太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七十六話 「運命は、アタクシの手の中にあったようですわね(3)」

 日の沈んだラガー区に、色とりどりの明かりが灯る。

 透き通るようなガラスを被せた魔導具の中で、光の精霊があまねく人々を照らし出す。

 

 金を持つ者のあらゆる欲望を受け止める場として、ラガー区が風俗街としての真の姿を表す時間。

 あたしは今、件のカジノ……『ザムフ』にいた。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「このバニースーツ、腕と脚を邪魔しないデザインで助かったわ。恥ずかしいことに変わりはないけど」

 

 あたしは更衣室でジャスミンと共に、媚を売るためにあるような()()に身を包んでいる。

 

 別に突然借金背負って働かされている、なんてバックボーンはない。

 カジノの新人従業員として潜入、ただそれだけの理由でここに居る。

 

 本当はこんな恥ずかしい服なんて着たくはないのだが、ヤーナによって消去法で潜入係に選ばれてしまったのだから仕方ない。

 ジークは事態をかき乱しかねないし、ヤーナは作戦の要、双子は大人の社交場に行ける歳ではない、となればあたしに矛先が向くのは当然の摂理であった。

 ミュウくんからは『潜入にはフィジカルも重要だから最適』みたいなフォローを頂いたけど、どうもスッキリしない役回りである。

 

 それでも悪事を砕くためには、切り替えねばなるまいて。

 入院前に見たことがあったスパイ映画みたいだと、前向きに考えよう。

 まあ相手は小悪党だからスケールは小さいけど。

 

 ちなみにジャスミンは案内役としてあたしについて来たのである。

 連絡用の魔導具『念話通信器(ヴィントリーファン)』も彼女に予備の物を渡しておいた。

 

「うわっ。見事に浮き出てんなぁ、バキバキの腹筋」

「ディーラーの服なら隠せたんだけどね」

「隠す必要ねえだろ、立派な筋肉なのに」

「あたしは自分の目的のために鍛えてるだけだし、あまり見せびらかしたくはないから」

「見せモンじゃねえぞ、ってか?」

「見せられたモンじゃないのは確かだけど、第一印象で怖がらせちゃうのが嫌で……」

「苦労してんだな……。んじゃ、用意ができたなら支配人のトコ行こうぜ」

 

 無論ジャスミンもバニースーツ着用。

 胸元が若干寂しいサイズ――小振りなだけでジークと同レベル――ではあるが、別にこのカジノの収益を上げるのが目的じゃないし、気にしなくてもいいだろう。

 

 更衣室を出て、貴族の施設らしく自己顕示欲が丸見えなギンギラ照明を浴びた廊下へ。

 

 支配人の部屋まではジャスミンが案内してくれる。

 イカサマ抗議の際に一度そこに連れ込まれたことがあるんだとか。

 

「まったく、こんなのを着てから面接に来いだなんて。ここの支配人、いい趣味してるわよ」

「同感。何でも自分の手に収めなきゃ、満足しないタイプなんだろうな。ちょっとしか話したことないけど」

 

 決めつけはよくないとわかっているのだが、絵に描いたような悪徳貴族であって欲しいというのが正直なところ。

 あたしが後腐れなく殴れるようなヤツでありますように。

 

 ふと、前を歩いていたジャスミンの足が止まる。右手に見えますは扉。

 どうやらここが支配人の部屋らしい。

 ジャスミンが扉をノックしようとした、その時。

 

「新人くんだね? ノックは必要ない、入りたまえ」

 

 (いか)ついバリトンボイスが、扉の向こうから聞こえた。

 

「ウソでしょ? 扉の向こうのあたしたちがわかるなんて」

「多分アレで見えてんだな」

 

 ジャスミンが指差した扉の上には、目玉のような装置が備え付けられていた。

 おそらくは、防犯カメラのような魔導具。

 見てくれこそ趣味が悪いが、アレで外のあたしたちを認識したのだろう。

 カジノの方にもアレが備え付けられているとしたら、色々とやりにくそうだ。

 

「なるほどね。失礼します」

 

 扉を開けて、支配人の領域へ踏み込む。

 

 まず、絨毯(じゅうたん)が上質だった。

 加えて、大きい鹿の剥製(はくせい)が目に留まる。

 扉の側には観葉植物の植木鉢。

 

 この貴族はやはり駄目だ、と直感が告げていた。

 いくら最近成り上がってきた伯爵様とはいえ、剥製を目立つ場所に飾るような貴族なんてロクな人間じゃない。

 自己顕示欲の象徴って感じね。

 

 視線を下ろすと、口元にチョビ髭をたくわえた中年男が、ふんぞり返って椅子に座っていた。

 彼がダニエル・ラングハイム伯爵のようだ。

 

「ようこそレディ。通達どおりに制服を着てくれたね」

「動きやすくて良いですね、これ」

「そうだろうそうだろう。おまけに客も喜ぶ!」

「それはようござんした」

 

 呆れて物も言えない、という顔になるジャスミン。

 ちょっと、潜入中なんだからちゃんとしなさいよ。

 

「では改めて。私が『ザムフ』支配人のラングハイムだ」

「ジャスミン・ケーラー」

「アリナ・ヴォルフです」

 

 ジャスミンの方は本名を名乗ったが、あたしは偽名。

 レヴィン・ゾンネの名は、『勇者勲章』を授与された傭兵として王都中に知れ渡ってしまっている。

 当然身分を隠して潜入する必要があり、悟られないためにも偽名を名乗る必要があった。

 

 ちなみに元ネタは、我が愛しき格ゲー『ライジングナックル』シリーズに登場するコマンドサンボ使いの名前。

 強かな女性エージェントであり、主人公のレントとは恋仲になるかならないかの絶妙な距離感を未だ保っているのだが。

 

 閑話休題。

 とにかく自分が覚えやすい名前を名乗っただけと言わせてもらおう。

 

「ついこの間まで客だったジャスミン君はともかく、アリナ君だったか。キミはどうしてここで働こうと?」

「もといた集落を追い出されまして、ここに流れ着いたんです。お金を貯めるために働き口を探そうにも、あたしがラグナ族だからって、どこも受け入れてくれなくて。そしたらそこの彼女が、ここを紹介してくれたんです」

「平たく言えば難民だよ」

 

 まあ、嘘なんだけどね。

 潜入しようにもバックボーンがなきゃってことで、ヤーナが適当に考えてくれたというわけ。

 

「なるほど、キミを見誤っていたようだ、ジャスミン君」

「あん?」

「賭け金を全てなくしたおかげで真面目に働く意欲が出てきたどころか、アリナ君のような難民に手を差し伸べるとは」

「べ、別にそんなんじゃねえし」

 

 勘違いするなよ、って?

 まあジャスミンもアウトローだし、目当ての奴隷を買うためにギャンブルしてたなんて人情味のある自分は、不用意にさらけ出せないわよね。

 

「さて、制服を着てもらった辺りで察しているだろうとは思うが、両名共に従業員として採用とする」

「マジかよ」

「人手不足なんですか?」

「それもあるが、ちょうどキミらのようなマニア受けする人材を探していてね」

 

 ま、マニア受け……!

 褐色肌と筋肉質な身体は確かにそうかもしれないけど、少し心が傷ついてしまった。

 

「常に新規開拓せねば埋もれる業界だ。カジノを存続させるためにも、よろしく頼むよ」

「そ、そりゃあもう……」

「ベック!」

 

 ラングハイムが唐突に指を鳴らす。

 数秒もしないうちに、あたしたちが入ってきた扉からノースリーブ燕尾服のマッチョマンが入ってきた。

 彼には見覚えがある。このカジノからジャスミンを追い出した男だ。

 

「支配人、如何されました?」

「このふたりを職場まで案内してやってくれ」

「わかりました。こっちだお前たち、ついて来い」

 

 ベックと呼ばれたマッチョマンが、あたしとジャスミンを誘導する。

 支配人室を出る前に、見られていないことを祈りつつ、あたしはさり気なく植木鉢の中に、とある小物を落として仕込んだ。

 

 その小物とは、ヤーナが作った魔導具のひとつ、『風導蓄音器(ヴィントリーレック)』。つまりは魔法のレコーダーである。

 

 ――リテラ様の情報が正しければ、本日は会談の予定が入っているとのこと。アタクシは、会談の相手が横流し先の人物である可能性に賭けますわ!

 

 などとヤーナは作戦会議で言っていたが、果たしてそう上手く事が運ぶのだろうか?

 半信半疑ではあるが、これも合法的ジャッジメントの一貫。

 どこかでボロが出る、くらいの線に賭けておこう。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 王城ほどではないが豪華な廊下を歩くあたしたちに、先導していたベックがふと声を掛けた。

 

「ジャスミン、まともに働く道を選んでくれて何よりだ」

「ハッ、そりゃどうも。用心棒のベックさんよぉ」

 

 とても不機嫌そうにジャスミンが頭を掻く。

 当然のことながら、ベックとジャスミンの仲は良好ではないらしい。

 

「わかっているとは思うが、キミ達の役目はお客様の注文通りに飲み物を運んでやることだ。最初はディーラーの真似事をする必要はない」

「無理せず定食屋のウェイトレスくらいに留めておきなさい、ってことね」

「ま、しょうがねえか」

 

 大方、ルーレットやらの機材に仕掛けたイカサマがバレないための措置、ってところだろうか。

 まず新人に専門的な機材は触らせない、というスタンスはどの職場でも当たり前にあるので、当然ともいえる。

 

「それとアリナ・ヴォルフ、だったか。キミはマキナユーザーだろう?」

「まあ右手の魔法陣でバレてますよね。それが何か?」

「この腕輪を身に着けておけ」

 

 ベックが服のポケットから鈍色の輪っかのような道具を取り出した。

 はて、初めて見るのにどこかで見たような質の腕輪だ。

 

「『魔封じの腕輪』だ。カジノの中でマキナを使われては、かなわんからな」

 

 なるほど、既視感ある見た目だったわけだ。

 王城の牢屋で、マキナユーザーの拘束に使われていた枷と同じ効果の腕輪ということか。

 つまりこのカジノで、『ソルマドラ』を解放(リリース)できない。

 

 でもこのくらいは許容範囲だ。

 そもそも最初から使う予定はないしね。

 

 あたしはベックに渡された腕輪を右手首に装備する。

 

「そこまで用心しなくても、お客さんを焼いたりはしませんよ」

「どうだかな。俺は蛮族の言い分を信用していない」

 

 王都の中では場末のカジノでも、ラグナ族差別意識は健在、か。

 国に勇者認定されたっていうのに、イメージアップ戦略は空振り続きのようである。

 エメルが女王に即位したあの宴で、恥ずかしい思いをした甲斐がまるで無いじゃない。

 

「なるほどね。当然、客がマキナユーザーでも同じってことですか」

「そう思ってくれていい。着いたぞ、お前たちの担当はここだ」

 

 大扉の前でベックが足を止め、扉を開ける。

 

 カジノ『ザムフ』、その中核。

 シャンデリアが照らす奥行きのある広間に、あたしたちの職場はあった。

 両脇をスロットマシンやルーレット台で囲まれた、いわゆるフルハウスルーム。

 客にドリンクを渡すためのカウンターバー。

 

 そして広間の中央にあるのは、いくつもの管が伸びている、巨大な鉛色の卵。えっ、卵!?

 ベックに先導されている途中、一際目立つそれに違和感を抱いたあたしは、彼に質問してみる。

 

「ベックさん、何アレ……?」

「気にするな。ただの大掛かりな空調魔導具だ」

 

 大雑把にはぐらかされた。

 そうなると、イカサマの鍵はあの卵な魔導具なのだろうか。

 とはいえ、詳細が不明な今は壊すと面倒なことになりそう。

 様子見様子見、と。

 

 あたしの顔色を気にする様子もなく、ベックの先導は続く。

 ジャスミンと共に、カウンターバーまで辿り着いた。

 そこにはひとりの男が、バーテン服を身に着けてグラスを拭いていたのだが。

 

「ジャガー、新人を連れてきたぞ」

「やれやれ、最近は人員の入れ替わりが激しいこったな」

 

 ニヒルという言葉が似合うスラッとした悪人ヅラ。

 ベックからジャガーと呼ばれたこの男には見覚えがある。

 

「バーテンダーのジン・ジャガーだ」

 

 そう、リバー・イーグルやカール・ベアとブランロート傭兵団を組んでいる、あのジン・ジャガーであった。

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