太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

81 / 115
第六十九話 「もっと、その恩に報いたくて」(2)

 そのままの流れで、詳細を聞くことになった。

 

 青年の名はファビアン。

 王都より少し離れた農村の住人だという。

 

 そんな彼が、なぜ急ぎで傭兵ギルドに駆け込んで来たのか。

 魔獣絡みなのは間違いないのだろうが、しかし話は意外な方向にシフトし始めた。

 

「えっ、魔獣の影響で流行り病!?」

「かもしれないって話さ。きっかけは結界魔導具の範囲外まで薬草を摂りに行った薬師……俺の親父だった。その時は俺も同行していたんだが、親父が黒光りする尾が特徴的な獅子の化け物に遭遇して、右膝を何かに貫かれたんだ」

「その人、生きてるんですか?」

「わからない。感染症の可能性を訴えて、俺を逃がしてくれたっきりだ。生きてても、無事じゃないだろう」

 

 魔獣に膝を貫かれただけで、『これは感染症になる』とわかるものなのだろうか。

 あたしは感染症の可能性よりも、外傷が気になってしょうがないのだが。

 ともあれ、ファビアンのお父さんが有能な薬師であるという証明ではあるのかもしれない。

 

「背中の傷は、逃げた時にその魔獣につけられたものだ」

「じゃあ貴方もその感染症にかかってるんじゃ――」

「幸い、出血以外の不調を引き起こすことはなかったよ。きっと爪には何も仕込まれていなかったんだろうな」

 

 まあ、そうでしょうね。

 ファビアン自身が感染症にかかっていたなら、今頃傭兵ギルドはハザードな危険区域になっていただろう。

 

「黒光りする尾、獅子型、爪は鋭利なだけ……もしかしてアナタのお父さん、尾から出た何かに貫かれたの?」

「親父はそう言ってたが……ギルド長はそいつに心当たりがあるのか?」

「やぁねェ、ロッソママでいいわよ。ま、これでも傭兵ギルドは魔獣研究員とズブズブだから、常に最新の情報を仕入れてるってワケ。リーネ、アチシの部屋から資料持ってきて。五八番ね」

「は、はいっ。すぐ取ってきますっ」

 

 リーネが部屋を出て壁にぶつかりそうになるも、慌てて方向転換して事なきを得る。

 そのままロッソママの部屋へ向かった。

 

 地球の企業みたいにデータ化もできないから、こういう世界の事務職って大変よね。

 

「ちょーっと待っててね。魔獣の危険度次第じゃ、金額も変わってくるから」

「ありがとう、ロッソママ……小さな治療師くんに、力持ちのお嬢さんも。キミらの助けがなきゃどうなってたか」

「いえ、別に大したことは……」

「そうですって! 身体が勝手に動いたっていうか!」

「アラァ~、レヴィンちゃん顔赤いじゃない。好みのタイプだったりした?」

「な、何言っちゃってるのかなぁー、ロッソママは!?」

 

 はい、図星です。

 面食いは整った美形顔に惚れやすいのです。

 あの顔との距離が近くなったら心臓のビートがヘビーメタルを奏でるんじゃないか、ってぐらい。

 

「魔獣の資料、持ってきましたっ」

 

 リーネが分厚い資料を抱えて戻ってきた。

 ふぅ、危ない危ない。

 今は依頼の話をしているんだから、冷静にならないと。

 

「特徴と一致しているのは、おそらくこの魔獣ね」

 

 ロッソママが分厚い資料をめくって、テーブルの上に広げた。

 

「A級マキナ推奨の危険度で、まだ討伐報告も挙がっていない、獅子型の『王』クラス。研究員の間では『マンイーター』と呼ばれているわ」

 

 確かにライオンっぽいイメージ画だ。

 

 マンイーター……人喰い?

 魔獣は大なり小なり人に危害を及ぼしているけど、そこまで言われるほどの危険なヤツなの?

 

「際立ってるものは、黒光りした尾の先端の突起物。そこから発射される針は、人体に何らかの影響を及ぼすほどの毒だという話よ」

「毒をもって人を蝕む、という意味での『マンイーター』、ですか」

「そういうコト。『マンイーター』の毒針を受けて克服した例はなく、未だ血清すら出来ないほどに研究は停滞してるみたい」

「だから危険度がそこまで跳ね上がってるってわけね。その毒を治癒する手段が今のところ無いから」

 

 しかもその毒が感染症を誘発する可能性がある、という薬師のお墨付き。

 今頃ファビアンの村はどうなっているのだろう。

 最悪の事態は想定すべきか。

 

「そんな! それじゃあ治療師でも対処できない毒ってことじゃないか!」

「実際どうなの、ミュウくん?」

「ボクの観点から言わせてもらえば、治癒術式で毒を治療することは可能です。しかし――」

「何か問題が、あるんですかっ?」

「毒の侵攻が速い場合、人体の自己治癒力を促進させるのが主な役割の治癒術式では、対処が間に合わなくなる可能性があるんです」

「なるほど。人体は毒をその身に受けた場合、抗体を作ろうと自己治癒力を働かせるけど、抗体が完成する前に毒が全身に回っちゃったら手遅れだものね」

 

 つまり治癒術式で対処できる毒は侵攻の遅い毒で、抗体を作れないほどの速さで侵攻する猛毒には無力、ってことなのね。

 自己治癒力依存の治癒術式って、ゲームみたいにすぐ治らないのが、やっぱり不便かな。

 

「ちくしょう……親父ッ……!」

 

 折角傭兵ギルドまで来てくれたのに、ファビアンが諦めかけている。

 

 さて、どうしようか。

 助けたいのは山々なんだけど、『マンイーター』の毒という対処不可能な要素をどうにかしないことには……。

 

「ファビアンさん、まだ諦めないでください」

 

 しかし、ミュウくんはそんなファビアンの肩に手を置いた。

 

「確かに『マンイーター』の毒は強力みたいですけど、どうにかできる可能性が少しでも残っていれば、手はあります」

「馬鹿を言うなよ……傭兵が倒せない魔獣をどうするってんだ!?」

「『マンイーター』の尻尾を、切断しましょう」

 

 あたしを含めたこの場の全員が、ミュウくんの決断にどよめく。

 そ、その手があったか!

 

「資料によれば、『マンイーター』の毒針は主に尻尾から射出される、とあります。つまり尻尾さえ切れば、最低限の無力化は可能ですし、持ち帰れば毒の成分を解析して解毒剤を作ることができるわけです」

「なるほど! すぐ倒さずに尻尾を取って退散すればいいのね!」

「まあまあ、結論を急がないでレヴィンちゃん。事はそう単純じゃないわよ」

 

 ロッソママはあたしをなだめるように、手の平を向けた。

 

「当然他の傭兵もそう考えた。それなのに討伐報告のひとつも来ないのよ。だからA級案件なのよね、『マンイーター』っていうのは」

 

 つまり、誰も『マンイーター』の尻尾を切ることが叶わず、帰らぬ人となった。

 そこまで凶悪な魔獣なのだろうか。

 

 イメージ画を見る限りだと、かつて戦った『ブーステッド・キマイラ』と比べても弱そうに見えるのだが。

 いや、アイツの絵面が混沌としてたから、インパクトで劣ってるってだけか。

 

「まあ、それでビビるほど修羅場くぐってないわよね、レヴィンちゃん?」

「少なくとも不可能じゃないなら、やってみる価値はあるって程度だけどね」

「じゃあ……アンタが依頼を受けてくれるのか?」

「うちのサポーターが活路を見出した言い出しっぺだし、折角来てくれた人の頼みを無下にできるほど、腐った傭兵じゃないつもりだから」

 

 うーん、いくら好みの顔の前だからって、ちょっとキザな言い回しだったかな。

 

「ちなみにこのコの率いるギラソール傭兵団は、ウチで登録してる中でもトップクラスの実力だから、大船に乗ったつもりでいなさいな。特にレヴィンちゃんは『勇者勲章』授与されたぐらい頼られてるんだから!」

「つまり王国公認ってことか!? 凄いなアンタ……」

「あっ、余計なこと言わないでよロッソママ! その肩書き恥ずかしいんだから!」

「充分光栄なことなのに……レヴィンさん、変に謙虚なんですから」

 

 変に謙虚って何さ、ミュウくん。

 あたしは小心者だし、そういう肩書きを振り回すのが苦手なだけなんだからね!

 

「ありがとう……アンタほどの傭兵が来てくれりゃあ百人力だぜ! 村に帰ったらテレジアに自慢できそうだ!」

「うん、まあ……任せなさいよ。ところでファビアン、テレジアって?」

「ああ、俺の彼女だよ。村に着いたら紹介する」

 

 こうしてあたしの一目惚れは、またしても砕け散った。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 諸々の手続きを済ませて、傭兵団のみんなに依頼の内容を説明しながら、あたしたちは馬車を借りてファビアンの村へ出発した。

 発ったのは昼頃なので、野営で夜を越す時間を含めても、村に着くのは明日になるという。

 ファビアンは馬を全力で走らせて、王都に辿り着いたんだとか。

 

 急ぎの用だというのに、最速の到達法が馬車、というのが辛いところよね。

 瞬間移動の魔法がこの世界にあったらよかったんだけど、そう甘くはないというか、RPGのファストトラベルなんかも一度その場所を訪れなきゃワープできないとリテラも言っていたし、いずれにしろ地道に辿り着かなきゃ意味はないらしい。

 

 ともあれ、傭兵団で一番馬の扱いに長けているジークが、なるべく速いペースで馬車を走らせている。

 村の方向を間違えないように、ファビアンにも前で馬車を引かせているので、彼のナビがあれば迷うことはないだろう。

 

 しかし、乗り心地が少し悪い以外の原因で、あたしは未だ立ち直れないでいた。

 

「レヴィン、いつまで引きずっとるんじゃお主は。失恋も一度や二度ではなかろうに」

 

 いつものようにあたしの頭上であぐらをかいているリテラの励ましも、虚しく感じる。

 

「勝手に惚れて自爆したんですから、失恋以前の問題じゃありませんの?」

「その正論パンチ効くわね、ヤーナ……後で覚えてなさいよ」

 

 というか、異性を金勘定でしか見られないっぽいヤーナに、あたしがどれだけ惚れっぽいか理解されてたまるかっての。

 

「あっしはホレたハレたってのはよくわかんないけど、元気出しなって、姉貴」

「ありがとう、ニュー……今はあんたの理解できてないような励ましが一番心に染みるわね……」

「重症じゃな……どうにか切り替えられんもんかのう?」

 

 うん、無理。

 勝手に自爆したのは間違いないんだけど、立ち直る時間を頂戴。

 

 そんなブルーな空気でいたところに差し出されたのは、携帯用の水入れだった。

 隣に座っているミュウくんが、気を利かせてくれている。

 

「気分が優れないなら、これをどうぞ」

「なによ、今更水程度で――」

 

 しかし彼の優しさを無下にするわけにも、ね。

 水入れを受け取って、中の水を煽る。

 ん、この味は水じゃないし、少し温かい……?

 

「ウソでしょ、これ水じゃなくてスープじゃない! おいしい!」

「お気に召してくれたようで嬉しいです。いつもの水じゃ味気ないかと思って、作り置きのポテトスープを温めて入れておきました」

 

 なんて気が利くのだこの子は。

 孤児院にいた頃は、大人顔負けの察しの良さで、さぞ神父様に褒められたことだろう。

 

「温かい飲み物はリラックスするのに最適です。落ち着きましたか、レヴィンさん?」

「うん……ありがとう、ミュウくん。将来いい奥さんになりそうね」

「お主、それはギャグで言っておるのか?」

 

 珍しくリテラにツッコまれてしまった。

 ママっぽさに性別の違いは関係ないでしょ。

 ロッソママという体現者も居るわけだし。

 

「あながち言葉の綾とは言い切れないってところが、ミュウくんの恐ろしいところですわね」

「なんでだよ、ヤーナ? ミュウはちゃんとタマ付いてるぞ?」

「タマはともかく、ニューとミュウは双子でしょう? ニューに似て中性的な顔立ちではありますから、女物の服も似合うのではないか、という話ですわ」

「その発想はなかった! ミュウ以上の天才だな、ヤーナは!」

「オッホッホッ、褒めても銅貨一枚しか出ませんわよ」

 

 そしてそっちはニューになんてことを吹き込んでるんだ。

 というか褒めたら出るんだ、銅貨……ちょっと意外。

 

「やめなさいよ、そういう話。ミュウくんがこれ以上、完璧なレディになっちゃったらどうするのよ?」

「レヴィンさん!? なんで女装前提で話を進めるんですか!? やりませんよ!!」

「その時はモテない男性に的を絞った商売を企画するだけですわよ」

「ヤーナさん!? ボクで何しようとしてるんです!?」

 

 客寄せパンダ以上の脱法は止めときなさいよ、ヤーナ。

 

 思わぬアホな会話が弾んでいる間に、馬のペースが少し遅くなってきたのを、あたしは体感速度で把握した。

 

「ファビアン、少し馬のペースが落ちてないか?」

「ちょっと急かしすぎたか……息が上がってる。日も落ちかけてるし、休ませた方が良さそうだ」

 

 手綱を引いていたジークが馬の異常に気付くと、ファビアンは休憩を提案。

 あたしたちは、野営の準備をすることになった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。