両艦隊が互いに艦隊を視認したのは1340過ぎであった。先に砲撃を開始したのはヴィンランド太平洋艦隊であり壮絶なる主力艦同士の艦隊決戦の火蓋は切って落とされたのである。
「突撃よ!! 葦原軍等我が艦隊の敵では無いわ!!」
キンメルは砲戦に酔いしれつつそう叫ぶ。キンメル艦隊の戦艦『メリーランド』『ウェストバージニア』は40.6サンチ連装砲を搭載する『コロラド』級戦艦でありその射程距離は約3万1000であった。
対して『霧島』『比叡』の主砲は35.6サンチ連装砲でありその射程距離は重量674キロの徹甲弾で仰角43度であれば3万5400メートル近くまで届かせる事は出来た。しかしながら、2隻が搭載していた徹甲弾ーー『一式徹甲弾』は35.6サンチ連装砲だと重量900キロ近くまで増加した所謂大重量砲弾であった。
この大重量砲弾により射程距離は3万200メートルまで低下したが対35.6サンチ砲戦艦なら十分過ぎる程の戦いを可能としていたのである。
「敵艦隊、撃ってきますわね」
「最大射程距離からはそう簡単に当たらん。まぁ此方は電探があるがな」
嶋野の言葉に将和はそう返す。戦艦『霧島』『比叡』は元より重巡『利根』『筑摩』には対空電探の13号対空電探、水上電探の22号対水上電探改四の他にも射撃電探で32号対水上電探を搭載しており電探の射撃精度は開戦前から演習を行ってその腕を磨いていたのだ。
「敵艦隊との距離は?」
「凡そ2万9000です」
「此方の最大射程距離に近いですが……やりますか?」
「やろう。『霧島』『比叡』は準備出来次第、砲撃初めェ!!」
「準備出来次第砲撃初めェ!!」
反航戦に近い形であったがそれでも『霧島』と『比叡』は16門の35.6サンチ砲を太平洋艦隊に照準を合わせて砲撃を開始したのである。
「だんちゃーく……今ッ!!」
「近、遠、近、近……挟叉に近いな」
「次……次……三斉射目くらいで当たりますわね」
そう話す将和と嶋野だが、太平洋艦隊では驚愕していたのだ。
「初弾から夾叉ですって!?(思っていたよりも……彼女達はやるわね)」
『メリーランド』周囲に吹き上がる水柱群にキンメルは驚愕しつつも更なる砲撃を加えるよう指示をした。だがそれでも耳を弄する砲声と目を晦ます閃光はキンメルから平常心を奪い去っていた。
「『巻雲』に命中弾!!」
「『阿武隈』被弾!! 大破、行き足が遅くなります!!」
将和の艦隊は徐々に損傷艦艇が出始めていた。無論、その光景はキンメル側も確認していた。
「……分からない、分からないわ。奴等の神経が分からないわ」
圧倒的に勝る自軍の火力を眼前にしながらなおキンメルの心に言葉に言えない不吉な予感が走っていた。しかし……。
「敵艦隊接近します!!」
「戦務参謀、各艦に通達!! 最大射程距離を保ち、正確なる射撃に勤めェ!!」
「はッ!!」
追えば逃げ、引けば押してくる将和の艦隊は何事かを待ち受けているかのように見えた。それは果たして……。
それを見つけたのは『メリーランド』の見張り員であった。
「ッ!? 敵航空機群接近!! 左舷30度、高度2000、距離9000!!」
「な、何ですって!?」
見張り員からの報告にキンメルは驚愕し、その方向を双眼鏡で確認する。確かに接近してくる航空機の編隊をキンメルは自身の目で捉えたのである。
「……謀かられた…というわけなのね……」
この海峡には現れる筈のない新たな攻撃隊がキンメル艦隊を襲い掛かったのである。これは艦隊決戦前に将和の艦隊から離脱した楠少将の第二航空戦隊から発艦した攻撃隊(零戦27機、九九式艦爆45機、九七式艦攻45機)であった。
「艦爆隊は敵護衛艦艇を攻撃、その空いた穴から艦攻隊が突撃するぞ!!」
『了解!! 敵護衛艦艇は任せなさい!!』
攻撃隊を指揮する将弘は無線機から口頭指示をし、艦爆隊隊長の江草少佐は了解をし攻撃を開始するのである。この急降下攻撃で軽巡『ローリー』以下の第一駆逐艦隊は壊滅状態に陥り対空火器も減少してしまうのである。
無論、将弘はそれを見逃す筈はなかった。
「艦攻隊、左右から敵艦隊に向け突撃せよ!!」
将弘機から『ト連走』が発信され将弘の中隊は輪形陣の空いた穴から突撃を開始する。高度は5メートルとし同高度を維持とした。
「攻撃目標、前方の戦艦!!」
将弘が狙ったのは戦艦『アリゾナ』であった。狙われている事を理解した『アリゾナ』は回避しようとし、対空砲火を撃ちあげるが将弘の中隊は難なく回避し『アリゾナ』の左舷から突撃したのである。
「用意……撃ェ!!」
距離600から投下された九一式航空魚雷改三は『アリゾナ』の左舷に7本が命中、左舷を粗方吹き飛ばされた『アリゾナ』は大傾斜をし轟沈したのである。
「あぁ……『アリゾナ』が……(『レキシントン』もこうしてやられたのね……)」
キンメルは同じく航空攻撃で撃沈された『レキシントン』の光景を『アリゾナ』と重ねるのである。この航空攻撃で戦艦『アリゾナ』『テネシー』が撃沈し『ネバダ』『オクラホマ』が大破するのである。
しかし、引き上げた攻撃隊であったが見張り員から更なる報告が舞い込んできた。
「左舷16度、新たな戦艦隊接近!!」
「なッ!?」
キンメルが慌てて双眼鏡を構えて見ると水平線上から艦隊が出現していたのである。
「戦艦二、空母四、いや六、巡洋艦五、まだまだいます!! 駆逐艦を前衛に高速接近中!!」
「ッ……」
この時、カウアイ海峡に出現したのは五十子の主力部隊であった。五十子は隊内電話で『霧島』の将和に電話をかける。
『三好長官、遅かったですか?』
「いや、丁度良かったさ。これで艦隊の数は揃った。『大和』『出雲』の46サンチがあれば五分と五分だ」
『分かりました。それでは少し、脅してやりましょうッ』
五十子の主力部隊もキンメル艦隊に対して砲撃を開始、特に参謀長の宇垣は嬉しかったのは言うまでもない。
「全砲門、用意宜し!!」
「撃ちぃ方初めェ!!」
32号対水上電探の観測の下で『大和』『出雲』が砲撃を開始する。この初弾は大破していた戦艦『ネバダ』『オクラホマ』の上甲板を突き破り、両戦艦を爆沈させるに至ったのである。この命中は偶然であったがそれでもキンメル達の戦意を大きく喪失させる事に成功するのである。
「たった数発で轟沈……幾ら航空攻撃で大破しているからと言って……」
「しかも新たに現れた戦艦はどうやら新型戦艦のようです。タイプ・『ナガト』やタイプ・『イセ』でもありません」
それでも五十子の主力部隊は砲撃を止めない。続く五斉射目で戦艦『ペンシルベニア』『カリフォルニア』が被弾し二隻も大破炎上するのである。しかし、夕刻までの激闘3時間、葦原艦隊は遠巻きに砲撃はするものの護衛艦艇の攻撃を主に置くのである。
「何故よ……何故なのよ!! 何故、奴等は主力艦の戦艦を狙わないのよ!!」
「……敵の真意が分かりません」
「ただ言えるのは我々は丸裸に近い形という事です」
「分からない……どうしたら良いの? 奴等に意図が読めないわ」
キンメルがそう呟くのも無理はなかった。
「どうするのよ!? 軍人の意地を見せて突っ込む!?」
「それも一つの考え方ではありますが……砲弾がほぼ尽きかけた戦艦はタダの鉄屑同様であります……」
キンメルの言葉に参謀は悔しそうに言う。例え海戦でも二割の弾薬を残すのが常であったがその弾薬も後数発で尽きるのである。
「こ、降伏しろと言うの!? 葦原軍にこの私がッ、嫌よ、嫌よ!! 私は嫌よ!!」
「提督、もうすぐ日が落ちます。闇に紛れて脱出しましょう」
「確かに……確かに再起を期すというのも一つの方法だけども……」
キンメルはまたも不吉な言いしれぬ予感に支配されていた。眼下の黄金色の波の下に何かが潜んでいるのではないかと……が、あえてその不安を捻じ伏せて叫んだ。
「……合衆国海軍の栄光を汚してはならないわ!! 突撃するわよ!!」
その瞬間、大破していた戦艦『ペンシルベニア』に5本の水柱が吹き上がったのである。それは五十子の主力部隊である第七水雷戦隊の第三十一駆逐隊の駆逐艦『長波』が距離7000から発射した酸素魚雷であった。夕刻であり暗くなりかけていた事で『長波』が発射するのを『ペンシルベニア』の見張り員が見過ごしていたのだ。
更に悲報は続いた。戦艦『カリフォルニア』にも水柱が6本も吹き上がったのだ。
「雷撃よッ!!」
「何処から来たというの……」
「航跡なんて見えなかったわ……」
ボートに乗り移った『カリフォルニア』の水兵達は口々にそう言うのである。両戦艦の撃沈である一拍が生じていた。それはキンメルにある決断を促すためとも言えた。
「……もう降伏という事態しか無いというの……嫌よ、私は……」
「提督、最早……やむを得ません」
「提督、将兵達の命は何物にも変えがたくと思います」
「ッ。それは……」
「提督ッ」
「………………………」
参謀達の言葉にキンメルをゆっくりと深い息を吐いたのである。
「……分かったわ、降伏しましょう。残存艦艇に連絡してちょうだい。檣頭に白旗を掲げるのよ、それに伴い機関停止。平文で降伏を発信しなさい」
「はッ」
斯くしてカウアイ海峡に砲声は止んだのである。キンメルと参謀達は『大和』に収容され、艦隊を再編した五十子の主力部隊はオアフ島を目指すのであった。
その後の事を明記しておこう。翌9日の早朝、輸送艦等に乗艦していたオアフ島攻略部隊の第13師団が大発等でヒッカム・ビーチ等に上陸、僅かな抵抗はあったものの0930までには抵抗は皆無となりヴィンランド太平洋艦隊司令部に葦原の国旗が掲げられる事になるのである。また、それと共にパールハーバーに逃げ帰っていた空母『エンタープライズ』と第8任務部隊の残存艦艇も鹵獲される事になるのであった。
斯くしてオアフ島は葦原軍に占領され、作戦計画の主目標である450万バレルの燃料タンクは無傷で確保されるのであった。
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