太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第八十二話 「必死で生きようとする命は尊い」(2)

 かくして、劇団『フルンケライ』の出張公演護衛依頼を受けてしまった、あたし達ギラソール傭兵団。

 まずは顔合わせを兼ねて、出張公演の旅支度を一緒に整えることになった。

 

 劇団の本拠たる劇場屋敷は、王城から西へほど近いオスタン区にある。

 この区画は特に商業施設が多く、王都に居を構える貴族の約半数が住んでいるという。

 

 なので劇を見に来る上客は貴族がほとんどであり、当然彼らにターゲットを絞った演目をやってきたのだろう。

 気品が屋敷のそこら中に溢れ出ているかのような錯覚に陥ってしまった。

 

「す、すげぇ……」

 

 我が傭兵団の拠点より倍近くある規模の屋敷を目の当たりにして、ニューが語彙力を失う。

 気持ちはわかる、一介の傭兵団の拠点と比べても規模が違うもんね。

 

「劇団フルンケライは、元々ここで劇をやっているんですね」

「うむ。父が生きていた頃には、よく連れてきてもらったものだ。今でも『聖騎士カナリア物語』はやっているだろうか?」

「そういえば、ジークがエリックおじさまと同じくらい感化されたのが、その演目でしたわね。話に聞いたのが随分昔なので、内容はうろ覚えですけども」

 

 ミュウくんの分析を聞いて、ジークが懐かしい思い出を語ったところに、ヤーナが補足する。

 元々の王都住まいからすればこの劇場屋敷は、馴染みの風景として深く刻まれているのだろう。

 

「座長さんは、迎えを寄越すって言ってたと思うんだけど」

「そのはずじゃが……お、呼び鈴を鳴らすまでもなかったのう」

 

 あたしとリテラの心配は杞憂に終わったようで、劇場屋敷の玄関扉が開かれる。

 

 現れたのは、意外や意外。

 まるで二次元の世界から飛び出したような、スラリとした体格の上に華やかなタキシードを着込んだ、茶髪のイケメン男性だった。

 

 なぜだろう、まだ朝なのに後光が差している気がする。

 

「お待たせしました、傭兵団の皆さん。話は座長から伺っています」

 

 美しく整った外見だけではなく、声まで美しい……。

 なんたるイケボ……!

 劇団員ってこのレベルの役者が多いんだろうか。

 

「だ、大胆ですわね座長様は……。劇団一番の花形スタァ、リュカ・ハーネスを迎えに寄越すだなんて」

「ウソでしょ!?」

 

 まさかのナンバーワンだった件。

 あたしがずっと見とれてしまうはずだよ!

 

「ははっ、なんとも気恥ずかしい。主要人物役での起用が多いだけなんですけど」

 

 しかも発言が謙虚寄りときた。

 きっと座長さんは彼のこういう好青年なところに、スタァ性を見出したんだろう。

 

「改めて、リュカ・ハーネスです。時間通りに来てくれて申し訳ないんですけど、ついさっきトラブルがありまして」

「何があったのだ?」

「実はいつも大道具を運搬してくださっている力自慢の方々が、揃って腹を下してしまって……」

「それで作業が滞っている、ということですのね?」

「まことに申し訳ない、ここまでご足労くださったのに」

 

 力自慢のスタッフが軒並み体調不良でダウン、か。

 劇団の食事情は知らないが、いくら力自慢でも胃腸はそう簡単に鍛えられないので、そういうこともあるのだろう。

 隠れて拾い食いでもしていたのなら話は別だが。

 

 とはいえ、このままではこちらの護衛の仕事も滞ってしまう。

 しょうがない、手伝いも仕事のうちだし、トップスタァの顔に免じて、あたしが一肌脱ぎますか。

 

「いえいえ、手伝えばいいだけの話ですよね」

「えっ、手伝ってくださるんですか!? 軽くおっしゃいますけど、大道具って重いのばかりですよ!」

「お主は座長殿からわしらのことを何も聞いておらんかったようじゃな」

 

 不安そうなリュカさんの顔色をうかがうように、リテラが深刻な口調で彼を睨んだ。

 どうしよう、この先コイツが何をするかが、大体読めてしまった。

 

「この『勇者勲章』が目に入らぬか!」

「そ、それは!」

「こちらにおわす方をどなたと心得る! 畏れ多くもグナーデン王城を魔獣の魔の手から退けた陽拳(ようけん)の救世主! レヴィン・ゾンネにあらせられるぞ!」

「ま、まさか……! 座長がそんな偉大な御方に護衛を依頼していたなんて!」

「救世主の御前である、控えおろう!」

「ははーっ!!」

 

 ウソでしょ、まさか本当にあたしをダシにして水戸黄門ごっこをやるとは。

 元ネタ知らないハズのリュカさんも何故かノリノリだし、咄嗟のアドリブ力は名優と呼んでも過言ではないんだけども。

 

 恥ずかしくて泣きそうだよあたしは。

 ていうか陽拳って何さ。

 

「茶番はそのくらいでいいんで、大道具の場所まで案内してくれますか?」

「そ、そうですね! では劇場の中へ!」

「他にも手が空いてたら、何でも仰ってください。これでも治療師の端くれなので、倒れた方々の診断くらいは出来ますよ」

「あっしも高い所の作業なら手伝えるからさ、頼っていいぜ!」

「私は、そうだな……騎士を演じる役者の演技指導でもやってみるか!」

「何様のつもりですの、アナタは……? そうですわね、報酬に色をつけてくれるなら、アタクシも何か手伝いましてよ」

 

 ぞろぞろと屋敷に入る中で、我が傭兵団のメンバーが誰も彼もやる気に満ちている、という様子がうかがえる。

 かくいうあたしも、人の助けになれる仕事は好きな方なので、少しウキウキしているのだが。

 

「お、そうじゃリュカ坊」

 

 リュカさんがこれから案内しようってところで、彼はリテラから声を掛けられた。

 いや、『坊』って何よ。

 確かにリテラからしたら随分歳下に見えるだろうけども。

 

「リュカ坊って僕です?」

「うむ、ここの劇作家に会わせてもらいたいんじゃが」

「彼女に、ですか。今頃は通し稽古を見ていると思うので、すぐに会えますよ」

「それはありがたいのう!」

「ただ少し、気難しい人なもので。そこを留意していただければ」

 

 劇作家の女性は気難しい、か。

 一体どんな人なのか、正直予想がつかない。

 

 ストレスが溜まらない方向性で気難しくあれ、などと考えつつ、あたしたちは劇団の出張準備を手伝うため、現場へ向かうのだった。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 それからあたしは大道具を馬車まで運ぶ手伝いを何往復もしたり、大工めいた力仕事をやったりもして、大半のことはやったと思う。

 

 ウチの傭兵団もそれぞれ出発作業を手伝っていく中で、あたしの仕事は一段落。

 いつの間にか見回りに来ていたバッシュ座長さんに、休憩がてら通し稽古を見ていくといいでしょう、なんて言われたあたしは、役者が通し稽古をやっている劇場へ足を運んだ。

 

「圧巻ね……」

 

 思わず呟いてしまうほどの、広さ。

 前世と合算しても、演劇を見に行ったことは一度もないが、このオペラ座もかくやといったスケールの内装には脱帽だ。

 きっと公演時には、この観客席が貴族の皆さんで埋まっていることだろう。

 

 しかし、今舞台の上で行われているのは通し稽古。

 観客席に座っているのは、稽古を見守る数名のスタッフのみである。

 ひとりだけフードを被った人が気になる以外に、何も不自然な光景ではなかった。

 

 そして通し稽古は、クライマックスを迎えているようで。

 当然のように主演であろうリュカさんが、ぐったり死んだふりをした綺麗どころの女優に向けて語り掛けている。

 

「嗚呼、なんてことだ! こんな道を選ぶなんて! 僕はまだここにいるのに……!」

 

 おお、流石劇団ナンバーワン俳優。

 演技が堂に入ってるというか、ここまで哀しみに満ちた声色が出るのか、という驚き。

 

 じゃあ今やってる演目って……、もしや悲劇?

 

 稽古は続く。

 リュカさんは懐からナイフを取り出した。

 

 多分このナイフはアレだ、刃がなくて、刺しても刃が柄の中に引っ込むタイプの小道具。

 それを出した、ということは。

 

「ロミィ……。君がいなければ、僕はこの世界で生きている意味がない。待っていてくれ、すぐに追いつく」

 

 血を出さないナイフを胸に刺すリュカさん。

 徐々に脱力していく演技と共に、倒れている女優の上へ覆い被さった。

 何故だかどこかで見たことあるようなシーンを終えたところに、観客席から声が掛かる。

 

「オッケー……です」

 

 控えめな声は、スタッフの中で目立っていたフードの人のものだったらしい。

 実際に席を立って声を出していたから間違いない。

 

 なんとなく異質だ、と直感が騒ぐ。

 フード装備もそうだが、ふと鼻に来た香りに妙な懐かしさを覚えたのだ。

 王都民らしからぬというか、あたしに限りなく近い、田舎者独特の匂いというか、そんなものを。

 

「とりあえず脚本の行間読んでみたんだけど、どうかな、シルヴィアさん?」

 

 愛のために自決した男の演技を終えたリュカさんが、起き上がって舞台を降りる。

 

 フードの人はシルヴィアさんっていうのか。

 リュカさんが脚本の行間がどうのと聞いてきたから、この人がバッシュ座長さんの言っていた劇作家ってことになるわけだけど。

 

「そうですね、ロミィを心の底から想うジュリアスの心境が……ダイレクトに、伝わってきて……。やっぱり役の理解が深いというか……天才ですよ、リュカさんは」

 

 あたしは観客席の前方に移動して、フード越しにシルヴィアさんの横顔を見る。

 なんというか、フードで隠すには勿体ない端正な顔立ちをしているような。

 

「お世辞でも嬉しいなぁ。シルヴィアさんの脚本が良いから、活き活きと演じられるんですよ」

「お、おおおおお世辞だなんて! そちらこそお世辞返しじゃないですか! 自分の脚本なんて、それこそありきたりで……」

 

 あからさまに顔が赤い。

 リュカさんに恋でもしてるのかと思ってしまうが、リュカさんレベルの美青年に褒められたら、誰でも赤くなるか、うん。

 

「ありきたりならリピーター増えないでしょ。実力よ実力」

 

 さっきまで倒れていた女優さんもシルヴィアさんに寄って来た。

 そういえばリュカさんにロミィって呼ばれてたけど、これは役名の方か。

 

「もう、スレイさんまで……」

「ウケてるんならそれでいいじゃない。シルヴィアってアレでしょ? ホラ、役に乗り移る感じの……何だったかしら、リュカ?」

「もしかして憑依型作家ってヤツかい?」

「そう、それよ! そういう感じで役になりきってるから、臨場感のある台詞回しが書けるのよ!」

 

 憑依型、ねぇ。

 作家の感性は人それぞれだけど、そういうタイプも居るんだ。

 スレイさんとやらの褒めちぎりは続く。

 

「この間シルヴィアの部屋を通り過ぎた時ね、劇中の台詞を叫びながら書いてたのが聞こえてさ――」

「ちょっと! それは言わない約束じゃないですか!」

「ごめんごめん。でもそのおかげであたしらは思いきり役を演じられるんだし、今回も頼りにしてるから、チャラってことで」

 

 なんというか、姉妹みたいな距離感だなぁ。

 

「あ、レヴィンさんじゃないですか。大道具の方は、もう大丈夫なんです?」

 

 スレイさんとシルヴィアさんの仲睦まじい様子を見てほっこりしていたリュカさんは、あたしに気付いて声を掛ける。

 

「一段落ついたから暇になって。それで座長さんから、休憩がてら見に行ったらどうかって言われてここに」

「えっと、もしかして貴方が座長さんが言ってた護衛の人……ですか?」

 

 シルヴィアさんもあたしの方を見る。

 そのおかげで彼女の顔と金色の前髪くらいは見ることができた。

 

 ちくしょう、あたしより肌の手入れが行き届いてるな。

 女優も余裕でやれそうな顔してる。

 

「レヴィン・ゾンネです。そっちはシルヴィアさんでいいんですよね、ここの劇作家の」

「はい……シルヴィア、です。訳あって家名は名乗れない身ですが、よろしくお願いします」

 

 つまり名字を口に出せないと。

 複雑な事情なら無理に追及はしないけど、単にシャイなだけかもしれないから判断が難しい。

 

「ま、家名というネームバリューに頼らずやって行けてる、という点では評価したいんじゃが」

 

 そこへ割り込む、シルヴィアさんの隣に鎮座していたリテラの声。

 そういえば出張準備手伝う前に、シルヴィアさんと面会してたんだっけ。

 座長さんと前もって約束していた通し稽古の見学も、流れでちゃっかりやっていたようだ。

 

 しかしそれにしては、不機嫌な顔をしているような。

 

「シルヴィア、忌憚のない意見を言わせてもらうぞ」

「は、はい、どうぞ。客観的なものでよければ……」

 

 シルヴィアさん、外野の感想を聞こうって姿勢は立派だと思う。

 しかし――。

 

「このままではいかん、全部書き直せ」

 

「なっ……!?」

 

 既にリテラの逆鱗に触れていたということに、もっと早く気付くべきだったのかもしれない。

 

「ちょっと、なんてこと言うの、この子は!」

 

 あまりにもデリカシーに欠けた発言だったので、当然シルヴィアさんの脚本を演じる側である俳優側から反論が出た。

 スレイさんはシルヴィアを庇うように前に出る。

 

「そうですよ、あんまりじゃないですか! シルヴィアさんの脚本は、これまでも貴族の方々に絶賛されてきました。今回の『ロミィとジュリアス』だって――」

「リュカ坊。わしはな、需要のことを言うておるんじゃ」

「需要?」

「劇団『フルンケライ』は、貴族の大人に客層を絞って、その人気を不動のものとしてきた。何故だかわかるか?」

「えっ……? ええと、それは……座長や劇団員の努力が実ったからで――」

 

 突然リテラから投げかけられた質問に、リュカさんは困惑する。

 

「それもあるじゃろうな。確かに座長は敏腕じゃし、劇団員のレベルも高い。じゃが、それとは別に貴族から受け入れられた本当の要因がある」

「シルヴィアの脚本……でしょ?」

「そうじゃな、スレイ・ヴァージニア。そしてこやつの書いた演目で最も客足が伸びたジャンルが……悲劇じゃ」

 

 悲劇……リテラが嫌悪しているもののひとつだ。

 ともかくコイツは、今を必死で生きる命が理不尽に奪われることを心の底から望んでいない。

 

 だが何故、悲劇で客足は伸びたのだろう。

 その答えは人間の深層心理にあると、リテラは語り始める。

 

「とある哲学者の悲劇論によれば、じゃ。人は悲劇を見ると、心に怖れや憐れみといった負の感情を吐き出さずにはいられず、そうした結果として精神状態がスッキリするらしい」

 

 なんだか聞いたことある理論。

 カタルシス効果、だっけ。

 奥さんが井戸端会議で夫への不満を人に話したら清々しい顔で帰ってきた、みたいな。

 

「悲劇のミソは、人の間で語り草になりやすい、そしてトラウマと同じくらい心に残りやすいという、この二点にあると言っても過言ではないのう」

「それが需要に関係あるんですか?」

「あるぞ、大いに。これより向かう出張公演、貴族だけに見せるものではなかろう?」

 

 ハッと何か気付いた顔になるシルヴィアさん。

 

 なるほど、リテラの言いたいことが少しは分かってきた。

 劇団一座『フルンケライ』による出張公演の狙いはおそらく、観客層の拡充にあるのだろう。

 

 だが、その目的を実行に移すには、今あるトゲを抜く必要がある。

 残忍な大泥棒を、愛嬌のある義賊に改変するが如く。

 

「一般層へのアプローチという点では、この救いがない物語をそのままお出しするべきではない。記憶に残る爪痕を残せはするが、それは同時に個々人のトラウマを呼び起こす、もしくはトラウマそのものになってしまう可能性を孕んでいるからじゃ」

「だから展開そのものを変えろって……そう言いたいんですか」

 

 シルヴィアさんの声が震えている。

 

 リテラが言っていることも、客観的正論ではあるのだろう。

 なにせコイツの本体はこの世界の創造神だ。

 加えて地球文化を隅々まで堪能したこともあり、あらゆるジャンルの創作物に精通している。

 

 その上で創られたこの異世界(フロイデヴェルト)は、リテラを知る地球の創造神曰く、『地球で未だ虐げられる弱者を想って創った世界』という名目なのだそうだ。

 

 リテラはこの世界における原初のクリエイターとして、後輩クリエイターたるシルヴィアさんの道程そのものに(くさび)を打ち込んでいる。

 

 自分勝手な嫉妬とも取れるが、とにかくコイツに悲劇の演目を見せてはいけなかった。

 ただそれだけのことで、厄介なコイツの心を刺激してしまったのだから。

 

「そう簡単にはいかぬということは承知しておる。終盤のロミィとジュリアスのすれ違いを回避するだけでも――」

「それじゃあ認めてくれないんです!」

 

 しかし声を荒げたのは、シルヴィアさんの方だった。

 さっきまでオドオドしていた人が、ハッピーエンド至上主義者の言葉を引き金にして、感情を爆発させたのだ。

 リュカさんもスレイさんも周りの劇団員もスタッフも、無論あたしも驚いた。

 

「自分にはこれしかない! これがあるから自分はここに……あっ――」

 

 シルヴィアさんは、逆上した己に気付いてか、続けるべき言葉を止めてしまう。

 

「すみません……。色々考えたいので失礼します」

 

 おまけにそう零すと席を立ち、そそくさと劇場を後にしようとする始末。

 

「シルヴィアさん!」

「シルヴィア!」

 

 リュカさんとスレイさんの声で立ち止まりはしたものの、振り返らずに。

 

「出発の準備が出来たら……呼んでください。それ以外は……すみません」

 

 シルヴィアさんは、慌てて劇場の扉を開けて出て行ってしまった。

 リュカさんが気難しい人って言っていたのは、こういうこと?

 

 それにしても、あたしは彼女を止めるべきだったのだろうか。

 いや、止めたところで掛ける言葉は見つからなかっただろう。

 周りの空気を重くした原因が、まだあたしの眼の前に居るのだから。

 

「リテラ、アンタねぇ――」

「わしは間違ったことは言っておらんぞ」

 

 うおっ、思ったより強情じゃないの。

 

「でも、シルヴィアさんのプライドは傷ついた。アンタっていつもそうよね、人の気も知らないで、自分の言いたいことだけは押し通すんだから」

「それは誤解じゃ。わしはシルヴィアの為を思って、ああ言ったに過ぎん。この魔獣蔓延る混迷の時代、人々に希望を示す創作物はハッピーであるべきなんじゃ!」

「リテラさんの言いたいこともわかるんですけど……」

 

 おうおうリュカさんや、この押し付け妖精にもっと言ってやれ。

 

「僕らは彼女の書いた悲劇で、貴族の皆さんの信頼を得てきたんです。今更一般層の需要を説かれたところで、劇団『フルンケライ』はスタンスを変えるつもりはありません。きっと座長も、同じ意見だと思うんです」

「果たして座長は、そう望んでおるんかのう?」

「どういう意味ですか?」

「その様子じゃと知らんらしいな、シルヴィアがスランプに陥っておることに」

 

 あーあ、バラしちゃったよコイツ。

 まあ、座長さんからは特別口止めされているわけでもなかったし、劇団員の皆さんも知らなかったわけだから、別にいいのか。

 当然、その情報を聞いた劇団員の皆さんはざわついた。

 

「えっ、あのシルヴィアさんがスランプ!?」

「そんな様子まるで見せなかったのに……」

「でもさっきの発露が迫真すぎたもんな、マジで」

 

 彼ら彼女らはシルヴィアさんをどんな目で見ていたのか、台詞で薄々と理解する。

 どうやらこの劇団で、シルヴィアさんを作家ではなく個人として見ている人の割合は、そこまで多くなかったのだろう。

 

「そんな……。何であたしに相談してくれなかったの?」

 

 スレイさんが嘆きの声を漏らす中、リュカさんは苦虫を噛み潰すような表情で、リテラに問う。

 

「もしかして、座長の口からそのことを?」

「うむ。それを口実にして、レヴィンの武勇伝を語り聞かせてくれ、と依頼された」

 

 リテラ、わざわざそういうこと言わなくていいから。

 

「そしてあやつと少し話してみて、わかった。劇作家シルヴィアは……とんでもない臆病者じゃよ」

 

 臆病者、か。

 いったいシルヴィアさんは、何に怯えているのだろう。

 

 困惑と後悔という名の遺恨を残しつつ、『ロミィとジュリアス』の通し稽古はお開きとなった。

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