「敵の攻撃隊が接近中だって!?」
「は、はい!! 前衛を警戒中の駆逐艦『陽炎』からの通報です!!」
それは偶然とは言えなかった。楠木は一つのミスを犯していた。それは電波を発信していた事であった。先の『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』の電文はヴィンランド機動部隊も受信しており攻撃隊を出していたスプルアンス少将は楠木の機動部隊も脅威と認識し進撃中の攻撃隊に攻撃変更を伝えたのである。
その攻撃隊を前衛にて展開していた駆逐艦『陽炎』の13号対空電探が探知し直ちに『飛龍』に通報したのである。
「迎撃の零戦は!?」
「直ちに発艦を開始します。ですが……四空母は第二次攻撃隊の準備中だったので……」
「ッ!?」
この時、二航戦と五航戦はミッドウェー島攻撃隊を収容完了しヴィンランド機動部隊への第二次攻撃隊の準備中だったのだ。その為、各空母の飛行甲板下では航空爆弾や航空魚雷が乱雑に置かれていたのである。
「可能な限り、爆弾と魚雷を弾薬庫に格納するんだよ!! 間に合わないなら信管は抜いて!!」
「はッ!!」
「クソッ!! 三好長官を助けようとした結果がこれだって言うの!?」
楠木は苛立ちを隠せなかった。そうこうしているうちに敵攻撃隊は飛来したのである。
「敵攻撃隊、凡そ150機になります!!」
「零戦隊は!?」
「上空にいた直掩12機と何とか四空母から42機が発艦しました」
「……正念場だね……」
そして敵攻撃隊と零戦隊は激突したのである。
「何としても敵機を空母に近づけないで!! 最優先は敵の艦爆と艦攻よ!!」
『飛龍』零戦隊隊長の岡嶋清海大尉はそう無線に叫びつつ逃げようとするSBDに20ミリ機銃弾を叩き込んで撃墜する。岡嶋機の周囲でも他の零戦やF4Fが空戦をしておりどちらも一進一退の攻防であった。
だがそれでもヴィンランド攻撃隊は零戦隊の包囲網を突破し、各々で攻撃を開始したのである。
「敵機直上ォォォォォォォ!! 急降下ァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
最初に狙われたのは『蒼龍』だった。『蒼龍』にはSBD10機が群がり急降下を開始していた。
「取舵イッパァァァァァァァイ!!」
『蒼龍』艦長の柳本大佐は回避運動をするが5機目は回避する事が出来なかった。5機目のSBDは高度500で1000ポンド爆弾を投下、1000ポンド爆弾は『蒼龍』の中部飛行甲板に突き刺さり格納庫に入った瞬間、爆発したのである。
更に6機目も被弾箇所に近い飛行甲板に突き刺さり格納庫の床をゴロゴロ転がって爆発、その爆風は攻撃隊の発艦準備中だった九九式艦爆を吹き飛ばし、整備員らも吹き飛ばして壁に叩きつけたのである。
吹き飛ばされた艦爆は腹に抱えていた250キロ爆弾が誘爆、床に乱雑に置かれていた他の250キロ爆弾にも誘爆したのである。
「中部及び後部飛行甲板に2発命中!! 格納庫では誘爆が発生しています!!」
「消火急いで!!」
「て、敵機投弾!?」
「ッ!?」
最後に投下した1000ポンド爆弾は『蒼龍』艦橋付近の飛行甲板に命中、その爆風は『蒼龍』艦橋を基礎部分から吹き飛ばし艦橋を海面に叩きつけたのである。
それにより柳本大佐以下、艦橋にいた全員が戦死したのであった。
「『蒼龍』被弾炎上!! 『蒼龍』と連絡不能!!」
「連絡不能ですって!?」
「艦橋の命中弾で艦橋は吹き飛んでいます!!」
「柳本ちゃん……」
「『翔鶴』上空にも急降下!!」
『翔鶴』は5機のSBDに襲われた。『翔鶴』艦長の有馬大佐は懸命な回避運動を指示したがそれでも3発の1000ポンド爆弾が命中、『翔鶴』は炎上した。
しかし、『翔鶴』は爆弾や魚雷は全て弾薬庫に収めていた事もあり誘爆する事はなく、発着艦不能という被害だけに終わったのである。
そして『飛龍』にもSBDは群がり襲い掛かったのであった。
「敵ィィィィィィィィ!! 直上ォォォォォォォ!! 急降下ァァァァァァァァァァァァァ!!」
「取舵イッパァァァァァァァァイ!!」
見張り員の叫びに『飛龍』艦長の加来大佐は直ぐに反応して回避命令を出す。『飛龍』は『蒼龍』の航行性能を引き継ぐ形で回避性能は非常に良かった。
だが、『飛龍』を襲い掛かったSBDは13機もいたのである。軽快な回避運動をしていた『飛龍』だったがそれだけの数には対処しきれなかったのである。
結果、『飛龍』は四発の1000ポンド爆弾が命中、『飛龍』の格納庫の床には『蒼龍』同様に第二次攻撃隊の準備をしていた250キロ爆弾や航空魚雷が乱雑に置かれていた事で1000ポンド爆弾の爆風で誘爆、『飛龍』も『蒼龍』と同じく大炎上したのである。
「消火急いで!!」
「応急班!!」
「駄目です、消火ホースが故障しています!!」
「散水器を回しなさい!!」
「衛生ヘェェェェェェイ!!」
「……………………」
『飛龍』艦橋で兵士達が慌ただしく動く中、楠木は目を瞑っていた。
(これが……これが航空戦なんだね……)
楠は自身の航空戦の認識の甘さを自覚していた。まだ、何かやれたのではないか? 何か手立てはあったのではないか?
そう自問自答していた。そして通信兵が駆け込んできた。
「か、『加賀』より入電です!!」
「三好長官から……?」
通信兵から電文を受け取り楠木は一読みする。そして一瞬、眉を動かしたのを伊藤参謀は見逃さなかった。
「楠木司令……三好長官は何と?」
「……被弾空母の状況が酷ければ、乗員収容後に雷撃処分をしても構わないと……責任は全て俺にあると言っているね」
『………………』
雷撃処分、それはどうしようも無い手段であった。だが、『蒼龍』と『飛龍』は炎上が激しくどうしようも無いのは誰からの目にも見えていた事だった。そこへ再度通信兵が電文を持ってきた。
「『加賀』より追加電文です」
「…………………」
追加電文を一読みした楠木は伊藤参謀に電文を渡す。伊藤参謀が電文を見るとある文面が記載されていた。
『艦と運命を共にするという事はするな。我々は復讐の機会を与えられたのだ』
それは電文だが平文であった。将和は楠木の性格を見抜き、敢えて平文で送ってきたのである。
「……司令……」
「……三好長官にそこまで言われたら仕方ないよ」
伊藤参謀の問いに楠木は二ヘラと下手くそな笑みを浮かべた。無闇に死ぬ事は許されないと釘を刺されたのだ。平文で送ってきたのだから全艦艇も受信している。それを見越しての事だった。
「……消火活動は優先して行って。誘爆が激しければ……加来ちゃん、総員退艦を発令してね」
「……分かりました……」
楠木の命令に加来大佐も頷いたのである。斯くして楠木機動部隊は最優先で将和からの命令を取り掛かるのであった。
そしてフレッチャーの機動部隊は別の攻撃隊に襲われていた。第二艦隊に配備されていた三航戦『赤城』『土佐』から発艦した攻撃隊であった。
「まずは被弾炎上している空母にトドメを刺すわよ!! 全軍突撃!!」
攻撃隊隊長の楠見少佐は被弾炎上している『レンジャー』を視認し確実に敵空母を撃沈する事を優先したのである。
この攻撃により先の攻撃で被弾炎上していた『レンジャー』はトドメを刺され、攻撃隊が引き上げる前に波間に消えたのである。
「これで空母2隻は叩いたか……」
「しかし、まだ正規空母2隻、小型空母6隻はいますわ」
「……出せる機はあるか?」
「今は『加賀』からなら零戦27機、彗星24機、九九式艦爆14機、天山22機、九七式艦攻12機、彩雲5機ですわ。『瑞鳳』は零戦12機が出せますわ」
「良し……小型空母の攻撃に向かわせる」
「小型空母? 正規空母じゃないのか?」
「決定的な打撃は与えられんだろ。護衛艦艇も多いならまだ小型空母を攻撃しその後の戦略を考える」
「その後の戦略……?」
「あぁ」
将和がそう言うなら草鹿や嶋野もそれ以上の反論は無かった。直ちに攻撃隊は準備され小型空母部隊攻撃に向かうのである。
「そう……『蒼龍』と『飛龍』は総員退艦が発令されたんだね……」
「はい、誘爆が激しくこれ以上の消火は不可能と判断したようです」
「多恵ちゃんは?」
「駆逐艦『浜風』に収容され『瑞鶴』に移乗したようです。そのまま航空戦の指揮を取るようです」
「フフ、多恵ちゃんらしいね」
「楠木機動部隊まで50海里を切りました。もう少しで合流可能です」
「うん。出来れば三好長官とも合流したいけど……」
「まだ100海里は離れているからなぁ……近藤さんの第二艦隊と合流して戦力を整えるのも手かもしれません。逆に三好長官は南下中の小澤と合流して戦力を増強する手もあります」
五十子の呟きに宇垣はそう具申する。ダッチハーバーとアッツ、キスカ島攻略支援をしてから南下中の小澤第二航空艦隊と将和の艦隊が合流して戦力を大幅に回復させるのも手だったのだ。
だがそこへ通信兵が駆け込んで来た。
「一航戦攻撃隊隊長機の電文を受信しました!! 『我、敵小型空母3ヲ撃沈ス』以上です!!」
「小型空母? 確か多恵ちゃんの機動部隊を攻撃してきた空母部隊だね」
「何で小型空母なんかを攻撃を……」
「でも残りは半数だよ。もう一押しでやれるよ」
五十子はそう宇垣や洋平を励ますのである。だが、ヴィンランド機動部隊は出しうる速度での離脱中であり各機動部隊もこれ以上の攻撃は事実上不可能であった。
同日1730、五十子は攻撃を断念し艦隊集合及び損傷艦艇の救助を発令したのであった。
これによりMI作戦はほぼ終了となり葦原海軍は正規空母『蒼龍』『飛龍』を喪失、正規空母『神鶴』、軽空母『祥鳳』大破、正規空母『加賀』小破という被害であった。
対してヴィンランド海軍は正規空母『ヨークタウン』『レンジャー』並びに護衛空母『ロング・アイランド』『チャージャー』『ボーグ』を喪失、正規空母『サラトガ』『ホーネット』中破という被害を出したのである。
後の歴史家達は「痛み分けに終わった戦い」とし、他にも「小澤中将の第二航空艦隊がミッドウェーに間に合わえば葦原海軍の勝利で終わった」とも評されたのであった。
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