太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~ 作:キョーサカ
あたしは、潜入前の作戦会議のことを思い出していた。
――イカサマの証拠など、叩けばいくらでも出てくるもの。
――その上でアタクシは、真っ向からイカサマを打ち破ってやりますわ!
確かヤーナはそんなことを言っていた気がする。
今回の『エチゴヤ成敗計画』、最大の核は顧客として来店したヤーナだ。
彼女はこのカジノで、勝ち続けなければならない。
そのためにあたしは、バニーガールとなった。恥ずかしいけど。
「ではまず、ベットを」
ディーラーの言う『ベット』とは、チップを賭ける所作のこと。
まずは小手調べと言わんばかりに、ヤーナは手持ちから五枚のチップを赤にベットした。
「参ります」
ディーラーはにこやかに微笑むと、ルーレットの回転盤を回し始めていく。
ラガー区では大穴賭けで知られているヤーナが、何故確率二分の一な安牌の手を取ったのか。
彼女の真意を探るように、ディーラーは目を光らせた。
「初めてのお客様のようなので、ひとつ良いことを教えて差し上げましょう」
「あら、宿屋の部屋番号でも教えてくださいますの?」
ヤーナ、ここで男を勘違いさせるジョークを放つ。
なんだか洋画の吹き替えでも見ているようなトークで眉をひそめてしまうあたし。
「いいえ、この『ザムフ』における掟の話です」
ま、全く動じてないわねこのディーラー……客商売人の鑑よ!
おっと、感心している場合じゃないや。
「この場において、チップは自らの魔力とお考えください。その上でこの掟を、貴女に伝えます」
「興味深いですわね。聞かせてくださる? その掟とやらを」
「古くから勝負は時の運と申します。故にこの場では、運こそ力。その力を持たぬ者に、明日は無し」
つまり運を味方につけた者こそ、絶好のカモである、と。
なんとも
イカサマカジノらしいといえばらしいのだが。
「肝に銘じておきますわ」
少し間を置いて、ヤーナはそう答える。
わかりきった内容の掟に聞こえたのか、口元には笑みがこぼれていた。
ケツアゴディーラーの手からボールが離れ、運命を決めるボールが回転するルーレットに投入される。
ボールの侵入角を観察していたらしき他の客たちが、各々定めた番号に己のチップをベットしていく。
転がるボールはやがて、ひとつのくぼみに落ちた。
ルーレットの回転が止み、結果を指し示す。
十九番、色は赤。
ヤーナの滑り出しは上々だ。
まあ、色を当てるだけなら確率は二分の一だし、こんなものだろう。
《見たところ、置換魔法はまだ使われてないみたいね》
一応、ヤーナに念話で報告しておく。
《仕掛けるタイミングを見計らう、そしてバレないように立ち回る。大抵のイカサマとはそういうものですわ》
なるほどね、イカサマはタイミングが命、と。
それを見極めれば、突破口は開けるわけだ。
ゲームはなおも続き、いつ来るかわからないイカサマを警戒しつつも、ヤーナは地道、そして順調にチップを積み上げていった。
色当てから奇数・偶数当てに移行し、次は一から十ニ、十三から二十四、二十五から三十六の範囲と、ゲームを進めるごとに狙いを狭める。
普段の大穴狙いはどこへやら、
あちら側によるイカサマがまだ無い現状で、よくもまあここまで集められたもんですよ。
待てよ、もしかしてヤーナって大穴を狙う病気さえなければ、冷静に状況を読めるギャンブラーなのでは?
「ではそろそろ、参りますわよ」
ここまで堅実に事を運んできたヤーナ、遂に動く。
手持ちチップの八割を、赤の二十一番一点賭け。
全額を賭けるとまではいかなかったものの、充分リスクの高いベットだ。
「ウソでしょ……」
おっと、思わず呟いてしまった。
でもそこまでギャンブルに詳しくないあたしでも、失敗した客を目にしていたからわかる。
一点賭けなんて狂人のやることでしょ。
まあヤーナは出会った時から狂人だったわけだけど。
この手は流石のディーラーも驚いたようで、ヤーナに言葉をかけた。
「ほう、中々度胸がお有りのようで」
「このカジノほどではありませんわ」
「冗談が好きな御方だ」
ディーラーさんや、多分あなた舐められてますよ。
「その自信がどこまで続くか、勝負と参りましょう」
ヤーナが挑発するほどだ、おそらく置換魔法を使ってイカサマを仕掛けてくるだろう。
あたしはふと、天井を見上げる。
魔道具『クリストフ・エッグ』の管が見えた。
銃口のような先端が、ルーレットの盤面に向けられている。
その背後、というか天井の一部の板が外され、馴染みの顔がひょっこりと現れた。
ナイフを持った、ニューだ。
当然片方の耳に『
《ヤーナ、この管でいいのか?》
《ええ。切った部分を回収するのもお忘れなく》
《合点だ》
ヤーナの確認を受けて、ニューが天井裏から上半身を乗り出す。
あわや落ちるかと思われたその身体は、不思議と落ちない。
おそらくは足をどこかに引っ掛けているか、ジーク辺りが脚を支えているのだろう。
そのままニューは『クリストフ・エッグ』の管のひとつを掴んで、ナイフで切断する。
意外や意外、管は思った以上に軽い素材だったようだ。
切った方の管を掴んで、ニューは誰かに引っ張られる形で天井裏に再び隠れる。
あ、やっぱりジークが脚掴んでたんだ。
《イカサマの元を断つイカサマ、ねえ……》
あたしは思わぬ力業を見て、ヤーナに向けて念話で愚痴をこぼした。
《イカサマのタネさえわかってしまえば、こんなもの。バレなきゃよかろう、ですわよ》
それに対してヤーナのこの勝ち誇ったような顔よ。
かくしてボールが、ルーレット盤の上で跳ねる。
ボールが入った先は――。
「なっ!?」
赤の二十一番。
ケツアゴディーラーの表情が強張る。
「
「馬鹿な……これは悪い夢だ……!」
ディーラーがさっき負かした客とほぼ同じ言葉で嘆く。
イカサマ前提で動いていたのだから、イカサマの不発に驚いたのも無理はない。
その上この場で店側の不正を晒すわけにもいかないだろうし、ただ運がなかったのだと納得してもらうしか、彼に残された道はないのだ。
「ご愁傷さま」
ディーラーの肩をぽんと叩いて、ケース一杯のチップを台車に積むヤーナ。
いや、その台車どっから持ってきたの!?
あたしの心のツッコミが伝わるはずもなく、ヤーナはルーレット盤から去る。
立つ鳥跡を濁さず、という言葉が思わず出るほどの颯爽とした去り際は、まるで映画のワンシーンのようだった。
台車引いてる絵面はシュールだけど。
※※※
それからあたしはバニーガールに扮したまま、ヤーナの暴れっぷりをしばらく見届けていた。
ルーレット盤でのイカサマを暴いた彼女の次の標的は、ダイスを使ったギャンブル。
前世が日本人だったあたしからすれば、時代劇によく出てきた丁半とかチンチロリンを思い浮かべるが、『ザムフ』が扱っているダイスゲームは、一対一で出目の多さを競うというシンプルなルールのもの。
当然ここでもイカサマは使われていて、一度やられたことのあるジャスミンの経験談によれば、ディーラー側が使用ダイスのすり替えを行っていたという。
そのカラクリは無論、魔導具『クリストフ・エッグ』によるものであるのは疑いようがない。
結局はルーレット盤の時と同じやり方で置換魔法を封じ、見事ヤーナがディーラーに勝利したのだった。
その後もワンパターン化した作戦で、次々と勝利を納めていくヤーナ。
ここまで勝って大丈夫なのか、と思われるかもしれないが、大丈夫なのである。
そもそもの目的が違法カジノの親玉を裁くことなので、勝って目立たなければ作戦が円滑に行えないのだ。
そう、ヤーナは囮。
とある人物を誘き出すための――。
《ヤーナさん、レヴィンさん。標的が部屋を出ました》
ミュウくんからの念話通信だ。
作戦通りならば、彼は標的がいる部屋の天井裏にジークと共に潜んで、様子をうかがっている。
《とうとうしびれを切らして、といったところですわね》
《良くも悪くも目論見通り、か。ジーク、嫌な予感はするけど大丈夫?》
《今起きた、問題はない》
さっきまで寝ていて何が大丈夫なのか。
ちゃんと作戦理解してる? 本当に大丈夫?
《きちんとゲスト様を気絶させた上で、不正の証拠を見つけるんですのよ。アタクシは――》
扉を開く音がして、あたしとヤーナは開かれた扉の方に目を向ける。
《餌に釣られた狸を、弄んできますわ》
標的が、黒服の護衛を伴って現れた。
そう、この『ザムフ』を仕切る元凶。
支配人、ダニエル・ラングハイムが。
「随分暴れてくれているようですな、レディ」
チョビ髭をたくわえた顔が、ヤーナを見てニタリと笑う。
「あら、どなた?」
対するヤーナは顔色を変えず、ポーカーフェイスで返す。
ただし、眼光だけを鋭く尖らせて。
その威圧感から、ダニエルは一歩後ずさるも、すぐに余裕の作り笑いを浮かべた。
「支配人のラングハイムという、お見知り置きを。といっても、短い付き合いになりそうですが」
「アタクシでは常連にすらなれない、とでも言いたげですわね」
「勝ち過ぎましたからね、貴方は。ただ『運が良かった』という理屈だけでは片付けられない」
堂々とイカサマでチップを巻き上げてる店側が言えた台詞じゃない。
口八丁はペテン師の基本スキルなんだろうな、などとあたしは接客の合間にそんなことを思った。
「つまり、アタクシがイカサマをやっていると? その
「言い掛かりだ、とでも? どうやら貴方は状況を理解していないようだ。おい、キミ。アレを」
「はっ」
ダニエルについて来ていた黒服のひとりが、手鏡のようなものを取り出してダニエルに渡す。
まあ、ただの手鏡ってわけじゃないでしょうね。
「私の趣味は魔導具収集でね。この『ウォッチャー』も、コレクションのひとつなのだ。施設の各所に配置してある全ての『眼』と、視点がリンクしている」
つまり、防犯カメラ。
支配人室の扉の上にも『眼』があったよね、確か。
あそこ以外にも結構あったのね。
「今は部下に調べさせているが、キミのイカサマが暴かれるのも時間の問題だよ」
「アラ、そうですの。ご苦労さま」
まるで意に介さず、といった反応のヤーナ。
もしかしてもう心理戦始まってる?
「あくまでシラを切る、か。ならば、盤上で己の潔白を証明してみせるといい」
「面白い趣向ですわね、よろしくてよ。して、ゲームの種目はどうしましょう?」
「ブラックジャック」
あれよあれよという間に、ヤーナとダニエルの直接対決が実現してしまった。
それにしても、ブラックジャックか。
ババ抜きとかポーカーには知名度で及ばないけど、カジノでは割とメジャーなトランプゲームだと、どこかで聞いたことがある。
多分リテラから聞きかじった知識かもしれない。
「私の得意分野になるが、ルールくらいはご存知かな?」
「二十一という数字に到達するためだけのシンプルイズベスト。故に奥が深いところまでは」
「では早速始めよう」
卓の椅子に座ったダニエルが、バニーガールのひとりからトランプの山札を受け取る。
そして山札をふたつに分けて左右の指でめくり、親指で交互にカードを重ねるような不思議なシャッフルをやってのけた。
その光景を別の視点から見ていたジャスミンから、念話で愚痴が入る。
《げっ、カードが痛みそうなシャッフルしやがる……。トランプが得意なヤツの扱い方かよ、これが》
まあ、概ね同意見だ。
後からリテラに聞いたのだが、ああいうシャッフルのやり方は『リフルシャッフル』というらしく、カジノでは一般的に行われているシャッフルのやり方らしい。
あたしは、普通のシャッフルの方がうるさくないから好きだけどね。
さて、ヤーナ対ダニエル、ブラックジャックルールでのタイマン心理戦。
山札を卓の中心に置いて、勝負は幕を開けた。