太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第六十八話 「もっと、その恩に報いたくて」(1)

 医者の不養生、なんて前世に伝わることわざがある。

 患者の健康に気を遣いながら、自分の健康にはまるで気を遣えない、他者を助けるのが生きがいな人間にありがちなミスだ。

 

 ミュウくんがそういうタイプであるのは、一緒に王都まで旅をしてきた頃から、わかってきたつもりだった。

 

 なのに、なぜ。

 弱音のひとつくらい、あたしに吐いてくれなかったのか。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 鳴り止まない雨音を気にも留めず、あたしは必死で走っている。

 とある毒に侵されて、いつもの向上心をなくしたミュウくんを背負って。

 

「今は雨をしのがなきゃ……奴が来る前に……!」

 

 この場に、他の仲間はいない。

 ジークとも、ヤーナとも、ニューとも、いつも推し活という体で付き纏っているリテラとすら、はぐれてしまった状態だ。

 だからこそ、今の状態で奴に襲われてはならない。

 

 空は雨天、背には毒でダウンした治癒要員。そして彼の私物であるカバン。

 太陽が陰りを見せては、病人が居ては、全力を出すことも叶わない。

 要するに、危険が危ない大ピンチってわけ。

 

「よし、見つけた!」

 

 そしてやっと、洞窟の入り口を見つける。

 ようやく一息つけそうだ。

 

 背負っていたミュウくんをゆっくり降ろし、岩壁を背もたれにして座らせる。

 

「硬い座椅子だけど、我慢してね」

 

 まずは雨に濡れた身体を乾かそう。

 近辺の濡れて湿っていない木の枝を急いでかき集め、『ソルマドラ』を籠手のみ顕現させて、属性付与(エンチャント)の要領で火をつける。

 

 これでひとまず暖は取れたが、油断ができない状況に変わりはない。

 なぜならば。

 

「上、脱がすわよ。いい?」

「お、お任せ……します……っ……!」

 

 雨で濡れた服を乾かそうと、許可を得てミュウくんの上着とシャツを脱がす。

 根源は、彼の腹部に存在した。

 毒色の腫瘍(しゅよう)が、まるで根を張り巡らすかのようにミュウくんの身体を蝕んでいる。

 

「ッ……!」

 

 思わず息を呑んだ。

 出来ることなら、あたしの手でコレを取り除いてやりたいが、出来ない。

 力尽くでどうにかなるものではないから。

 

「やってくれたわね、アイツも。尻尾のトゲを飛ばして、毒を植え付けるなんて」

「『王』クラスの『マンイーター』……伊達にそう呼ばれちゃ、いませんね……っ……」

「ちょっと、無理に喋らないでよ! 侵攻が早くなるかもしれないし」

「それも……そうですね……。少し……休みます……」

 

 目を閉じて息を整えるミュウくん。

 ふと、あたしは外の様子を見た。

 まるであたしの心を映す鏡を見ているかのように、未だ雨は降り続けている。

 

「どうして……どうしてこんなことに……」

 

 雨模様の景色を見つめながら、冷静に思い返そう。

 あたしたちがこうなった、事の顛末を。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 昨日の朝方、傭兵ギルドに慌ててやって来た依頼人が、全ての発端だった。

 

 その頃あたしは家事を終えた後のミュウくんを連れて、掲示板に貼り出された依頼書を精査していたのだが。

 

「毒草の採取依頼、結構貼り出されてますね」

「内容ちょっと被りすぎじゃない?」

「用途を教えてくれないと、若干受けづらいですね。そういえばレヴィンさんって、毒草とかそれに近い草、食べたことあります?」

「どうしたのよ急に……まあ、あるけど。そんなに味はしなかったし、不思議と身体は平気だったわね――」

 

 そこに扉を勢いよく開けて、息を切らしてやって来た青年に気付き、目を向けてしまっていた。

 

「い、いらっしゃいませっ」

 

 受付員のリーネが多少慌てた素振りを見せながらも、青年に声をかける。

 

「お飲み物はっ、何になさいますかっ?」

「飲み物は後でいい……ここは傭兵ギルドで合ってるよな?」

 

 青年の声は、あたしにとってはとても艶めかしく聞こえてしまって。

 ゴムで結んだ肩まで伸びている茶髪と、美形と呼ぶべき顔を見てしまい、あたしの視線は釘付けになった。

 

 一方リーネは反射的にハイ、と返す。

 

「責任者を呼んでくれ……緊急で片付けて欲しい案件が――」

 

 肩で息をしていた青年の身体が、ぐらりとそのバランスを崩す。

 あたしが真っ先に気付いた頃には、身体が勝手に青年を倒れぬように支えていた。

 

「しっかり! 大丈夫?」

「す、すまない……」

 

 彼はどうも衰弱しているように見え、背中を掴んだ時に生暖かい感触があるほどだった。

 これはおそらく血の(にじ)み。

 

 どうやら何かあって傭兵ギルドまで辿り着いたようだが、今は彼の話を聞いている場合ではない。

 

「レヴィンさん、彼は一体?」

 

 ミュウくんが一歩遅れて駆けつける。

 ここに連れてきて良かった。

 怪我人が来てしまったならば治療師志望の領分だ。

 

「話は後で聞きましょ。とにかくこの人を寝かせなきゃ」

「ボクの治癒術式が必要なんですね、わかりました!」

「リーネ、空き部屋借りるわよ!」

「はいっ、オーナーもお呼びしますっ!」

 

 パニックであたふたしながらも、リーネは店の奥に向かった。

 あたしは持ち前の筋肉で、青年の身体を軽く持ち上げる。

 いわゆる、お姫様抱っこと呼ばれるシチュエーションと同様の持ち方で。

 

「うおっ、細身の男を軽々と!」

「なんて羨ましい男……私もああやって抱かれたいなぁ」

「まあ同性のお前は抱かれたらイチコロだろうな。俺は握り潰されそうだから遠慮したいけど」

 

 このまるで緊張感のない外野は状況がわかってるのだろうか。

 急に恥ずかしくなってきた。

 あたしだって、好きで抱っこする側に回ってるんじゃないやい。

 

 乙女の悲哀を感じながらも、あたしは衰弱した青年を二階の空き部屋に運ぶのだった。

 奇しくもかつてあたしが借りてた部屋だったけど。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 青年をベッドにうつ伏せで寝かせた後は、治療術式を扱えるミュウくんの出番だ。

 彼の上着と背中が血まみれのシャツを脱がし、傷口の中へ流し込むように魔法をかける。

 

「『我が主たる光精よ、汝の名の下に彼の者の痛みを癒す力を』。――『ホワイト・ヒーリング』」

 

 治癒術式は人体の新陳代謝に働きかけて自己治癒力を底上げするタイプの魔法で、すぐさま傷が塞がるほどの効果はない。

 しかし苦しい痛みを和らげる作用があり、治癒術式を体験した人はあまりのリラックス効果で眠りに落ちることも少なくないという。

 ミュウくんによれば、睡眠は治癒の効果を高めてくれるので、眠ってくれるのは助かるんだとか。

 

 案の定、ミュウくんの治療を受けた青年はリラックスしきって寝てしまっていた。

 

「思ったより傷が深くなくて良かったです。起きる頃には傷が塞がってますよ」

「後で食事も用意してもらいましょ。衰弱してたから、お腹も減ってるだろうし」

「そうですね。それにしても――」

「どうしたの?」

「いえ、この人の背中の傷が、三本の爪で引っ掻かれたような跡だったのが気になって」

 

 そういえばそうだ。

 だとするとやられた相手は暴れた獣か、それとも――。

 

「魔獣にでも追いかけられたのかしら」

「可能性はありますね。ここに駆け込んできたくらいですから」

 

 いずれにしろ、傭兵が動くほどの案件にはなるだろう。

 青年が眠りに落ちてから少し経ち、部屋の扉をノックする音が。

 ギルド長・ロッソママがやって来た。

 

「彼が、例の?」

「ええ、背中に傷ができてたわ。治療術式で快方には向かってるけど、多分魔獣の仕業ね」

「そう……。ひとまず彼が起きたら、話を聞かせてもらいましょ」

「ですね」

 

 今はこれ以上出来ることがない。

 そういうムードで一時撤収しようとした矢先だった。

 青年が目を覚ましたのは。

 

「んっ……ここ、は……?」

「アラ、思ったより早起きじゃない」

「あんた……誰だ?」

「ここは傭兵ギルド王都本部の空き部屋。アチシはギルド長のロッソよ」

「そうか……俺は……」

 

 うつ伏せから身を起こそうとする青年を、ミュウくんは彼の肩を掴んで慌てて止めた。

 

「まだ動いちゃ駄目ですよ。術式をかけたばかりなんですから、しばらくは安静にしていてください」

「ありがとう、小さな治療師くん。だがそうもいかない……傭兵ギルドに頼みがあって来たんだ」

「アラ、依頼の話? それならわざわざここに来なくても、手紙一通送ってくれたら、どうにかしてあげるのに」

「事は一刻を争うんだ……だから俺がここに来た。お願いだ、俺の村を救ってくれ!」

 

 なんだか予想よりも話が大きくなりそうで、あたしは彼を助けたことをちょっとだけ後悔してしまった。

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