太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七十話 「もっと、その恩に報いたくて」(3)

 それからはあたしとニューが食材の調達、ミュウくんが素材の厳選と調理をいつも通り担当し、それに加えてジークがリテラと共に近辺の薪木の収集、ヤーナはお手製の魔獣除け結界を発生させる魔導具――組み立て式の傘みたいな外観だった――の設置に取り掛かった。

 

 周りが広めた色物集団という風評とは異なり、ギラソール傭兵団(ウチ)は結構役割分担が出来ている方だとは思う。

 戦闘における役割(ロール)でも、普段の生活でも、意外にバランスが取れてはいる、などと、いつだったかリテラに言われたこともあったっけ。

 

 ウチの客分であるファビアンにもそれを褒められたのだが、団長としては見せかけのバランスよりも気苦労の方が絶えないと返したところ、申し訳無さそうな顔で謝られてしまった。

 そこは『わかる』と同調して欲しかったものだが、彼女持ちだし無理を言うなと必死に心で言い聞かせて踏みとどまる。

 

 忘れろ、私の恋心。

 

 ともあれ野営の準備はつつがなく進み、あたしたちは焚き火を囲んで、ミュウくんの料理に舌鼓を打っていた。

 ちなみに晩御飯のメニューは、あたしが獲ってきた兎肉のシチューだ。

 

「はい、グラウ。美味しい兎の肉だよ」

「ぐらぁう」

 

 ミュウくんの服の中に潜り込んでいたグラウが顔を出し、彼が差し出した木製スプーンに乗っかった兎肉をひと口でガブリ。

 肉がとろけて口の中に広がりでもしたのか、赤ちゃんのように喜んでいる。

 まあグラウはついこの間まで、赤ちゃんメイルドラゴンだったわけだが。

 

 その様子をミュウくんの隣に座っていたファビアンが、柔らかい笑顔で見つめていたのが少し気になって、あたしは声をかけてみた。

 

「どうしたのよ?」

「あ、悪い。見たことない種類のドラゴンだなって思ってさ」

「アラ、そっちでしたの。てっきり彼女さんとの赤ちゃんプレイを思い出して、悦に浸っていたのかと思ってましたわ」

「口調の優雅さに反した品のない発言!」

 

 流石に食事の席でプレイとかそういう話を持ち出されては、ツッコミを入れざるを得ない。

 まったく、シスター服に知的なメガネと外面は良いのに、時折ヤーナがあたしたちの中で傭兵歴一番長くて、アウトローの空気に馴染みきっていることを忘れそうになる。

 

 先程のヤーナの失言を聞かなかったことにしたのか、そもそも理解してないのか、ニューが話題を戻してくれた。

 

「メイルドラゴンのグラウってんだ。色々あって、ミュウに懐いてんだよ」

「メイルドラゴン? マジで聞いたことねえや」

「そりゃそうじゃろ。とっくの昔にこの子の仲間は絶滅したんじゃからな」

「嘘だろ、希少種の子供ってことじゃねえか! そんなのを手懐けるとか、スゲェよお前!」

「そ、それほどでも……でも、このことはご内密にお願いしますね。広く知られちゃうと、面倒なことになるので」

「わかってるって。新種の薬草を他の奴に知られたくないってのと同じだもんな」

 

 ファビアン、いつの間にかミュウくんとの心の距離が近くなっているような。

 治療に助けられた恩義の延長線上か、もしくはミュウくんが女所帯なギラソール傭兵団における黒一点だからなのか。

 いずれにしろ、男同士で何かが通じ合ったのは間違いないかもね。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 シチューを皆で平らげて、そのまま片付け、就寝、というのがいつもの野営パターン。

 火の番は交代で行っており、今はあたしの番。

 他の皆が寝ている間に焚き火を見ているだけというのも暇なので、柔軟体操をしながら見張っている。

 

 その上で揺らめく火を見て、思い出していた。

 この世界での故郷がダリアによって焼かれて、父が死に際に『ソルマドラ』を託していった、あの日のことを。

 

 ――デカく……強く……なったな……お前は俺の……自慢の……娘……だ……。

 

 父・レオンは己を犠牲にして、集落を守った。

 魔獣を屠る力を、勝手に託されてしまった。

 今思えばこれは、自己満足の身勝手な行為だったのではないか。

 

 父の身勝手そのものを否定したいわけではない。

 ただ、死ぬ必要がなかったというだけ。

 

 身勝手で死ぬ男は嫌いだ。

 男のプライドやサガを理解はできても、感情が追いつかないから。

 

 でもファビアンって、彼女持ちとしては正しかったよね。

 魔獣に挑もうとはせず、ちゃんと逃げて助かったんだから。

 

 だったら何故、あたしは彼に一目惚れしたのだろう?

 あたしの中では顔ということにしたいのだが。

 

 自分でもわからなくなる。

 あたしは異性の、何を見ているのか。

 

 少なくとも強さを基準として見ていないのは確かである。

 強い男という点では脳内で前世の兄が殿堂入りを果たしているし、この世界(フロイデヴェルト)であたしに勝てる男はひと握りしかいないだろうと考えられる。

 

 じゃあ、やっぱり顔なのだろう。

 王国書記官のフィンさんも村人のファビアンも、立場は違えど美形に変わりはない。

 

「最低だな、あたし……」

 

 ふと、そんな愚痴が零れた。

 

 想いを寄せる相手がいる男に、連続で一目惚れしてしまった、という後悔。

 でも、もう忘れよう。

 過ぎたことだ。

 

 成人したばかりで幸いまだチャンスは残ってるし、今は呑気に婚活していられる状況にない。

 この世界が真の意味で平和になれば、いずれまた――。

 

「レヴィンさん、精が出ますね」

「ふぇっ!?」

 

 突然声をかけられて、柔軟の状態から飛び起きそうになる。

 なんだ、ミュウくんか。

 考え事の最中だったから変な声出ちゃった。

 

「ご、ごめんミュウくん。そろそろ交代の時間よね」

「顔が赤いみたいですけど、熱でも――」

「やだなぁ、灯りの加減でそう見えるだけでしょ。そうに違いないわ!」

「は、はあ……錯覚ならいいんですけど」

 

 なにミュウくん相手に取り繕ってるんだろう、あたしったら。

 

「じゃあ、あたし寝るから! ミュウくんもファビアンに見張り交代したらぐっすり寝なさいよ!」

「はい、おやすみなさい」

 

 まったく、今日のあたしは我ながらなんか変だ。

 ひとまず火照った顔を鎮めたいので、足早に寝床へ向かう。

 掛け布団をかぶり寝ようとしたところ。

 

「あ、ファビアンさん。交代の時間ならまだですよ?」

「悪いな、ちぃと眠れなくってよ。隣、いいか?」

「どうぞ」

 

 なんと、ファビアンが起きていたようだ。

 

 焚き火の傍に少年と男性、か。

 男同士積もる話もありそうで、ふとリラックスして寝る前に耳を傾けてしまう。

 

「ちょうど良かった。実はファビアンさんに相談があって」

「俺に、か?」

「レヴィンさん達がいる手前だと、言いづらいことなんですけど」

「あー、肩身狭そうだもんな。年上のお姉ちゃんばっかで」

 

 はて、そこまで気にするほどのものだろうか。

 あたしからすれば特に心配するほどではないと思うのだが。

 普通に馴染んでるように見えるし、心根がママっぽいし。

 

「魔獣との戦いでお姉ちゃんたちの見ちゃいけないトコに目がいって、支援に集中できないとか、そんな話か?」

「ふぇっ!?」

 

 ファビアンちょっとやめなさいって!

 男同士だからってそんな、思春期特有のシモな流れに持っていくのは!

 純真無垢なミュウくんには禁止カードでしょそれ!

 

 などと言いたい衝動に駆られるも、あたしはどうにか理性で抑えていく。

 

「そ、そんなっ、ボクはレヴィンさんを邪な目で見たりしてませんよ! 人間として憧れてはいますけど……」

「ありゃ、違った? そっちの面子が綺麗所ばっかりだから、てっきり」

 

 綺麗所、か。

 明らかに彼の趣味じゃないであろうニューやリテラを除けば、確かにそう見えるのかもしれない。

 

 異性にそう言われて悪い気はしない――ただし美形に限る――のだが、彼女持ちの男に褒められてしまうのは、負けた気がして少し複雑な気分になってしまう。

 

「というか、相当入れ込んでるみたいだな、レヴィンちゃんのこと」

「それはまあ、命の恩人ですし」

「もっと上の関係になろうとは?」

「今のところは、まったく」

「恩人ではあるけど、好みのタイプじゃないってヤツ?」

「確かに普通の女性とは筋肉のキレが違いますけど、苦手なタイプの人じゃないですね」

「じゃあ彼女の好きなトコ言ってみな」

「誘導尋問はやめてくださいよ。羅列しすぎて朝になったら、どうしてくれるんです?」

「お、おう……スマンかった」

 

 ミュウくん、同性相手だとちょっと容赦ないかもしれない。

 

 というか、照れる。

 つまり朝になるまで語りたいあたしのネタがあるというわけで。

 向けてくる感情が少しばかり重いのでは、と錯覚してしまう。

 

「それで相談のことなんですけど……ファビアンさんは、既に付き合っている相手がいるって言ってましたよね?」

「ああ、言ったな確かに。テレジアがどうかしたのか?」

「彼女をどうやって、射止めたのかが、気になって」

「ほ、ほ~ん?」

 

 ファビアンの何かを察したような声がする。

 何よ、ミュウくんの何を感じ取ったのよ!?

 

「要するにアドバイスが欲しいわけだな? 既に彼女持ちで人生の先輩であるこの俺に」

「ファビアンさんは大人なので、参考になればと思ってたんです。ボクはまだ子供だから、いずれレヴィンさんに大人として見てもらいたくて」

 

 へえ、ミュウくんにはそんな考えがあったのか。

 思春期によくある等身大の悩みってヤツなんだろうけど、その言い方だと曲解して伝わっちゃうと思うよあたしは。

 

「背伸びしてみたいってか! そんな頃俺にもあったなぁ。よし、わかったぜ。俺がテレジアにやってきたこと全部、お前に教えてやるよ!」

「よろしくお願いします!」

「よし、まずはテレジアとの馴れ初めから――」

「その導入は長くなりそうですね。要点だけ教えてくれれば大丈夫ですから」

「お、おう……スマン」

 

 時折年上だってことを忘れそうになるくらい落ち込むわねファビアン。

 なんだかんだ余裕ぶってても、こっちが素なのかもしれない。

 

「テレジアはなんつーか、肝っ玉母ちゃんみてえな女でよ――」

 

 そこから先、ファビアンが彼女のテレジアさんをどんな風に想っているかって話が長々と続いていたような気がするが、よく覚えていない。

 途中から退屈な話になって眠りに落ちたからかも。

 

 ともあれ客分を交えた夜は、無事に更けていった。

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