第一航空艦隊が創設されて中旬になると司令部の人員も勢揃いしてきた。
「君が三好中将だね、ボクは草鹿少将。第一航空艦隊参謀長として就任したよ」
「ん。ご苦労さん」
「第二航空戦隊司令官の楠木多恵だよッ。宜しくねお兄ちゃんッ」
「ハハハ、お兄ちゃんか。懐かしい響きだな」
「妹さんいたの?」
「まぁな」
「第四航空戦隊司令官の角田斗角でい。宜しくなッ」
「おぅ」
各戦隊司令官と挨拶をした将和は全員に視線を向ける。
「何人かは顔見知りだろう。第一機動部隊司令官から第一航空艦隊司令長官に就任した三好将和だ。ま、宜しく頼むよ。てなわけで早速対空演習すっぞー」
「え、いきなりなのかい?」
「草鹿、戦争の時は待ったはないぞ。いつ何時、何が起きるか分からないんだぞ」
「それはまぁ確かに……一理あるか」
「何のために機関の火を入れとけと言ってるんだ。一時間半後には出撃。1030には航空隊を発艦させるように持っていけよ。さぁ急げ急げ!! 時間は待ってはくれんぞ!!」
「よーし行くよー!!」
「ハッハッハ。面白くなってきたぜ!!」
楠木と角田は面白そうに笑いながら出ていくのである。それを横目で見送りながら草鹿は肩を竦める。
「やれやれ、どうやらとんでもないところに来てしまったようだな」
「何を言うか。最初からとんでもないところだよ」
「ッ」
草鹿の言葉に将和はニヤリと笑い、将和の笑みに草鹿はドキッとするのである。その後、第一航空艦隊は創設最初となる対空操艦演習を行うのであった。
「どうだ嶋野?」
「はい、壮観な眺めですわ……」
空母『加賀』の防空指揮所で将和、草鹿、嶋野の三人が発着艦訓練を眺めていた。
「どの機のパイロットも見事な発着艦をしている……三好中将が育てたのは間違いないな」
「光栄だね。ま、小澤も一枚噛んでいるしな」
「成る程、小澤か」
将和の言葉に草鹿は納得するように頷くのであった。そして数日後、将和は聯合艦隊司令部がある旗艦『長門』に携行品と共に乗艦していた。
「お久しぶりです三好中将」
「そうだな山本」
互いに笑みを浮かべる二人は敬礼を終えると五十子から椅子に座る。その後ろではGF参謀長に就任した宇垣と首席参謀の黒島亀子中佐もいたが黒島中佐は夜型の人間であり眠たそうであった。
「それで今日はどうしたのですか?」
「ん。実はコイツの事でな……」
将和はそう言って題名の記載が無い計画書を五十子に渡す。
「これは……」
「まぁ読んでみな」
「……ッ!? み、三好中将!! これは……」
「まぁ全てを読んでからでいいから感想を聞かせてくれ」
そして五十子らが読み終えるまでの一時間、将和は 茶をしばくのである。読み終えた五十子らは直ぐに将和に視線を向ける。
「おい司令……コイツは本気か?」
「本気だぞ。てか俺はいつだって本気しかないからな」
お茶のお代わりをした将和が宇垣の問いにそう答える。それを聞いた宇垣も「確かに……」と納得してしまう。
「……これは……余程の…計画が……必要……しゅぴー……しゅぴー……」
「おいおい黒島、寝るか喋るかハッキリしておけよ」
寝言にも聞こえる黒島の言葉に宇垣は溜め息を吐きながらそう答える。以前の宇垣であれば見られない光景であった。将和と関わった事で心境の変化が大きく見受けられたのである。
「三好中将、この計画書……誰かに見せたりは?」
「まだしていない。見せたのは山本らの司令部だけだ」
確かにその通りだ。将和はまだ誰にも計画書は見せてはいなかった。
「……正直、これは想像以上の計画だよ……でも三好長官。やれるんですよね?」
「無論だ。だからこそこの計画書を見せたんだ」
五十子の言葉に将和は力強く頷いた。それを見て五十子も決断した。
「分かりました。亀ちゃん、細かい修正があればお願いね」
「しゅぴー……分かりました……しゅぴー……」
「それと三好長官、この計画書になると艦隊は……」
「あぁ、計八個艦隊だな。まぁ何とか編成出来る数だ。だが……計画書が上手くいけば更に『一個艦隊』は増えるがな」
「アハハハ……本当に出来るか分かりませんけど、やれる事はやろうかなと……」
「それは違うぞ山本長官」
「??」
「出来るか分からないじゃない。やるんだ。その気持ちが無いと足下を掬われるぞ」
「………ごめんなさい。気をつけます」
「まぁ大丈夫だ」
そう言う将和である。6月22日、トメニアがルーシ連邦に攻撃を開始した。(バルバロッサ作戦)『トメ・ル戦』の始まりであった。
また26日には北欧のムーフィランドがルーシ連邦に宣戦布告、『継続戦争』の始まりでもあった。そして30日にトメニアが葦原に対して対ル戦を申し入れるも葦原は明確に参戦を否定するのである。
「ま、やる理由が無いですからな」
「後寒いですし……」
7月の会合で畑や杉山らはそう話す。既に満州国では将和の情報を下に掘削をして遼河油田を昨年に掘り当てていた。葦美の関係改善のため葦原はスタンダード・オイル社に遼河油田の共同運営を打診。スタンダード・オイル社側も葦美の関係改善を目指し共同運営を了承、1月からスタンダード・オイル社の役員や工作機械が満州国に持ち込まれ精製が行われていたりする。
「ただ、見せかけは必要でしょう。ルーシ連邦との国境監視を強化します」
「だろうな」
「チハも生産を急がせています。恐らく開戦時には七個戦車連隊までには配備出来るでしょう」
「頼みます」
そして7月23日、南部仏印進駐をしてしまう。というのもこれはオフランスからの打診だった。オフランスは隣国のアチャタイ国と紛争をしていたがこれがまさかの連敗続きであり、オフランスの士気を挫いたのがコーチャン島沖海戦であり海防戦艦『トンブリ』の20サンチ砲弾1発がまさかのオフランス艦隊旗艦『ラモット・ピケ』の弾薬庫に命中して爆沈させてしまう奇跡を発揮してしまいオフランス艦隊は敗走したのである。
そのためオフランスは和平の仲介を葦原に頼んだのが経緯だった。紛争後、インドシナオフランス政府は建て直しを図ろうとするがこれ以上の領土の削減を回避するために葦原に南部仏印進駐を認める事にしたのだ。
葦原は南部仏印に進駐するがこれに過敏に反応したのがヴィンランドだった。ヴィンランドは葦原の南部仏印進駐を明確に拒絶し屑鉄の輸出禁止を決定したのである。
そして8月1日、葦原海軍は聯合艦隊の艦隊改編を発表。既存の第一、第二、第三、第四、第六、一航艦の六個艦隊の他にも新規に本土防衛の第五艦隊、南遣艦隊、第二航空艦隊の創設をしたのである。
「三好司令……私を推すのかい?」
「お前以外に誰が適任なんだ?」
『加賀』を訪ねてきた小澤は将和に問うと将和は然も当然のように言う。小澤は8月1日付で第二航空艦隊司令長官に任命され就任したのだ。
「でも……」
「大丈夫だ。誰よりもお前じゃなくちゃ駄目なんだよ」
「~~~ッ……そういう言い方……狡いなぁ……」
ポンポンと頭を撫でられた小澤は顔を真っ赤にしながら将和から視線を逸らすのであった。それから更に数日後、旗艦『長門』に主だった艦隊司令長官らが集められた。
「皆に集まってもらったのは他でもないんだ」
「と言いますと~?」
五十子の言葉に第二艦隊司令長官の近藤伊佐美中将が問う。
「……今の葦原・ヴィンランドの交渉次第では本年度中に開戦する可能性が出ているの」
『ッ』
五十子の言葉に将和ら事情を知っている者以外全員が表情を変えた。各艦隊司令長官らもまさか本年度中にやるかもしれないとは予想していなかった。
「これが計画書になるの。皆、読んでみて」
「……こ、これは!?」
計画書読んでみた草鹿が思わず声を荒げて五十子に視線を向ける。
「山本長官!! 本当にこれを行うというのですか!?」
「そうだよ。それに元々この計画書ーー作戦を想定したのは三好長官だからね」
『なッ!?』
五十子のウインクに事情を知らない全員が衝撃を受けて将和に視線を向ける。視線を向けられた将和はのほほんとしながらアイス珈琲を飲んでいた。
「三好長官、作戦の内容を説明してあげて」
「……宜しいでしょう」
五十子の言葉に将和は椅子から立ち上がりハワイ諸島周辺の地図と東南アジアの地図を拡げて指揮棒を持つ。
「この作戦……『1208』計画は開戦劈頭にヴィンランド及びブリトン等の連合軍に対し奇襲攻撃を仕掛ける事を前提とする作戦だ。そして奇襲場所はッ」
将和は指揮棒でトントントンと数ヶ所を叩いた。
「ヴィンランド太平洋艦隊が停泊するハワイオアフ島真珠湾、ブリトン東洋艦隊が停泊するシンガポール。また、同時攻撃としてウェーク島攻略も含まれる。この作戦で一番動く艦隊は俺の一航艦、小澤の二航艦、そして井上中将の四艦隊だ」
「…………………」
「成る程。それでAdmiralの作戦は?」
「真珠湾を叩いて艦隊及び基地航空隊の壊滅、真珠湾の封鎖だ。そしてシンガポールも艦隊を叩いてブリトンの東洋艦隊を『捕獲』する事にある!!」
『ッ!?』
将和の言い切った台詞は各艦隊司令長官を驚愕させる事は十分だったのである。
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