伴天連歴1944年2月17日、レナ・スプルアンス中将の第58任務部隊は未明から哨戒飛行を行っていた二式大艇に発見されたのである。
「発見されましたか……まぁ仕方ありません。攻撃隊の発進を急がせましょう」
「サー!!」
第58任務部隊は以下の艦艇で編成されていた。
旗艦
『ニュージャージー』
高速空母任務部隊
司令官 マリーネ・ミッチャー
旗艦
『ヨークタウン2』
第一群
司令官 ジェネファー・リーブス少将
空母
『ヨークタウン2』『ベロー・ウッド』
巡洋艦4隻
駆逐艦9隻
第二群
司令官 アーシャ・モントゴメリー少将
空母
『エセックス』『イントレピッド』『カボット』
巡洋艦4隻
駆逐艦7隻
第三群
司令官 フォーリー・シャーマン少将
空母
『バンカー・ヒル』『モンテレー』『カウペンス』
戦艦
『ノースカロライナ』『マサチューセッツ』『Iowa』『ニュージャージー』
重巡2隻
駆逐艦11隻
史実より空母と戦艦が少ないのはそれまでの戦歴によるだろう。それでも600機近い航空機を保有しており作戦運用も可能であったのだ。
スプルアンス中将は制空権獲得のために第一次攻撃隊として最新鋭戦闘機であるF6F『ヘルキャット』72機を発艦させトラック諸島に向かわせたのである。
(アドミラル・ミヨシの機動部隊はまだ環礁内にいる……今度は此方の勝ちよッアドミラル・ミヨシ!!)
第二次攻撃隊を準備中の飛行甲板を見つつスプルアンス中将はそう思うのである。対して将和の機動部隊は既にトラック諸島を出撃しパラオ泊地に向かっていた。
「長官、攻撃をしなくて宜しかったのですか?」
「ん、あぁ。トラック島は防空戦しかやらないからな。カウンター攻撃をしても構わんが……パイロットの被害は大きいぞ?」
「ッ」
将和の言葉に嶋野は息を飲む。史実でも米軍の対空砲火は凄まじく、敵戦闘機の包囲網を突破されても対空砲火が待ち受けていたので航空機の被害は多かった。VT信管の情報はまだ無かったが将和は既に搭載しているという認識で動いており大量の銀紙を用意させつつあったが将和はあえて逃げるを選択したのである。
「我々が対抗手段を講じれば向こうは直ぐに違う手段を選ぶだろう。VT信管を封じるのは2つしかあるまいし、今一つの手札を奴等に見せるのは宜しくない」
隠せる手札はギリギリまで隠し通す事を将和は選択したのだ。
「小林も戦闘機隊のみを残してマリアナに退避させたと言っている。泊地も艦艇船舶は空だ……奴等の攻撃は空振りだ。奴等の被害はパイロットの損耗だよ」
(成る程。長官はそこまで考えて……)
将和の言葉に嶋野は背筋が凍るような思いであった。それはさておき、第58任務部隊から発艦した第一次攻撃隊のF6F72機はトラック諸島上空で葦原海軍の多数の戦闘機の襲撃を受けたのである。
「奇兵隊参上ォォォ!!」
最初に襲い掛かったのは第251空であり彼女達は最新鋭戦闘機である『烈風』を操っていた。
「成る程、正しく『烈風』は零戦の後継機だな……」
僅か一連射でF6Fを撃墜した坂井美緒中尉はそう呟く。彼女らの第251空は元は台南空が母体であり第251空には笹井少佐を筆頭に太田飛曹長、西沢飛曹長、本田飛曹長等ベテランパイロットで占められていたのだ。
『坂井、今日は入れ喰いよ。だからと言って油断は禁物よ』
「勿論です笹井中隊長」
無線から流れる笹井少佐の言葉に坂井はそう返し新たな敵機を求め空戦の輪に入るのである。対して第一次攻撃隊は混乱していた。
『何故よ!? 何故こんなに戦闘機がいるのよ!!』
『ミリィがやられたわ!!』
『後ろからジークに追われている!! 誰か助けーー』
『ロザリー!?』
『全機、逃げるのよ!!』
トラック諸島上空は第251空の他にも第201空、第204空の零戦隊も参戦しており第一次攻撃隊は這々の体で第58任務部隊に帰還する。帰還出来たのは僅か8機だった。そして第二次攻撃隊も葦原海軍航空隊の戦闘機に包囲されるのである。
第二次攻撃隊はそれでも何とか包囲網を突破したがまだ第205空の零戦72機、第322空の『雷電』54機が待機しており爆撃しようとしていた第二次攻撃隊に襲い掛かったのである。
『まだいるというの!?』
『ファック!! 私達はハメられたのよ!!』
『ふざけるんじゃないわよ!!』
彼女達残存第二次攻撃隊も残っていた葦原の戦闘機隊と空戦を開始するも第二次攻撃隊が不利なのは言うまでもない。
「……何て被害なの……」
スプルアンス中将は報告を聞かされて頭を抱えていた。第58任務部隊は都合、3回の攻撃隊を出し敵に与えた損害は僅かであった。そして未帰還は戦闘機97機、艦爆124機、艦攻103機であった。単純計算をすれば保有する航空機の半分以上を失った事になる。
「トラック諸島は未だその基地機能は無傷です。司令、此処は引くべきです。奴等の攻撃圏内にいるのは明確です!!」
「馬鹿な!? 此処は攻撃すべきです。疲労しているのは奴等も同じです。一挙に攻撃隊を出してトラック諸島を破壊すべきです!!」
参謀達は撤退に賛成、反対、攻撃等を主張し泥沼化になりそうであった。しかし、スプルアンスの中では既に決まっていた。
「……此処は引きましょう」
「司令!?」
「無理に行けば……此方がやられるでしょう。それにアドミラル・ミヨシの機動部隊がいませんでした……なら向こうは側面から叩こうとする可能性も0ではありません」
『ッ………』
スプルアンスの言葉は答えでは無かった。将和の機動部隊はパラオに向かっていたが今の彼女達は知りもしない。我々を何処からか狙っている、そう捉えたのだ。
結局、第58任務部隊は撤退を選択し直ちにトラック諸島の航空圏内を離脱するのであった。
「トラック諸島の事は聞きましたよ。三好さんも大変ですなぁ」
「ハハハ……」
3月、政府との定期会議の時に将和は出席していた岸大臣から心配そうに言われ将和も苦笑する。
先のトラック防空戦では一部の佐官達から将和への非難が出ていたりする。
「三好大将はせっかくの敵機動部隊撃滅を不意にしたそうじゃないですか」
「パイロットの損耗が酷いと言うがやってみなくては分かりません」
「ただ逃げているだけじゃない」
なお、言い出しているのは前回の作戦会議である意味追い出された神大佐でありそれに同調する者も何名かはいたが既に米内にピックアップされており4月の人事異動で海南島と済州島に左遷されるオチであったがこれはまだ内密だったので神達も気付いていなかったりする。
「まぁそこは海軍さんでやりますでしょう」
「ですな。備蓄の方は順調ですか?」
「はい。インドネシアのニッケル鉱山も稼働に乗りましたからな」
将和の入れ知恵によりインドネシアのスラウェシ島にあるソロワコ鉱山は史実等により早くに鉱山として産声を挙げておりまだ少量ではあるがニッケルの採掘を行っていた。これにより清の海上護衛はより重要性を増したのは言うまでもない。
「お頼みしますよ」
「無論です」
岸の言葉に将和は頷くのである。その後、陸海軍の連絡会議も開かれた。
「マリアナ防衛の為にもマリアナ諸島の増強は必然です」
司会役は史実より早くに軍令部一部長兼大本営海軍部参謀に着任した富岡智美少将が務めていた。富岡少将の言葉に陸海の面々は力強く頷く。そこへ将和が手を挙げる。
「三好大将」
「此処は航空機の生産を絞り増産すべきでしょう」
「どの機を増産と?」
「我が海軍なら新型艦上戦闘機『烈風』と局戦『雷電』ですな。『烈風』はトラック防空戦でその存在意義を示してくれた。此処は増産すべきだろうな」
「となると縮小する戦闘機ですが……」
「そうなると陸軍も『疾風』を増産すべきですな」
「ですな」
協議の結果、海軍は紫電改と零戦(最新型の33型、最終試験中の54型は除く)、九九式艦爆、九七式艦攻、零式水偵等の航空機は生産一時停止となり『烈風』『雷電』『彗星』『天山』の航空機が増産となるのである。
また陸軍も『隼』重爆『呑龍』等の生産は一時停止となり『疾風』重爆『飛龍』の増産が捗られる事となる。
そして将和や五十子を悩ます懸念はまだあった。
「……艦隊人事をどうすっかなぁ……」
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