太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第八十三話 「必死で生きようとする命は尊い」(3)

 出張準備が終わった頃には夜になり、あたし達は座長さんのご厚意で、劇団員の皆さんと夕食を共にした上に、劇場の空き部屋を寝床として提供してもらえることになった。

 

 劇団が使っていない部屋にしては、ふかふかのベッドが五つも置いてあるほどに広い。

 道すがら聞いた座長さんの話によれば、劇場として改装する前、ここは大きめの宿屋だったらしく、その名残とのこと。

 今夜はここへ泊まり、出発は明日となる。

 

 あたしは寝るまでの間ベッドに座り、座長さんに貸してもらった『ロミィとジュリアス』の台本を眺めていた。

 

「おお、ロミィ。何故君はロミィなんだ」

 

 既視感のある台詞が見えたので、思わず呟いてしまう。

 恋人同士が共に逝くラストシーン、そしてこの聞き覚えのあるフレーズ。

 

 演目の名前からして薄々察しはついていたが、シルヴィアさんが書いたこの悲劇の物語は、あたしの知っている『ロミオとジュリエット』との類似点が多い。

 長らく対立する貴族同士に始まり、仮面舞踏会での主役ふたりの邂逅、束の間の逢瀬。

 

 そのどれもがロミジュリを踏襲しているように感じた。

 おそらくこれは偶然の一致だろう。

 リテラの性格からして、地球の悲劇を言い伝えているとは考えにくい。

 

 唯一違っていると感じたのは役名と、主役ふたりの立ち位置である。

 いわばロミオとジュリエットが男女反転したようなもの、と例えればいいのか。

 

 つまりモンタギュー家に生まれたのがジュリエットで、キャプレット家でロミオが生まれていた世界線、みたいな。

 それでもモンタリオ家のロミィとギャブレー家のジュリアスが辿る結末は、あたしの知るロミジュリと一緒なのである。

 

 ここまで偶然の一致として片付けていいのかはともかく、リテラが憤った理由もわかるというものだ。

 

 悲劇の引き金は、届かなかった手紙。

 ロミィとジュリアスは、ジュリアスの知り合いであるシスターの手引きで、両家の目を盗んで結婚式を挙げる。

 しかし、両家の抗争に巻き込まれたロミィは親友を失い、憎しみからジュリアスの従兄弟を殺害、街から追放されてしまう。

 

 その最中でジュリアスは別の女と結婚させられそうになり、シスターの協力を得て、仮死薬で己の死を偽装するという大胆な行動に出た。

 で、シスターはその報せの手紙を使者を通じてロミィに送ったはずだったのだが、ロミィはちょうど追放されていて。

 ロミィはジュリアスの死を真に受けたまま後を追うように死に、ジュリアスもまた後を追う形に。

 

 つまり神様の悪戯がすれ違いを引き起こして、ふたりの生きる希望を絶つ形になってしまったのだ。

 

 ロミィとジュリアスの悲劇がきっかけになって、長らく対立していた両家が和解したとかいう、取って付けた後日談はどうでもいい。

 ただ、あそこまで苦労して家を捨てて結ばれようとしたふたりが報われなかった。

 リテラは、それが我慢ならなかったのだ。

 

 ――劇作家シルヴィアは……とんでもない臆病者じゃよ。

 

 アイツはそうシルヴィアさんを評していたが、『ロミィとジュリアス』の台本を読んだ限りだと、そうは思えない。

 臆病者が、こんな救いのない脚本を書けるものだろうか。

 貴族の需要がどうこう、というのが鍵になりそうだが……。

 

「気になって眠れない……」

 

 当然である。

 本来なら日課のストレッチでリラックスして寝ていられるハズなのだが、柄にもなく考えすぎたのがいけなかったのか。

 まったく、元はと言えばリテラが安請け合いしたせいだぞ。

 

 とはいえ、あたし以外はすっかり眠りに落ちている。

 ミュウくんが落ち着いた寝息を立てているのに対してニューの寝相は悪いし、ジークはイビキがうるさい。

 

「むにゃむにゃ……財宝入浴剤ですわぁ……」

 

 ヤーナに至っては意味不明な寝言を口走っている。

 冷静に考えると、いつもの野宿で雑魚寝している時と同じパターンなのだが。

 いつもならあたしの枕を敷布団にしているリテラが、今はいない。

 

 台本を読んでいる間にどこへ行ったのかは定かではないが、気にしなくてもいいだろう。

 あたしから離れて別行動なんて、割とあったし。

 

「夜風に当たろうかな」

 皆を起こさないようにそっと呟いて、あたしは静かに部屋を出た。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 灯りが消えた、月明かりに照らされる廊下。

 普段なら夜中は少し不安、という感覚になるのだが、魔獣教団が去った後の王都グナーデンは比較的平穏を取り戻している。

 加えて高名な劇団の施設なので、気を張って警戒することなく、廊下を歩けるというものだ。

 

「そういえばここって、噴水広場があるんだっけ」

 

 あたしは思い出したように呟く。

 大道具運搬の通り道で見かけて、ちょっと気になっていたのだ。

 

 昼間は忙しなく力仕事をやっていたので、気にする余裕もそこまでなく、シルヴィアさんのこともあって、すっかり忘れていたが。

 とりあえず目的地を決めたあたしは、噴水広場に向けて歩を進めた。

 しかしその途中。

 

「――めてくださ――それを――つもりは――」

「こっちが――決まっとる――!」

 

 聞き覚えのある声を、耳が受け取る。

 

 ふと立ち止まって周りを見ると、扉がひとつ。

 子供部屋のようなプレートがぶら下がっており、『シルヴィア』の文字が掘られてある。

 あたしはシルヴィアさんの部屋の前に立っていたのか。

 

 一方の声がシルヴィアさんのものだとして、問題はもうひとりの声だ。

 シルヴィアさんは通し稽古以来、自分の部屋に引きこもったままだと座長さんから聞いている。

 本来ならあらゆる接触を断つほどの精神状態のハズなのだが。

 

 そんな彼女が誰かを部屋に招くだろうか?

 いや、誰かがコンプライアンス無視を決め込んで勝手に入ってきたと考えれば。

 該当者は、アイツしか思い浮かばなかった。

 

「まさか、懲りずにまた意見しに来てるんじゃ……!」

 

 もはやそれはライン超えじゃないか、と。

 何でそっとしてやってくれないんだ、と。

 苛立ちが込み上げる。

 

 まったく、あの決めつけ妖精ときたら!

 ドアノブに手をかける。

 鍵をかけていようが問題はない。

 あたしの腕力は、元を辿ればアイツのせいで鍛えられてしまったのだから。

 

「ふんッ!」

 

 筋肉解錠。

 座長さん、後で弁償しておきます。

 

 扉を開けた先には、小物が床に散らばるほどに整理の形跡が見当たらない部屋。

 そして、ランプの薄明かりの中で対峙していた女性と妖精の姿が。

 今は互いに、乱入してきたあたしを見ている。

 

「リテラさんや、なーんでこんなとこに居るの? どこからこの部屋に入ったの?」

「お、お主こそ! 夜更かしは美容の天敵なんじゃぞ?」

「はい、ウザい。話を逸らさないと死ぬ病気なの?」

 

 本題に入らせなさいよ、まったく。

 

「あ、あの、ここ、自分の……」

「シルヴィアさん、大丈夫? コイツに何……か……?」

 

 あたしはシルヴィアさんの声がした方に視線を向けた。向けたのだが。

 

 シルヴィアさんは通し稽古の時のようにフードを被っておらず。

 

 ボサボサの金髪と、そして。

 

 ()()()()()()()()が、露わになっていた。

 

「あっ、あわわわっ……!」

 

 あたしの視線に気付いてしまったシルヴィアさんが、慌ててフードを被って顔ごと頭部を隠す。

 あの尖り耳って、似たようなのを最近見たような……?

 

「……見ま、した……?」

「シルヴィアさん……すいません」

 

 血が上るような怒りが、急激に冷めてしまった気分だ。

 あたしは素直に謝ってしまった。

 

「やっちまったのう……」

「リテラ、あの耳の形って――」

「出てってください」

 

 あたしの質問に割り込むように、シルヴィアさんの絞り出すような声が、部屋に響く。

 

「自分の秘密……見なかったことにして、出てってください……」

「シルヴィアさ――」

「出てって!!」

 

 強く、否定された気分だ。

 声に詰まる。

 

「戻るぞ、レヴィン。これ以上は……」

「……そうね。失礼します」

「シルヴィア、すまぬ……」

 

 あたしはリテラに付き添う形でシルヴィアさんの部屋を出た。

 シルヴィアさんに謝った時のリテラの声が、少し淋しそうに聞こえたのは、気のせいだと思いたい。

 

 

 

 ※※※

 

 

 

 夜風が少し冷える、噴水広場へ。

 あたしがリテラとここに来たのは、シルヴィアさんとの間で何があったのかを問い質すためだ。

 

 彼女の返答によっては、噴水の中で泳いでもらおうかと、半ば倫理に欠けたお仕置きを計画していたのだが。

 意外にもそちらから、事情を話してくれたのだった。

 

「お主が見た通りじゃ。シルヴィアは、『エルヴィン族』じゃよ。地球的には『エルフ』の方が馴染み深いかのう」

 

 やっぱりそうなのか。

 

 エルフといえば地球では最も有名な長命種であり、ファンタジー物のメディアに高確率で登場する、あのエルフである。

 森と共に生き、賢人と呼ばれるほどの知識を持ち、おまけに精霊と話せているおかげで魔法の扱いに長けている、そんなイメージのエルフだ。

 このフロイデヴェルトでは『エルヴィン族』という種族名になっているらしいので、今後もその名で呼ぶことにしよう。

 

「シルヴィアさん自身が隠すほどの秘密だったってことは、この世界のヒト族とエルヴィン族の関係って――」

「まあ、察しの通り良くはない。『魔兵器大戦』が始まった時点で王国と帝国の両方を見限って、戦乱に巻き込まれぬよう雲隠れするくらいじゃからな」

 

 なるほど、賢い。賢人の種族なんだから当たり前だけど。

 

 それに『魔兵器大戦』といえば、二十年前に魔獣が出現するまで続いていた大戦乱のことだ。

 詳細こそ知らないが、王国と帝国は先の見えない戦いを延々と続けていたと、故郷のばっちゃから聞いたことはある。

 

「元々エルヴィン族は古代から魔法や精霊と共に生きた結果、長命種となって繁栄してきた種族じゃ。彼らの魔法技術を応用して作られたマキナに関しては懐疑的じゃった」

「戦争に、使われたから?」

「そうじゃ。今でこそ魔獣という脅威が現れて、それに対抗するという手段でマキナは使われておるが、エルヴィン族からすれば望まぬ兵器。いつ自分達に牙を剥くかわかったものではない」

「仲が悪いっていうより、ヒト族そのものが怖いって感じに聞こえるわね」

「概ねその通りじゃな。門外不出の技術が漏れて、それを悪用されたんじゃから、引きこもる理由もわからんでもない」

 

 そして大戦中に介入してきた魔獣にも怯え、表舞台に出るに出られなくなった、と。

 なんというか、包まれたオブラートを剥がしてみると、エルヴィン族が臆病に聞こえてしょうがない。

 

 ああ、だからリテラはシルヴィアさんを臆病者と言ったのか。

 いや、ちょっと待てよ?

 

「おかしいわね」

「種族全体として引きこもっているのなら、何故シルヴィアはここにおるのか、という点かの?」

 

 うわっ、まるで心を読まれたかのような先回り。

 

「簡単じゃよ。シルヴィアはヒト族の世界に興味を示した、SSR級のエルヴィン族。好奇心で里を抜け出した、逸れ者だからじゃ」

「臆病者発言との矛盾が凄いんだけど」

 

 あとSSR級て。

 ガチャの比率を知らないから、どれだけ貴重なのかわからん。

 ひとつ咳払いをして、リテラは話を続けた。

 

「とにかくじゃ。わしら傭兵団以外に、シルヴィアがエルヴィン族だという秘密は大っぴらに漏らすでないぞ。世間的には老害扱いされておるらしいからな」

「漏らしたら、どうなるの?」

「最悪、シルヴィアは劇団から追放され、わしらの信用も地に落ちる」

 

 信用が地に落ちる、っていうのは、最悪の想定としちゃ大袈裟じゃないかとは思うが、ヒト族とエルヴィン族の関係はそれほどまでにデリケートなのだ、と考えるしかない。

 

「無論、わしとてそのようなバッドエンドは望まん。だからわしはシルヴィアの気持ちを汲み取った上で、劇の内容をハッピーエンドにしないか、という提案をしに来ていたんじゃがな」

「なんだ、ただの押し付けじゃなかったのね」

「レヴィンはわしを何だと思っとるんじゃ?」

「買ったばかりの格ゲーソフトを救っただけの人間に救世主の宿命押し付けた、地球オタクで埒外の過激派ファン」

「ありがとう、最高の褒め言葉じゃ」

 

 認めちゃうのか。

 まあしかし、比較的生命体の常識に寄り添っている分、神様の中ではマシな部類であるということは確かなのよね。

 それだけに、押し付けがましいという欠点だけが足を引っ張っているといえる。

 

 ふと、夜風があたしの肌を撫でた。

 

「さむっ……」

「おっと、話し込んでしもうたな。続きは明日、皆も交えてウルスラから話を聞くとしよう」

「そうね、眠気も襲ってきたし」

「レヴィン」

 

 これから部屋に戻って寝よう、というところでリテラに呼び止められる。

 

「何よ?」

「明日の護衛は、くれぐれも用心するんじゃぞ」

「はいはい、母親かっての」

 

 用心、か。

 周りに劇団員が居る環境で、口を滑らせないように、ってところかな。

 

 あたしは口が堅い方だ、大丈夫。

 十割の保証は出来ないけど。

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