太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七十二話 「もっと、その恩に報いたくて」(5)

 それからミュウくんは、自らの秘密をさらけ出した。

 魔導書っぽい『グリモア・リーヴェン』という名のマキナと契約していたこと。

 これを介して上級の魔法を使うことで、ミュウくんの寿命が削られること。

 そしてそれを使って、重傷だったあたしを治していたこと。

 

 ミュウくんはあたしのために、自分の命の一部を分け与えていたのだ。

 

 グラウとニュー、そしてリテラ。

 このメンバーもあたしに自分の寿命を捧げてくれていたと、ミュウくんは補足する。

 

 しかし、それでも。

 

「どうして」

 

 そんな語彙(ごい)力のない疑問がひねり出されるほどに、あたしの心は困惑で支配されていた。

 

「あたしなんかのために、簡単に命を捨てないでよ」

「ボクは命を捨てていません。あなたに、預けたんです。もう一度、立ち上がって欲しくて」

「それでもッ!」

 

 行き場のない怒りを、哀しみを、右の拳で地面にぶつける。

 

 なぜ本格的な治癒術式は、リスクを伴ってしまうのか。

 今ここで問いただしても、意味はないのだろう。

 その『グリモア・リーヴェン』とやらを作ったのは、おそらく目の前の少年ではないのだから。

 

 あたしが(いきどお)っている事は、別にある。

 

「ミュウくんはまだ、子供じゃない……!」

 

 感極まったのか、視界がぼやけてしまう。

 多分あたしは、泣いているのだろう。

 

「こんなことを当たり前に続けてたら……大人になる前に死んじゃうわよ……!」

「ボクのために泣いてくれて、ありがとうございます……。でもボクは子供である以前に、ギラソール傭兵団のサポーターですから。覚悟はとっくに決まっています」

 

 そうじゃない、そうじゃないのよ。

 キミが同行を申し出てくれた時から、覚悟してるなっていうのは伝わってきたし。

 あたしが、あたしがミュウくんに言いたいのは――。

 

「死ぬ覚悟なんて決めなくていい!」

「レヴィンさん……?」

「あたしは大切な家族を、三人も失ってる……」

 

 一人目は前世の兄。あたしのために旅立った先で。

 二人目はあたしをこの世界に生んでくれた母。記憶がおぼろげではあるが、出産後に病で。

 三人目はあたしを育てて力を託した父。あたしのために身代わりになって。

 

 いずれも、あたしのために死んでいった。

 

「もうやめてよ……ミュウくんはうちのサポーターで、家族で……目の前で家族が死ぬところなんて……もう見たくない……」

 

 いけないことだとわかっているのに、いつの間にかあたしは。

 今は亡き家族の肖像を、ミュウくんに重ねてしまっていた。

 

 我ながら不謹慎だな。

 もうすぐミュウくんが消えてしまうみたいじゃないか。

 

「やっぱり、レヴィンさんは優しくて……眩しいや」

 

 ふと、ミュウくんがそんなことを呟くのが聞こえた。

 

「リテラさんにも、似たようなことを言われました。その上で、上級術式のリスクを肩代わりしてくれて……」

 

 なんだ、アイツもあたしと同じこと思ってたんだ。

 そしてあたしの復活に尽力してくれていた。

 

 心の中で「余計なお世話」と「ありがとう」が複雑に交差し始めたが、今は隅に置いておこう。

 

「案外、不便なんですよ、治癒術式って……大きな効果のものほど自分にかかる負担が大きいですし、術者自身は治せないって制約もあるんです」

 

 だから毒に蝕まれても、自分で治せない。

 これまで一緒に過ごしてきた中で、何度か彼に聞いた情報ではあった。

 それがわかっていて、あたしを庇い毒を受けたという事実。

 

「それでもボクが身体を張って、あなたを助けたかったのは……くっ……!」

「ミュウくん!?」

 

 少しは楽になったと思っていたミュウくんの顔色がちょっと変化した。

 まさか抑制ポーションの効果がもう……?

 

「流石に……『マンイーター』の毒は……強いですね……抑制ポーション一本でも……数分しか止められない……」

「二本目入れるから、口開けて!」

「駄目ですっ……!」

「駄目なわけないでしょ!」

「オーバードーズって……知ってますか……?」

 

 その単語を聞いて、あたしは思い出した。

 前世、入院していた頃に担当看護師の橘さんから聞いていた世間話が脳裏をよぎる。

 

 薬を過剰に摂取したり、特定の間隔を空けずに飲んでしまったり。

 医者の言う事を聞かず、薬を過信してしまう行為を、人はオーバードーズと呼ぶ。

 

「薬は、用法用量を守らなければ……体調を崩すおそれがあります……。抑制ポーションも、摂取間隔を空けなくちゃ……」

「この状況でそんなこと言ってる場合!?」

「元々……村で感染が広まった場合に備えて……持ってきたんです……。ボクのために使ったら……村の皆さんの分が……なくなっちゃいますよ……」

「だからって――」

「それにボクは……こんな毒なんかに……負けません」

 

 負けない。

 ミュウくんが絞り出した言葉に、あたしは息を呑んだ。

 おそらくあたしについて来なければ、彼から聞けなかったであろう言葉。

 

 後方であたしたちを支える者でありながらも、ミュウくんはあたしたちと一緒に戦っているつもりであったのだ。

 あたしなんかに、影響されて。

 

「ボクはレヴィンさんの……傭兵団みんなのために生きたい。ボクは皆さんが居なきゃ、生きられない……。だからボクは、ボクだけの力で……この毒に……打ち勝ちたいんです……」

 

 でも、無茶だ。

 『マンイーター』の毒針を受けて、克服した例はないとロッソママも言っていた。

 

 気持ちや踏ん張りだけでどうにかできる毒ではないことは、ミュウくんも一番よくわかっているハズ。

 

「そこまでする必要なんて……ないでしょ……」

「ありますよ……だってボクは……レヴィンさんのことが……くぁっ……!」

「ミュウくん!」

 

 ミュウくんの声色がまた苦しいものになっていく。

 抑制ポーションの効果が、いよいよもって消えかかっているようだ。

 

 どうする?

 心頭滅却だ、考えろレヴィン・ゾンネ。

 ミュウくんを『マンイーター』の毒から救う方法は、何かないか?

 

 ――親父が黒光りする尾が特徴的な獅子の化け物に遭遇して、右膝を何かに貫かれたんだ。

 

 ――感染症の可能性を訴えて、俺を逃がしてくれたっきりだ。

 

 あたしはファビアンの証言を、ふと思い出した。

 

 そうだった、奴の毒は感染症の可能性を孕んでいる。

 腫瘍(しゅよう)に直接触れれば、あたしとて感染は免れないだろう。

 

 しかし、あたしには『ソルマドラ』がある。

 

 元々病には強い身体だったが、このマキナと契約してから、あたしは微熱以外の病気にかかったことがない。

 太陽の魔力が体内で循環している副次的な効果、とリテラから聞いている。

 これを応用して、ミュウくんに太陽の魔力を分け与えられないだろうか。

 

 いつものように『気』を練る感覚で、呼吸を整える。

 

 迷っている時間はない。

 ヤーナの影響を受けたつもりはないが、小さな可能性には賭けてみるべきだ。

 目の前で苦しんでいる家族という仲間を救えるのなら、尚更。

 

「あたし、だってッ!」

 

 自分のマキナを解放(リリース)せずに、身体全体を太陽の魔力で循環させる。

 その状態のまま、あたしはミュウくんの身体を抱きしめた。

 

「レヴィンさんっ!?」

「あたしだって、負けない。こんな毒なんかに、あたしの家族を奪わせない!」

 

 あたしのむき出しの腹筋が、ミュウくんを蝕む腫瘍に触れる。

 不思議と、そんなに痛みはなかった。

 循環させている、太陽の魔力のおかげだろうか。

 

「こんなことしたら……レヴィンさんまでっ……ああっ……!」

「いいのよ、ミュウくん……一緒に勝とう。生きて帰るために……!」

 

 ミュウくんの悲痛の声が耳元で響くたびに、あたしは筋力を制御して、優しく抱きしめる。

 

 どれだけの時間、こうしていただろう。

 いつの間にかあたしの意識は、闇に落ちていった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ふと寒気を感じて、目が覚めた。

 ここは、洞窟か。

 当然だ、覚えている限りでは一歩も外に出ていないのだから。

 

 ミュウくんを抱きしめたまま、あたしは眠っていたのか。

 地味に辺りが暗いような……。

 

 そうだ、ミュウくん。

 咄嗟にあんなことをやってしまって、彼は無事だろうか。

 

 慌ててミュウくんをゆっくり解放する。

 まず確認したのは、腹部だ。

 毒の腫瘍はどうなった?

 

「やった……!」

 

 あれだけ見るに堪えなかった忌まわしき毒は、ミュウくんの腹から綺麗さっぱりなくなっていた。

 暗がりでもなぜか冴えている眼が、彼の生きた姿を捉えている。

 

 リラックスできたのか、いい顔色で寝息を立てているミュウくん。

 奇跡的に、乗り越えられたようだ。

 あたしの判断で。

 

 眠りに落ちる前にあれだけ泣いたのに、今度は嬉し泣きしそうになる。

 でも涙をこぼすのは後にしたい。

 なぜならば――。

 

「遅いわよ。やっと来てくれて助かったわ」

 

 徐々に迫る四つ足の音。

 自分が撃った毒の臭いを辿ったのか。

 それとも、この洞窟が巣穴だったのか。

 

 洞窟の外に佇むは、『マンイーター』と呼ばれし人喰い魔獣の『王』。

 

 待ちくたびれた。

 さあ、仕返しをさせろ。

 ミュウくんが受けた痛みの分まで。

 

 外は月夜だというのに。

 奴に一発分与えられるだけの魔力が残っていることを、あたしは神に感謝した。

 

 これは言葉の綾である。

 二柱の変な神様しか、あたしは知らないのだから。

 

 右の篭手のみ『ソルマドラ』を解放(リリース)して構え、続いて拳に太陽の魔力を込める。

 夜更けに、小さな太陽が輝いた。

 

「『我流ライジングアーツ、ブレイク・フィスト』」

 

 静かな怒りが紡ぐ詠唱。

 激しき太陽の一撃。

 

 不意打ち気味に拳を額に受けた『マンイーター』は、立派な毒の尾をあたしに振ることなく、吹き飛びながらその姿を焼かれ、大粒の魔石を残して消えていった。

 

「……おなか……空いたな。ミュウくんの分もお肉……狩っておかなきゃ……」

 

 結局あたしは魔力切れで、二度寝した。

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