太陽の子レヴィン~格ゲーキャラの技を再現できる筋肉と属性付与で救世主とか無理だから!~   作:キョーサカ

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第八十五話 「必死で生きようとする命は尊い」(5)

 多くの馬車と共にユラギの森に突入した途端、肌で違和感を覚える。

 おそらくこれは――。

 

「今の感じって、まさか……」

「おそらくは魔法的な結界、じゃろうな」

 

 あたしがなんとなく感じていたモノの正体を、リテラが代弁してくれた。

 

「しかもこの結界、自然的なものを意図的に拡張した形跡がある」

「つまりこの森には人が居て、その人物が張った結界に、アタクシ達はまんまとハマってしまったと」

 

 ヤーナも要約ありがとう。

 そうなると、敵魔導士の可能性が浮上してくるが、待ち伏せの意味はあるのだろうか?

 『フルンケライ』が大手の劇団とはいえ、盗賊などの悪党が狙うような物があるとは思えないし。

 

「では一体誰の――うおっ、と!」

 

 ジークの疑問を遮るように、馬車の歩みが急に止まる。

 慣性の法則に従い、屋根に乗っていたあたし達は空中に投げ出された。

 あたしとジークは難なく受け身を取って着地、ヤーナは激突前に浮遊しており無傷、リテラは普通に飛べるので言わずもがな無事である。

 

「先頭で何かあったようですわね」

「まさか魔獣が出たの?」

「いや、おそらくはもっとヤバい連中じゃ」

 

 えっ、ちょっと待ってよリテラ。

 

「何を知ってるのよ、アンタ」

「行けばわかる。とにかく急ぐんじゃ!」

「心得た!」

 

 ジークだけ返事は良い、とか思ってる場合じゃない。

 リテラが何を知って急かしているかはわからないが、とにかく先頭の馬車まで行ってみるしかない。

 

 だが気のせいだろうか。

 先頭へ行くほど人の気配が増えているような。

 

 その不安は、先頭の馬車に辿り着いた時、確信に変わった。

 長い耳の射手が大勢で弓矢を構えて、馬車を取り囲んでいる。

 

 いずれも盗賊、という風体ではない。

 どちらかといえばあたし、というかラグナ族に近いような、整えた毛皮をそのまま着たみたいなファッション。

 

 なんとなく、察しはつく。

 最近、同じような耳を見た覚えがあるから。

 

「な、何なんですかあなた達は!」

 

 先頭の馬車を引いていたのは、リュカさんだ。

 突然大人数に矢を向けられて戸惑っている。

 

「お前達こそ何のつもりだ! ここを我らエルヴィン族の隠れ里と知っての狼藉か!」

 

 集団を代表して前に出た男が、リュカさんに矢を向けながら、質問に質問で返した。

 言葉は通じるが、意思疎通は出来ないタイプなのだろうか。

 いや、それ以上に重要な事実があるだろう。

 

「エルヴィン族と聞こえましたわよ」

「まさかユラギの森に潜んでいたなんてね」

 

 大戦以来雲隠れしていたエルヴィン族が、ざっと見た限り五十人近く生き残っていて、あたし達に矢を向けている。

 こちらの不可抗力ではあるとはいえ、ヒト族とエルヴィン族……その確執が根深い以上、ただでは済まない状況であることは確かだ。

 

「どうする? 私が場を収めても良いが」

「相手は数百年単位の引きこもり種族。元王国騎士のキャリアとコミュ力が通用する相手とは思えませんわね」

「そうなると、ラグナ族のあたしも駄目そうね。狩猟民族としては完全にあっち側の下位互換だから、見下してるに決まってる」

 

 そもそも交渉のテーブルにすら座らせてもらえないだろう。

 そうなるとこの場の最適解は、エルヴィン族に投降する、ということになるのだが。

 リテラだけは、待ったを掛けた。

 

「なら、わしが説き伏せるしかあるまい」

「正気なの?」

「至って正気じゃよ。エルヴィン族は精霊より生まれし妖精には尽く甘い。わしから事実を話せば、彼らもわかってくれよう」

 

 そこはかとなく不安の香り。

 でも投降よりは安牌な手段なのは間違いない。

 

 リテラも今や分体の妖精とはいえ、彼女の説得は文字通り神の一声といえる。

 もしかしたら、彼らと対等に交渉できるのかも、という希望さえ抱かせるのだが。

 

「本当に大丈夫?」

「レヴィンは心配性じゃのう。まあ見ておれ」

 

 そう自信満々に言うと、リテラは騒動の渦中へ飛んでいく。

 

「ですから、我々は魔獣に追われていて! やむなくこの森を通り過ぎようと――」

「信用できんな。大方、我々の居所を探りに来たバッカス家の調査隊か何かだろう?」

「知りませんよ、そんな家! 我々はただの劇団なんですって!」

 

 リュカさんとエルヴィン族の男との口論はまだ続いていた。

 

 あたしもバッカスって家のことは知らないが、大方悪徳貴族か何かだったのだろう。

 しかし、いつ矢を放たれてもおかしくない状況である。

 

「劇団とやらがどんな高尚な集団かは知らぬが、どうせ嘘の身分だろう。ここに足を踏み入れた罪は重い! その汚れた血を以て償え!」

「ひっ!」

 

 エルヴィン族の男の握る弓矢が、リュカさんの脳天に向けられる。

 リテラは矢の狙いを遮るように、小さい身体を浮かせて、彼の前に立ちはだかった。

 

「なにっ、妖精が何故ヒトを庇う!?」

「こやつの言っておることは全て事実じゃ。矢を収めよ」

「ふざけるなよ。たとえ妖精の頼みといえども、この領域に入ったヒト族には問答無用で死んでもらうのがエルヴィンの掟!」

 

 エルヴィン族の男がそう宣言すると同時に、矢を放つ。

 しかし狙いは逸れて、馬車の荷台に突き刺さった。

 矢が掠めたのか、リュカさんの左頬に切り傷ができ、劇団のスタァが恐怖で悲鳴をあげる。

 

「ひっ……!」

「今のは威嚇だ。次の一斉射で、いつでも貴様らを殺す用意はできている。早急にここを去れ! そして決してこの隠れ里を口外しないと誓え!」

「ふん、何が殺す用意じゃ。当てる気もないクセに」

 

 当てる気がない。確かに、リテラの言う通りかもしれない。

 エルヴィン族が妖精に甘いというのは事実のようだからだ。

 

 本来なら容赦なくリュカさんの脳天を射抜いていたところを、今は妖精であるリテラが庇っている。

 万が一にも彼女に矢を当ててはいけない、というエルヴィン族の男の理性が働いているのだろう。

 しかし、それでも。

 

「貴様、ハーキン戦隊長を愚弄するかァッ!」

「戦隊長、まともに話す必要などありませぬ!」

 

 周りを取り巻くエルヴィン族の弓矢部隊は、口々にリテラを罵倒する。

 そうか、あの男はハーキンという名なのか、などと納得してる場合じゃないかもしれない。

 しかしハーキンは、手を挙げるだけで弓矢部隊を制した。

 

「皆、落ち着け! すまぬな、部下どもは気が立っているのだ。名はあるのだろう、妖精? 聞いておこう」

「リテラじゃ。隠れ里の長とは旧知でな。この名に免じて通過だけは許可してくれるように、話を通してくれんか?」

「長に妖精の旧知など、聞いたことがない。が、話は一応通しておこう」

 

 良かった、丸く収まりそうだ。

 リテラが隠れ里の長と古い知り合い、という点は、有り得そうなペテンを吐いたものだなと関心してしまったが。

 

 ともかくユラギの森を通過できそうな空気にはなってきた。

 それでも弓矢部隊には要注意だ。

 いつ、誰に矢が射られてもおかしくはない状況なのだから。

 

 だがその緊張は、意外な形で打ち砕かれることになる。

 

「皆さん……、これは、一体……?」

 

 荷台の影から、聞き覚えのある声とフードを被った人影が飛び出してきた。

 

「シルヴィアさん……! 何で出てきちゃったの?」

「まずい状況になりましたわね」

「何がまずいのだ? 同族との感動の再会ではないか」

 

 場の空気を察するヤーナに対し、ジークは何か勘違いをしているようだ。

 

「ジーク、忘れましたの? 彼女は――」

 

 そうなのだ、シルヴィアさんは。

 

「嘘……、ハーキン、お兄様……?」

「なにっ!? 私をお兄様と呼ぶその声は、ま、まさか……!」

 

 思わぬ再会に、激情のままハーキンへと駆け寄るシルヴィアさん。

 フードという名のヴェールをめくり、劇団の花形スタァが見ている前で、初めて真の姿を現した。

 長く尖った耳のエルヴィン族という、真の姿を。

 

「恥ずかしながら……帰ってきてしまったみたいですね、自分……」

「やはり、シルヴィアか! 我が妹よ!」

 

 しかもハーキンが兄という新事実まで。

 

「えっ……? シルヴィア……さん……?」

 

 案の定リュカさん、衝撃の事実に驚愕。

 

 無理もない。尊敬する劇団のストーリーテラーが、かつてヒト族を見限ったエルヴィン族であったなどと、誰が想像できただろう。

 

「リュカさん、すみません……。座長に無用な混乱を避けたいから、って言われて……」

「だからそのフードを……ずっと?」

 

 リュカさんの質問にシルヴィアさんは、長耳を晒したまま小さく頷いて、肯定する。

 

「シルヴィア、何故出て来たんじゃ! 間が悪いにも程があるぞ!」

「えっ、それはどういう――」

 

 先程までリテラが浮かべていた不敵な笑みが、シルヴィアさんの参入をきっかけに、困惑の表情へと変わる。

 確かに、彼女は間が悪かった。

 その証拠にあたしの聴覚が、弓の弦がしなる音を捉える。

 

「やばっ……!」

 

 思考よりも先行して動くあたしの身体が、矢の軌道を遮る。

 鍛え上げた腕は鉄ではなく肉の塊。

 矢は弾かれることなく、あたしの左腕上腕三頭筋を貫いた。

 

「ッ!」

「レヴィン!」

 

 痛み自体は大したものじゃない。

 下手をすればリュカさんやシルヴィアさんに当たるところだった、という憤りが痛覚を凌駕しただけだ。

 

「危うく騙されるところだった。ようやく理解できたよ」

「何をじゃ!?」

「お前達が我が妹シルヴィアを誘拐した、人さらいの一味だということに!」

 

 森の賢人と勝手に思い込んでいたエルヴィン族が、たった一度の勘違いで、あたし達に険しい眼を向ける。

 

 無理もない、とあたしは思った。

 向こうからすれば、シルヴィアさんが知らぬ間にいなくなったのだから、己が憎いヒト族の仕業と疑っていても不思議ではない。

 ヒト族との確執が根深いからこそ、このようなケースは起こり得る。

 

 くれぐれも用心しろ、とリテラが言っていたのは、今の状況を危惧してのアドバイスだったのだろうか。

 

「そんな、違いますお兄様! 彼らは――」

「疑う余地などあるものか。お前は突然里からいなくなった……誰かに拉致されたと考えるのが自然だ。お前に価値を見出した外部の犯行と推察すれば、全ての辻褄は合う!」

 

 そんな馬鹿な、何が辻褄だ。

 ハーキンはシルヴィアさんの兄で、家族のはずだろうが。

 この男は、何も理解しちゃいない。

 

「処刑は長の許可を得て、まとめて執り行うとしよう。戦士隊諸君、この集団を一匹残らず拘束せよ!」

 

 そして判断も早い。

 これ以上は流石にあたしも堪忍袋の尾が切れそうだ。

 

「ちょっと待ちなさいよ! 人の話を――」

 

 そんな矢先、あたしの身体を異変が襲った。

 思うように力が入らない。それどころか立つことすらおぼつかなくなり、見えない相手に背後から膝カックンされたかの如く、地面に膝をついてしまった。

 この感覚には多少覚えがある。

 

「レヴィン、どうしたんじゃ!?」

「やられた……矢に、麻酔が……」

 

 全身が眠気に支配されたような感覚で、無念にもあたしの意識が徐々に落ちていく。

 

「負けて……たまるか……っ……」

 

 そういえばあたし、いっつも似たような状況で気絶してるな、なんてどうでもいい回想をしている間に、あたしの意識は完全に途絶えていった。

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