『三好in山本五十子の決断』リメイク   作:零戦

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第三十八話 ブリトン首相とヴィンランド大統領の憂鬱

 

 

 

 

 

 

 8月8日、ブリトン連合王国の首都があるロンドンから北方80キロにあるブレッチリー・パークの建物の中にあるブリトン暗号解析センターでは混乱していた。

 

「カイロ経由の緊急電です!!」

 

 機械からダカダカダカダカッと点字が打たれて紙が排出され、職員が読む。

 

「……サー・ウィンストンは床に就いておられる頃か……いや、構わん!! 首相官邸に連絡だ!!」

「ハッ!!」

 

 そしてロンドン、ダウニング街にある首相官邸に緊急連絡が入るのであった。緊急連絡を受けた執事は溜め息を吐きつつも首相であるウィンストン・チャーチルの部屋に赴く。

 

(よりよってこんな真夜中に……しかもナパロニ侵攻が始まろうとしているこの時期……最悪のニュースを伝える役回りになるとは……恐らくはいつも以上の癇癪が私に飛んでくるか……)

 

 その時、扉が中からガチャリと開かれ、少しだけ空いた。

 

「入れ……」

「……はい。失礼します」

 

 執事は覚悟を決めて部屋に入る。部屋は薄暗かったが窓際にある机には老齢の男が座って葉巻を吸っていた。

 

「……インド政庁の間抜けどもが……私からティータイムのアッサムを取り上げるのかね?」

 

 そしてブリトン連合王国の首相であるウィンストン・チャーチルは更に口を開く。

 

「この情報……国内にも他国にも実状が広まぬように手を打ちたまえ。但し……ワシントンのローズンベルトは確実に目にするようにするのだ」

「ハッ!!」

 

 執事が頷いた時、執事は部屋の周囲を見て愕然した。周囲は泥棒が入った形跡があったような散らかっていた。恐らくはチャーチルは怒りをモノに当たり、その結果が散らかった現状なのだろう。執事は何も言わずそのまま部屋から退出するのであった。

 

「……クソッ。葦原め、我がブリトンの嫌がらせをしよってからに……」

 

 部屋が一人になったチャーチルは葉巻を吸いながらそう呟く。セイロン島が再び攻撃を受けた時はそこまで動揺はしていなかった。しかし、次に入った報告には動揺してしまった。

 

『葦原軍、ボンベイを空襲。ボンベイの軍港施設は壊滅的打撃であり復旧は半年は掛かる見込み』

 

 ボンベイはアラビア海側にあった。つまり葦原海軍の機動部隊はセイロン島を空襲後にアラビア海に侵入しボンベイを攻撃したのである。ボンベイはインドからヨーロッパへの物資輸送路を担う軍港の1ヵ所でありボンベイが暫く使用出来ないのはチャーチルを悩ます種の一つになったのだ。

 そしてこのボンベイ空襲を描いたのはーー将和であった。将和は史実と過去の出来事でボンベイが輸送路の一つであったのは知っていた。そこでボンベイを空襲して軍港施設の機能に壊滅的打撃を与え、更には第二艦隊を機動部隊で援護してアラビア海を航行する敵輸送船団を叩く通商破壊作戦をもさせたのである。

 これは現在も実行中であり既に護衛艦6隻、貨物船11隻、タンカー7隻を撃沈し貨物船14隻、タンカー16隻を拿捕していた。拿捕した船は予め水上機母艦に多めに乗艦していた乗員達が乗り込んで東南アジア方面へ向かうのである。最終的に通商破壊作戦は8月22日に終了するが終了までに第二艦隊と小澤の第二機動部隊、第六艦隊はペルシャ湾の入口のドバイ、紅海の入口のジブチ、南アフリカの沖合いに進出し貨物船23隻、タンカー28隻を拿捕しブリトンのインド洋における輸送路を壊滅的打撃を与える成功するのであった。

 そしてチャーチルの髪が後退し広大なテカり具合が拡がりつつあった9月1日、スイスから連絡が入った。

 

「何? スイスで葦原が接触してきたと?」

「はい。葦原海軍のフジムラ中佐という者ですが……それで此方が和平案と……」

 

 執事はそう言ってチャーチルに手紙を渡す。手紙には以下の事が記載されていた。

 

 

 

 『葦原・ブリトン和平案』

 

 1 シンガポール、ビルマ、マレー半島の返還

 2 パーシバル中将以下捕虜の返還

 3 拿捕、運用中の戦艦『POW』『レパルス』『ヴィクトリアス』の返還(通商破壊作戦で拿捕した貨物船、タンカーも該当)

 4 葦原とブリトンの軍事同盟

 5 葦原の連合国入り

 

 なお、和平及び同盟と連合国入りをしたのなら占領地域の3ヶ月以内の撤収と同じく3ヶ月以内の艦艇の返還を実施すると記載されていた。

 

「……フン。随分と気前が良いようだな……(だが捕虜の人員が戻ってきたらそのまま対トメニア戦線に振り分ける事も可能か……それに海軍も艦艇が帰ってくる……)」

 

 感情だけで首相にはなれない。チャーチルは損得勘定をしブリトンにとっては吉と判断したのだ。

 

「……全ての案を賛成出来るわけではない。葦原には1~3は即座に可能であればその3つを念頭に和平交渉を進めるのはやぶさかではない」

「承知しました。直ちにフジムラ中佐に御伝え致します」

 

 執事はそう言って頭を下げ部屋を出る。チャーチルは新しい葉巻に火を付け吹かして頭をフル回転させる。

 

(ブルネイ……ボルネオが返還に無いのは奴等も石油や資源を抑えておきたい証拠だな……小賢しい真似ではあるな。だが大型艦艇が返ってくるなら目を瞑るか……)

 

 大型艦艇の建造はそれなりの日数が掛かる。だが葦原から返ってくるのであれば建造は掛からないのは確かだ。それに拿捕された貨物船、タンカーも返ってくるのだから良い事尽くしなのは確実であった。

 

(恐らく、ボルネオの事をつついたら何か言うだろう……)

 

 実際、交渉の途中でイギリス側が「ボルネオをも返還しないのか?」と問うと葦原側(吉田)は「出来れば我が領土としたい。それが無理であるならば今大戦までボルネオを貸してもらいたい。今大戦が終了すれば返還する」と回答しチャーチルもそれを呑んだのであった。これにより葦原とブリトンは密かに和平交渉は活発する事となり最終的には光文18年11月20日に和平交渉は纏まり、12月1日には『葦原・ブリトン和平条約』締結まで進んだのである。

 

 

 『葦原・ブリトン和平条約』

 

 1 和平に当たり葦原は現時点で占領しているブリトンの領土(ブリトン領マラヤ及びビルマ)を返還する。

 2 葦原は戦争開始後から今日までに拿捕した艦艇、艦船をブリトンに返還する。

 3 ブリトン領北ボルネオは今大戦が終結するまでは葦原が管理する。今大戦が終結後はブリトンに返還する。

 4 葦原とブリトンは互いに賠償金の請求を破棄する。

 5 葦原とブリトンによる軍事同盟の締結。それに伴い、葦原はトメニア、ナパロニの三国軍事同盟の離脱を行う。

 

 以上が和平条約の内容であった。無論、これまでブリトンを支援していたヴィンランドのローズンベルトは寝耳に水であり怒り狂う程であった。

 

「葦原のサルと和平条約とはどういう事だ!?」

「どういう事とは……そのままの通りですぞ?」

 

 ローズンベルトは在ヴィンランド合衆国ブリトン大使のハリファックス子爵を呼び出して叱責した。しかし、ハリファックス子爵は出された紅茶を飲みつつそう返答する。その返答にローズンベルトは更に怒号を挙げた。

 

「我々は連合国ではないか!! その連合国の我々を差し置いて葦原と和平を結ぶとはどういう了見だ!!」

「無論。葦原が領土等を返還したいと言ってきたからですぞプレジデント。我々の目標はトメニア打倒ではありませんか?」

「トメニアだけではない!! 枢軸国打倒の筈ではないか!!」

「これは異な事を……」

 

 ローズンベルトの言葉にハリファックス子爵は肩を竦める。

 

「葦原はブリトンと同じ立憲君主制を重んじる政治体制であるのでトメニアやナパロニのような独裁者が国を牛耳る事はありません。なので単には違いましょうな」

「だが現に葦原はトメニアとナパロニとの同盟を結んでいるではないか!! それなら葦原も独裁国家だ!!」

「葦原は同盟を破棄しましたが?」

「フン、果たして本当かどうだか……」

 

 ローズンベルトはそう吐き捨てるが実際に葦原は三国同盟からの離脱を宣言しておりそれに怒ったトメニアの総統ヒトラーは葦原に対して宣戦布告を後々にする程であるが現時点ではまだであった。

 

「葦原は約束なんぞ守らん」

「既にシンガポール戦で司令官だったパーシバル中将は帰国しています。他の捕虜になっていた兵士達も順次帰国していますよ」

「……我がヴィンランドは葦原の連合国入りは認めない」

「構いません」

「何……?」

 

 ローズンベルトはハリファックス子爵の言葉に首を傾げる。

 

「葦原が連合国入りをするかどうかは建前です。かの国は独自の行動をするとの事です」

「……それがアジア解放かね?」

「いえ? 向こうもアジアの国々が協力を求めてきたら援助はするらしいですが求めて来ない限りは手を出さないとの事です」

「……奴等は何が目的かね?」

「そこは私もチャーチル首相も分かりません」

 

 ローズンベルトの問いにハリファックス子爵は肩を竦める。その表情は本当に知らなさそうであった。

 

「……奴等の真意が分からん」

「それはそうですな」

 

 再び肩を竦めるハリファックス子爵である。そしてローズンベルトは溜め息を吐いた。

 

「……ブリトンへの支援は縮小する」

「ではヨーロッパはトメニアにくれてやると?」

「ヨーロッパは我がヴィンランドが取り返す」

「ティーガーを一撃で倒す戦車を作ってから言ってくれません?」

「……縮小の件は撤回しよう」

 

 ローズンベルトはこれ以上の口撃を止めた。どうも勝てる気がしなかったのだ。

 

「太平洋の戦いは我がブリトンは一切関知しません」

 

 ハリファックス子爵の言葉にローズンベルトは眉を潜める。関知しないとなると今、豪州等使用している基地は使われなくなる可能性があった。

 

「今、使用している基地はそのまま使用可能です。但し、返還される地域はNO……という事ですな」

「成る程。奴等を潜水艦で包囲出来ると思ったがな」

「一応和平条約ですからね。履行しないといけませんので」

「……分かった。太平洋の事で口出ししないのであれば良い。チャーチルに伝えてもらいたい、この借りは大きいぞとな」

「しかと伝えます」

 

 ハリファックス子爵はそう告げ部屋を退出するのであった。

 

「如何なさいますか?」

「……やむを得んだろう……それとも海軍はトラック諸島を空襲出来るのかね?」

 

 キング作戦部長の言葉にローズンベルトはそう返す。海軍はトラック諸島を空襲する計画をしていたが肝心の空母部隊はまだ錬成完了ではなかった。その為キングも強気ではなかったのである。

 

「マリアナ侵攻計画……『フォレージャー作戦』はどうなっているかね?」

「マーシャル諸島は取れるでしょう。しかし、マリアナは正直、分かりません。せめて正規空母15隻は無いと……」

「艦隊型空母15隻で手を打ちたまえ。護衛空母も50は出せるだろう」

「……可能な限りの事はします」

 

 キングはそう答えるのがやっとであったが結局、海軍は『フォレージャー作戦』を後に決行する事になる。

 

 

 

 

 

 

 

「ブリトンと和平になったのは幸いだな」

 

 将和はトラック諸島に停泊する空母『加賀』の艦橋でそう呟く。

 

「だが『駿河』らを返還して良かったのか?」

「構わん。運用しづらいからな……『KV』級は特にな……」

「元が四連装砲だからな……しかも35.6サンチだからいらないわな」

「それに此方は『肥前』『近江』もいるしな。空いた乗員は他に回すしかない」

 

 将和の言葉に自称観戦武官のパイ中将はそう言う。酷い言われようだがまぁ実際はそうだから仕方ない。なお、『肥前』『近江』はハワイ沖海戦で鹵獲した『メリーランド』『ウエストバージニア』であり主に行っていた速度向上の改装が漸く終わりを告げ完熟訓練を経ての配備が漸く叶ったのである。

 

「それで、ネーデルランドとの交渉は無理そうなのか?」

「無理だろうな」

 

 ブリトンとの交渉が纏まりかけた10月上旬からネーデルランドとの和平交渉を始めた葦原であった。しかし、ブリトンから情報を得ていたネーデルランドは初めから強気の交渉であった。

 

「ボルネオ島をも返還!! これが無ければ和平はしない!!」

 

 ネーデルランド側は葦原の足下を見てそう主張したのだ。これに対して葦原ーー廣田首相は交渉打ち切りを通達したのである。

 

「ネーデルランドは交渉というのを理解していない」

 

 この事もありネーデルランドは結局は保有していた植民地の返還は出来ず、大戦後は国力を低下させてしまうがそれは別の話であった。その為、ネーデルランドに返還する予定だったインドネシアは引き続き葦原の占領下となり大戦後にはそのまま独立するのであった。それはさておき、ブリトンとの和平を実現した葦原はマリアナの防備を更に強めるのである。

 

 

 

 

 

 




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