太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
切断音が聞こえた瞬間、パウルは身構えて再び植物による拘束魔法を発動せんとする。
しかしニューは腕が解放された刹那、素早くうつ伏せになったかと思えば、両手を地面についてパウルの顎めがけ、蹴りを放った。
先手を取ったニューの妨害でパウルの拘束を封じた形に。
「がっ!?」
不意打ちを食らったパウルは仰向けに倒れ、舞い散ったサビアの花びらが緩やかに落ちていく。
やはり、あたしの見立ては間違っていなかった。
チンパンジーの如くしなやかに跳べるほどの脚は、同時に武器にもなる脚だ。
事実、急所を捉えれば大人男性が相手でも通用することが証明されている。
だが、あたしが注目したのは蹴りの威力ではない。
「カ、カポエイラ……!」
無意識に放ったニューの蹴りが、『ライジングナックル』シリーズで見たカポエイラ使いの蹴りと似ていた、というだけ。
それだけで、驚きを隠せなかった。
「確かにカポエイラを使うカルムのしゃがみ強キックに似ておったが……偶然か?」
当然『ライナク』廃人であるリテラも同じく驚いていた様子。
それだけでも、ニューに腕封じの修練を課した甲斐はあっただろうか。
「パウルさん!」
「あの体勢から的確に顎を!? なんてガキだ!」
「へへっ、自分でもビックリだ。あっしにこんなキックができたなんてな」
ジャッカルとエリクが狼狽えている間に、ニューはゆっくりと起き上がる。
「姉貴が言った通りだ……あっしは、自分の脚で闘えるんだ!」
はて、あたしは何と言ったっけ。
ニューは足腰が強くて、その利点を活かすには足技しかない……とか、そんな感じだったような。
「舐めるなよガキ! パウルは肉弾戦が不得手ってだけだ! その点俺は体格でも力でも、テメェに勝ってる!」
狼狽えてはいたが、すぐに切り替えて筋力で捕らえようと仕掛けるジャッカル。
パワータイプお得意の愚直な突撃は読まれやすい。
逆上していたのなら尚更、ニューにとっては避けやすかった。
避けた方向は――。
「
「なにっ!?」
自分を掴もう、という相手に跳躍は実際有効である。
空振りという隙を作りやすいのだから。
「しゃッ!!」
ニューによる宙返りからのカカト落としが、ジャッカルの脳天を捉えた。
前のめりだった彼の身体は、鍛えられた体格とは裏腹に、面白いくらい簡単に地面に叩きつけられた。
たった一発の脳天直撃で、大男が伸びたのだ。
これが、これが本当にこの間まで格闘技の素人だった少女の姿なのだろうか?
ただ足を器用に扱えるだけの修練を施したのみで、あんな蹴りを瞬時に編み出せるものだろうか?
答えは否、だがしかし。
あたしは、ただ見とれてしまった。
才能の目覚めに、心が踊ってしまったのだ。
「お、
当然下っ端エリクは腰を抜かして花園に尻もち。
喧嘩の腕っぷしはそこまで無いと見える。
「ひぃっ……お、おたすけ――」
「もういいよ、ここから出てけ。あっしの気が変わらないうちにな」
「ご、ごめんなさァーい!!」
少女とは思えぬニューの迫力にビビリ散らかしたエリクは、気絶したふたりの首根っこを掴んでスタコラサッサと全力疾走。
ここに勝敗は決した。
「いやはや、小さい頃のレヴィンを見ているようじゃった……」
「リテラ、確かカポエイラって、腕を枷で封じられた奴隷がダンスの練習を装って編み出したのが始まりって説があったわよね?」
「どうしたんじゃ急に? まあ、通説としてはそうじゃな。縛られた者たちが自由を求めて編み出したのが、カポエイラじゃ」
「あたしとしては、器用に足を使えるようにする……たったそれだけのための修練を課したつもりなのに、どうしてあそこまで――」
「これはわしの推測じゃから流しても構わんが……かつてあの双子は、何か大きなものに縛られとったんじゃろうな。当然、自由を渇望していたハズじゃ」
リテラはあたしの頭にあぐらをかいて座り、推測語りを続ける。
「王国に亡命できたのも、自由が欲しいと願った故。そう考えれば、カポエイラのような足技が咄嗟に出たのも納得がいくというものじゃ」
「それだけじゃ、あたしが納得できないんだけど。それで簡単にカポエイラが出来るんなら、今頃奴隷全員がカポエイラマスターってことにならない?」
「ニューの強みは足腰の強さとお主は分析したが、あやつはそれ以上に精神の方がタフでな。王都での戦いでお主を治療したミュウの背中を押してくれたのが、ニューなんじゃ」
なんと、そんなエピソードがあったとは聞いていなかった。
あたしが気絶していた間の話だから、切羽詰まってはいたのだろう。
今のあたしがあるのは、実質ニューのおかげだったってことか。
今度改めて、ありがとうを言わなきゃね。
「精神力が強くなければ自由になろうとは思わんし、お主の強さに憧れて、密かにお主の真似事をしようなどとも思わんて」
救出作戦の後にいつもの元気がなかったのは、単なるニューの劣等感と一言で片付けられるものではなかった。
ニューはあたしのように強くなりたい。
だからこそ、弱い自分を恥じていた。
このままでは自分の片割れすら守れなくなるぞと、自分で自分を鼓舞した結果の、弟子入り。
なんて、なんて心の強い子だ。
あたしに迫るほどの、
「……師匠をやるなんて、ただ面倒なだけかと思ってた」
「面倒なものか。弟子の想いを汲み取って、自分なりに技を伝える。慣れてみれば簡単じゃぞ」
「それが出来そうにないから、面倒だって言ったのよ。まだ完成してないんだからね、あたしの『我流・ライジングアーツ』は」
「いつだって武術の道に果てはなし、そんな考え方で師匠すればええだけのことじゃ。何気ない弟子のアイディアで新奥義を思いつく、なんてこともあるやもしれんしな」
「そういうもの、か」
未完成でも師匠はできるなんて断言は出来ないけど、せっかくニューがあたしなんかに憧れているんだ。
あたしも、もっと強くならねば。
天才に追い抜かれる前に。
一方、悪者を追い払ったニューはというと、興奮気味のラウラちゃんに言い寄られていた。
「ニュー、サポーターなんてウソよね!? 大の男ふたりをねじ伏せるなんて凄い!!」
「んなこたぁないって。もし数で攻められたらヤバかったしな」
「きっと、これのおかげだったのかもね」
ラウラちゃんが、後ろ手に隠していた一輪の花をニューに見せる。
遠目で見ていてもわかった。
黄色とは微妙に違う、橙色の――。
「ラウラ、それってもしかして!」
「ルーエサビア。実はニューが私を庇う直前に見つけてたの」
「そうだったのかぁ。あの状況じゃ、見つけたなんて言えないよな」
「ふふっ、そうね。身につけた者に幸運が訪れる……ウワサ通りの効果だったみたい」
「ホント運が良かったよな、お互いさ! さぁて、何とかサビアは見つかったことだし、帰って栞にしようぜ!」
「あっ、待ちなさいよニュー! あなたと違って私、かけっこは遅いんだから!」
「あははっ、ごめんごめん!」
少女ふたりが王都までの帰路につく。
あたしはそれを目で見送って、別ルートで帰ることにした。
※※※
それからというもの。
成長を見届けた翌日から、あたしは自分の鍛錬の合間を縫って、ニューを本格的に師事することにした。
とはいっても、そのまま『我流・ライジングアーツ』を教えるわけではない。
昨日のニューの蹴りを見て、あたしは理解した。
彼女に最も適性のある流派は、カポエイラであると。
「姉貴、これって楽器だよな? ミュウが読んでた本で見たことあるよ」
「そうね、コンガっていう打楽器。これからアンタには、あたしが演奏するリズムのビートに乗って踊ってもらうわ」
カポエイラはダンスから派生した伝統武芸なので、基本的にはリズムに乗って技を繰り出す。
うろ覚えの知識ではあるが、根本は間違っていないはずだ。
そのためのコンガ購入、ではあるのだが。
「踊りながら覚えていく方がニューも楽しいだろうと思ったんだけど、嫌だった?」
「全然! 最近自信がついてきたし、姉貴の指導も少し柔らかくなってきた気がするから、むしろどんと来い、だ!」
「だったら良かった。あたしも遠慮なく教えられる」
「でも踊りって、どう踊りゃいいんだ?」
「型とかは別に決めなくても、感じるままに踊ればいいのよ」
「つまり『考えるな、感じろ』ということじゃ」
いつもの如く割って入ってきたリテラが、伝説のアクションスターが言い放った名言を引用して、ドヤ顔でふんぞり返る。
確かにカポエイラを習得するのにその精神は大事だろうけど、その名言の人、カポエイラ使いじゃないでしょ。
「それじゃ、早速始めるわよ」
気を取り直して、大太鼓を手で叩く要領でコンガを打つ。
その瞬間にコンガは、
火薬が入ってないのに爆発した樽爆弾のように。
「姉貴、大丈夫?」
破裂からしばしの気まずい沈黙の後、ニューが心配してくれた。
「打ちのめされた程度よ、あたしのいいトコ見せようとした師匠心が……」
「経済的にはお主の自腹じゃからノーダメじゃけどな」
「うっさい!」
この後ニューに慰められて、踊りの修練を今後手拍子で行うことに決めたのであった。