かつて、日本を破滅から救った三好将和。その将和もとうとう老いには勝てず、妻夕夏と共に永眠した。
「夕夏、あの世でもよろしく頼むよ」
「任されたわ貴方」
「暫くしたら私もそちらに行きますよ」
息を引き取った二人に美鈴は涙を流しながらそう呟くのであった。
「……死んだ筈なのにどーしてまた……『加賀』の艦橋にいるんかねぇ……」
将和は横須賀で記念艦になっている筈の正規空母『加賀』の防空指揮所にいた。『加賀』の周囲には護衛巡洋艦に改装され大戦を生き抜いた乙巡『五十鈴』や海防艦、一号型輸送艦等が錨を降ろして停泊していた。総勢15隻の艦隊は将和も記憶に間違いが無ければ横須賀にある吾妻島に停泊しているだろう。艦隊の周囲には10数艇の内火艇等が取り囲んでいるのが見える。
「………どうなんのねこれ………?」
そう呟く将和であった。その後、三八式歩兵銃等で武装して乗り込んで女性水兵らに拘束されるのである。
「成る程。貴方が空母の防空指揮所にいたという事ね」
「えぇまぁ……」
将和は歩兵銃を突きつけられながら旗艦『長門』に乗艦し案内された長官室には将官一人、佐官一人がいた。
「あの空母の名前は?」
「『加賀』だ。巡洋艦は『五十鈴』で海防艦は分からんが艦種から見て『鵜来』型に丙型、丁型海防艦だろう」
「あら、それはご丁寧にありがとう。じゃあ貴方は?」
「三好将和。最後の階級は元帥海軍大将だ」
「その年齢で元帥? 面白い冗談だね」
質問をする将官の隣に控えていた褐色の肌をした佐官が皮肉そうに言うが将和は肩を竦める。
「冗談ならどれだけ良かったか……どうやら若返っているみたいだ。死んだ時はヨボヨボの爺だったんだけどな」
「フフ、ユーモアなセンスのある言葉ね」
「そいつはどうも」
苦笑する将官に将和も笑みを浮かべる。
「……どうやら幽霊の類いでは無さそうね」
「ですが長官。この男、『ラ・メール症状』に掛かっては……」
「そのようね」
「『ラ・メール症状』? 何だそれ?」
「知らないのかい? 『ラ・メール症状』というのは……」
そう言って褐色佐官の女性は将和に症状を説明する。
『ヒトが海に近付く、潮風を吸い込む、海水に触れるなどした場合に起きるこの世界特有の症状。三半規管が正常に働かなくなって平衡感覚が失われ、目眩、耳鳴り、頭痛、吐き気などで身体をコントロールできなくなる。
とりわけ男性の場合症状が深刻で、5分で内耳内リンパが破裂。無理に泳ごうとした者は溺死し、海辺や船上にいる場合でも心室細動、激しい嘔吐による脱水症状や呼吸困難などで死に至ることがある。一方の女性は三半規管が比較的強く、症状に苦しめられても死ぬことは無い。勿論、薬によって症状を抑える研究は古代から盛んに行われていて、西洋医学が発達する以前であっても、男性が昏睡状態であれば死なずに海を渡れるようにはなっていた。しかし昏睡状態で運ばれるだけで航海の担い手になれないことに変わりは無く、必然的にこの世界では、漁業、交易、植民など、海上の役務に従事できるのは女性に限られた。さらに未成年の少女に限っては、海に接しても三半規管に全く影響を受けない者が一定の割合で存在し、この少女達が後述する海軍乙女となる。人類の文明の発展に不可欠な航海、海での男の生殺与奪権が女性に握られたことで、この世界では早い時期から軍人や政治家など指導的な地位に女性が就いていたものと思われる』
大まかな説明はこのようであった。
(あ~、どっかで聞いた事ある症状と思ってたら転移する前になろうで見てたSSだなこりゃ……)
話を聞いていた将和はパズルのピースが填まって納得した。
(ま、暫くは拘束だなこりゃ……)
将和はそう思いながら出されたお茶を啜るのである。そして将和が別室に連れて行かれ軟禁後、将官ーー聯合艦隊司令長官海軍大将米内光姫は先月に参謀長に就任したばかりの小沢智里大佐から報告を受ける。
「それで……格納庫には御宝が眠っていたと?」
「はい。どれもこれも今の葦原の機体を凌駕すると思われます」
米内と小沢は将和と話をしている時から部下に命じて12隻の艦艇を調査させていた。
「それにあの三好とやらが言っていた海防艦……対潜聴音機類も我々が保有している九三式水中聴音機よりも高性能という調査結果もあります」
「あら、それなら我が海軍にも欲しいわねぇ……」
思わずそう呟く米内である。
「ねぇ智里ちゃん……あの男……どう思う?」
「……まだ断定的ではありませんが……少なくとも敵では無いと思います」
「そうだねぇ……ま、まだ取り調べは続くしそこで分かればいいかな」
そう言う米内であった。なお、取り調べで二人は葦原の将来を聞かされてしまう。
「伴天連歴1945年に敗戦!?」
「広島と長崎に新型爆弾投下!?」
「日本……葦原は焼け野原になるのは間違いない……だが俺や『加賀』達がいるッ」
驚く二人を他所に将和はニヤリと笑う。
「今の国力でなら勝てはしないが……負けもしないぞ」
そして将和は行動を開始する。最初の相手は当時総理大臣であった岡田啓介に陸軍大臣の川島義之であった。
「葦原が滅びると!?」
「左様です。ですが、この兵器類らがあれば……どうです?」
「ムムムッ」
川島には三好世界のチハや隼らを見せて納得させた。いや、無理矢理に近いだろう。だが、川島も実物があれば話は別である。
「この兵器類を増産するためにも国内の工業力を向上させる必要がありますよ川島大臣」
「……だからこそ工業機械の大量購入……か」
「えぇその通りです。そして今ならまだ間に合います」
「ムムムッ」
(このオッサン、その台詞しか無いんか?)
内心、そう思う将和であった。それはさておき、政府及び陸軍の思考を変えた将和は身内である海軍に照準を構える。
「『一号艦』計画を破棄せよと仰るのですの!?」
「破棄ではない。修正だよ嶋野」
『一号艦』計画を強硬に進めようとする嶋野らを前に将和はそう言う。
「というよりも貴方、何様のつもりですの!? 貴方は我が葦原海軍に召集をした筈ですわ!!」
「お前は馬鹿か? そもそも俺は召集に応じたわけでもないし我が日本海軍と協力体制……そういう結んだだろう」
「一人しかいない日本海軍なんてどうでもいいですわ!!」
「誰がどうでもいいだとこのクソッタレアマァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「ヒッ!?」
(あーあ……三好中将のブチギレ案件を押したよ嶋野さん……)
(嶋野ちゃん……)
(こーりゃ知ーらないっと……)
上から小澤、山本、宇垣の三人は内心で深い溜め息を吐く。そもそも協力体制というやり取りは御上の勅命だったのだ。それを嶋野が踏みにじったわけである。
結局、将和はこの日の戦果として『一号艦』計画の修正と嶋野のパンツ代金をもぎ取るわけであった。
そして伴天連歴1941年12月8日、将和は何とか間に合わせた第一航空艦隊を率いてヴィンランド海軍太平洋艦隊が停泊する真珠湾を攻撃するのであった。
「さーてと……歴史が始まるわけだな……」
「どうなるかだね……」
「心配ありませんわ。三好長官とならやれますわ!!」
『(逆に何でお前は副官の立場で此処にいるんだよ)』
意気込む嶋野に将和や小澤らは内心でツッコミを入れるのであった。斯くして葦原海軍は歴史を刻む事を始めたのである。
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