太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第八十一話 「必死で生きようとする命は尊い」(1)

 もしも神様が本当にいるのなら。

 悲劇は何故、起きてしまうのか。

 

 地球における有名な悲劇の代名詞に、『ロミオとジュリエット』という劇がある。

 代々敵対している名家の息子と娘が恋に落ちた結果、心無き周囲に振り回され、報連相も出来なかった挙げ句に両方共死後の世界へ行ってしまった、という救いのない話だ。

 

 多くの悲劇を生んでいる作家の筋書きなのだからしょうがないのだが、フィクションとはいえ苦情は出なかったのだろうか、などと今更思う。

 

 空想の中でくらい、ちゃんと幸せな結末にすればいいのに。

 そう考えるヤツも少なくない。

 

 あたしはそういう奇特な神を一柱知っている。

 異世界フロイデヴェルトを創造した神、テラ。

 またの名を、救世主熱烈歓迎妖精、リテラ。

 

 これからあたしが語るのは、彼女のちょっとした思想が、悲劇の引き金になるかもしれなかった。

 そんな失敗を喜劇で挽回する、毒にも薬にもならない話である。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 夢を見た。

 あたしじゃない、誰かの夢を。

 

 夢の中の誰かさんは、目元から雫をこぼして泣いていた。

 ぼんやりとしか見えなかったが、確かに泣いていた。

 

 そこに背の高い、美形だけど胡散臭さムンムンの青年が、誰かさんを慰めるために現れる。

 彼は誰かさんを見かねて、尋ねた。

 

「神に涙は似合わないよ。どうしたんだい?」

 

 誰かさんは、こう返す。

 

「推しカプにっ……えっぐっ……転生拒否されたっ……」

 

 推しカプ……つまり好きなカップルが転生拒否。

 あたしからすれば「馬鹿馬鹿しい」としか思えぬ話題だが、神様からすれば深刻だったようで。

 

「おやおや、参ったな。順序立てて事情を話してくれないと、こちらとしてもどう返していいやら」

「ガイア様っ……地球には、不幸や理不尽に遭う命が多すぎますっ!」

 

 あれ、この言い分……どこかで聞いたことがあったような。

 確か地球の創造神、ガイア様から聞いた、アイツの――。

 

「わしのお隣さんだった、あのふたりだって……駆け落ちしてようやく掴んだ幸せが、敵対極道の息子や娘というだけで……何故こうも……うぐっ……」

「だから君は、彼らに君の世界へ転生させる話を持ち掛けた。そして断られた……。そういうことかい?」

 

 あふれる涙を手で拭いつつ、誰かさんは静かに首を縦に傾けた。

 

「なるほど。地球人類の七割くらいは、異世界転生の提案に乗ってくれると勝手に信じていたのだけど、彼らは残りの三割だったか」

「三割……?」

「ほら、魂が転生の手続きをする場合、一部の例外を除いて前世の記憶を消去することがあるだろう? それが嫌になって、記憶を保持したまま召されることを望む魂……それが三割の正体さ」

 

 えっ、普通転生したら前世の記憶消されるの?

 じゃあ、あたしは何故前世の記憶が残ったままなんだろう。

 アイツのうっかりミスという線も考えられるが、それはそれとして。

 

「現世に未練はない、一度の人生で充分幸せだった……。昔はそんな意見が多くて、召され派が大半を占めていたのに、転生モノの創作物が流行り始めてから比率が逆転したのを覚えているよ」

 

 いや、召され派って何よ。

 意味はなんとなくわかるけど。

 

「つまり君は、レアな魂たちに触れたわけだ。嘆くことはないよ」

「でもっ……あのふたりには何もかもを忘れて、普通の親同士から生まれて、最高の幸せを手に入れるべきだったんじゃ……」

「だが、彼らは召される方を選んだ。魂の自由を尊重したいなら、君のエゴを介入させるべきじゃない」

「ガイア様も、創造神に自身のエゴは……不要だと?」

「普通の創造神ならば不要、などと吐き捨てるだろうね。でも、僕の意見は違う」

 

 青年は宙に指で丸を描く。

 すると丸を描いた空間が、とある映像を映し出した。

 

「こ、これは……?」

 

 映し出された光景とは、パソコンを前にして創作作業にのめり込むクリエイターの姿。

 そして、多くの人間がひしめく大型即売会の光景。

 いや、何故に。

 

「地球の人間には、想像力がある。既にある世界を基にした二次創作もまた然り。満足できなければ己の頭で彼らの幸せを紡いでみるのも、いいんじゃないかな」

「二次創作……でもそれは、ただの自己満足じゃ――」

「それでいいんだよ。君は幸せを願える神だ。不幸は幸福で埋められる。その気持ちさえ忘れなければ、立派な創造神になれるさ」

 

 胡散臭いガイア様も、たまには良いことを言うのね。

 そいつに感化されるアイツもアイツだけど。

 

「……そうですね。二次創作でも何でも、必死に生きた命が報われなきゃ、わしも満足できませんし。ひとまずあのふたりは、わしの中で幸せにさせときます。その上で――」

 

 涙の粒が、ぽろりと落ちる。

 創造神の少女は拳を握り締め、決意を込めた瞳で言葉を続けた。

 

「わしは全ての不幸な命を尊び、必死に生きたい者の助けになると誓います!」

 

 嗚呼、これは駄目だ。

 不覚にも、好感を抱いてしまった。

 

 しかしこんな夢を見たところで、アイツへの印象は変わらない。

 結局、良い意味でうざいヤツには違いないのだから。

 

 そんなことをひとりごちて、あたしの意識は夢の世界に別れを告げた。

 

 

 ※※※

 

 

 ゆっくりと視界が開かれる。

 結局あたしは、誰の夢を見ていたのだろう。

 ぼんやりとしか覚えていないが、あたし自身の夢じゃなかったことは確かだ。

 

 だが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 結論から言わせてもらうと、あたしは捕まっている。

 無数のツタが生い茂る、大小様々な丸太で構成された、樹の檻に閉じ込められていた。

 

「ここって……んっ?」

 

 身を起こそうとすると、手首と足首に違和感を覚える。

 どうやら植物の弦のような縄で縛られているようだ。

 

 誰がこれをやったのか?

 せめて直近の出来事を思い出そうと寝返りを打ったところ、見覚えのある小さなシルエットが目に入る。

 

「むにゃむにゃ……逃げてるだけじゃろ……そういうゲームじゃないじゃろがコレ……」

 

 リテラだ。

 あたしと同じ檻に、あたしと同じ状態で横たわって寝ている。

 ひとつだけ違ったのは、彼女の羽にも縄が縛ってあった所。

 

 一体どんな夢を見ているのか知る由もないが、今は緊急事態だ。

 コイツを何が何でも起こして、今の状況を整理しなければならない。

 だがそれはそれとして。

 

「ムカつく」

 

 よく手足を縛られて呑気に寝ていられるな、という苛立ちが脳内を支配していた。

 腕が縛られてなければ、デコピンで吹き飛ばしてるところだ。

 

「誰よコイツを神って言ったヤツ」

 

 身内ノリの感覚で愚痴を吐いたところで、リテラが寝返りを打って目をゆっくりと開ける。

 さっきの愚痴が聞こえてないといいけど。

 

「んっ……レヴィン……?」

「ようやく起きたみたいね」

「何でわしらが縛られて捕まっとるんじゃ? そしてお主はどうして自慢の筋肉で軽々と脱出しないんじゃ?」

 

 リテラのその様子だと、意識を失う直前の記憶が曖昧なのは、あたしだけではなかったらしい。

 

「さっき起きたてだからよ。まずは情報が欲しいわね」

「情報じゃと? 集めるまでもない」

 

 そのはずだったリテラの、何かを知っているような口ぶり。

 しかし、多少のムカつきをブレンドした声色。

 

「そこに立っておる見張りの()が、全てを物語っとる」

 

 そう語るリテラの言葉を聞いて檻の外を見やると、確かに見張りらしき人物が檻の傍で鎮座している。

 そしてその見張りの耳は、長かった。

 

「耳が長いってことは、もしかして――」

「長命種、エルヴィン族。地球での呼び名は、()()()

 

 エルフとは、もしかしなくてもあのエルフである。

 ファンタジーコンテンツに疎いあたしでも知っている、森の賢者的な、あの。

 

「そしてここは、エルヴィン族の隠れ里。わしらはうっかり入ってしまったんじゃ、隠された結界領域の中にな」

 

 そうだった、だんだん思い出してきた。

 あたしとリテラは、こうやってエルヴィン族に捕まるまで。

 とある訳あり劇団を護衛していたのだ――。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 事の発端は、傭兵ギルドにやって来た、初老の女性による依頼だった。

 

 依頼人の名は、ウルスラ・バッシュ。

 バッシュさんは王都を拠点とする『フルンケライ』という劇団の座長を務めている人で、王国では結構な有名人とのこと。『演劇界のゴッドマザー』とか、そういう二つ名があるらしい。

 

 そんな人が何故傭兵ギルドを頼ってきたのか。

 劇団一座『フルンケライ』は元々王都での公演活動を主としているが、王都から飛び出す出張公演の企画が持ち上がったという。

 騎士団の庇護下にある王都ならいざ知らず、王都の外へ出るとなれば護衛は必須だ。

 

 だがなぜ、あたしたちギラソール傭兵団を指名してきたのか。

 バッシュさんはこう答えた。

 

「劇団の間で噂になっているのよ、あなた達のこと。王城を強い魔獣から守った救世主で、王族の方からも一目置かれているって」

 

 なんとも光栄である。

 実際あたしは負けたようなものだが、美談というものは良い方向に脚色されやすいようで。

 

 思えば傭兵団を結成してから、やけに指名の依頼が多くなった気がする。

 しかし、あたしからすれば悩ましい問題ではあった。

 

 たった一度、王国に貢献しただけで、依頼人の手のひら返しが熱すぎるのだ。

 これまで全く興味のなかったブランド物の服を、ただビッグウェーブに乗りたいからという理由で買う人のようで、イマイチ興が乗らない。

 

 一応、こちらで依頼を厳選してはいる。

 ギラソール傭兵団的にNGと決めている依頼は悪事の加担、その全てだ。

 窃盗はもちろん、人身売買、戦の火種、暴力沙汰、その他諸々。

 

 対魔獣関連依頼ならともかく、対人関係の依頼はデリケートな物が多いので、場合によっては依頼人と対談を必要とするケースもある。

 あたしとリテラがバッシュさんと今対面しているのも、そんな数あるケースのひとつに過ぎない。

 

 王都では名の知れた業界人であるからこそ、どんな人物かを見極めることが重要なのだ。

 闇が深い案件だったら、たまったものじゃないしね。

 だが、そんな心配は杞憂だったかもしれない。

 

「私があなた達を護衛として雇うのは、出張公演がうちの劇団としては初めての試みだから、信頼の置ける有名な方に守ってもらいたい、というのがひとつ。名が売れていると、それだけで安心してくれる劇団員も少なくはないですからね」

 

 バッシュさんの見立ては当たっている。

 一度信頼を得てブランド化してしまえば、消費者は安心して新作を買ってくれるのと同じ理屈だ。

 あたし達というブランドを評価してくれたということなのだろうが、少しこそばゆい。

 

「ひとつ? まだ他に何かあるんですか?」

「出張公演の道すがら、あなた達の軌跡をうちの劇作家に聞かせていただきたいんですよ」

「それはつまり……こちらでネタを提供しろ、と?」

「ええ。最近執筆が行き詰っているようですから」

 

 スランプ作家のネタになれってか。

 単なる護衛の依頼だけかと思ったら、予想以上に面倒なオプションが付いてきた件。

 

 一番困るのよね、こういう善意で厄介な仕事振ってくるの。

 ネタの提供と言われても、あたしが恥ずかしくなるので無理だ。

 

 確かにデカいことはやらかしたかもしれない。

 だからってそれを劇のネタにされると、ますますあたしの勇名が広まる羽目になってしまう。

 あたしとしては魔人王に勝てればそれでいいんだけど、名誉欲しさに傭兵やってるわけじゃないしね。

 

 うん、仕方ない。

 バッシュさんには悪いが、今回の依頼は無かったことにしよう。

 あたしはそう考えていたのだが――。

 

「うむ、それくらいなら別に構わんぞ。なんなら通し稽古の見学もさせてくれんか?」

 

 この手のオプションに敏感な反応を示す妖精がひとり。

 そう、リテラだ。

 

 彼女は生粋の地球文化限界オタクではあるが、それ以上に物語や英雄譚に強い興味があることで、あたしの中では知られている。

 演劇に興味が向くのも当然の帰結だが、勝手に依頼を承諾するかのような発言はやめて欲しい。

 

「ちょっと、図々しすぎ! 受ける前提で話を進めない!」

「何を言っとるんじゃ。大手の依頼なんじゃから報酬金がたんまり入るのは確実、更に名を売って信頼を得るにもうってつけ。わしらの武勇伝語らせるくらいは必要経費と割り切って、素直に頷いておけばええんじゃ」

「あら、話のわかる妖精さんね」

「ふふん、伊達に傭兵団の知恵袋はやっとらんよ」

 

 リテラ、ドヤってるところ悪いけど、その理屈と知恵袋云々は関係なくない?

 

「わしらは常に、今を輝かしく生きる命の味方じゃ。その依頼、喜んで引き受けようぞ!」

 

 あたしが団長として口を挟む間もなく、勢いで話はまとまってしまったのだった。

 

 今を輝かしく生きる命の味方、だなんて。

 人助けは嫌いじゃないけど、あまりにも誇大広告すぎない?

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