太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第七十九話 「運命は、アタクシの手の中にあったようですわね(6)」

「ベット」

 

 まずは小手調べ。

 最小限のチップが賭けられた。

 

 ヤーナの場に二枚のカードが配られる。

 ディーラー・ダニエルの傍にも二枚のカードが置かれるが、一枚は伏せられ、もう一方は表になっている。クラブの八だ。

 伏せカードは、ヤーナのターンが終われば開示されるルールらしい。

 

 一方でヤーナの手札二枚は、ハートのQとスペードの三。

 J・Q・Kの絵札は十としてカウントされるので、二十一まで至る数は八。

 ヒット宣言で山札から一枚引いて八以下の数字が出ればいい。

 

 なぜ八以下なのかというと、二十一を超過してしまうとその時点で負けてしまうからだ。

 ブラックジャックとは、とびきり運が試されるゲームなのである。

 イカサマという介入さえなければ、の話だが。

 

「ヒット」

 

 やはりヤーナが山札からカードを引く。

 ダイヤの五が出た。

 

 ヤーナの手札は、これにて合計十八点。

 二十一点まであと少しといったところ。

 

 これ以上のリスクは侵せないと考えたのか、スタンド宣言。

 ヤーナはこの手札で勝負するつもりのようだ。

 

 ダニエルのターン、伏せカードを開示。

 

「おおっ!」

 

 この勝負を見ていた一部のギャラリーが、思わず声を上げる。

 伏せカードの正体が、Aだったからだ。

 

 ブラックジャックというゲームにおいて、Aはいわば切り札。

 一点と十一点を状況に応じて選択可能なカードなのである。

 無論、ダニエルが選ぶのは――。

 

「十一と八でこちらの優勢ですな」

 

 ヤーナより二十一に迫る、計十九点。

 わずか一点の差で、初戦の勝ち星を奪われてしまった。

 

 参ったな、幸先が悪い。

 いくらダニエルをここに留まらせるためとはいえ、ヤーナのチップが尽きてしまえば元も子もないじゃないの。

 

 心配になって、つい念話を送ってしまう。

 

《ちょっと、大丈夫なの? 早速負けてるんだけど》

《心配症ですわね。まだまだ序の口、勝負はこれからですのよ》

 

 よかった、ヤーナは思ったより余裕らしい。

 そこまで冷静でいられるのなら、次は頼みますよっと。

 

 だが、あたしは知らなかった。

 本当のギャンブルの恐ろしさを……。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 ヤーナ対ダニエル支配人のブラックジャックバトルは続いている。

 軽く五十戦はやっただろうか。

 

 結論から言えば、ヤーナが劣勢である。

 手持ちのチップ、わずか五枚。

 

《ウソでしょ……ヤーナがここまで追い込まれるなんて》

 

 他の卓をイカサマ潰し無双していたさっきまでとは、まるで運の巡りが違う、と言うべきか。

 彼女の勝率が、目に見えて落ちている。

 

 既に魔導具のイカサマは全て潰したハズ。

 それなのに、運はヤーナに味方していない。

 

 どういうことなのか?

 その理由は、ジャスミンが語ってくれた。

 

《マズイな、禁断症状が出ちまったか》

《待って、禁断症状って、まさか……?》

《狙ってんだろうよ、『ブラックジャック』って大穴をさ。見てみろよ、あの顔》

 

 言われた通りにヤーナの顔色をうかがう。

 

 ヤーナはニヤけていた。

 正確には、乾いた笑いを浮かべていたのである。

 まるで枯渇した水分を求める乞食のように。

 

《やるからにはデカく勝ちたいって欲が出ちまったんだろうな》

《自業自得ではあるけど、あの顔は仮にも孤児院のシスターがしていい顔じゃないわね……》

 

 顔はともかく、状況は崖っぷち。

 あたしはダニエルの方を見る。

 ヤーナから勝ち取ったチップの山が、彼の優越感を象徴するかのように、卓に居座っていた。

 

「まったく、とんだ期待外れですよ、レディ。勝ちを急ぐからそうなる」

 

 ダニエルの愚弄も、もっともである。

 別にそっちの味方するわけじゃないけど。

 

「か、勝ちを急いでいるのは、そ、そっちじゃありませんの?」

 

 取り繕う余裕もないらしいヤーナだけど、啖呵を切る元気くらいはあったか。

 

「負け惜しみはみっともないよ、『大穴狂い』。私は至って冷静さ、キミを陥れることに関してはね」

「ご存知でしたのね、アタクシを」

「裏社会では情報が大きなアドバンテージに繋がる。うちにはベックという腕利きの用心棒がいてね、かつてキミに酷い目に遭わされたらしい。覚えはないかね?」

「いいえ、まったく。そんな敗北者ごときの情報でアタクシを陥れようなど、意外とみみっちい御方ですこと」

 

 ヤーナ、お金周りに関しちゃ、アンタも人のこと言えないんだけど?

 思わず念話でツッコミを入れたくなったが、どうにか堪えることができた。

 

「用心深い、と言って欲しいね。私とて支配人である前にギャンブラー、万全を期して挑むくらいは当然の礼儀だと心得ているつもりだよ」

 

 勝ち誇ったような笑みを浮かべるダニエル。

 よくもまあ達者な口先ですこと。

 だが時間稼ぎが目的とはいえ、このままではヤーナの敗北が決まってしまう。

 

 とはいえ、まだイカサマの手が見えていない状態で、何が出来るのか?

 いや、そもそもあの『クリストフ・エッグ』を無力化した状態で可能なイカサマなんて――。

 

 待てよ、だったら何でヤーナは今、劣勢なの?

 実はヤーナの目が届かないところで、イカサマが進んでいるとか?

 

 なるほど、そのための潜入だったわけね。

 別の視点で、あの欺瞞支配人のイカサマを見抜くための。

 

《何で今更気づいちゃったんだろ》

《どうした、レヴィン?》

《ジャスミン、あの支配人の一挙手一投足、見逃さないでよ》

《どういうこった?》

《あの魔導具はアナログなイカサマを隠すためのフェイクだったってこと》

 

 そうだ、地球基準でも考えられる初歩的なことだろう。

 魔法《かがく》なんて技術が結実する前から、イカサマと呼ばれる行為は当たり前に行われていた。

 

 魔法《デジタル》が確立する前、時計は原始的《アナログ》だった。

 それと同じだ。

 

 ダニエルは、魔法を使わないアナログなイカサマをやってのけている。

 

「さあ、これでラストゲームだ。残りの命《チップ》を賭けたまえ」

「ふふっ……ラストゲームだなんて、そんな寂しいことを仰らないでくださいな」

 

 だがどうだろう。

 

 ヤーナ・シェーファー。

 この女の闘志は、まだ燃えている。

 むしろ劣勢なこの状況を楽しんでいるのではないか、という火照り顔。

 

 小数点以下の確立に魅入られた変態ギャンブラーが、本性を現した。

 

「このヒリつく空気を感じるのも久しぶりなのですから、もっと楽しませていただかなくては……!」

 

 おお、見よ。

 狂人が愉しく笑っている。

 賭け狂っている。

 

 流石のダニエルもドン引きだ。

 

「ぐっ……。気持ちはわからなくもないよ。だがね、状況を考えたまえ! たった五枚のチップで何ができる? この盤面を覆せるとでも?」

「可能ですとも! ブラックジャックがアタクシの盤面に揃えば!」

 

 ここでヤーナ、予告ホームランならぬ、予告ブラックジャック。

 二十一点を丁度揃えようとは、彼女らしい大穴狙い。

 

 でもそれだけじゃ、逆転の一手には程遠いのでは?

 あたしはそんなことを考えたが、ダニエルも同じようなことを考えていたようで、口に出してくれた。

 

「無理だ! 一発逆転を狙いたいのだろうが、チップが心許ないのではないかね? 賭けの上限を決めるのはこちらだ、ということを忘れないでいただきたい!」

「ならば、等価な賭けになるように、チップ以外の大事なモノを、追加でベット致しましょう。例えば――」

 

 ヤーナは火照った顔のまま、己の頰に指を這わせて、ドレス姿の恵体をセクシーにくねらせた。

 

「アタクシの身体など、いかがです?」

 

 何言ってるんだコイツ、などと誰もが思ったことだろう。

 あたしも思った。

 足りなけりゃ自分の身体を担保にしようなど、普通は思わない。

 

 でもこの女は、ヤーナ・シェーファーは。

 大穴当たりの快感欲しさに、恥じらいさえも捨て去るのである。

 

「ここのバニーさん達、随分と凹凸のしっかりした方が多いとお見受けしますわ。アタクシ、貴方のお眼鏡に適うと思うのですけれど」

「くっ、なんてけしから魅力的な! こちらも賭けのグレードを上げるしかあるまい!」

 

 ダニエルもまあダニエルで、男心とギャンブラーの魂が騒いだのか、ノリノリで提案に乗ってきた。

 あまりにも欲望に忠実すぎて、乾いた笑いしか出ないあたし。

 

「私が賭けるのは、この店の財産! 全てを賭けてでも、このゲームには価値があると見た!」

「ナイス! ナイスベットですわ!」

 

 心から楽しんでるな、このギャンブラーども。

 

 しかし、あたしにとってもこれはラストチャンス。

 なんとしてもダニエルのイカサマを阻止しなければ、ヤーナの勝ちは無いだろうし、用心深く観察せねばならない。

 

 かくして、互いの全てを賭けたラストゲームの幕は、切って落とされた。

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