(完結)しょうもなおじさん、ダンジョンに行く   作:埴輪庭

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しょうもなおじさん、異世界に行く

 ◆

 

 歳三は地べたに腰を下ろし、ズボンのポケットからタバコを取り出した。

 

 人差し指と親指をすり合わせる。

 

 ぽう、と小さな炎が生まれ、煙草に火をつけた。

 

 ふかく煙を吸い込んでみるが、ほとんど味がしない。

 

 タバコなど百害あって一利なしというのは、歳三だって知っている。

 

 それが脳を一時的に冴えさせたり心を慰めたりするのは、ただニコチンの作用が離脱症状を緩和しているだけだ。

 

 だが、今の歳三にはその一瞬の作用で十分だった。

 

 少しでも冴えた頭で考えたい事があったのだ。

 

 思えば、歳三はいつだって衝動的に物事を決めてきた。

 

 けれど今回ばかりはやけに悩んでいる。

 

 ──どうしたモンかなぁ

 

 手癖というか体癖というか、ぐるりと左肩を回そうとして歳三は「ああ……」と小さく漏らした。

 

 回すべき肩は、もう無い。

 

 苦笑が漏れる。

 

 放っておけば切断面から因果が徐々に消失して、やがて歳三自身も消えるだろう。

 

 けれど、それ自体は実のところ大したことではない。

 

 その気になれば傷は治るからだ。

 

 歳三はつい先ほど見た白昼夢のことを思い出した。

 

 寂滅観音の顔面を叩き潰した瞬間に視えた“何か”。

 

 会話もない、素性もわからない、“それ”。

 

 だが“それ”は、歳三に直接イメージを叩き込んできた。

 

 すなわち、それは歳三への“ご褒美”なのだという。

 

 “それ”を知覚できるほどに高めた階梯、超えてきた山──その功績に対しての褒美。(「それとソレと神と」参照)

 

 ひとつは歳三が消えた後でも彼を知る人間の記憶を固定化すること。

 

 完全に消えてしまっても、歳三を知る者の記憶から歳三が喪われる事はない。

 

 更に歳三がしたことは大々的に公表され、国民的英雄として讃えられるだろう。

 

 もうひとつは、生き延びるということ。

 

 ただし、ここではないどこかで。

 

 だが、“それ”の力を以てしてもこの星での因果を再生することはできないため、“それ”は別の世界に歳三の因果の種を埋め直すと言う。

 

 歳三は静かに煙を吐いた。

 

 ──そうだなぁ……

 

 生きる事を苦に思う歳三である。

 

 やれることはやった、そんな満足感があった。

 

 だから最初のご褒美を選ぶのもいい──そう思った歳三ではあるが。

 

 ふと脳裏をよぎったのは、今まで出逢った人々の顔だった。

 

 ここで消えることを選ぶというのは、何か違うような気がする。

 

 ──俺は馬鹿だからよくわかんねぇけどよ

 

 言語化できない何か尊いものを穢すような行いであるような気がする。

 

 それに、今ならもしかしたらこれまでよりもう少しうまく生きられるような気がするのだ。

 

 生きる事は変わらず息苦しいだろう、だが、どうしようもなくなったら周囲に救いを求めても良いかもしれない──そんな風に思えなくもない。

 

 ならば二番目の褒美か、と歳三は思うがしかし。

 

 ──“向こう”にも、ダンジョンはあるのかねえ

 

 生活ができなかったらどうしようという、この期に及んでなんというかしょうもない漠然とした不安もある。

 

 すると、頭のどこかから、ぽこりと『是』という意志が湧いてきた。

 

 ──じゃあ、“ご褒美”もあるのかねぇ

 

 再び『是』という意志が返る。

 

 ──それなら“ご褒美”で帰ってくることも? 

 

 三度目の『是』。

 

 それだけ聞けば十分だと、歳三は煙草を深く吸い込み、胸に満たした。

 

 ──だったら

 

 歳三はどうするかを決めた。

 

 その瞬間、ぽとりとタバコが地面に落ちる。

 

 びゅうと風が吹き、転がった煙草の火が静かに消えた。

 

(了)




まあ気まぐれにその後の話は投稿しますが、本編終了です。
次回はハイファンタジー。
この作品に第一話を投稿する形にして、第二話以降は別で作品立てる感じです。
長らくお疲れさまでした!
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