太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
物事には硬貨のように、表と裏がある。
見た目麗しき派手な光景の裏に、いくつもの犠牲があるように。
ヤーナ・シェーファーという、シスターな服を着ながら金と博打を愛する変な女は、あたしたちギラソール傭兵団の中で、最も裏の世界に縁がある。
金の善し悪しに妙なこだわりを持ち、おまけにマキナを自作する天才的頭脳がありながら、彼女はなぜ賭博に夢中なのだろう。
あたしは彼女の裏側を、ほとんど知らない。
※※※
それは傭兵団みんなで指定した、週に二日のとある休日でのこと。
あたしはなぜか、熱狂渦巻く観客と共に、馬のレースを見ていた。
「最終直線ですわ! 行けぇーっ! 差せぇーっ!!」
隣で騒ぐヤーナのテンションはレースの最終局面に差し掛かった途端にぶち上がり、あたしをドン引きさせる。
要はあたしだけが座席に座って行儀よく観戦している状態。
ここは王都グナーデンの南東に位置する風俗街にほど近い、競馬場。
そう、競馬場である。
我が拠点があるワルド区の南隣、ラガー区の施設の一角であり、この区画は特に金の回る店や建物が集中している。
夜に賑わう風俗街がその代表格ではあるが、金の回りが良いのはそこだけとは限らない。
この競馬場のように、貴族の娯楽として建てられた
まさにヤーナのようなギャンブラーにとっては、ホームグラウンドと言えるだろう。
なので彼女のこんな光景も、このラガー区の日常茶飯事である。
「だああああっ! 差せなかったあああああ!!」
大声で泣き崩れるヤーナ。
もはやただの紙となった馬券を床に叩きつけて、靴底で踏みにじる。
また負けてしまったようだ。
ヤーナのギャンブルスタイルは、総じて大穴狙い。
そんなに彼女がギャンブルしているのを見たことがないのに、見慣れた光景だと錯覚してしまうほどの負けっぷりである。
本日のレースは終了、という旨のアナウンスが流れて、あたしは駄々をこねる子供のように喚き散らすヤーナを、無理矢理競馬場の外まで引きずり出すのだった。
※※※
競馬場を出て、遊技場が乱立する通りを歩いていくあたしとヤーナ。
案の定、大敗したヤーナはご立腹だ。
「まったく、今度こそはと思ってましたのに」
「アンタの悪いクセよね。最低人気の馬に賭けるの、もう止めたら?」
「レヴィンさんは競馬のことを何もわかっていらっしゃらないご様子。いかに馬場が良くても、いかに馬の体調が良好でも、何が起こるかわからない。一番人気が順当に勝つ出来レースよりも、先の見えない奇跡が見たい。他のギャンブルにも言えますが、アタクシたちは浪漫を見たくて賭けているんですのよ」
「わかりたくない浪漫だことで。じゃあ、何であたしを無理矢理連れてきたのよ? その浪漫ってのを見せたかったわけ?」
「それはそれ、なにかと悪運の強いレヴィンさんを側に置いておけば、当たる確率も上がるものかと」
なんじゃそりゃ。
ソシャゲのガチャを他者に回してもらったら最高レアを引き当ててくれた、ってレベルの都市伝説を過信するぐらい、無駄にも等しいやり方じゃないの。
ギャンブルにはまるで無知なあたしだが、不毛だと感じるくらいには現実を見ているつもりだ。
だからこそ今日は鍛錬しつつ悠々自適に過ごすつもりだったのだが、ご利益のある置物みたいな扱いをされるのは、流石に時間の無駄だろう。
「はいはい残念でしたね、バッドラックで。あとはひとりで頑張ってちょうだい」
当然あたしは適当な態度で帰ろうとするも、ヤーナはあたしと同レベルくらいに諦めが悪いので、何かを催促するように手を差し伸べた。
「なによ、その手?」
「軍資金が底をついたので、貸していただけます?」
クズギャンブラーの極み。
あの不人気馬に一体いくらつぎ込んだというのか。
都合のいい時だけ仲間を、しかも団長のあたしを財布代わりにしようとする。
ホント、大した根性ですよ。
アンタは裏の世界で何を学んできたんだ。
「うおっ、あからさまに嫌そうな顔でビックリしましたわ」
「こうもなるっての。傭兵団全体の金銭管理はきちんと出来てるのに、どうして自分が遊ぶ金は管理できないのよ?」
「アタクシが使うお金なのですから、当然アタクシの自由に使われるべき。その自由の裁量でお金が膨らむのであれば、これ以上の至福はありませんわ!」
「理解してる上で敢えて狂ってる感あるわね……」
「無論借りたお金は二倍、いや十倍にしてお返し致しますので、何卒ご容赦の程を!」
「やめなさいよ、そのダメ人間特有の謳い文句! 増えないことは目に見えてるし、次の依頼まで我慢しなさいっての!」
「そんな、ご無体な! アタクシはこの休暇のために傭兵をやってますのよ! 自身の心が満足する休暇でなければ意味がありませんわ!」
「知ったこっちゃないわよ! 大体アンタは――」
ああ、もう。見た目だけなら聖女と呼べなくもないのに、ヤーナという女はどうしてこうもクセが強すぎるのか。
あたしの堪忍袋の緒が切れそうになった、そんな時だった。
ドアを蹴破るような音と共に、下着姿の女性が目の前を転がって倒れてきたのは。
「えっ、ウソでしょ……?」
ふと、女性が飛ばされたのとは逆の左を見る。
かつて扉があったであろう空間には、ノースリーブの燕尾服を着たマッチョマンが立ちふさがっていた。
そこから視点を上に向ければ、光の精霊をあちこちに飾り付けたライトアップと、『ザムフ』と読める看板。
おそらくはここも、遊技場のひとつなのだろう。
倒れた女性はその入口から追い出されたと考えれば、大体の察しはついてしまう。
ショッキングピンクの短髪を揺らして、起き上がった下着姿の女性はマッチョマンに向けて怒鳴った。
「最低のゴミクズ野郎め!」
「賭けに負けたのはそちらだ。当然の結果だろう」
対するマッチョマンは動じることなく返答する。
仕事人のような淡白な口調ではあったが。
「アタイは絶対に認めない! アレは絶対にそっち側のイカサマだったろ!」
「俺はただの用心棒だ。ディーラーが何をしようと俺の知ったことではない。仕事の管轄外だからな」
「ああ、そうかよ! だったら支配人に伝えとけ! いつかテメーから負けた分を取り返してやるってな!」
「そのつもりなら、伝えておこう。負け犬の遠吠えをラングハイム様が素直に聞いてくれるかは知らんがな」
仕事を終えたとばかりに、マッチョマンの用心棒はきびすを返して施設の中に戻っていく。
残された女性は拳を地面に叩きつけ、行き場のない怒りを露わにする。
「クソッ! クソがあァッ!」
あたしは目の前の女性を悔しそうだなぁ、と感じつつも、ここが王都の裏を象徴するラガー区であるということを照らし合わせれば、彼女の自業自得ではないか、なんてことを考えてしまう。
しかし、ただ関係ないというだけで無視してしまうのも、違う気がしてきた。
マントを脱いで、彼女の肩にかける。
無意識のうちにやった行動とはいえ、我ながら厄介な性格になってしまったものだ。
これはさっきのイカサマの話が気になって仕方なく、と心の中で言い訳しておこう。
「ん? アンタは――」
「往来じゃ下着は目立つでしょ。貸したげる」
「同情のつもりかよ?」
「ウチのリーダーがお人好しなだけですのよ」
「こんなトコにとんだ物好きが居たモンだな……。ん?」
ふと女性は、あたしの後ろにいるヤーナに顔を向ける。
「お前、その賭場に似合わぬ清楚っぽい佇まい……。『大穴狂いのヤーナ』か!?」
「アラ、そう言うアナタは『意地汚いジャスミン』じゃございませんの」
「悪い印象しかない二つ名はともかく、知り合いだったの?」
「成人したてでラガー区に通っていた辺りからの腐れ縁と申しましょうか。率先して噛ませ犬になってくれる良いお友達ですわ」
「ダチの定義が狂ってるのも相変わらずだな、オイ」
果たしてそれは友人の関係性なのだろうか?
まあ、あまり詮索しない方があたしのためだろう。
これ以上ヤーナの悪いところを見てしまったら、道端で嘔吐してしまいそうだ。
「風の噂で勇者とやらの傭兵団に入ったって聞いてたんだがな、お前のことは」
「今日は休暇でここに来ただけですから、依頼は受け付けませんわよ」
「そもそも身ぐるみ剥がされたから、たとえお前に依頼しようとしても、依頼料払えねえっての」
「それマジで言ってますの? ピョンピョン跳んでみなさいな。もしかしたら隠してた硬貨が出るかもしれませんわよ」
「やめなさいっての。イジメっ子かアンタは」
ひとまず喧嘩しそうな流れをツッコミでぶっ叩いて、このジャスミンがなぜ身ぐるみを剥がされたのか、事情を聞きたくなった。
イカサマと聞けばあたしも、無論ヤーナも黙っちゃいられないしね。
「とりあえず、落ち着いた所で詳細を聞きたいわね。ヤーナはこの辺詳しいんでしょ? どこか良い喫茶店とか知らない?」
「えっ、マジでコイツの助けになる気ですの? 相当なロクデナシですわよ」
「おぉっと、盛大なブーメラン発言」
もうこれ以上ツッコませるんじゃないわよ、話が進まない!
「とにかく、アンタだってイカサマは許せない
「悪い、お金……」
顎に手を当てて考え込む仕草を見せて、ヤーナは『ザムフ』の看板を見上げた。
あたしの所感ではあるが、ヤーナ・シェーファーという女は、悪い人間ではない。
ギラソール傭兵団に加入した理由こそ私欲まみれであったものの、意外にジークと同じくらい物分かりが良く、あたしを信頼してくれている。
神ではなくお金を信奉しており、ギャンブル以外で人道に背くようなお金の使い方はそれなりにしていない。
良くも悪くも、真面目に不真面目な女。
そんな彼女が、イカサマで金を巻き上げる行為を善とするか悪とするか。
答えは、すぐに出た。
「そのような言い方をされては、首を突っ込まざるを得ませんわね」
「ヤーナ、お前……」
「さあ、こっちですわ。アタクシの行きつけは、フルーツサンドが絶品ですのよ」
まるで楽しそうな玩具を見つけたような笑みを浮かべて、ヤーナはすたすたと歩き出した。
ジャスミンの事情を聞く気になったらしい。
呆気に取られた顔をして、ジャスミンはヤーナの後ろ姿を見つめていた。
「アイツ、何か悪いモンでも食ったのか……?」
「元々自分に正直なだけだと思う、良くも悪くも」
やっぱり周りの印象が悪すぎるわね、ヤーナの奴。
フォローする身にもなれっての。