『三好in山本五十子の決断』リメイク   作:零戦

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第十七話 未来からの漂流者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何? 『大和』で海上を漂流していた男を救助した?」

「えぇ。どうも青年のようなんですが……それがラ・メール症状を発症していない男のようですわ」

 

 伴天連歴1942年(光文17年)4月9日、将和と嶋野は横須賀にある海上護衛総隊総司令部を訊ねていた。そこへ嶋野からの報告である。

 

「成る程……うちの関係者かもな……多聞丸や鬼瓦でもいいぞ」

「まだ分かりませんわよ?」

「まぁ鬼と出るか蛇が出るか……」

 

 そう呟く将和である。そして11日、五十子らのGF司令部が一人の男を伴って将和の『加賀』が停泊する横須賀鎮守府を訪れたのである。

 

「お久しぶりです三好長官!!」

「久しぶりだな山本」

「やだなぁ。五十子で良いですよぉ」

「これでも公私混同は避けているつもりなんだ」

「へぇ〜………智里ちゃんとの関係(ボソッ」

「勘弁してくれ」

 

 そんなやり取りをする将和と五十子である。取り敢えずは来客の五十子らを座らせる。

 

「それで、今日はいきなりどうした?」

「うん。実はこの人ので……」

「初めまして。僕は源葉洋平と言います」

「この人、三好長官や長谷川長官みたいに未来から来た人なの!!」

「フム……」

 

 ムフーと五十子が鼻息を荒く主張するが源葉と名乗る青年は緊張した様子であった。

 

「それで源葉君は俺にどうしろと?」

「は、はい。三好長官には4月18日にアメリカ……じゃなくてヴィンランドの機動部隊を攻撃してもらいたいのです」

「ほぅ、攻撃はするには構わんが何処のどの海域なんだい?」

「そ、それは……」

「三好長官、どの海域かはまだ不明なんです。でもヴィンランドの機動部隊がこの葦原に近づいているのは確実なんです」

 

 言葉に出来なかった源葉に代わりに五十子がそう補足して源葉を援護するが将和はそれらの答えを出す。

 

「……君が言っているのはドーリトル空襲の事だろ?」

『ッ!?』

「君ーー源葉君が知っているのは東京が空襲されてそれに危機感を持った海軍が空母撃滅とミッドウェー島の両方をやろうとMI作戦が決行され空母4隻が急降下爆撃によって撃沈される……そういう事だろ?」

「な……なら何故それを防ごうとしないんですか?」

「帝都空襲をか? 残念だが、索敵をして此方から攻撃するのは不可能に近いからだよ」

 

 将和はそう言って海図を出し源葉に視線を向ける。

 

「君はこの太平洋をどう思う?」

「どうって……広いと思います」

「そう、広いだろ? ヴィンランドの機動部隊が内地に接近しているのは知っていても何処の海域にいるかは全く不明だ。仮に米軍の史実の航路を我々が知っていたとしてもじゃあ実際にそこを通るか?」

「そ、それは……」

「残念ながら答えは半々だ。確率だともうちょい高いかもしれないが……此方から索敵をすれば向こうはより一層の警戒をしてその海域には来ない可能性もあるのだよ。そして別ルートを通り葦原を空襲する」

「……………………」

 

 将和の言葉に源葉は言い返せなかった。確かにその可能性は大いにあったからだ。

 

「史実を知っているからこそ、だからこそ俺は此処に留まり、帝都空襲は迎撃に徹する。それは前の世界でもそうだったからだ」

「前の世界……?」

「……山本長官、まさか俺と清の正体を話していないのか?」

「いやぁ……忘れてました……」

「お前なぁ……」

 

 頭をかく五十子に将和は溜め息を吐く。どうも話が噛み合わないと思っていたのだ。

 

「取り敢えず俺と清の正体は言ってくれよ。それを言っている認識で俺は言っていたのに……源葉君が知らないなら俺も恥ずかしいじゃないか」

「それは……済まん」

 

 将和の言葉に宇垣も済まなさそうに頭を下げるのである。

 

「まぁ話を戻すが……帝都及び内地への空襲に対して備えはしてある」

 

 将和は指揮棒を持って海図をトントンと叩く。

 

「八丈島と伊豆大島、和歌山の潮岬に13号対空電探を設置して常時の対空警戒はしている。それに横須賀と厚木に基地航空隊としての301空と302空、近畿にも鳴尾と淡路島に332空と341空が駐屯して警戒してるよ」

「成る程……」

 

 将和の説明に源葉は頷く。歴史を知っている者からすれば近畿も爆撃されると知っていたからだ。なお、葦原全土にも対空電探基地は20箇所余りが設置され警戒していた。だが将和は源葉の態度が気に食わない。

 

「なぁ源葉君よぉ……君がいきなりこの世界に放り出されたのは俺も知っているが君も危機感というのを持てよ。今は戦争中だぞ?」

「は、はい。すみません……」

「今の君は山本長官らに保護されているからこそのその立場だけど……君だって『死ぬ事』すらあるんだからな?」

「……はい、肝に銘じておきます」

 

 将和の言葉に源葉はそう頷くのである。

 

「あ、そうだ。山本長官、今から18日までの時はコイツを俺に貸してくれ」

「えっ?」

「コイツは戦争を映像と言葉でしか知らない……なら俺が見せてやるよ」

(嫌な予感しかしねぇなぁ……クワバラクワバラ)

 

 ニヤリと笑う将和に宇垣は内心、源葉の冥福を祈るのであった。そして4月18日0900頃、八丈島に設置されていた13号対空電探は内地に向けて接近する多数の航空機を探知した。

 

「こいつはまさか……」

「直ちに横須賀に報告するのよ!!」

 

 八丈島からの通報は直ちに葦原全土を駆け巡る。

 

「各地の対空電探基地は警戒を厳にせよ!! 関東方面の航空隊は接近する航空機の対処に当たれ!!」

 

 海軍、陸軍の各航空部隊は出撃を発令、待機していた零戦22型、隼(三型甲)、二式単戦『鍾馗』、二式複戦『屠龍』(史実キ102乙)、採用されたばかりの紫電改が各航空基地から離陸するのである。その中で横須賀航空基地では飛行服に身を包んだ将和と源葉は試製流星改一に乗ろうとしていた。

 

「さて、よく眠れたかね源葉君?」

「すみません……そんなに眠れなかったです」

「素直で宜しい。今日、お前は本格的な実戦を経験する。だが、お前にはトーシロに比べたらまだあるモノがある。何だと思う?」

「……分かりません」

「飛行していたという経験だ!! お前はこの日が来るまでの六日間、1日12時間で計72時間の後部座席に乗るだけだがの飛行訓練をしている!! しかし、その72時間の経験はトーシロには無い。つまりは僅かながらにも差はあるという事だ!!」

 

 そう言って将和は源葉の両肩をバンバンと叩く。緊張している源葉をリラックスさせる将和である。

 

「今日は空戦を見ているだけでいい。これが戦争か、これが空戦かと実感しろ。良いな?」

「はい!!」

「よし、乗り込め!!」

「はい!!」

 

 源葉はそう言って試製流星の後部座席に乗り込むのである。そして将和は待機していた五十子と嶋野に視線を向ける。

 

「じゃあ行ってくる。土産はB-25だ」

「気を付けて下さいまし長官」

「三好長官……」

「心配するな山本。愛しの彼は無事に帰ってくるさ」

「い、い、い、愛しの彼だなんて……ッ」

 

 ニヤリと笑う将和に五十子は顔を真っ赤にして首をブンブンと左右に振って否定するがその様子はどう見ても源葉に惚の字である。

 

「ハハハ、その様子なら大丈夫だ」

 

 将和はそう言って手を振り試製流星に乗り込む。素早く計器を確認し滑走路脇に向かい順に待機し順が来ると伝声管で源葉に告げる。

 

「離陸するッ」

『ヨ、ヨーソロォー!!』

 

 試製流星改一は将和の操縦の下で離陸したのであった。なお、今日の関東方面で離陸した各戦闘機は陸海で合計150機近くにも及ぶ。その中をドーリトル攻撃隊のB-25 14機は関東方面に侵入するのである。

 

「いたぞ!! 右下方だ!!」

 

 将和が見つけたのは13番機のB-25である。将和の後方には零戦隊18機が飛行しており将和は後方を確認しつつ左フットバーを蹴飛ばして操縦桿を右に倒して急降下に移る。あっという間に九八式射爆照準器にB-25の左発動機が写り込み20ミリ機銃のレバーを握る。

 ドドドッと僅か一連射で左発動機は撃ち抜かれ火を噴いた。また、一部の機銃弾が操縦席付近に命中して操縦席の風防は真っ赤に染まるのを源葉は目撃した。

 

「ッ」

 

 グラリと機体を翻したB-25はそのまま横須賀沖に墜落するのである。

 

「よし、このまま再度警戒するぞ」

 

 将和は高度3000で警戒するのである。なお、関東方面に侵入してきた14機のB-25はそれぞれが対空電探で誘導された陸海戦闘機に迎撃され海上、若しくは爆撃前に撃墜されるのであるが撃墜時の破片が降り注いで数名の民間人の負傷者を出してしまうのである。

 また、名古屋、近畿方面に向かった2機のB-25も同様に撃墜されヴィンランド軍による葦原本土爆撃は完全に失敗するのであった。

 

「初めての実戦はどうだった?」

「……あっという間だったと思います」

 

 着陸後、将和は源葉に問うと源葉は顔を青白くしながらもそう答えた。

 

「……僕……長官の20ミリが操縦席に命中して操縦席が真っ赤に染まった瞬間を見ました……これが戦争……ウプッ」

「おー、お前にしてはよく持った方だな。吐け、今は吐け」

 

 源葉は滑走路脇の草むらで胃の中身を吐き出すのである。全て吐き終えた源葉は膝から地面につく。将和はその隣を座る。

 

「落ち着いたか?」

「はい……」

「そのままで良いから聞け……俺が思うにな、死というのは結局は運命だと思う」

「………………」

「俺は一次大戦の頃からあの大空で戦い続けた。何百、何千発の機銃弾の真ん中を仲間と共に飛んで戦い続けた……不思議なもんでな。何百、何千発の機銃弾の中にいても当たらない時には掠りもしない。だがな、当たる時は一発の流れ弾でも当たるんだ」

 

 そう言って将和は飛行服を捲って左腕を見せる。左腕の上腕付近は普通の人と比べたら少しだけ肉が無かった。

 

「これって……」

「一次大戦の時に受けた擦過射創の傷痕だ。俺でさえこうなる事もあるんだ」

「………ッ………」

「『何百、何千発の機銃弾の真ん中を飛んでも当たらない時には掠りもしない』俺はそう言い聞かせながら生き残るための努力をする……大いなる矛盾だわな。けどその矛盾を生きるのが俺達パイロットだと思っているな」

「大いなる矛盾……………ッ」

 

 源葉はそう言って息を飲む。目の前にいるのはその覚悟を言い聞かせながらも戦い続ける一人の男だった。

 

「源葉、お前はお前が信ずる道を山本長官と共に行け。惚れた女を守るのが男の仕事だろ?」

「ほ、惚れただなんて……」

「かー、初々しいねぇ。俺にも昔はそんなのが……無かったなぁ……夕夏は夕夏だったしなぁ……」

 

 何故か自分の言葉に撃沈する将和であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、やはり無理だったわね」

 

 新たに第16任務部隊司令官に就任したフレンダ・ハルゼイ中将はドーリトル隊からの最後の報告に溜め息を吐いた。

 オアフ島がヴィンランドによる再奪還後、捕虜から解放されたハルゼイ等は再任職をしていた。しかし、メアリー・キンメル海軍大将は真珠湾攻撃の非を咎められ少将に降格、その後4月1日付で予備役にされ海軍を退役する羽目になったのである。

 

「今はこれで良いわ……合衆国が葦原に負ける事を見ないで済むからね」

 

 退役する日、メアリーはそう言って海軍を去ったのであるが後に彼女もまた復職するとは思ってもいなかっただろう。

 ハルゼイは再任職後、空母『サラトガ』を旗艦とする第16任務部隊司令官に就任し第18任務部隊の空母『ホーネット』と共に葦原本土まで近づき、ローズンベルトらの命令である葦原本土空襲の為にB-25を発艦させたのである。

 ハルゼイは時期が早すぎると反対を表明していた。まず空母が少なすぎた。せめて新型の『エセックス』級空母が就役するまではヨーロピアン大陸に集中すべきとしていたがローズンベルト大統領は葦原の侵略を挫く為には一定の戦果が欲しかったのだ。

 新しくヴィンランド太平洋艦隊司令長官に就任したセシリア・ニミッツ海軍大将もハルゼイに同調していたがキング作戦部長に押し切られた形となったのだ。

 

(せめて空母8隻……よくて大型空母が6隻はいないと侵攻も防衛は出来はしない……)

 

 ハルゼイはそう思いつつも内ポケットの中にある写真を思わず触る。誰にも写真の事は言ってはいない、知っているのは一緒に写真を取った葦原のあの男だけだ。

 

(……私が倒すまでは……死ぬんじゃないわよ……キヨシ……)

 

 色々とフラグを立てている長谷川であった。

 

 

 

 

 

 

 




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