太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第八十話 「運命は、アタクシの手の中にあったようですわね(7)」

 改めて、ブラックジャックと呼ばれるトランプゲームは、引いた点数の合計が多ければ勝ちとなる。

 

 しかし、二十一点を過ぎてはいけない。

 

 後からヤーナに聞いたが、ブラックジャックにおける二十一点ジャストとなる確率は一割以下、らしい。

 だからこそ狙って揃えることは難しいのだが、狙って出せるのがイカサマであるからして。

 

 ダニエルもヤーナも、確実に二十一点ジャスト(ブラックジャック)を狙ってくるだろう。

 意図的か天運任せかの違いはあるにせよ、だ。

 

 極めてシンプルであるからこそ奥が深いのが、ブラックジャックというゲームなのである。

 

 閑話休題。

 ラストゲームは既に始まり、ダニエルがディーラーとなって、山札を手に取っている。

 先程までのゲームでも、ダニエルはリフルシャッフルを好んでやっていた。

 

 その時点でイカサマを仕込んでいると考えれば、どうか。

 

《なあ。アタイの気のせいかもだけど……あの山札、最初のゲームの時より厚みがないか?》

 

 どうやらジャスミンも同じような仮説を立てていたらしく、念話を送ってくる。

 

《その懸念が本当なら、ゲーム毎にアイツが隠してたカードが仕込まれていたことになるけど?》

《可能性はあるな。おそらくシャッフルの時に袖辺りから、自分が有利になるカードを仕込んでたんだろう》

《たまに負けていたのは、不自然に思われないためのブラフだったってこと?》

《まったく、詐欺師のやり口だぜ》

 

 そして、山札を徐々に増やされると、全く気付かれないものである。

 突然増えたら一目瞭然だが、ゲームを繰り返す度に増えていたのなら、脳は微かな変化を感知出来ないのだ。

 

 魔導具『クリストフ・エッグ』の置換魔法もそうだが、イカサマとは『騙し』という、脳をバグらせる錯視を意図的に実行するための技術と言っても過言ではない。

 

 当然、長くギャンブラーをやっているヤーナが気付いていないわけではないのだが。

 

 賭けられるチップと互いの尊厳、かくしてカードは配られる。

 お互いの場にカードが二枚ずつ。

 ディーラー側、ダニエルのカードが一枚開示された。

 

「A……。いきなり運がよろしいこと」

「フッ、かく言う私もブラックジャックが目当てでね」

 

 ヤーナの皮肉を少しキザに返すダニエル。

 なんとしても彼女を手に入れたい、という欲望がダダ漏れだから、格好はついてないけど。

 

 とはいえ、このブラックジャックというゲームは、ディーラーの方が有利だ。

 ディーラー側で二十一点ジャスト(ブラックジャック)が成立してしまえば、たとえこちら側で二十一点ジャスト(ブラックジャック)が成立しても敗北してしまう。

 

 十一点になれるAのカードが出てしまった時点で、もう片方が十点カードなら、終わりだ。

 

 だが、ダニエルは知る由もない。

 己の欲望のために打った一手が、まさかあたし達の絶好のチャンスになってしまったなどと――。

 

「失礼! ラングハイム支配人はこちらか?」

 

 大扉が勢いよく開けられたのと同時に、バカデカく、しかし心地よい大声が辺りに響いた。

 変な仮面を着けた三人組、うちふたりは子供の背丈をしている。

 

 まあ、作戦を聞かされていた身からすれば、誰かは判別出来るんだけど。

 

「何っ!?」

「なっ、何なのこの連中!?」

 

 勝負を見守っていたギャラリーも、急な事態に驚きを隠せない。

 

「だ、誰だね? 勝負に水を差して!」

「我が名はジ――」

「ボク達は『ジーベル義賊団』! 貴方の悪事を詳らかにするため、やって来ました!」

「来たぞ!」

 

 うっかりいつも通り名乗りそうになったポニテ長身女性の台詞に被さるように、右サイドの少年が自己紹介する。

 左サイドの少女は余計なことを言わないスタンスなのか、不満げながらも自己主張が控えめに見える。

 

 とりあえずこの仮面三人組は味方だ、とだけ言っておこう。

 言葉にしたらバレるので言わないけど。

 

「この不審者どもめ、言うに事欠いて私の悪事だと?」

「そうだ! この『ザムフ』はカジノとしてはデタラメである! その証拠として連れて来たのが、こいつだ!」

 

 ポニテ長身女性……どうせあたしが分かればいいしもう隠さないでいいや。

 妙に仮面が似合うジークは、ある男をここまで首根っこ掴んで連行して来ていた。

 そしてその男を公衆の面前に曝け出す。

 

「コ、コンラッド卿!?」

 

 ジークによってカーペット包みでグルグル巻きに拘束され、ダニエルに名前を呼ばれた男。

 彼は果たして何者なのか。

 その答えは、すぐに出た。

 

「彼をご存知のようですね?」

「ようだな?」

 

 ミュウくんの台詞を常にオウム返しのように抽出していくニューはマジで何なんだろう、などと思いながら、あたしは事の成り行きを見守っていく。

 

「無論だよ、大事な取引相手だ! 大変なことをしてくれたようだな、君達は!」

「承知の上でやっている! なにせ彼は、帝国製の魔導具を扱っている闇の商人だからな!」

 

 場内騒然。

 このウォルタート王国に、王都グナーデンに、帝国の闇商人。

 

 本来ならば不可侵条約が締結されている両国において、一部の例外を除き国境を無断で越えるのは重罪とされている。

 下手をすれば国際問題になりかねないほどの事態だ。

 

「このカジノにある魔導具は、全てこの方から買い取ったもの。新たなマギニウム鉱脈を見つけて乗りに乗っていたラングハイム支配人は、コンラッド卿の帝国製魔導具をコレクションしていった影響で、多額の借金を背負ってしまいました。そこで彼が考えたのが、このボッタクリカジノを経営しての荒稼ぎだったんです」

 

 ミュウくんによる、調査に裏付けられた推理ショーが始まった。

 まるでどこぞの少年探偵……絵面はトンチキだけど。

 

「出鱈目を! 皆さん、不審者の狂言です! 惑わされないでいただきたい!」

 

 中々しぶといわね、ダニエル。

 意地でも帝国商人との因果関係を認めないつもりらしい。

 

「しらばっくれるのも大概にするといい。ここに証拠の契約書が……うん? はて、どこにしまったかな……?」

「それならあっしが持ってるぞ」

「おっと、そうだった。うっかり落とさないように持たせていたんだった」

 

 仮面側は仮面側でグダグダしてて緊張感無いなぁ!

 大事なトコでコントやってる場合じゃないでしょ。

 

 改めて、ジークはダニエルに契約書を見せつけた。

 妙にクシャクシャなのは、あたしの気のせいかな?

 

「とにかくだ。これがある限り、言い逃れは出来ん。帝国貴族との繋がりがあるという事実がある限り、不可侵条約違反は避けられん。これ以上罪を重ねる前に、騎士団へ出頭することを奨める」

「コンラッド卿との会談を記録した魔導具もここに。もう諦めましょう」

「あきらめろ!」

 

 ミュウくんが持っているのは、あたしが支配人の部屋に仕掛けた『風導蓄音器(ヴィントリーレック)』だ。

 

 売国奴の証明は、これにて成された。

 もはやダニエルに後はない、ハズなのだが。

 

「クックックッ……ハッハッハッハッハッハ!」

 

 高笑い。

 追い詰められておかしくなったのか、と思われるほどの笑いが、彼の中から込み上げていた。

 

「滑稽……、なんと滑稽な茶番か! 密入国した帝国商人からコレクションを買い付けることの、何がいけない!? 豚のような顧客からチップを搾り取ることの、何がいけないというのだ!?」

 

 おかしくなったんじゃない、開き直ったのだ。

 ここまで証拠を提示されたら、こうもなるか。

 

「コレクションには金がかかる! 当然だろう! だからカジノを始めたのだ! 私の欲望を満たすためにな!」

「では認めますのね? 帝国貴族との繋がりと、不当な顧客からの搾取を」

 

 ヤーナの言葉で、ダニエルが卓に向き直る。

 仮面の連中(あたしの仲間)との繋がりを察して。

 

「レディ、何を言って……まさか!」

「お金とは、人の意志で善にも悪にも転がるもの。単に趣味のブツを買ってコレクションするだけのお金であれば、アタクシがこのような面倒をせずとも見逃していたのですが。ラングハイム卿、ただマギニウムを掘り当てて有頂天になり、金の亡者に成り下がっただけのアナタは、アタクシの怒りを買った! そういうことですわ!」

「ハメたのか……不審者を使ってまで、この私を……!」

 

 まあ、そういうことなんですよ、ダニエル・ラングハイム卿。

 おとなしくお縄につけば楽になれるよ、ホラホラ。

 しかし彼はまだまだ足掻くようで。

 

「だがレディ! キミは盤外戦術で私を追い詰めたつもりだろうが、ラストゲームは途中だったハズだ! この『ザムフ』で巻き上げた分の金額を追加でベットして、決着といこう!」

「アラ、そんなことをしてよろしいんですの? もし負けてしまったら、何もかもを失いますわよ」

「絶対に私は勝つ! そういう運命なのだ!」

「ではその運命とやら、どちらに転がるか試してみましょう。アタクシは、手元に来たこの二枚だけで勝負しますわ」

 

 ダニエルに疑惑の目が向けられる中、再開される最後のブラックジャック。

 自分のターンで、ヤーナは勝負に出た。

 表に出される二枚のカード、その合計点は――、

 

「QにA……ブラックジャック成立だ!」

 

 見ていたギャラリーのひとりが驚愕する。

 J・Q・Kの絵札は十点換算、そしてAは一にも十一にもなれるカード。

 当然、二十一点ジャストになるわけだ。

 

「あいつ……大穴当てやがった!」

 

 あたしの隣に来ていたジャスミンも思わず声を上げたが、まだ油断はできない。

 なぜならば。

 

「まだだ、私の伏せカードが絵札でさえあれば!」

 

 そう、ディーラーとプレイヤーの両方が二十一点ジャストだった場合、ディーラーの判定が優先されるのが、ブラックジャック絶対のルール。

 空気が淀む中、ダニエルは慎重に、伏せカードを、めくった。

 その正体は。

 

「バカな……こんなことが……!?」

 

 彼の一枚目と同じ、Aの名を冠したカードだった。

 足しても一点では圧倒的に足らず、十一点でも目標点を超過して、負けてしまう。

 ダニエル・ラングハイムの破滅はここに、確定した――。

 

「運こそ力。その力を持たぬ者に、明日は無し。運命は、アタクシの手の中にあったようですわね」

 

 ヤーナの、大穴狂いの勝利だ!

 

 しかし、単なる強運ではないことを、ここでネタバレしておこう。

 つまりは二重のトラップだ。

 

 ヤーナ自身はダニエルを惹きつける囮。

 ジーベル義賊団を名乗るジークと双子もまた、ギャラリーやダニエルの意識を別に向けさせるための囮であった。

 そしてこのタイミングで誰も卓を見ていないことを確認して、ヤーナは自身の手札をこっそりすり替えておいた、というわけ。

 

 本当に、バレなきゃイカサマじゃないとはよく言ったモンですよ。

 無論、ネタバレを口に出してはいないので、敗北者ダニエルの顔は絶望でグニャリと歪むが、しかし。

 

「認めん……運で私が負けたなど……」

 

 往生際の悪い男である。

 そのガッツを他の場所で発揮出来ていればなぁ……。

 しょうがないので追い討ちをかけてやろう。

 

 あたしはダニエルに近付いて彼のスーツを掴んだ。

 

「なっ、何をするんだアリナ君! このスーツは――」

「もう何も隠す必要ないんじゃない? アンタも、あたしも」

 

 フンッ、と勢いよく掴んだスーツを剥ぐ。

 スーツが破れる音と同時に飛び出るのは、彼が仕込んでいた数十枚のトランプカード。

 ここにイカサマのタネは明かされた。

 

 当然、ギャラリーはどよめく。

 

「なんてことだ、自分が有利になるカードを仕込んでたとは!」

「いくら支配人とはいえ、これはやり過ぎだろう!」

「我々のチップも、そうやって搾り取っていたのか!」

 

 やっと周りも彼が詐欺師同然であると認めてくれたらしい。

 これでダニエルも再起不能だろうと思っていたのだが。

 

「なるほど、キミも彼女らとグルだったわけか……もはや手段は選ばん! ベェェェェェェック!!」

 

 あろう事かダニエルは右手を天に掲げて、指を鳴らした。

 己が最も信頼する男の名を呼びながら。

 

 シャンデリアの照らす光が、天井近くまで跳躍している巨躯の姿を映し出した。

 そのまま彼は、ダニエルの傍に音を立てて舞い降りる。

 

 ノースリーブの燕尾服を着たマッチョマン用心棒、ベックのエントリーだ。

 今までどこに居たんだろう?

 

「支配人、如何されました?」

「私の邪魔をする不届き者どもを叩き出せ!」

「わかりました」

 

 アクション俳優の如き威圧感を放ち、あたしに視線を向けるベック。

 仮面三人組や大穴狂いと、怪しむべき人物は他にもいるだろうに、敢えてのあたし。

 

 ――俺は蛮族の言い分を信用していない。

 

 アイツにそんなこと言われてたっけ、確か。

 敵視するには充分だったか。

 

「蛮族め、よくも支配人のスーツを台無しにしてくれたな」

「そっちにムカついてたんだ……。あんなイカサマだらけの服に価値なんて無いでしょ?」

「おまけに支配人のコレクションにケチをつけた……もう許さんぞ!」

 

 ベックが怒りのままに、あたしへ拳を向ける。

 そうかそうか、あたしに喧嘩を挑もうってわけね。

 小気味良いパンチの音が、カジノホールに鳴り響いた。

 

「やった、クリーンヒット! ベックはラガー区裏喧嘩祭の初代王者だぞ! ファッションシックスパックの小娘などに負ける……も……の……か……?」

 

 ベックの勝ちを確信したダニエルの顔に、再び焦燥が宿る。

 本当に、本当に期待外れで申し訳ない。

 自慢みたいだった右ストレートを受け止めてしまって。

 

「馬鹿な、俺の拳を片手だけで!?」

「しかも吹き飛ばないとは、なんて怪物的な体幹なんだ! マキナを封じているんだぞ!?」

 

 ベックもダニエルも、リアクションが大仰すぎて困る。

 単純に筋肉密度の差だっていうのに。

 

「支配人、ひとつ教えて差し上げますわ」

 

 座ったまま、ドヤ顔のヤーナがダニエルへ語りかける。

 

「運とは意図的に仕込む物に非ず。手を伸ばし続ける者にのみ掴める光であると!」

 

 あたしはといえば、ベックによる自称自慢の拳を受け止めたことによる相手の動揺を見逃さず、懐に潜り込んでいた。

 すかさず丹田――ヘソ下辺りの急所――へ、ボディブローを打ち込む。

 

「かッ……!?」

 

 そこから流れるように燕尾服の裾と右腕を掴んで、背負い投げに移行。

 ベックの巨躯が、カーペットに沈んだ。

 

「そんな……ベックはここじゃ……最強の……」

 

 用心棒の雇い主であるダニエルも、自身が信じていた最強が敗北したショッキングな光景を見てしまってか、泡を吹いて気絶するのだった。

 

「拍子抜けね。身体と心を鍛えて、出直してきなさい」

 

 あたしの愚痴から一拍子遅れて、ギャラリーからどっと歓声が沸き起こった。

 まったく、見世物じゃないってのに。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それから違法カジノ『ザムフ』は、支配人と裏事業に関与していた貴族や従業員が王国騎士団によって逮捕されたことにより、公式に営業停止となった。

 

 イカサマの被害者となった顧客には、ある程度被害額の返金が成されたそうで、ジャスミンも騙された分を取り返し、無事に生き別れの弟を買い戻すことができた。

 

 しかし、あたし達に依頼したことになっている彼女からの依頼料は、まだ支払われていない。

 どういうことかというと、弟くんを買い戻す資金に、返金された分を合わせた全財産の大半を持って行かれた、という話だ。

 

 『ザムフ』終焉の翌日にジャスミンは、

 

「安心しな、きちっと手持ちを倍にして報酬払ってやるから」

 

 などと申して競馬場に向かおうとするので、あたし達は傭兵団総出でジャスミンを監視するために、気晴らしがてらついて行くのであった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 競馬場、観客席にて。

 結論から言えばやはりというか、ジャスミンは負け続けていた。

 足元に散らばる馬券が、全てを物語っている。

 

「ふぁ……っ」

 

 退屈そうに欠伸を出すヤーナは不思議と上品に見えて、敗北者のジャスミンとは対称的。

 

「クソッ、次のメインレースこそは!」

 

 二つ名通りの意地汚さをこんなところで発揮してしまうとは……。

 家で留守番してる弟くんがこんな光景見たら泣くぞ、絶対泣く。

 

「それにしても、競馬場で食べるナッツも乙なものだな」

 

 ジークに至っては馬券の代わりに観戦用のスナックを買って、呑気にポリポリしている。

 ジャスミンがアレなので、癒しに見えてしまうのがなんとも。

「そんなに美味いのか? あっしにくれよジーク」

「むぅ、少しだけだぞ」

「ここだけ競馬場の光景じゃなくない?」

 

 ニューにナッツを分けるジークを見て、思わず声に出てしまったが、それはともかく。

 

「未だにわかんないわね」

「何がですの?」

「ギャンブルでお金を倍に膨らませて返そうとするギャンブラーの心理よ。頭おかしいんじゃない?」

 

 率直な疑問だった。

 もう頭の中がギャンブルでいっぱいとか、破滅願望があるならしょうがないが、身を滅ぼすとわかっていながら続けてるってパターンは意味がわからない。

 

「それはボクも思います」

 

 だよね、同意しちゃうよねミュウくん。

 そこんトコどうなの、天才不良シスター?

 

「レヴィンさんには前にも申しましたが、ギャンブラーは浪漫の虜なんですのよ」

「浪漫の虜、か。確かにのう……わしもロマンチストじゃから、気持ちは痛いほどわかる」

 

 リテラは同調せんでいい。

 

「酸いも甘いも噛み分けてこそ――」

「浪漫は輝く。さすがリテラ様、理解(わか)っていらっしゃいますわね」

 

 遂には二人揃って笑い合う。

 まったく、マジで気が合うわねこの創造神(分体)とアウトローシスター。

 

 でも今回のことで、少しだけヤーナの内面が見えてきた。

 大穴狂いで、頭がキレていて、心が強かで、自分でマキナだって作れる。

 

 そんな彼女にとって許せないのは、悪いお金の使い方。

 無法者が集まるラガー区の暗黒面を知っていなければ、真っ当寄りの思想にはなれない。

 

 別にヤーナが真っ当と言っているわけではないが、何か悪さをして誰かに恨まれた、という話も今のところ聞いていない。

 彼女の師匠であるシュミッツさんからの評価も、金遣いの粗さを除けば何かと高かったっけ。

 ラガー区の賭場を荒らし回ったのは確実だろうけど。

 

 あたしから見たヤーナ・シェーファーは、狂人の皮を被った善い努力家にランクアップしていた。

 それでも本質はロクデナシなので、内心すごく腹立たしくはあるけど。

 

 実際彼女のおかげでくぐり抜けられた修羅場もひとつやふたつではないから、文句は言えない。

 などと考えていたところに、ジャスミンがあたしの肩を叩いた。

 

「信じてるからな、アンタが選んでくれた四枠七番の馬を!」

「あまり期待はしないでよ。適当に選んだだけだから」

 

 結局あたしは、ガチャを馬券買った本人の代わりに引かされたわけで。

 その馬券を買った金って確か、本来の依頼料だったわよね……?

 

「甘いですわね、ジャスミン。二枠三番が逃げ切って勝つ。これしかありませんわ!」

 

 そして当たり前のように馬券を買っているヤーナ。

 どっちも単勝馬券とかバカの極みですよ本当に。

 でも、不思議とそれで安心してしまう自分がいる。

 

 ファンファーレが鳴って、騎手を乗せた馬たちがスターティングゲートへ収まる。

 かくしてレースは始まった。

 

「これだけの逃げ! イケますわ! 粘れえぇぇぇ!!」

「差せえぇぇ! 一撃ブチかませえぇぇぇ!!」

 

 浪漫に魅せられたふたりのギャンブラーを眺めて、あたしは思った。

 確かにこれはやめられないよね、と。

 

 たとえ未来がどちらへ傾こうとも、ギャンブラーは挑み続ける。

 リスクを犯した先にある、浪漫だけを目指して――。

 

 なんてね。

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