太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七十一話 「もっと、その恩に報いたくて」(4)

 翌朝、軽い朝食――昨日ニューが採ってきた木の実と食べられる野草を挟んだサンドイッチ――を済ませて、馬車を再び走らせる。

 念を入れていたおかげか深夜に魔獣の襲撃はなく、馬も無事休息を取れたようだ。

 

 しかし、だからといって油断してはいけない。

 例の『マンイーター』の縄張りの範囲が詳しく掴めていない状況で、村に着くまでの道中、どこから襲ってくるかわからないからだ。

 

 だからこそ馬車は即座に襲撃に対応できるよう屋根なしのものにしてもらった。

 万全を期して臨んではいるが、常に最悪の事態は想定しなくてはならない。

 嫌な予感は、当たって欲しくないものではあるが。

 

 街道の先に村らしき遠景が見えてきた辺りで、あたしはふと空を見上げる。

 昨日までの晴天が嘘のように、村上空をグレーの雲が遮っていた。

 

「なんだ、あの雲。村着く頃にはびしょ濡れになっちまいそうだな」

「襲撃を警戒して屋根なしの馬車にしたのが仇になりましたわね」

 

 そこはしょうがないわよ、ヤーナ。

 この世界にはインターネットもテレビもラジオすら無いから、地球人には必須の情報源である天気予報も見られない。

 

 一般家庭に渡っていてもいいハズの新聞すら王都で広まってる様子もなく、最速で伝わる情報源は井戸端会議が関の山。

 雲の流れを見極めて臨機応変に対応する、ぐらいのライブ感で、フロイデヴェルトの民は生きているのかもしれない。

 地球人からすれば、あまりにも限られた情報だけで。

 

 慣れたつもりではあったが、物足りないといつも感じてしまう。

 

「どうする、レヴィン? 少しばかり急ぐとしようか?」

「そうね。雨降っちゃったら、あたしが不利になるし」

「心得た。ファビアン、聞いての通りだ。馬を急かすぞ」

「わかった。幸い村も近い距離だし、俺も濡れたくないしな」

 

 手綱を握っているジークとファビアンが馬の速度を上げようとした、その時だった。

 ニューが魔眼を通して、少し先の危険を伝えたのは。

 

「待ってくれ! 森の方向から、こっちに何かたくさん来る!」

「うわっ、急にどうしたよ?」

「ニューの勘はよく当たるってこと。ヤーナ、迎撃準備!」

「仕方ありませんわね。解放(リリース)、『シュツルムウォーダン』!」

 

 ニューの予知から大群の襲撃を想定して、ヤーナが自分のお手製杖型マキナを顕現させる。

 迎撃戦で役に立ちそうなジークは手綱で両手が塞がっている上に、あたしは敵が最接近する場合のみ迎え撃つしかない。

 自然と『眷属』クラス魔獣の物量に対抗できる火力の魔法を撃てるヤーナが、要になってくるのだ。

 

 そしてニューの予知通り、今通っている街道より少し離れた位置の森――向かって右側――から、魔獣の群れが次々と姿を表した。

 雌ライオンの子供に似てはいるが、毛並みが毒々しい紫色の『眷属』クラス魔獣、キラーピューマだ。

 

「血色の悪そうな『眷属』ですこと」

「それでも数はざっと見たところ、五十体ほど。意外に少ないですね」

「所詮は魔獣、その程度でも蹴散らせば、『マンイーター』の尻尾は見えてくるハズですわ」

 

 本当は見えたらヤバいんだけどね、その尻尾。

 言葉の綾とはわかっていても不吉に感じてしまう。

 

 片膝立ちの状態でヤーナが詠唱を始めた。

 

「魔獣五十体が少ないって……流石は傭兵だな。平民な俺と違って、くぐってきた修羅場の数が違うっつーか」

「単に麻痺しちゃってるだけとも言うわね」

「ともあれ縄張りに入ったようじゃからな。村まで逃げられれば、結界魔導具の範囲内じゃ。速度を上げてくれ」

「心得た、リテラ殿!」

 

 リテラの指示を受けたジークとファビアンが手綱を振るい、更に馬車のペースを早める。

 キラーピューマの群れは徐々にこちらに迫っていくが、その前にヤーナの詠唱は完了していた。

 

「『ストームボム・(インパクト)』ッ!!」

 

 杖を振って、圧縮された巨大な嵐の球を群れの中心めがけて投げつけるヤーナ。

 それは草原に触れた瞬間、空気の爆弾となって弾け、広範囲のキラーピューマを消滅させ、吹き飛ばした。

 馬車めがけて飛んできた個体は、『ソルマドラ』を籠手だけ顕現させたあたしの拳で対処する。

 

 さて、ヤーナの一撃で『眷属』の大半は蹴散らせたはずだが、肝心の『王』はまだ姿を見せない。

 縄張りの中心で引きこもっているとは考えにくいが、そうであるならどれだけ良かっただろう。

 

 魔獣は頭の良い姑息な策を使わない。

 そんな偏見を持っていたあたしたちにとって、ヤツの取った行動は、衝撃に値するものだった。

 

「ちょろいもん……と言いたかったものですが、どうやら術中にはまってしまったようですわ」

「どういうことよ?」

「みんな、前見て、前!」

 

 ニューがまた何かを予知したらしく、言われた通り顔を向けると。

 約一キロメートル先で毒々しい色の獅子が、サソリのような黒光りした尾を備えて、街道を遮るかのように待ち構えていた。

 

「ウソでしょ!? 魔獣がこんな手を使ってくるなんて!」

「間違いねえ、奴が『マンイーター』だ!」

「自身の『眷属』の群れを隠れ(みの)にして、先回りしておったのか!」

 

 自らの勝ちを確信するかのように、『マンイーター』が吠える。

 その毒の獅子は、こちらに向かって走り出した。

 まずい、このままでは正面衝突だ!

 

「ヤバいヤバいヤバい! どうすんだコレ!?」

「ジーク、とにかく避けて!」

「心得た! ファビアン、フォークを持つ手だ!」

「何で直接左って言わねえんだよ!」

 

 ふたりはどうにか手綱を引いて方向を変えたが、スピードを出している状態ではカーブを曲がりきれないように、直進から少し斜めになった程度。

 ヤツの突進をギリギリ避けられるかどうかのライン取り。

 

 おまけに街道を外れた影響か、整備された街道を通ってる時より車体が揺れる。

 常日頃から体幹を鍛えているあたしからすればそこまで苦ではないが、双子は段差で馬車から放り出されないか心配だ。

 

「ミュウくん、ニューと一緒に伏せて!」

「もうやってます!」

 

 ミュウくん、流石に判断力がピカイチだ、なんて頼りになる。

 

 一方、徐々に縮まる『マンイーター』との距離。

 高確率で荷車の右端にぶつかって、バランスを崩してしまいそうだ。

 

 こうなれば一旦、奴を殴り飛ばしてしまおうか。

 そう考えて、あたしは荷車の縁に片足を乗り上げた。

 

「こんな時に、迂闊(うかつ)ですわよ!」

「ぶつかって駄目になるより殴った方がマシ!」

 

 ヤーナの言う通りではあるが、この状況なら左で殴り飛ばす方法を取るべきだ。

 足場が不安だが、やってやれないことはない。

 奴をギリギリまで引きつけて――。

 

「今ッ!」

 

 太陽の魔力を込めた左拳でフックを『マンイーター』の頭めがけ当てようとしたその時。

 あたしはこの瞬間まで、奴がA級マキナ推奨討伐対象である所以(ゆえん)をうっかり忘れていた。

 

 人喰いの『王』が突然、馬車をかわすように方向を変えたのである。

 さながら、歩行者を避ける自転車の如く。

 

「ウソっ――」

 

 あたしめがけて、黒光りした突起物が飛んでくる。

 情報にあった『マンイーター』の、毒の尾。

 

 奴の狙いは馬車を標的にした体当たりではない。

 すれ違いざまの、ひと突きだ。

 突然の奇襲に、防御が間に合わない。

 

 だが、しかし。

 あたしより先に、奴の奇襲を察していた仲間が、あたしを庇うように飛び出していた。

 

「ぐらぁぁぅっ……!」

 

 鎧で刃物を弾いたような音と、グラウのうめき声。

 そして、華奢な少年の身体。

 

 ミュウくんだ。

 その身を以て硬い鱗のグラウと共に、あたしの盾になっている。

 

「うっ……!」

 

 ミュウくんの痛みに耐えるような声が聞こえた次の瞬間、荷車の右車輪が段差につまづき、伏せずに身を乗り出していたあたしとミュウくんは、空中に放り出された。

 

「ニュー、グラウを!」

 

 跳ねてすぐさま、ミュウくんがグラウを馬車めがけて投擲。

 慌ててグラウは翼を広げて滑空、ニューの手元に到達した。

 

 あたしはそんなミュウくんの身体を空中でどうにか抱きかかえて、草原のゆるやかな坂で受け身を取り転がっていく。

 

「ミュウ! 姉貴!」

 

 ニューの呼び声が遠くに感じる。

 横転が止まると、あたしはすぐさま馬車の皆に呼びかけた。

 

「先に村へ! 後で追いつくから!」

 

 あたしの声が届いたのか、馬車は引き返さず村への道を走り去っていった。

 

 これでいい。

 あとはミュウくんを連れてここから離脱するだけ。

 

「ミュウくん、立て――」

 

 そのはずだった。

 

「すみません……してやられちゃった……みたいです……」

 

 仰向けに倒れているミュウくんの顔色がおかしい。

 それに両手でお腹の辺りを抑えている。

 

 まさか、まさかそんな。

 あたしを庇って、『マンイーター』の毒針に!?

 

「グラウが直撃を……防いでくれたんですけど……他の毒針がっ……」

 

 耳を澄ますと聞こえる足跡。

 おそらく『マンイーター』が引き返してきたのだ。

 

 どうする?

 ここに残って戦うか、安全な場所まで逃げてミュウくんを休ませるか。

 

 見上げれば、雨雲。

 鼻にぽつりと雫が落ち、徐々に落ちる雫の数が増えていった。

 

「無理に喋っちゃ駄目! ひとまず逃げるわよ!」

 

 この状態では、奴と戦うのは難しい。となれば、後者を選ぶしかない。

 あたしは弱っているミュウくんを背負い、『マンイーター』の足音から遠ざかるように、森の中へ駆けていくのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それが、今あたしたちが置かれている状況。

 『マンイーター』から逃げて、洞窟でミュウくんを休ませて雨をしのいでいる。

 

 このままではいけない、そう理解してはいるのだが、毒に蝕まれてる彼を放置する方がもっといけない。

 

 落ち着け、落ち着くのよあたし。

 今優先すべきは『マンイーター』を倒すことじゃない。

 ミュウくんが今、何をして欲しいか質問することだ。

 

 少なくともこの状況では、そうするしかない。

 

「ミュウくん、何かあたしにして欲しいこと、ない?」

「そうですね……ボクのカバンから……抑制ポーションを……緑の液体です」

「わかった」

 

 言われた通り、緑の液体が入った容器をカバンから探す。

 見つけるのに、そう時間はかからなかった。

 同じような液体が入っている小さい容器が二十本ほどあったからだ。

 

 サイズとしては香水を入れるような瓶と同様のものである。

 

「飲ませるから口開けて」

「……自分で飲めますけど」

「いいから」

 

 患者はそっちだっていうのに、どうして意地を張ってるんだか。

 観念して開けたミュウくんの口に、緑の液体を流し込む。

 喉の動きで、きちんと飲んだことを確認した。

 

 毒色の腫瘍がなくなるわけではない、ただのその場しのぎ。

 劣悪な状況なのは、未だ変わらない。

 

「ふぅ……少し楽になりました」

「用意がいいわね、こんなの作ってたなんて」

「ただの、気休めですよ……ヤーナさんと共同で元々作ってたのを……村の人たちに配ることにして……いくらか持ってきてたんです」

 

 なるほど、それならあの数も納得だ。

 

「でもまさか、自分が使うことになるなんて……悪いこと、しちゃいましたかね?」

「別にいいんじゃない? ミュウくん、もっと悪いことしちゃったから」

「そう、ですか……レヴィンさんは厳しいな」

 

 あたしが言う「もっと悪いこと」とは、あたしを『マンイーター』の尻尾攻撃から庇った、捨て身の行動のことである。

 

「当たり前じゃないの。グラウが防いでくれなかったら、即死だったかもしれないのよ」

 

 内心あたしは、怒っていた。

 身の丈に合わない無茶はやめてよ、と。

 あたしなんかのために簡単に命を捨てないで、と。

 

 しかし、それでもミュウくんは。

 そんなあたしの心配も知らずに、こんなことを口にした。

 

「身体が勝手に動いたんです……レヴィンさんも、あったんじゃないですか? 今回のボクみたいなこと」

「なかったと言えばウソになるけど、あたしとキミじゃ、鍛え方が違う。あたしは自分の筋肉を信じてるから盾になれるけど、ミュウくんはそうじゃないでしょ?」

「自分でも、そんなことはわかってます……でもボクは、レヴィンさんに命を捧げる覚悟で、ここまでついて来たんです。王都で魔獣教団と戦った時だって、寿命を削るリスクを負ってまであなたを治療できたんですから、このくらいは……あっ」

 

 えっ、今なんて……?

 寿命を削るリスク……?

 

 ミュウくんが咄嗟に手で口を覆ったということは、さっきの聞き捨てならない単語をあたしに知られたくなかった、ということ。

 抑制ポーションを飲んでリラックスした影響で、うっかり口を滑らせてしまったらしい。

 

「寿命を削ったって……どういうことよ?」

「……すみません。レヴィンさんは優しいから、この事実を知ったら絶対に怒るって……リテラさんに口止めされていたんですけど。こうなったからには、白状しますね……」

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