「全艦突撃準備ッ。奴等の横っ腹に痛いのをぶちこむよ!!」
二水戦は俄に騒がしくなるのであった。そして発光信号で準備完了を確認した田中はスゥッと息を吸って叫んだ。
「取舵一杯!!」
「とぉーりかぁーじッ、一杯!!」
二水戦は『能代』を先頭に取舵を選択しーー第64任務部隊に突撃を開始する。それを見た将和も指示を出す。
「同航戦に持ち込め。左十六点、逐次回頭!!」
「ハッ!! 左十六点、逐次回頭!!」
『出雲』は取舵を行い反転し第64任務部隊に追い縋ろうとする。無論、航続の『長門』『陸奥』も左十六点逐次回頭を行い反転するのである。それを炎上する『ワシントン』の艦橋で見ていたパイは舌打ちをする。
「クッ、奴等追い縋ろうとしてくる。機関室、まだ速度が上がらないのか!?」
「まだです提督ッ」
『ワシントン』は『出雲』の砲撃中に水中弾となった四式徹甲弾が『ワシントン』の艦尾付近に命中し機関室にも浸水して17ノットの速度しか出なかったのだ。そして二水戦もそれを見逃す筈がなかった。二水戦は速度低下で落伍しようとする『ワシントン』に狙いを定めたのだ。
無論、第64任務部隊も気づいており『サウスダコタ』『インディアナ』の40.6サンチ砲の砲弾が二水戦に降り注ぐ。
最初にやられたのは駆逐艦『荒潮』だった。
「『荒潮』がッ!?」
『荒潮』は『サウスダコタ』が放った40.6サンチ砲弾をマトモに喰らって爆沈したのだ。更に『大潮』が『インディアナ』の5インチ砲が二番九二式魚雷発射管に命中、発射管に装填していた九三式魚雷が爆発、誘爆により『大潮』は轟沈したのである。
そして『夏潮』が機関室に5インチ砲弾が命中して戦列を離れた。だが二水戦の被害はそれだけだったのだ。
「目標、敵戦艦。距離980(9800)!! 敵速18ノット、針路0-8-0!!」
「魚雷発射用意ッ!! 発射30秒前一斉転舵開始ィ!!」
『能代』が再び取舵をする。取舵をして横腹を『ワシントン』に向けた瞬間、狙いを定めていた水雷長が発射の引き金を引いた。
「ヨォーイ……撃ェッ!!」
『能代』は魚雷発射管の最右翼から酸素魚雷ーー(弾頭重量を860kgに増加した四型)が発射される。
ボシュゥッ、ボシュゥッと圧縮空気の音と共に魚雷が発射されソロモンの水面に消えていく。
「水雷長、命中時間は?」
「凡そ……2分です!!」
そして魚雷を放たれた第64任務部隊は錯乱状態に陥ろうとしていた。
「魚雷、来るぞ!! 面舵一杯!!」
パイはそう叫び回避運動をするが速度が低下している『ワシントン』ではただの標的だった。ドンドンと二回の振動と共に2本の水柱が左舷に噴き上がる。
「ダメージ・コントロール!!」
「左舷に2本命中!! 浸水増加中!!」
この雷撃で『ワシントン』は12°まで傾斜する。そして悲報が次々とパイのところに舞い込む。
「『コロラド』轟沈!! 『アイダホ』大破、航行不能!!」
「何!?」
速度が元々遅い2隻は二水戦の標的になっていた。『コロラド』は6発の酸素魚雷を左舷へマトモに命中、そのまま轟沈となった。『アイダホ』は3発被雷し轟沈はしなかったものの左舷へ40°以上の大傾斜となり航行不能である。しかもいつ沈没してもおかしくはなかった。
「他にも『サウスダコタ』『インディアナ』も1発ずつの被雷です!!」
「…………………………」
パイは2隻を離脱させようとした。しかし、2隻は被雷こそ1本ずつであったが砲弾は多数命中しており戦闘力は半減以下に陥っていた。その為、2隻を離脱させるのが間に合うか否かであったがパイは大きく息を吸い込んで吐いた。
そして口を開き命令を発したのである。
「『サウスダコタ』『インディアナ』に離脱するよう指令。『ワシントン』も総員退艦準備!!」
「て、提督!?」
「良いんだ。君達はよく戦ってくれた。この上は2隻を何とか逃がすようにしなくてはならない」
「……分かりました。総員退艦準備急げ!!」
リー参謀長は悔しそうにそう言って作業に取り掛かる。だがその間にも『サウスダコタ』『インディアナ』の2隻の被弾は続き、遂には『インディアナ』が行動を停止してしまう。
「クッ、平文で打電だ!! 最大出力で構わないから『我、救助活動中ナリ』だ!!」
セコい手なら何でも使う、パイはそう判断して打電をした。無論、将和側の『出雲』も受信し黙殺は出来ないので戦闘を中止した。しかし、砲弾は発射しなくてもその前に魚雷を発射していたどうなるか?
答えは命中するである。
「クッ!?」
パイは床に倒れそうになったが何とか踏ん張った。『ワシントン』はトドメとも言える酸素魚雷3発が左舷に命中したのである。
「早く離艦するんだ!!」
「で、ですが提督は!?」
「私が離れるのは最後の一人が離艦した後だ!!」
それでも『ワシントン』は暫くは浮いていたが0236、遂に鉄底海峡の波間に消えていったのである。
「提督、御無事で……」
「君もなリー参謀長」
パイとリーらはボートで漂流していた。戦場は戦闘の終わりを告げていた。第64任務部隊は戦艦は『サウスダコタ』が大破しそれ以外は戦没。残っていた艦艇もパイの最後の命令を守るが如く『サウスダコタ』を護衛して退避していた。その為、彼女達を救助したのは必然的にも葦原海軍であった。
「ようこそパイ中将、我が『出雲』へ」
「……成る程。噂は真実だったというわけか」
「噂?」
「知らないのか? 葦原の指揮官を男がやっているという噂があったが……理解出来た。キンメルやハルゼイが言っていたのは本当だったというわけだ」
パイはそう言って肩を竦めた。要するに自分達は男に負けたのだ。そう捉えたが将和も肩を竦める。
「オイオイ、俺がラ・メール症状に掛からないのはタマタマだ。そして頑張ったのは彼女達だ、それは侮辱する事になる」
「……確かに。それは謝ろう」
謝罪をするパイだが将和の第一印象を見て只者ではないと感じたので話を変えてみた。
「この船は新型だと思うが?」
「あぁ。主砲は46サンチだ」
「おい長官ッ」
「大丈夫だ宇垣。ヴィンランド海軍は40サンチ……それ以上の戦艦を作れない。そうだろ?」
驚く宇垣に将和は苦笑しパイに視線を向けるがパイは驚愕していた。
「驚いた……ウチの事情を御存知だと?」
「いや? だが必然的だろ。ヴィンランドはパナマ運河を抱えているし大型艦艇の建造は基本的に東海岸だ。西海岸に早期に向かおうとすればパナマ運河を通過しないといけない。そして今回の戦艦喪失だ、数を揃えようとしたらパナマ運河を早期に通過せざるを得ない」
「そう、だからこその『Iowa』級戦艦だ」
パイはそう言って溜め息を吐く。『Iowa』級はパナマ運河を通過する前提の戦艦でありそれ以上、46サンチ砲を搭載するならホーン岬を通過するしか他はなかったのだ。
「ヴィンランド海軍の事情がそこまで知られていたらどうしようもないか……」
「たまたまだ」
「たまたまでそこまで知られてたまるか」
将和の言葉にパイはまたも肩を竦めるのである。
「取り敢えず捕虜の取り扱いはジュネーブ条約を遵守するから安心してくれ」
「……一つ聞かせてほしい」
「何かな?」
「葦原海軍は今後も艦隊決戦をするつもりか?」
「無論、YESだな」
「……クハハッ……面白い……アドミラル・ミヨシ、貴方は面白いッ」
パイは即答した将和の態度に苦笑する。将和のスッキリした態度にパイは好感を得たのだ。だからこそパイは思いついた事を口に出してみた。
「どうだアドミラル・ミヨシ? 私をゲスト・アドミラルとして置いてみないか?」
「なッテメェッ!?」
パイからの驚きの提案に宇垣は目を見開き驚きながらも思わず自身の刀に手を添えるが将和がそれを制してから口を開く。
「ほぅ、ゲスト・アドミラルね。それは観戦武官のようなモノか?」
「そんなモノだな。メリットは戦後を見据えてだ」
「戦後……成る程ね……(面白い……戦艦派閥の自分を葦原に追いやる事で更に空母派閥のニミッツに実権を大きくさせる腹か)」
空母に建造を主に置いているヴィンランド海軍での戦艦派閥は小さいモノであった。そして今回の海戦での戦艦4隻喪失だ。『アイオワ』級戦艦の建造増加はあるかもしれないがそれ以上の超弩級戦艦の建造見込みは無いとパイも分かっていた。だからこそ46サンチ砲を搭載する『大和』型戦艦を保有する葦原海軍に観戦武官として身を置きたい。そして葦原海軍を見た事で戦後の構築ーー恐らくはヴィンランドとルーシ連邦との対立もパイは踏んだのだろう。だからこそパイは将和にそう言ってきたのだ。そして将和も瞬時にそれを理解して面白いと踏んだのだ。
「良かろうパイ中将。何とか希望に沿えるよう掛け合ってみよう」
「それは本当か!? ソイツは僥倖だ、早速46サンチ砲を見せてくれ!!」
(大艦巨砲主義魂優先過ぎひん……?)
目を輝かせて将和に46サンチ砲の見学をねだるパイであった。なお、将和の前衛隊はその後もガダルカナル島泊地に前進して敵残存艦艇を掃討しつつ『出雲』『長門』によるヘンダーソン飛行場への艦砲射撃を敢行する。(『陸奥』は大破していたので『秋霜』『清霜』の護衛の下で後退)
そして五十子達主力部隊も到着した事でヘンダーソン飛行場への艦砲射撃は大詰めを迎えたのである。『大和』『武蔵』も砲撃を開始しヘンダーソン飛行場は完全に混乱を極めていた。
結局、ヘンダーソン飛行場への艦砲射撃が終了したのは0245であった。ヘンダーソン飛行場に駐機していた航空機96機のうち91機が破壊され滑走路(第二滑走路も含む)も真珠湾と同じく不発弾が600発以上も撃ち込まれたのである。その為ヘンダーソン飛行場は最低でも二週間は使用不能となったのである。
そして第三次ソロモン海戦から3日後、『ケ号作戦』は大詰めを迎えた。撤収部隊である駆逐艦と輸送艦がタサファロング泊地に夜間突入したのである。
撤収部隊
『長波』以下駆逐艦32隻
第『一号』型輸送艦×10隻
第『百一号』型輸送艦×5隻(5隻追加)
第『二百一号』型輸送艦×7隻(1隻追加)
タサファロング泊地に突入した撤収部隊の輸送艦22隻のうち揚陸艦をも兼ねる第『百一号』型と第『二百一号』型が海岸付近まで進出しそこで擱座したところから門扉が倒れて開かれたのである。
「帰るぞッ」
「畜生、ヴィン公の野郎が戦艦なんぞ出しやがって……」
「まぁでも俺達は生きて帰れたからな。これを戦訓にしてもらわないとな」
兵士達はそう言い合って大発に乗り込んで輸送艦に乗り込むのである。結局、タサファロング泊地から撤収部隊が離れたのは0730だった。野砲は砲等を破壊して撤収したが戦車は破壊せずの撤収だったので時間が掛かったのだ。だがそれでも楠の機動部隊から発艦した零戦隊が上空援護をしていた事、ヘンダーソン飛行場も使用不能だった事もあり撤収部隊は1隻も欠ける事なくラバウルに帰還する事が出来たのであった。
ヴィンランド側は撤収ではなく増援と想定した事もありニューカレドニアからの高速輸送艦が多数行き来していたが後々の捜索で葦原軍が撤退した事を漸く知ったのは12月上旬であった。
後に戦後、歴史家でもあったサミー・モリソンはアッツ・キスカ撤退も含めて「奇跡の作戦」と評価するのである。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m