『三好in山本五十子の決断』リメイク   作:零戦

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第四話 アウトレンジ

 

 

 

 

 

 

 翌朝の0700、第一機動部隊は土佐湾沖を航行していた。『加賀』の飛行甲板には飛行服に身を包んだ将和の他に小澤、宇垣がいたのである。

 

「艦攻は?」

「飛行甲板で用意しています。燃料も増槽を入れて満タンです」

「ん。各自、昼食とお茶又は水を用意してるな?」

「あ、あぁ。用意はしてるぜ」

「………………」

 

 将和から促された二人は弁当と水筒を見せ、確認した将和は頷いた。

 

「よし、なら艦攻に乗り込むぞ」

「……は?」

 

 将和の言葉に宇垣が代弁するかのように目を点にして唖然とする。

 

「良いから乗り込め。三人乗りの艦攻だから問題無い」

「「………………………」」

 

 将和に促された小澤と宇垣は渋々と用意されていた九六式艦上攻撃機に乗り込み将和も操縦席に乗り込んで各種点検をする。

 

「コンターック!!」

 

 既に暖気運転はしていたので発動機は一発で始動する。

 

「お気をつけて。まぁ艦隊上空ですけど」

「あぁ。夕方には戻る!! チョーク外せェ!!」

 

 整備員がチョークを外し将和は整備長に敬礼をする。

 

「発艦するぞ」

『マジかよ……』

『……………』

 

 そして九六式艦上攻撃機は発艦をする。将和は高度4000に上昇し航行する第一機動部隊上空に張り付く。

 

「これより1700まではずっと飛行するからな」

『な、1700までもか!?』

「あぁ。あ、言っておくけどトイレなら我慢するか氷嚢の中にして捨てろよ」

『……………へっ………………?』

「パイロットなら常識だからな。氷嚢は各座席に置いてあるから使うならそれを使えよ」

『………………………………………』

 

 将和の言葉に無言にならざるを得なかった小澤と宇垣であるが不意に小澤は口を開いた。

 

『三好司令……この飛行に何の意味があるんだ?』

「お前が推奨するアウトレンジ作戦の意味だ。経験する方が早いからな」

『アウトレンジの意味……?』

 

 そして午前中、将和は第一機動部隊上空を飛行し1200には各自で昼食を取る。なお、弁当は腐敗をなるべく無くすために海苔巻きが主流であり将和のは『ラボール巻キ』であったりする。

 

「小澤と宇垣。俺の正体は知っているだろ?」

『ん。ま、まぁな。最初は信じられなかったけど司令が推すモノには理解があるし納得も出来るしな。それに『加賀』とかもいるからな』

 

 飛行中、将和は伝声管を通してそう言ってきた。いきなりの事に宇垣は驚きつつもそう答えた。

 

「……史実ではな」

『え?』

「俺達の史実ではな。8月7日にソロモン諸島のガダルカナル島というところに米軍……ヴィンランド軍が上陸する。近場はラバウルの海軍航空隊であり海軍航空隊は零戦隊と爆撃隊をガダルカナル島に送るが……片道約1000キロだ」

『か、片道1000キロ!?』

『確か航空地図が何処かにあった筈……』

『あった、これだ……って大体が内地から屋久島間じゃないか!? ほ、本当なのか司令!?』

「あぁ本当だ。それをラバウルの航空隊は往復約2000キロと空戦をして帰ってくる」

『ま、待ってくれ。それはアウトレンジ作戦じゃないか。それなら……』

「そうだ、敵の航続距離圏外からの攻撃だ。だが……これが毎日ならどうだ?」

『毎日……?』

 

 将和の言葉に小澤は信じられない様子だった。一回だけならまだしも、それを毎日続けていたのだ。

 

「あぁ。ラバウル航空隊の零戦隊はほぼ連日に渡って長駆ガダルカナルを飛行して空戦をしそしてまた帰ってくる……これを繰り返した」

『……それだと身体が持たないな』

「そう、持たない。事実、帰還途中に疲れでそのままソロモン海や陸地に墜落するパイロットは多かったそうだ。そしてベテランパイロットは重宝され作戦に必ず投入されたから疲労困憊になる程だった」

 

 確かにそのような事例は多かった。その為山本のGF司令部は零戦隊パイロットの負担を軽減するためにブカ島やブーゲンヴィル島南部のブイン、ニュージョージア島のムンダに航空基地を建設してガダルカナル島への移動距離を短くしようとした。

 というよりもこういう事になったのがそもそもはMI作戦での空母4隻の喪失から始まった事である。元々はMI作戦後にFS作戦を行う予定だったがMI作戦での空母4隻喪失によりGF司令部と軍令部は作戦を修正、FS作戦をソロモン諸島の島伝いで行う方針に持って行く事にしたのだ。

 その第一段階でガダルカナル島に航空基地を建設する事だった。そして海軍設営隊の設営によってガダルカナル島の航空基地は後僅かで建設完了だった。

 しかし、米軍は逆手に取って奇襲上陸してこれを占領しヘンダーソン飛行場と名付けた。そこからは……泥沼の消耗戦であった。

 

「確かにアウトレンジ作戦は一時的……一回限りの戦法であるならば有効性はあるだろう。だからと言ってそれを常時続ければ……母艦飛行隊は元より海軍の航空戦力は消耗してその力を発揮出来なくなる」

『………そうか……私は間違っていたのか……』

「いや……間違いではないんだな。ただ、日本……葦原海軍には合ってはいない戦法なんだよ」

 

 ポツリと呟く小澤に将和は諭すように言うのである。

 

『あ、あの司令……』

「ん?」

『や……やはりトイレは……』

「飛行中のパイロット達の気持ちを知ってもらう為だ。やるなら氷嚢にしろよ」

『………………………』

 

 小澤と宇垣が機内でやったかはこの場では伏せるが1700まで将和は飛行を続け、着艦後に二人は顔を真っ赤にして艦尾から『ナニか』を投げ捨てるのであった。そしてその日の夜、長官室で休憩をしていた将和の元に小澤がやってきた。

 

「どうした?」

「……司令、私はこれまで航空戦を理解しているつもりだったが浅はかだった……お願いします、私にも航空戦を教授して頂きたい」

「……よし、構わないよ」

 

 小澤の表情は覚悟を決めた表情をしており将和はそれを見込んで笑みを浮かべるのであった。

 

「というわけで小澤も操縦を覚えろ」

「えっ」

「心配するな、俺が手取り足取りミッチリ鍛えてやる。ミッチリとなッ」

「………………お手柔らかにお願いします」

 

 ちょっと早まったかなと思う小澤であった。それはさておき、伴天連歴1936年(光文11年)は色々と火種が出来つつも12月31日にワシントン海軍軍縮条約が失効された。既に葦原はロンドン海軍軍縮条約からも脱退していた事でこれ以後は制限無き軍艦建造競争の時代に突入するのである。

 そんな12月31日の大晦日、将和らは今年度最後の会合をしていた。

 

「ではチハの開発を見直すと?」

「正確には三好中将の世界で量産されていたチハを此方で生産するには難があるという事だな」

 

 将和の問いに川島から新たに陸軍大臣となっていた寺内寿一大将はそう返す。

 

「三好中将のチハを生産しても軍港施設のガントリークレーンの耐久性を向上させなければならないし各地の道路開発をしなければならない必要がある。まだ光文3年とかだったら良かったが開戦まで後5年となると些か間に合わない可能性がある」

「成る程……それでどのような戦車を?」

「君の世界の対戦車砲……57ミリ対戦車機動砲を主砲にして思案をしている」

「あぁ……試製チト一号車のようにするんですな」

 

 確かに史実でも四式中戦車は一両だけ試作車が作られていたが結局は試製チト二号車のが採用されているので寺内らの案は道理であっただろう。寺内ら陸軍はこれを元に25t級中戦車として開発を急がせていたのだ。

 なお、エンジンについてはハ9で決定しており量産のために採用予定だった九八式軽爆撃機は不採用となりエンジンの生産は戦車のために続けられるという皮肉になってしまうのである。

 それはさておき、会合も終わり水交社に戻ろうとしていた将和であった。

 

「司令」

「ん、小澤か。米内長官のお守りはいいのか?」

「あぁ。今日は宇垣がいるから」

 

 飲み過ぎて泥酔する米内を宇垣に押し付けて逃げてきた模様である。

 

「水交社だろ? 帰ろうか」

「そうだね」

 

 二人でテクテクと歩いていく。大晦日の帝都はどこもヒッソリとしていた。

 

「来年は……どんな年になるんだろうか……」

 

 不意に小澤がポツリと呟く。

 

「さぁてね……だが来年は『盧溝橋』がある。何とか最小限の被害で収めたいところだな」

「………そうか………」

 

 最小限ではあるが介入や事変を行う気は満々にある。将和はそうニュアンスを含んだ発言に小澤も気付いており深くは聞かなかった。

 

「司令……葦原は勝てるかい?」

「馬鹿野郎」

「あたっ」

 

 小澤の言葉に将和は右手で小澤の頭にチョップ(軽く)する。

 

「勝てるじゃない。勝つんだよ」

「ッ」

 

 ニカッと笑う将和に小澤は顔を赤らめ視線を逸らす。

 

(あれ……何か胸が……)

 

 小澤は急に胸がチクチクするのを感じた。それが何を意味するのかは分からないが将和の笑顔を見てからだと自覚する。

 

(何だろう……顔を見れない……)

「どうした小澤?」

「んにゃッ!?」

 

 不意に顔を覗き込む将和に小澤は更に顔を真っ赤にする。

 

「な、何でもない……何でも……(うぅ~)」

「??」

 

 小澤の様子に首を傾げる将和であり、そんな二人を他所に伴天連歴1937年の年が幕を開けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 




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