11月18日、『ケ号』作戦は開始された。まず火蓋を切ったのはラバウルに展開していた陸攻隊約90機、それを護衛するのはブインに進出した第202空の零戦54機であり更に制空権獲得のためにムンダに進出した第251空の零戦60機、バラレ島に進出した陸軍の第一飛行戦隊等の隼96機等が出撃してガダルカナル島のヘンダーソン飛行場を攻撃したのである。他にも九九式艦爆や九九式双軽等も攻撃に参加しガダルカナル島のレーダー基地や格納庫等を破壊する事に成功した。
大規模な航空攻撃はヴィンランド側を警戒させるには十分であった。
「葦原のサルが大規模な増援を送り込む腹つもりよ。何としても阻止するわよ!!」
ニューカレドニア島のヌーメアにあるヴィンランド海軍南太平洋艦隊司令部ではフレンダ・ハルゼイ大将がそう激怒していた。今、更なる増援を葦原が送り込めばガダルカナル島は陥落してウォッチタワー作戦は根本から瓦解するのは明らかであった。
ハルゼイは上司であるセシリア・ニミッツに更なる増援を要請し要請を受けたニミッツも何とかやりくりをして戦艦『ニューメキシコ』『ミシシッピ』『テキサス』の3隻と護衛空母4隻を主力に派遣したのである。しかし、この艦隊は残念ながら間に合わなかった。
攻撃を受けた夜半18日の2000から葦原海軍の作戦は開始されたのである。
前衛隊
司令長官 三好将和大将
第一戦隊第二小隊
『出雲』『長門』『陸奥』
第七戦隊第二小隊
『鈴谷』『熊野』
第二水雷戦隊
『能代』
第八駆逐隊
『朝潮』『満潮』『大潮』『荒潮』
第十五駆逐隊
『黒潮』『夏潮』『親潮』『早潮』
第三十一駆逐隊
『長波』『早霜』『秋霜』『清霜』
「三好長官、水上電探は快調に作動しているぞ」
「ん」
宇垣の報告に将和は頷き気象長に視線を向ける。
「ガダルカナル島周辺の天候は?」
「はっ、雲が一つもない晴れであります」
「ん」
気象長の報告に将和は頷き、やや後方にいた洋平に視線を向ける。
「山本のところにいなくてもいいのか洋平?」
「はい。自分が言いました、三好長官の指揮を見たいと五十子に……」
「そうか。ま、そう今から気張るな。ガダルカナル泊地沖までまだ時間はある。ゆっくりしとけ」
「はい」
将和はそう言って防空指揮所に上がる。月も八割は見えており海面を照らしていた。
(良い月の夜だ……こんな日は日本酒かラム酒でも飲みたいが……今日の肴はヴィンランド海軍5隻の戦艦……お代わりは有りかな……?)
そう思う将和であった。そして前衛隊がガダルカナルに近づいていたが敵ヴィンランド海軍も艦隊を繰り出していた。
「キャラハン司令、『ヘレナ』より連絡です。『ヘレナ』の水上レーダーが敵艦隊を探知しました」
「よし、先手を取ったわッ。全艦、艦隊を左へ!!」
第64任務部隊第4群司令のセレーナ・キャラハン少将はそう指示を出した。キャラハンは丁字戦法にて前衛隊を迎え撃とうとしたのだ。しかし、前衛の駆逐艦が「艦隊を左へ」という命令を「艦を左へ」と読み違え、混乱が生じた。また『サンフランシスコ』はレーダーで将和の前衛隊を発見できなかったためすぐに砲命令を出さず、前衛隊の方位・距離・位置をしきりに『ヘレナ』に求めていたため各艦は電話通信に割り込んでキャラガン少将に対して攻撃を促したのである。
『早く攻撃命令を下さい!!』
『このままでは敵に撃たれます!!』
「待ちなさい皆!! 『サンフランシスコ』のレーダーが捉えてないーーー」
先手を取ったのは前衛隊だった。この時、前衛隊の第八駆逐隊が駆逐艦『カッシング』を発見し続けてその後方を航行していた『能代』の22号対水上電探改四が『アトランタ』『サンフランシスコ』『ポートランド』等を探知し第二水雷戦隊司令官の田中少将は『出雲』に通報しつつ前衛の第八駆逐隊に攻撃命令を出したのである。
「待ってました!! 全砲撃ちまくれェ!!」
『朝潮』以下の艦が一斉に砲撃を開始し狙われた『カッシング』は瞬く間に被弾炎上した。更に第八駆逐隊は『ラフィー』『ステレット』にも砲撃を加えて炎上させるがそこまでだった。『アトランタ』『サンフランシスコ』『ポートランド』らの合流が早くなり第八駆逐隊に砲撃を加えたのである。この砲撃で『荒潮』が中破したが御返しとばかりに『サンフランシスコ』の周囲に大口径弾の砲弾が落下してきて水柱を噴き上げさせる。
「なッ!? これはーーー」
驚くキャラハンだったがそれ以上はキャラハンも言えなかった。砲弾が『サンフランシスコ』の艦橋に飛び込んできてキャラハンは吹き飛ばされたのである。
「敵甲巡に命中弾確認!! 敵甲巡轟沈です!!」
「ん。宇垣、見事な指揮だ」
「へへッ」
将和が褒めると宇垣は嬉しそうに笑う。先程の砲撃は全て宇垣の命令の下で動いていたのだ。
「宇垣、砲撃の指揮は任せる。思う存分、やれッ」
「ッ、良いのか?」
「構わん。餅は餅屋のモノが一番出来は良いからな」
「……へへッ、なら任せてもらおうか!!」
宇垣の言葉に将和はニヤリと笑い宇垣も笑みを浮かべて伝声管に向かって指示を出す。
「探照灯照射!! 敵弾は全てこの『出雲』が引き受ける!!」
『出雲』が探照灯を照射し『ポートランド』が浮かび上がる。浮かび上がった『ポートランド』に『長門』と『陸奥』が砲撃をする。距離は1万を切っていたので砲弾は面白いように4発が命中し『ポートランド』は瞬く間に行動を停止したのである。
第64任務部隊第4群の残存艦艇も敗走しつつも探照灯を照射する『出雲』に砲撃をしていた。しかし浮き足立っているので砲撃しても見当違いのところに水柱が吹き上がるだけだった。
結果的に第64任務部隊第4群は駆逐艦5隻を残して壊滅し駆逐艦5隻も敗走したのである。なお、『アトランタ』は『能代』『長波』らの砲撃で上部構造物を破壊され漂流、海戦終了後には葦原側に鹵獲されてしまうのである。
それはさておき、第64任務部隊司令官のサタリー・パイ中将は第64任務部隊第4群の壊滅、敗走を知ったが特に気にする必要はなかった。
「我がヴィンランド海軍の戦艦が5隻もいるのよ。負ける筈がないわ」
第64任務部隊は戦艦『ワシントン』『サウスダコタ』『インディアナ』『コロラド』『アイダホ』の5隻がおり速度にはバラつきがあるものの主砲は『アイダホ』以外は40.6サンチ砲で構成されていた。その為パイ中将もたかが葦原の新型戦艦など追い払う事は可能と判断していたのだ。しかし、それを覆されたのは前衛隊との砲撃が始まった時であった。
「水上レーダーに反応ありッ。うち一隻は超大型です!!」
「……例のバトルシップ『ヤマト』型のようね」
レーダー員からの報告にパイは嬉しそうに言う。大艦巨砲主義の彼女からすれば戦艦同士の艦隊決戦は血潮が沸き立つモノがあるのだ。
「『ワシントン』を先頭に単縦陣を敷くわ。やるわよッ」
自信があったパイ、しかし距離が近づくにつれ言い様が無い不安に包まれる。
(何……この不安は……? そんな……まさかの事が……)
そして距離が3万9000の時、前衛隊は砲撃ーー星弾を撃ち上げた。
「星弾……やはり葦原のレーダー技術は遅れて……」
「左舷水面上に何かいますッ!!」
見張り員の叫びにパイが視線を向けるとそこには10数機の零式観測機や零式水偵等が超低空飛行で飛行していたのだ。
「な、あれは敵の偵察機!?」
「やっと捕まえたわよ美戦艦め。全く三好の旦那もキツイ仕事をやらせるわね。全機上昇!!」
パイロットは笑みを浮かべつつ操縦桿を引く。下駄履き水上機達は一斉に上昇をして高度700で10数発の吊光弾を投下した。
『キャッ!?』
「しまった、吊光弾だわ!?」
光らされたヴィンランド戦艦部隊を見て将和はニヤリと笑う。
「ほぅ、見事な背景照明だな」
「砲術、諸元入力急げェ!!」
そして諸元入力を完了した前衛隊は3万7000で砲撃を開始した。
「目標、敵ヴィンランド戦艦部隊!! 撃ち方始めェ!!」
「撃ェェェ!!」
将和、宇垣の咆哮と共に『出雲』は46サンチ砲での砲撃を開始した。当初は交互撃ち方であり各砲の左右砲から四式徹甲弾(超大重量砲弾)が発射される。発射された四式徹甲弾は空を描きながら第64任務部隊ーー『ワシントン』の周囲に水柱をあげて着弾する。
「きゃァァァァァァァァァッ!!」
『ワシントン』の艦橋ではあまりの揺れにパイ達は床に叩きつけられた。
「な、何なのこの衝撃は!? 16インチ砲なんてモノじゃないわ……まさか18インチ砲!?」
「我等がクラブへようこそ、ヴィンランド海軍!!」
パイが言った後に将和が呟いたのは誰も気付いてない。だが、パイには敵将が言ったような気がしたのは間違いなかった。続けての第二射の一発は『ワシントン』の左舷両用砲群に飛び込み一瞬の間を置いてから爆発した。
「ダメージ・コントロール!!」
「左舷被弾!!」
「左舷1~3番両用砲被弾!! 砲員は全員戦死!!」
「被弾両用砲から火災発生!!」
「消火急いで!!」
「……おのれ葦原!!」
床に倒れていたパイは立ち上がり指示を出す。彼女はまだ負けていないと思っていた。
「直ちにレーダー射撃を開始よ!! このまま奴等にアドバンテージをさせやしない!!」
直ちに『ワシントン』以下5隻は砲塔を旋回し砲身を固定し砲撃を開始した。5隻から放たれた砲弾は次々と『出雲』の周囲に落下して水柱を噴き上げさせる。
「近いな……恐らくは三、いや二斉射くらいで命中弾が来るな」
「だな。これがレーダー射撃ってヤツか」
「あぁ。手強いぞ?」
「ハンッ。望むところよ」
将和の言葉に宇垣はニヤリと笑う。
「次発装填急げ!! 敵は待ってはくれんぞ!!」
「第三射撃準備完了!!」
「撃ェェェェェ!!」
『出雲』は再び砲撃を開始する。それに遅れて『長門』『陸奥』も『ワシントン』に照準を合わせて砲撃を開始する。この時の距離は3万5000、しかも互いに反航戦の形を取っているので距離は直ぐに詰まる。
そして『出雲』が第六射目を放とうとした時に『出雲』が揺れる。被弾したのである。
『後部飛行甲板のカタパルトに命中!! カタパルトは全部吹き飛びました!!』
『右舷両用砲群に命中弾!! 右舷二番両用砲員全員戦死!!』
「消火急いで!!」
「……………………」
艦長達が慌ただしく動く中、将和は敵ヴィンランド艦隊を見つめる。ヴィンランド艦隊の先頭を往く『ワシントン』に数発の命中弾を得ており炎上していた。
「敵先頭艦からの砲撃は?」
「ん? あぁ、散発的だな……」
「宜しい。ならば目標を敵二番艦に変更、二番艦以降は無傷だからな」
「良いのか? 下手したらあれは旗艦だと思うぞ」
「本作戦は旗艦だけを沈めるのが目的じゃないからな。一隻でも多くの戦艦を沈める事を優先せよ」
「了解、ならそうするぜ。砲術、目標を敵二番艦に変更だ!!」
そして『出雲』は敵二番艦『サウスダコタ』に照準を変更して砲撃を再開する。この時の距離は2万2000までに接近しており命中弾は増え続けていた。
「もっと接近だな。奴等を叩く」
「ヨッシャッ、任せておけッ」
「それと……田中に連絡。二水戦は田中の判断で突撃せよとな」
そしてその報告を受け取った田中はニヤリと笑みを浮かべた。
「流石は三好長官だ。分かってくれてるもんだね」
そう言って田中は指示を出す。
「全艦突撃準備ッ。奴等の横っ腹に痛いのをぶちこむよ!!」
二水戦は俄に騒がしくなるのであった。
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