太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第八十四話 「必死で生きようとする命は尊い」(4)

 そして、翌日の朝。

 劇団『フルンケライ』とあたし達ギラソール傭兵団は、出張公演の目的地へ向けて、王都から無事に出立することができた。

 

 辺境にある村までの長い旅路の中で、あたし達は劇団座長・バッシュさんと同席することに。

 無論、本人抜きでシルヴィアさんの事情を確認するためである。

 今は馬車の中で、あたし達がバッシュさんを囲むような形で座っている。

 

「そうですか、シルヴィアの素顔を……」

 

 いつかそんな日が来るんじゃないかと思っていた、という感じの深刻さに見えたバッシュさん。

 劇団員の秘密を赤の他人に見られた、というだけでも契約破棄レベルのやらかしであるハズなのだが、全然怒りを露わにする様子は見られない。

 むしろ己の責任であるかのように、言葉を続ける。

 

「シルヴィアがエルヴィン族だということを隠していた、それは事実です。ひとたびこの秘密を漏らしてしまえば、王都は混乱するだろうと承知の上で、彼女を匿いました」

「なんと……」

「ふむ……」

 

 王都出身のジークとヤーナが苦い顔をする。

 エルヴィン族は王国で老害扱いされて嫌われている、とリテラは言っていたが、そうした事の重要性を二人は理解しているのだろう。

 

「なあ、そもそもどうしてその人の素性を隠さなきゃいけなかったんだ? 姉貴もラグナ族ってのだけど、普通に受け入れられてるぜ」

「ニュー、レヴィンさんとエルヴィン族を同列に考えることに、そもそも無理があるんだよ。ですよね?」

「うむ、ラグナ族はエルヴィン族に寿命、潜在魔力量、頭脳、その他諸々の面で劣っておるからな。比較対象にすらならん」

 

 創造神テラとしての目線から酷い言われようだが、種族全般としては事実だからしょうがないのよね。

 無論、あたしと父の血族は例外だという太鼓判を押されてはいるが。

 

「それに、ただ野蛮な劣等種として距離を取られていただけのラグナ族とは違い、エルヴィン族は王国史における特異点として、昔から王国に関わっておった」

「そういう類の歴史が載っている文献を見たことはありますわ。王国と帝国が、かつてひとつの国だった頃に魔導具などの魔法技術を授けたのが、エルヴィン族であると」

 

 流石は物知りヤーナ。

 いつどこで文献を読んだのかは怪しんじゃうけど。

 

 それにしても魔法技術を授けたって、物は言いようね。

 リテラが言うには、どこぞの誰かがエルヴィン族の技術を外に漏らしたって話らしいし。

 

「しかし、私達ヒト族の先祖は技術系統を二分させ、それを戦争に使った……。交流が絶たれていても仕方ありません」

「なら、シルヴィアとはどこで知り合ったのだ?」

 

 ジークの素朴な疑問。

 確かにあたしもそれが気になっていた。

 

「魔兵器大戦の頃……少なくとも二十年以上前にはなりますか」

 

 えっ、そこまで遡っちゃうの?

 そうなると案外長い付き合いになるのね、座長さんとシルヴィアさんって。

 

「王国と帝国が衝突していた当時、私は亡き父からこの劇団を継いだばかりでした。今より規模の小さな劇団でしたが、大戦の渦中における数少ない娯楽として、細々とやっていた頃です」

 

 当時の世間は戦争中だったというのに、なんと逞しい人なのだろう。

 そうでもしないと劇団の座長としてやってられなかった、とも言えるけど。

 

「王都でも大戦の緊張が冷めやらぬ状況で、荷車に載せられた物資が大通りを行き交う光景を買い物がてらに眺めていたら、突然荷車から人影が飛び出して、路地裏の方に逃げて行ったのを見たのです。それを追いかけた私が見たのは、見慣れない長い耳の少女が怯えている姿だった……」

「それが、シルヴィアさん?」

「ええ。荷物に紛れて、王都に忍び込んでいたのです。当然王都の衛兵に見つかれば何をされるかわからなかったので、劇団で保護する形になったのです。その頃から、彼女の外見は殆ど変わっていませんでしたね」

 

 なるほど、流石長命種エルヴィン族だ。

 若く見える期間が長いんだろうね。

 

「シルヴィアがエルヴィン族だと知っているのは、私を含めた古参の団員五名ほど。余計な混乱を避けるためにも、彼女の後に加入した団員には出来る限りこのことを秘密にしていました」

「じゃあ、リュカさんにも?」

「リュカが加入したのは十年前……シルヴィアの脚本が評判で知名度が多少上がったくらいの頃だったので、おそらくは知らないハズです」

「十年前の公演といえば、ジークが大好きな『聖騎士カナリア物語』が始まった頃ですわね」

「おお、そういえばそうだったな! まさか彼女が脚本を書いていたとは!」

 

 フルンケライの劇で育ったであろう王都育ちのジークが興奮している。

 何で興奮してるかわからないので聞いてみた。

 

「そもそも『聖騎士カナリア物語』って、どんな内容なのよ?」

「結論から言えば、主人公が死んで終わる英雄譚ですわね」

 

 うわっ、バッサリ言っちゃったわねヤーナ。

 

「しかし、カナリアの生き様は強く私の印象に残ったな。最初は神託により戦っていただけだったのが、様々な経験を通して、自分の意志で戦う理由を見出していったのだ」

 

 神託で戦っていた戦乙女の話ってところか。

 地球で言うところのジャンヌ・ダルクみたいな感じなのかも。

 

「あの生き様と父の背中が、今の私を形作ったといっても過言ではない」

「それだけに解せないのは、そんな名作を世に放つだけの才能を持っている彼女が、何故スランプに悩まされているのか、ですわね」

 

 ヤーナの言う通り、あたしもずっとそれが気になっている。

 

「今回の『ロミィとジュリアス』の台本は出来ているのに、ですか?」

「確かに、今回の台本は完成しているのですが……完全ではないと、シルヴィアは愚痴を零していました」

 

 完全じゃ、ない?

 

「スランプ状態でどうにか捻り出した、というニュアンスに聞こえるのう。やはり――」

 

 やはりって、シルヴィアさんの何を理解したのだろう。

 あたしがリテラの推測に耳を傾けようとしたところに。

 脅威は、突然やって来た。

 

「魔獣の群れが来たぞーッ!」

 

 この声は確か、通し稽古の時にいた劇団員の人だったか。

 

 ええい、気になるところで。

 魔獣も少しは空気を読んで欲しい。

 

「仕事の時間、ですわね。サクッと飛んで、数を見てきますわ」

「そ、そうね。お願い、ヤーナ。あたしとジークは馬車の上に登って警戒。劇団の皆を守るわよ」

「心得た!」

「じゃあ、ボクとニューで座長さんを護衛、ですね?」

「ええ。ニューの勘、頼りにしてるわよ」

「合点だ!」

 

 ひとまずはこれで良し、と。

 ニューの魔眼はこういう時こそ心強いものね。

 

 とりあえずあたしとジークは、走行中の馬車の屋根まで登る。

 果たしてどんなのが来たのかと見渡してみよう。

 

 少なくとも大群の足音は聞こえない。

 なら飛ぶ魔獣か、などと確信して空を見上げると。

 逆光でシルエットのように見える、飛行魔獣たちの姿が。

 

「げっ、飛竜(ワイバーン)!」

 

 そう、ヤーナと初めて組んだ時に戦った、あの『眷属』クラスの魔獣が、群れを成して飛んできている。

 目を凝らすと、鱗の色が赤みを帯びているのがどうにか見えた。

 どうやら、あの時の緑鱗とは別物らしい。

 

「なにっ、飛竜(ワイバーン)だと?」

 

 あたしと背中合わせになって警戒するジークが、よくそこまで見えたな、といったニュアンスで驚く。

 

「しかも鱗が赤いヤツ。初めて見るわね」

「おお、我々は当たりを引いたようだな。普通のより気性の荒い紅飛竜(ロート・ワイバーン)といえば、騎士団一個小隊の任務でも滅多に討伐対象にされぬほどの希少魔獣だ。火炎袋を持っているのが飛竜(ワイバーン)との違いだな」

「護衛の依頼で当たりの魔獣って概念、やめなさいよ! 一般的にはハズレ以外の何物でもないから!」

 

 あたしがツッコミを入れている間に、リテラがあたしの肩に降りてきた。

 

「お、何匹か奴らが吹き飛びおった。流石ヤーナは空中戦の名手じゃのう」

「いや、数見てくるって言ってたのに、自分から減らしてどうすんのよアイツ」

「減らすに越したことはない、ということか」

 

 ジークが上手いこと解釈してるトコ悪いけど、紅飛竜(ロート・ワイバーン)の数匹がこっちに気付いたのか、空気抵抗を減らすような体勢で、ミサイルもかくやという速度で落ちてくる。

 あたしとジークは、それぞれのマキナをすかさず解放(リリース)して対応を余儀なくされた。

 

「ふッ!」

 

 タイミングよく紅飛竜(ロート・ワイバーン)の横っ面に、カウンター気味の属性付与・太陽(エンチャント・サン)右フックを打ち込む。

 

 現状、移動中の馬車の上で取れる迎撃手段といえば、あたしはこれだけだ。

 ジークのように、冷気を氷のつぶてにして飛ばすような射撃魔法を身につけていないから。

 

 唯一の飛び道具といえる『サンライト・ウェイブ』は、地面に拳をぶつけなければ使えない上に、対空性能がまるで無いから、相性が悪すぎるのよね。

 だからといって、対空技の『ライジング・ナックル』はそうそう連発できない。

 魔力を補填可能な日中とはいえ、相手は物量で攻めて来るので、魔力よりも体力が削られる状況が先にやって来る可能性があるのだ。

 

 まったく、これだから飛べる魔獣ってヤツは!

 愚痴ってもしょうがないので、ヤーナの撃ち漏らしをジークとしばらく狩っていく。

 

「『王』クラスが見当たらん……またこのパターンか」

 

 紅飛竜(ロート・ワイバーン)の特攻第一陣を凌ぎきったところで、あたしの後頭部に隠れていたリテラが呟いた。

 リテラの言う『また』は、初めてヤーナと飛竜(ワイバーン)を討伐した時のことだ。

 あの時も、『王』クラスを見つけられなかったと記憶してる。

 

「『王』が現れぬ限り、このままではジリ貧じゃな」

「じゃあ、どうすりゃいいのよ?」

「『ユラギの森』に隠れて、やり過ごすしかないじゃろう」

 

 ユラギの森。

 劇団と村までのコースを打合わせしていた時に、ここだけは通っちゃいけないと散々釘を差された場所だ。

 なんでも入ったら最後、二度と出られないと噂される魔境なんだとか。

 

「穏やかな話ではありませんな。騎士団の間ですら、遠征の道中を避けている区間だ」

「じゃが、『眷属』クラスを率いる『王』クラスが見つからぬ現状では、大人数の劇団員達を守りきれぬ。多少のリスクを折り込んででも、全員の生存を第一に考えるべきじゃ」

 

 ジークの経験談から来る否定意見に、リテラはリスクを承知で進むべきだと返す。

 

 確かにリテラの考えは正しいのだろう。

 このまま『王』クラスの魔獣が現れなければ、『眷属』をいくら散らしたところでキリがない。

 

 幸い紅飛竜(ロート・ワイバーン)は空の魔獣だから、森に身を隠せば簡単に見つかることもないし、木々を蹴散らしでもしない限り、森林というフィールドでは自由に飛べないハズである。

 

 それはいい。

 だが、問題はそこではない。

 

 隠れる森そのものが、厄ネタそのものなのがいけないのだ。

 劇団員の皆さんを、いずれにせよ危険にさらすことになる。

 

 もっと良い案もあるんじゃないかとあたしは思ったが、遠くの空を見上げれば紅飛竜(ロート・ワイバーン)・第二陣の群れがうっすらと見える。

 考える時間が足りない。

 

 そこへ、威力偵察を終えたヤーナが帰ってきた。

 

「アタクシはリテラ様の案に乗りますわ。劇団の皆様には、後でこちらから謝罪すれば良いだけの話ですし」

 

 謝って許してくれる劇団員が何人居るのかはわからないが、ヤーナがリスクを承知で賭けに乗るほどの事態だ。

 悔しいが、選択肢はないと思っていいだろう。

 

「しょうがないわね。もし森から出られなくなったら、責任取りなさいよ」

「決まりじゃな。わしは進路変更の旨を伝えておく。しっかり馬車に掴まるんじゃぞ!」

 

 リテラはあたし達にそう告げると、羽を精一杯酷使して、先頭の馬車へ小さな身体を飛ばした。

 見送ってしばらくして、あたしはふと呟く。

 

「ユラギの森って、結局どんな森なのかしら。詳しくは座長さんも知らないって言ってたし」

「アタクシも詳しくは。しかし以前聞いたところによると、ギルドの魔獣討伐依頼で、ユラギの森方面に向かった傭兵の(ことごと)くが未帰還、という話がありますわ」

 

 ヤーナの情報網でも詳細は見えなかったが、行方不明者が多いということだけはわかった。

 

「この話が広まったギルド内では暗黙の了解として、ユラギの森周辺地域指定の依頼を全て破棄しているそうでしてよ」

「騎士団の間でも危険視されてきたが……まさか傭兵ギルドでも、そこまでやるとは」

「鬼が出るか蛇が出るか……。いずれにせよ、覚悟は決めないとね」

 

 何故そうなってるか、という原因を、今は考えても無駄だろう。

 

 馬車の進路が変わったのを、少しの揺れで感じる。

 劇団『フルンケライ』とあたし達ギラソール傭兵団は、禁断の領域に足を踏み入れたのだった。

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