太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七十三話 「もっと、その恩に報いたくて」(6)

 何度も浴びたことがある朝の光に照らされて、あたしは目を覚ました。

 見覚えのない天井だった。

 

「あれ……ここは……?」

 

 拠点のあたしの寝室と間取りは似ているが、なぜか窓の傍に草を生やした植木鉢がある。

 匂いからして、何かのハーブだろうか。

 それこそ薬の調合に使うような――。

 

「そうだ、ミュウくんは!?」

 

 思い出した。

 あたしは確かミュウくんの毒を抑えようと抱きついて、起きたら『マンイーター』がいたから撃退して、それで……。

 

 なぜこんなところで寝ているのだろう、知らないベッドで。

 謎に答えるかの如く、部屋のドアが開かれる。

 

「あっ、起きてたんだ。ご飯、食べられそ?」

 

 三角巾を頭に巻いた、二十代前半くらいに見える女性が、カップが乗ったお盆を持って出てきた。

 

 いや、マジで誰なんだろう?

 まさかあたし、この人に助けられたり?

 

「えっと、大丈夫ですけど」

「そっかそっか。服はそこにアタシのお古置いてるから、平気そうなら着替えて降りてきてよね」

「服……ゲッ!?」

 

 気付くのが遅れてしまった。

 あたしは生まれたまんまのスッポンポンで寝ていたらしい。

 おかしいな、ますます謎が深まってしまったぞ。

 

「いやぁ、惚れ惚れする筋肉美でしたなぁ。ファビアンもキミぐらい鍛えとけば見直しちゃうのに」

「何であたし、こんな……えっ? 今ファビアンって言いました?」

「あれ、ファビアンから聞いてない? アタシのこと。傷つくなぁ、付き合ってる身としては」

 

 ファビアン……付き合ってる……。

 もしかしなくてもこの人はまさか、野営した時にファビアンとミュウくんの会話に出てきた、あの。

 

「もしかしてテレジアさん、でいらっしゃる?」

「正解! 話は大体聞いてるよ。ウチのなっさけないカレシがお世話になりまして」

「じゃあここって――」

「村の薬屋、その客間だね。アタシは牧場やってるんだけど、ファビアンの頼みでずっとキミのこと看てたんだ」

 

 そうだったんだ、そりゃありがとうございます、とあたしが会釈すると、いいってことよ、とテレジアさんはドヤ顔で返した。

 

「お仲間さんはもう下で待ってるから、早いとこ元気な姿見せてやんなよ」

 

 テレジアさんは、お盆に乗せていたカップをあたしに手渡して声を掛けると、お盆を持って部屋を出ていった。

 

 なんだか、ファビアンが肝っ玉母ちゃんと評するのもわかる。

 あたしというかラグナ族を怖がる様子がなかったし、意外とグイグイ行けるコミュ強なのかも。

 

「同年代の男を勘違いさせやすいタイプね」

 

 そんなどうでもいい推論を呟いて、あたしはカップのハーブティーを飲み干した。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 服を着てリビングに降りると、ジークがファビアンのテーブル向かいに座って、スライスしたパンにブドウっぽい色のジャムを塗っている光景が映った。

 ジークの隣にはヤーナが座っており、壮年の女性と何か会話を弾ませている。

 

「おう、随分とお寝坊さんじゃったな」

 

 階段の手すりでくつろいでいたリテラが、あたしを見るなり声をかけてきた。

 随分と気分が良さそうな声色だが、あたしまた何かアンタを喜ばせるようなことしちゃった?

 

「あたし、どのくらい寝てたの?」

「二日ほど、じゃな。まったく、心配したんじゃぞ。わしが見つけなきゃ、どうなっておったか」

 

 そうか、眠ってたあたしを見つけて、ジーク辺りがここまで運んできてくれたのか。

 リテラに促される形で、階段を降りていく。

 

「はいはい、ごめんなさいね。そういえばミュウくんは? 洞窟に寝かせてたハズだけど」

「ミュウならお主より先に起きて、村の教会まで赴いておる。ニューとファビアンも一緒じゃな」

「えっ、大丈夫なの? ミュウくん、毒を受けてたハズなんだけど」

「なんじゃ、覚えておらんのか? 全裸で倒れておったから、てっきり神聖に致したパワーで毒を抜いたものと――」

「意味わかんないんだけど」

「恥ずかしがることはない、正直に申せ」

「だから何言ってるのよ」

 

「ヤッたんじゃろ? ()()

 

 ……は??

 交尾? ヤッた?

 全裸ってだけでどうしてそんな方向性に?

 

「わしはな、行為そのものを咎めはせんよ。恋愛は自由じゃからな。しかし、しかしじゃ。これだけは言わせてくれ」

「……何?」

「子を身ごもって母になるのは、世界を救った後にせえよ! 色々と大変じゃからな!」

 

 リテラ、迫真のドヤ顔サムズアップ。

 

 ああ、そうか。

 コイツ何か勘違いしてるんだ、性が芽生えた中高生男子の如く。

 ドデカイため息をつきたくもなる。

 

「なっ、何じゃその態度は!? わしは新たな門出を祝福してやろうと――」

「何も! なかった!」

 

 とりあえず否定したくて声を荒げてしまった。

 

「お、おう……冗談がキツすぎたのう。スマンかった」

「どうせミュウくんから聞いてるんでしょ?」

「まあ、のう」

 

 起きがけに悪い下世話なリテラの冗談を聞かなかったことにして、あたしは薬屋さんの食卓に座る。

 

 木製テーブルの上にはテレジアさんが準備したらしき食パンとベーコンエッグが並んでいた。

 隣に座っていた壮年の女性はファビアンの母だと自己紹介され、テレジアさんや彼女に感謝しながら、あたしはパンにジャムを塗りたくった。

 

「どうやら『マンイーター』の毒は、お主の肌が患部に密着したことで消えたようじゃな」

「『ソルマドラ』と契約してから病気になったことがないあたしなら、もし毒が伝染しても大丈夫なんじゃないかって。まさか綺麗さっぱり毒がなくなるとは思ってなかったけど」

「つまり『マンイーター』が生成する毒の弱点は太陽属性だったというわけですのね。ファビアンのお父様が襲われた時も曇り空だったという話を、先程そちらのお母様から聞いたのですが。日なたを露骨に避ける習性ということに、いち早く気付くべきでしたわね」

 

 ヤーナが会話に混ざって結論を述べる。

 

 あたしが一度起きたあの夜に奴が現れたのは、単に機を伺っていただけだったというのだろうか。

 何にせよ、結局『マンイーター』の推奨ランクが高かったのは、毒を受けた場合の対抗策を過去に挑んだ傭兵が持ち合わせていなかったから、ということらしい。

 

 太陽属性のマキナは相当な貴重品という話を、前に聞いたことがある。

 もしあたしが契約していたのが『ソルマドラ』じゃなかったらと考えると、恐ろしい話だ。

 そりゃレア物を手に入れられなかった傭兵からしたら、理不尽以外の何物でもないよね。

 

 まあ、とにかく運が良かったと考えるべきだろうか。

 

 でも、待てよ。

 ミュウくんの行き先は教会という話だが、そこはおそらく簡易的な隔離病棟として使われているのだろう。

 だったら何故、置き手紙なり何なりして、あたしを頼ろうとしないのか。

 

「あっ、そういえば……!」

「ん、ろうひふぁむぉふぁ?」

 

 どうしたのだ、と言ってるみたいだけど、ジークはまず食いながら話をするの、やめようね。

 

「あたしたち、まず『マンイーター』の尻尾を切ろうって話になってたじゃない?」

「そういえばそんな計画ありましたわね」

「あたし、毒の尻尾ごとアイツを跡形もなく魔石にしちゃった……」

「まあ、薄々は察しておったぞ」

「ミュウくんに毒針を刺した、当然の報いですわね」

「マダム、スープのおかわりを頂けないだろうか?」

「はいはい、村を救ってくれたんだから、たんと食べておくれ」

「えぇ……? あたしとんでもない失敗しちゃったのに、呑気すぎない?」

 

 空気からして猛毒を受けた患者の親族が広げる食卓としては、明るすぎる。

 天使が舞い降りて奇跡を振り撒いた、と言われた方が信じられるレベルだ。

 

「アイツの尻尾が残ってなきゃ、解毒剤すら作れないのよ!?」

 

「それなら大丈夫ですよ」

 

 玄関のドアが開けられた音と共に、聞き慣れた少年の声が耳に届く。

 ミュウくんがグラウを頭に乗せ、ニューとファビアンを連れて帰ってきたのだ。

 他所様の家だから帰ってきたって表現は間違ってるかもだが、それくらいの安心感があったってことでひとつ。

 

「ミュウくん!? 教会に行ってるって聞いてたけど――」

「毒が伝染(うつ)った村の人たちを診てまして。ようやく一段落つきました」

「それにしてもつっかれたなぁ。おばちゃん、メシあるー?」

「俺の家だってのに図々しいな、ニューは」

 

 ファビアンやニュー同様に、ミュウくんもお疲れの表情。

 病み上がりだというのに、毒に侵された患者を診察してたって、無茶しすぎでしょ。

 

「というか、大丈夫ってどういうこと?」

「血清療法って、ご存知ですか?」

 

 あ、それなら確か、前世で医者の人が話してたのを聞いたことがあったっけ。

 

 血清療法とは、毒に侵された人に、同種の毒に強い抗体を含めた血清を投与することで、解毒が可能な治療法である。

 要するに、抗体の量を増やすことにより、免疫力を高めさせて毒を治す、ということ。

 

 独学で治療師を目指しているとは聞いていたけど、そんな医学知識までかじっていたとは予想外だった。

 

「ボクの身体が毒を乗り越えたので、やらない手はないと思ったんです。抑制ポーションで症状を抑えてから、抗体入りのボクの血を投与して、更に治癒術式を使った免疫力の促進。結構大変でした、ね……」

 

 ミュウくんの片膝が曲がり、上体のバランスが崩れる。

 すかさずあたしは席を立って、ミュウくんを支えに入った。

 

「すいません、ちょっと貧血気味で……」

「まったく、また無茶して。やった事は充分偉いけど、身の丈に合わない無茶は駄目よ。心配するじゃない」

「でも、今のボクがあるのはレヴィンさんのおかげですから。もっと、その恩に報いたくて」

「だからって村人救うのはやりすぎよ。この村に救世主の銅像が建っちゃったら、ミュウくんの責任だからね」

「あはは、そりゃないですよ――ふぁっ!?」

 

 そのミュウくんの相変わらずな献身っぷりが、いじらしくて、くすぐったくて。

 あたしは無意識に、ミュウくんを抱き上げていた。

 お姫様抱っこ、前にもファビアンでやったけど、一般男性に比べれば羽みたいに軽いや。

 

「とにかく、疲れたらご飯ね。王都に帰ったら、背中流したげる」

「い、いえ! それはさささささ流石に!」

「うるさい。たまには存分に労わせなさいよ。今回の一番の功労者なんだから、ね」

 

 不思議と、声色が優しくなってしまった。

 だってしょうがないじゃない。

 実は一番の働き者な可愛い弟分を、柄にもなく褒めちぎりたくなったんだから。

 

 ミュウくんがあたしの腕の中で恥じらったりジタバタしている。

 もしかしたらあたしが求める異性像って、こういう可愛い弱みを見せてくれるような、守らねばならぬと思えるような男なのではないだろうか。

 

 そう錯覚してしまうほど、この少年が愛らしく見えてしまうのだった。

 

「は? 至福か?」

 

 ちなみにリテラはそんなあたしたちの光景を見て遺言を残し、尊みから気絶したのだとか。

 いや、尊みで気絶ってどういう状況?

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