 それが発動したということは、あたしたちの尾行がバレていることとイコールではない。

 

「つまり尾行していたのは、あたしだけじゃない!?」

 

 あたしの推論は、すぐに証明された。

 今いる位置から目測で十メートルほど離れた茂みや木陰から、ガラの悪い男性が三人、現れる。

 

「思ったより勘のいいガキだな。傭兵やってるだけはあるってか?」

 

 男三人の容姿は、いずれもならず者のそれ。

 ガタイの良いモヒカンヘアの男を中心に、首元にチラリと見える包帯らしき白い巻き物が特徴的な男と、顔の下半分をネックウォーマーが付いたような服で覆っている細身の男が左右に控えている。

 

 後ろ姿ではあるが、包帯を巻いてる男に関しては、覚えがある。

 この間の救出依頼でひと悶着あった時に、ニューに股座をくぐられた男だ。

 名前を知らないので、頭の中で『股座男』と呼ぶことにしよう。

 

「ミスった……ニューを見守るのに集中してて、あんな奴らの気配に気付かなかったなんて」

「裏市場で出回ってると噂の、隠密魔導具を使っていた可能性も否定はできんし、自分を責めるでない。それにしても、あやつらは何なんじゃ?」

「ひとりだけ見覚えがあるわね。ラウラちゃん救出依頼の時に見た、人身売買組織の一員よ」

「狙いは報復か誘拐か……いずれにせよ、今は様子見が最善じゃな」

「そうね。少なくともニューは魔眼さえあれば、どんな状況でも逃げられるだろうし、ラウラちゃんの安全も保証できる」

 

 無論、ニューが『立ち向かう』という選択肢を選ばなければ、だが。

 

 股座男はニューを見るなり指を差して、モヒカン大男に告げる。

 

御頭(オカシラ)。間違いねえ、あの時のガキです。支部の商品をひとり残らず逃がしやがった傭兵団の一味です!」

「そんでそいつが庇ってるのは、逃がしちまった商品のひとり、か」

「そうだな。まさか一度さらった子供を、再び拉致することになろうとは」

 

 細身男の爆弾発言。

 まさかこんな形でラウラちゃんを拉致した犯人が判明するとは思わなかった。

 

「ラウラはモノじゃないぞ、あっしのダチだ」

「そうかい。だが俺らとしちゃ、そんな友情に価値はないんだ」

「あなたたちは、まさか――」

「そのまさかよ、嬢ちゃん。俺の名はジャッカル。いい感じの人間を商品にしてる団体の代表取締役ってトコだな。そっちの無愛想なのはパウル。傭兵だ、ウチの子飼いのな」

 

 モヒカン男はジャッカル、細身男はパウルと。

 いやいや、あの人って傭兵なの!?

 しかも子飼いって……金払い良いんだろうな。

 

 と、そんなことを考えている場合ではない。

 

「子供ふたり連れて行くのに傭兵出張らせるなんて、大人気ない連中ね」

「なるべくスマートに事を済ませたいんじゃろう。数で抑え込まれるよりはマシな部類じゃな」

 

 スマートにやりたいからこそ少人数で、か。

 あのジャッカルとかいうの、意外に頭は冴えてるのね。

 たかが子供、と舐めてる側面もあるんだろうけど。

 

「名乗ってくれてありがとよ。ギラソール傭兵団のニューだ」

「お前の名前は聞いていない。子供の名前なぞ、番号で事足りる」

「パウル、お前も随分とウチの流儀に染まってきたじゃねえか」

 

 細身男……パウルの舌打ちが聞こえた。

 いや、この魔導具、集音性高いな?

 

 それよりも、股座男が若干後退りしているような。

 

「ギラソール傭兵団ってまさか、あの!?」

「そうビビるなよエリク。いくら勇者勲章を貰った英雄が率いる傭兵団でも、こんな足手まといのガキを連れてるくらいだ。人数も少ないと聞いてるし、大した傭兵団じゃないんだろ」

 

 さり気なく股座男をエリクって呼んでる。

 特徴的な顔してないから秒で名前を忘れちゃうかもしれない。

 

 それにしても、大した度胸ですよジャッカルさんや。

 勇者の傭兵団に対してその物言い、あたしから別の勲章を与えたいくらいね。

 

 でも、ニューはどうだろう。

 ここまであたしやギラソール傭兵団を愚弄されたら、そりゃあ……ね。

 

「おまえら、いい加減にしろよ」

「あん?」

「あっしの悪口はいくらでも言っていい。我慢できるしな。でも姉貴やミュウや、みんなの悪口はダメだ」

「ほう、何で駄目なんだ?」

「あっしが我慢できないからだよ!」

 

 ニューが乗らないわけないよね、こんな見え透いた挑発。

 花園の土を踏み、ニューが突っ込む。

 

 当然あんな挑発したならず者側が何もしないわけがなく。

 ジャッカルが片手を挙げたのを合図に、傭兵パウルが仕掛ける。

 

解放(リリース)、『クヴァールシア』」

 

 パウルが手持ち杖のような契約型マキナを解放(リリース)し、オーケストラの指揮者の如く杖を振ると、ニューの真下の地面から植物のツルが飛び出し、ニューの両腕を縛った。

 

「な、なんだぁっ!?」

「ここに来たのが仇になったな。僕の『クヴァールシア』は周囲の植物を自在に操れるC級マキナ。赤子の手をひねるくらいは、造作もない」

「ニューに何するのよ! 狙いは私でしょう?」

「お前はついでだ、子爵令嬢。僕らの目的は、屈辱を味あわされた傭兵団への報復。ひとまずはこの小娘の骨でも折って、勇者サマに返すことにするが、構わないな、ジャッカル?」

「好きにしろ」

 

 ジャッカルの了承を得たパウルが再び杖を振るう。

 ニューの両腕に巻かれたツルが、その締め付けを増した。

 

「ぐっ……ぬぬぬぬ……!」

 

 両腕の拘束を解こうと必死になるニューだが、あたしのように腕力が秀でている方ではないので、力づくで拘束を解くことは叶わない。

 やがて地面に引っ張られるように、膝をついた。

 

 これは流石に不味いでしょ。

 あたしは手遅れになる前に茂みから立ち上がろうとして、服を引っ張るリテラに止められた。

 

「まあ待て、レヴィン。お主が言ったんじゃぞ、ニューは魔眼さえあればどんな状況でも逃げられると」

「だからこの状況を黙って見てろって? 師匠以前に人として負けてる気がして嫌なんだけど」

「そういうトコが尊いんじゃが……ニューをよく見てみい」

「ニューを……あっ!」

 

 リテラに言われてニューを注視してみると、さっきまで膝をついていたのが、横向きの姿勢で寝転がっている。

 それにどうやら器用に足を使って、ベルトに備えていた『マギメッサー』を掴もうとしているようだ。

 

「まったく、お主に似て諦めの悪い弟子じゃのう」

 

 果たしてこれはあたしに似たのか?

 

 違う、元々生き汚かったのだ。

 双子の弟であるミュウくんを守るために身体を張った足跡が、今のニューを形作っていて、あたしは影響という名の後押しを無意識にしていただけ。

 

 それでもまだ、道は半ば。

 ならば師匠としては、信じねばならないか。

 ニューの中に未だ眠る、無限の可能性を。

 

「契約型を持っていたとしても、腕さえ封じていれば顕現を阻止できる。抵抗は無意味だ」

「へへっ、さすがはパウルさんだぜ!」

「連れてきて正解だったな。さあ、護衛は駄目になったぜ、嬢ちゃん。おとなしくしてくれりゃ、悪いようにはしねえよ」

「最低ね、あなたたち。わざわざこんなことのために傭兵を使って……大人気ないわよ!」

「大人気ない、ねえ。嬢ちゃんのためだけに傭兵を雇ったパパさんと同じだよ」

 

 世の中には二種類の大人が存在する。

 善い大人と悪い大人だ。

 アンタみたいな悪い大人とオットーさんが同じなわけないでしょうが。

 

「使えるものは何でも使う、生きるためならな。俺等とボンボン貴族の、何が違う?」

 

 面倒くさいわね、悪人の詭弁っていうのは。

 もっともそんな戯言、ニューは理解できていないんだろうけど。

 

「よくわかんないけど……同じじゃないことはわかる、ぜ」

「ニュー……」

「あっしはさ、()()()を出た時から、ミュウと生き延びるためにアンタらみたいな悪人をカモにして、お金を盗るのが日常だった」

「あん? それがどうしたよ?」

「生きるためには何でも使うなんて、それこそ普通のことだったけど。アンタらみたいに、人の道は踏み外さなかったぜ」

 

 ニューめ、言うようになった……というよりは、ミュウくんがいつも隣にいたので、元からそんな風に育っていたと言うべきか。

 

 あの時助けてもらったのがあたしで良かったね、ふたりとも。

 きっとアイツらみたいな悪人に命を拾われていたら、そんな正道すら踏みにじられ、生き地獄を味わっていたかもしれない。

 

 彼女からそんな台詞を聞けて良かったと、心から思う。

 

「馬鹿も休み休み言え。お前も傭兵の端くれだろう。金で雇われ、人を殺したことも無いわけではなかったはずだ」

「むしろ初めて見たぜ、アンタみたいな傭兵」

「何だと?」

 

「あっしの知ってる傭兵はさ、カッコイイんだ。お金じゃなくて、心で動いてくれてるんだよ。初めて会ったあの時もそうだった……見ず知らずのあっしらのために、その身ひとつで魔獣に立ち向かったんだ。あの頃はマキナと契約すらしてなかったのに、だぜ? おかしいよな」

 

 ニューの手元から微かに音がする。

 足で掴んだ『マギメッサー』を器用に使ってツルを切っているのが見えた。

 まだ完全には切れていないが、それを悟られないためアイツらと会話することで、辛うじて相手の意識を反らしている状態。

 

 さて、ツルを切って腕の自由を得た後、ニューはどうするつもりなのか。

 

「それでもあっしは憧れたよ、あの頼もしい背中に。()()()を出なきゃ、あの背中を見ることもなかった。そのくらい、あっしにとっては衝撃だったんだ」

「さっきから何を言って――」

 

 ツルが切断された音。

 ニューの両腕が自由を得た。

 

「抜かった、味な真似を!」

「あっしの憧れは、邪魔させねぇ!」

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