太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七十七話 「運命は、アタクシの手の中にあったようですわね(4)」

「ゲッ!?」

 

 いきなり顔見知りがバーテンとして現れたので、思わず声を上げてしまうあたし。

 当然ジンもあたしの顔を知っているので反応せざるを得ない。

 

「ん? オイオイ、こんなトコで何をやっているんだ、レ――」

 

 おのれ想定外(イレギュラー)め。ここで本名をバラされては不味い。

 彼を認識した時点で、既にあたしは動いていた。

 

 両手を勢いよく叩く。

 小気味良い音と風圧が辺りに伝わった。

 

「……ど、どうしたんだよアリナ?」

「ご、ごめん。羽虫飛んでるのが見えちゃって、反射的に……」

「う、うむ。営業終了後に虫除けを撒くよう、清掃担当に伝えておこう」

「まったく、ビビらせやがって……」

 

 ジャスミンもベックも驚いちゃったけど、どうにかジンからの本名バレを誤魔化せたぞ。

 

「どうやら顔見知りらしいが、だからといって指導に容赦はするなよ。俺は自分の管轄に戻っているからな」

 

 そうジンに忠告して、ベックはカウンターバーから去っていった。

 ジンはといえば、勘弁してくれとでも言いたそうな顔であたしを見ている。

 

「な、なによ?」

「いや、アンタでもこういうのを着るんだなって思っただけさ。他意はない」

「好きで着てるんじゃないけどね……。ただの貧乏クジってヤツ」

「フッ、その貧乏クジには感謝しなきゃな」

 

 出たわね、スレスレのセクハラ発言。

 

 このジン・ジャガーというニヒル男、ブランロート傭兵団もとい三馬鹿の中では一番の切れ者としてギルドの間では有名である。

 その一方で主に女性が絡んだ場合の素行の悪さは評判となっており、ギルドの女性職員や女傭兵をして『女の敵』と満場一致で批難されるほどなのだという。

 

 いわゆる浮気性が服を着て歩いているような男、などとかつてブランロート傭兵団を助っ人したことがあるヤーナから、いつだったか聞いていた。

 

「で、だ。アンタの証言を信じるなら、ここに本名を伏せてまで働きに来た理由ってのを聞いてみたいね」

「あたしとしては、アンタがここに居る理由の方が気になるんだけどね」

「傭兵の仕事ってのはピンキリなモンだ。だからこそ依頼が貼られてない時は、こういった副業の必要性も出てくる」

 

 棚からボトルをふたつ取り出してカウンターテーブルに置いたジンは、予め置いてあったシェーカーにボトルの液体を入れつつ、建前としか思えない台詞を吐く。

 

「オレは趣味と実用性を兼ねたこの仕事が気に入っててね。採用してくれたラングハイム伯爵には感謝してるよ」

「趣味と実用性、ねぇ……」

 

 どうやらジャスミンにもジン・ジャガーの人となりが伝わってしまったようで、呆れ顔である。

 あたしもなんとなく察してしまう。

 この男、もしかしなくてもバニーガール目当てでバーテンダー始めたな、と。

 

 カクテルをシェイクする様も堂に入ってるようで、こんなスキルも女を引っ掛けるために身につけたのかな、などと勘繰ってしまう。

 

「申し訳ないけど、単純な下心で続けるくらいなら、他のバーに移った方がいいわよ」

「なんだと?」

「きちんと話を合わせて欲しいから話すけど、実は――」

 

 副業中の傭兵とはいえ、ピンチを救ってもらった借りもある以上、敵に回したくない。

 

 あたしの恥ずかしいバニーガール姿を見てしまった以上は、こっちの事情に巻き込んでしまえ、という半ばヤケクソな心持ちでジンに今回の計画を打ち明けることにした。

 無論、人目もあるので小声で。

 

「ふむ、なるほど。オレの楽園を駄目にしようって魂胆なんだな」

「少なくとも大金が動いてる時点で、楽園とは言い難いけどね」

「そもそもアンタのカジノじゃねえだろ、ココは」

「まあそう言われればそうなんだが、参ったね」

 

 欲張りの勘違いはともかく、一度はしかめっ面を見せたジンではあったが。

「そっちの都合だっていうなら、口裏は合わせておいてやるよ」

「あら、意外に協力的」

「元々、『ザムフ』自体を怪しんではいたからな。実際来てみりゃ、結果は案の定だ。どうも虫が好かねえ」

「もしかして、アンタも持ち金を巻き上げられたクチかい?」

「絶景は眺めるだけならタダだと教えられたまでさ」

 

 露骨に煙に巻いた表現を使うジンの頬に冷や汗が光る。

 なるほど、勝負事の最中にハニートラップを仕掛けられたわけね。

 ニヒルって顔しといて、なんと単純な男か。

 

「ところでレヴィンはあの魔導具っぽいヤツについて、何か聞けたのか? オレもアレが気になってしょうがないんだが」

「露骨にはぐらかされた。どう考えても怪しいわよね、アレ」

「詳しい仕組みを知らなきゃ、アイツもどう動いていいかわかんねえだろうな」

「アイツってのは誰のこった?」

「ヤーナよ、外で待機してる。一応アレのこと伝えておこうっと」

 

 あたしは『念話通信器(ヴィントリーファン)』を指で揺らして、店外のヤーナに念話を送る。

 

「あの耳飾り、通信用の魔導具だったのか。よく接収されなかったな」

「ヤーナお手製なんだってよ。あのエセシスター、賭け事以外だと細工師並に器用だからな。アタイにはアイツの頭ん中がわかんねえよ」

 

 ジンとジャスミンが関心している間に、ヤーナへ現状の情報を伝えるあたし。

 カジノの間取り、ディーラーの数、そして肝となる卵型の魔導具。

 そこまで伝えたところで、ヤーナは何かに気付いた様子。

 

《それは帝国製の魔導具ですわね》

《知ってるの?》

《伝え聞いただけですが、特徴は一致しているようですし、間違いありませんわ。その名を『クリストフ・エッグ』》

 

 クリストフって、人の名前……?

 そんなあたしの疑問をよそに、ヤーナは詳細を語る。

 

《『クリストフ・エッグ』といえば、伸びている管を通じた範囲内で、対象物と対象物の位置を入れ替える、置換《ちかん》魔法の術式が組み込まれている厄介な代物。こちら側からすればインチキこの上ないですわね》

 

 置換魔法、か。

 聞いただけだと何の意味があるのか、よくわからない魔法だと普通なら思うだろう。

 

 しかし、あたしのような格闘ゲームを嗜んでいた身からすると、厄介を通り越して害悪と思えてしまう禁術として認識できてしまうのだ。

 

 格闘ゲームの基本は一対一、それぞれ左右に向かい合う形で始まる。

 右向きと左向き、どちらを向いているか。

 位置取りから既に闘いは始まっているといっても過言ではなく、基本右向き時を想定している必殺技コマンド表も、左向きになってしまった場合は逆方向のコマンドを強いられる。

 

 要するに右向きの入力に慣れている場合、位置を入れ替えてしまうと左向き入力が咄嗟に出なくなる事態に陥ってしまうのだ。

 脳は急な変化に弱いので、入れ替わったという事実を認識するのが遅くなり、そこに隙が生じる。

 

 対象の位置を入れ替えるという行為は、人間の深層心理を揺さぶる行為なのだ。

 

《どうやってあんなものを手に入れたのかは知りませんが、アレは正真正銘、帝国製の魔導具。契約書か何かの証拠さえ見つけてしまえば、楽に摘発できそうですわね》

《じゃあ作戦に変更は無し、ってことでいいの?》

《ええ。タネさえ理解してしまえば、あとはアタクシの流儀でやるだけですわ》

 

 ヤーナ側から念話通信を切られる。

 あの言い分だと、すぐにでも入店しそうね、アイツ。

 通信が終わるのを待っていたジャスミンが、あたしに話しかけてきた。

 

「で、ヤーナはアレが何だって?」

「置換魔法のイカサマ魔導具で確定だそうよ。そろそろこっちに入ってくるっぽいから、作戦の準備はした方がいいわね」

「せっかちだなぁ、アイツも」

「もうおっぱじめるってことか。ならついでに、このカクテルぐらいは持っていってくれよ」

 

 ジンはいつの間にか数杯のカクテルをこしらえていたようで、お盆に乗せてあたしに差し出してくる。

 トマトめいた赤色の液体がロックな氷と共にグラスを彩っていた。

 

「ありがと、これならサボってると思われないで済むわね。ところでこれ、なんてカクテルなの?」

「『ブラッディマニー』。ギャンブラー御用達のゲン担ぎってヤツさ」

 赤いカクテルで必勝祈願ってことね。

 ちょっと不吉な名前な気がしないでもないけど。

 

 あたしは同じカクテルを乗せたお盆を受け取ったジャスミンと共に、バニーガールのフリをしてカジノを巡回し始めるのであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 あちこちカジノを巡っていて、音楽のように聞こえてくるのは、ギャンブラーの一喜一憂。

 嘆きの声すらも、あちこちで響いてくる。

 

「クソッ、ここいらでヤマ張ってたってのに……!」

「途中まで調子良かったトコでコレだよ!」

「一発デカいの当てたいのに、何で減るばっかりなの!?」

 

 あたしは現在、ルーレットが置かれたエリアを巡ってカクテルを客に提供しているのだが、ゲン担ぎで飲んでくれた『ブラッディマニー』の景気付けも虚しく、テーブルの上では地獄絵図が繰り広げられている。

 

 カジノにおけるルーレットのゲームルールはシンプル。

 ディーラーがルーレットを回したところにボールを投入し、プレイヤーはどの色、どの番号のくぼみにボールが入るのかを予想しチップを賭けていく。

 

 賭けられる色は赤と黒の二種類、番号の数は地域によって違うらしいが、ここではゼロを含めた三十七の数字となっている。

 一点賭けが成功すればドカンと儲かること間違いなしなゲームではあるのだが。

 今は五人ほどいるプレイヤーのチップが、ほぼディーラーの手元に渡っている状態なのである。

 

 賭博に疎いあたしでも、この状況がヤバいという察しはついていた。

 一体どんなイカサマを使って、万単位ほどのチップを搾取したのだろうか。

 精神的な消耗からか息も絶え絶えになってきたプレイヤーのひとり、オールバックの青年貴族が、現状で出せる最後のチップを賭けていく。

 

「これで……どうだ……!」

 

 七番一点賭け。

 この目論見が外れてしまえば、彼のチップという命が尽きることになるのだろう。

 

「では、参ります」

 ケツアゴが特徴的なディーラーの男性がルーレットを回し、ボールを投入する。

 回転する盤上を駆けるボールは徐々に速度を落としていき、三十七のくぼみのうちひとつの角に当たると、跳ねた。

 

 オールバック男が賭けた七番のくぼみ。

 普通に考えればそこに落ちると思われた角度。

 

 しかしボールは無慈悲にも、勝ちを確信したプレイヤーの度肝を抜いた。

 

「なにッ!?」

 

 ボールが落ちたのは、すぐとなりのくぼみ。

 彼の目論見はほんの少しの差で、希望から絶望に変わった。

 

「残念。狙い所は悪くなかったのですが、運に見放されましたね」

「そんな……これは悪い夢だ……」

 

 ところがどっこい、現実なのよね。

 イカサマだってところまで含めて。

 

 前世、格闘ゲームをやっていた頃のレベルにまで動体視力を鍛えていたあたしの眼は、ルーレットに落ちていくボールがわずかにブレた光景を見逃さなかった。

 ブレている間のボールは、空中で止まっていたように見えたのだ。

 まるで見えない何かに引っかかったかのように。

 

 その異常を引きずったせいで、想定とは違うくぼみにボールが落ちた。

 要するにわずかなタイムラグを発生させることで、落ちるタイミングをズラしたということ。

 

 おそらくは、魔導具『クリストフ・エッグ』の仕業だろう。

 天井を見上げれば、管が見える。

 

 ルーレットに入れたのと同種のボールを置換魔法で入れ替えたことにより、一瞬空中で静止した状態を擬似的に作り出していたってところかな?

 瞬きよりも早い世界の出来事であるために、客の多くはイカサマだと認識できない。

 

 思ったより厄介そうね、これは。

 

 帝国製の魔導具らしいけど、帝国のカジノじゃ運営側優勢タイプのイカサマは日常茶飯事だったのだろうか。

 などと深刻に考えていたら。

 

「もし。一杯頂いても?」

 

 客のひとりに声を掛けられて、今のあたしは新人バニーガールだと思い出させてくれた。

 いかんいかん、スマイルだあたし。

 

「ああ、はい。ご自由にどう……ぞ……」

 

 おそらく油断していたんだろう。

 呼ばれた方を振り返ると、えらくめかし込んだ美人が居て、あたしは言葉を失っていた。

 

 マジで誰なんだろうこの美人、なんて一瞬思ったものだが、見覚えがないこともない。

 知的っぽい眼鏡と紫がかった縦ロールの髪、という特徴的な頭部や、あたしより大きな胸部の脂肪――あたしをFとするなら彼女はHくらいある――。

 

 普段着がシスター服なせいで一瞬別人に見えてしまったようだ。

 彼女はこのカジノに合わせてドレスを纏った、ヤーナ・シェーファーその人じゃないか。

 やっぱり着飾れば身なりは良いのよね、この女。

 

 どこぞの貴族かと見紛う美貌を身につけたヤーナが、ごく自然に『ブラッディマニー』を取った少しの間に、念話コンタクトを交わす。

 

《そのドレス、いくらしたのよ?》

《野暮なことを。自前の勝負服ですわ》

 

 自前でも金がかかってないハズないだろう、などと返そうと思ったが、止めておいた。

 あまり長いこと睨んで念話を続けていたら、あたしの方が怪しまれるだろうし。

 

 ルーレット卓の椅子に腰掛けたヤーナが、カクテルを一口飲む。

 そしてディーラーに向けてこう告げた。

 

「よろしくお願い致しますわ」

 

 まるで宣戦布告のような、そんな圧をヤーナから感じ取ってしまう。

 果たして彼女は如何にして置換魔法のイカサマを暴こうというのか。

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