『三好in山本五十子の決断』リメイク   作:零戦

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第六話 ノモンハン前編

 

 

 

 

 伴天連歴1937年も年末に差し掛かろうとしていた12月上旬、将和は米内らと共にいつもの会合場所の旅館に集まっていた。

 

「今年も何とか乗り切れたものだな」

「まぁ第二次上海事変も短期間で終わったのが幸いでしたからな」

 

 伏見宮の言葉に将和は頷く。

 

「戦線拡大を防げたのも幸いです」

「あぁ。南京まで攻める事はなかったしな」

 

 五十子の言葉にも将和は頷く。昨年8月に発生した第二次上海事変は11月1日には停戦条約が取り纏められ交付されていた。当初、陸軍の上海派遣軍は南京まで侵攻しようとしていたが陛下からの「戦線不拡大」という言葉を直に派遣軍司令官の松井石根大将に伝えられ、松井大将も不拡大に同意した事で基本的に戦闘は上海近辺で行われていた。

 中華民主国軍は20個師団の増援で上海に乗り込もうとしたが防御を固めた葦原陸軍、更に沖合いには将和の第一機動部隊による航空支援もあった事で中華民主国軍は上海に乗り込む事が不可能だった。

 その最中にも外相の廣田が南京に赴いて停戦交渉を行っており漸く実が結んだのである。

 

 

 

 ・葦原及び中華民主国は戦闘を停止

 

 ・戦闘停止後、葦原は上海租界の居留民をリャオトウ半島及び内地へ帰還させる

 

 ・居留民の退去後、上海租界は中華民主国に売却する

 

 

 

 

 以上を取り纏めたのである。事実上、大陸から(満州を除く)手を引く事を宣言したに等しかった。無論、葦原国内でも大陸から手を引く事に苦言を呈する政治家や起業家等も多数いたが……陛下の勅命という言葉に慌てて発言を修正したり取り消しをして自身に火の粉が掛からないように逃げたのである。

 

「後は防共協定の締結だが……」

「どうせ後で白紙化されますからね。技術協定を結んだ方がいいと思います」

「ウム……陸軍でもその方向に動かして大島を通じて交渉をしてはいるが……」

「交渉は芳しくない……と?」

「あぁ」

「うーん……出来ればアハトアハトの技術とかは欲しいんですけどね。後、Uボートの技術とか……まぁジェットエンジンは此方にもあるんで開発はしていますが……」

 

 『加賀』の格納庫には将和の世界で活躍した『ネ』発動機シリーズも積載されていた。葦原陸海軍は共同での『ネ』発動機シリーズの開発を勤しんでいたのであった。

 

「まぁトメニアが動かないのなら別に気にする必要はないでしょう」

「少し勿体無い気もするが……やむを得んか……」

「それよりもノモンハンに向けての軍備を整えましょう」

 

 将和の言葉に寺内や前回辺りから会合に参加している永田、南條が表情を変えた。

 

「機動化した90式野砲等を生産配備した砲兵連隊等を満州には送ってはいるが……」

「ルーシは砲兵師団ですからねぇ……戦車の方はどうですか? 第二次上海事変で大分活躍したとは聞きましたが……」

「えぇ。試作の4両を送ったのが思ったより評価を得ましたな」

 

 陸軍は三好世界のチハを分析し中戦車開発を勤しんでいた。その試作中戦車が第二次上海事変で活躍したのだ、陸軍も試作中戦車が活躍しただけに意気揚々でもあった。

 

「一先ずはチハを生産、せめて一個連隊は揃えたいところだが……」

「やはり長砲身57ミリを?」

「いや、やはり君の世界のチハを生産する事が決まったよ。君の世界の『第百一号』型輸送艦が決め手だ」

 

 第二次上海事変前に陸軍は試作の中戦車と三好世界のチハを輸送していたが輸送したのが『第百一号』型輸送艦だったのだ。この輸送で陸軍は陸軍でも『第百一号』型輸送艦を保有する事を決定し海軍に建造を依頼したのだ。海軍も建造を承諾したが将和からの情報(米海軍のLST-1級戦車揚陸艦)を元に『第百一号』型の拡大版の『第二百一号』型輸送艦の建造に踏み切るのである。

 

 

 

 『第二百一号』型輸送艦

 

 基準排水量 1,000トン

 全長 100m

 全幅 12m

 ボイラー ホ号艦本式缶2基

 主機 艦本式タービン1基

 出力 3,000馬力

 速力 17.4ノット

 搭載能力

 戦車 180トン

 戦車用燃料 30トン

 弾薬 16トン

 糧食 39トン

 その他 15トン

 合計 約280トン

 揚貨機 1基

 兵装 45口径12.7サンチ両用単装砲1基

    九六式25ミリ単装機銃10基

 

 

 

 

「陸軍としては開戦予定までに20隻は運用配備したいところです」

「『第百一号』型も終戦までには70隻近くが完成運用していたのでまずは大丈夫でしょう」

「頼みます。我々はノモンハンで万全の状態でやります」

 

 寺内はそう断言する。ふと将和は五十子に視線を向ける。五十子も開戦は回避したいが準備はしておく事には賛成だった。

 

「山本、大丈夫か?」

「う、うん……私も理解はしているんだけどね……」

 

 会合が終わった後、将和は五十子に声をかける。その表情はどことなく暗かったがそれでも葦原の為と思っていたようだ。

 

「ねぇ三好中将……葦原は勝てると思う?」

「勝てはしないだろうな。だが、負けもしない」

 

 将和は即答した。歴史を知っているからこその将和の重みであった。

 

「どうして?」

「俺がいるからな」

「……フフッ」

 

 笑みを浮かべる将和に五十子はおかしかったのかクスリと笑うのであった。それは兎も角、葦原は次の戦いに備えるのである。

 そして年が明けた伴天連歴1939年、この年は歴史が大きく動かす事になる年になる。

 史実では1月4日に第一次近衛内閣が総辞職して5日に平沼内閣が成立するが未だに岡田内閣が踏ん張っていた。そもそも相次いで倒れて新しく成立するならまだ岡田内閣のがマシである。

 また、226事件で暗殺される高橋是清もまだ生きて財政を担っていたので葦原はまだ踏ん張れたのである。だが流石に高橋も高齢なので高橋も賀屋興宣を代わりに大臣として出そうと思案していたりする。(なお、それが実現したのはノモンハン事件が起きる前の岡田第二次改造内閣での事)

 そして同年5月11日、遂に満州のノモンハンにおいて葦原とルーシによる葦ル紛争の象徴とも言える事件ーー『ノモンハン事件』が勃発するのである。

 当初は満州国軍とモンゴリ軍の戦闘であったがこれに介入したのが満州に駐屯していた葦原陸軍の関東軍とルーシ軍の極東方面軍であった。

 先に動いたのはルーシ軍であった。ルーシ軍は兵力2300名、T-37が13両、BA-6を16両を含む装甲車39両、自走砲4門を含む砲14門、対戦車砲8門、KHT-26科学戦車5両をハルハ河に派遣したのだ。

 

「閣下、偵察機からの報告では約一個旅団程度の隊と……」

「直ちに第23師団を派遣しろ。小松原には増援に実験戦車隊をも送ると伝えろ」

 

 関東軍司令官に早期に就任した梅津美治郎中将はそう決断した。

 

「飛行戦隊も出せ。奴等を徹底的に叩いて叩き出せ!!」

 

 梅津の判断は間違ってはいなかった。翌日にはハルハ河付近にいるルーシ軍を飛行第11戦隊や飛行第10戦隊等が爆撃していた。この爆撃で派遣したルーシ軍はほぼ壊滅となりそこに小松原中将の第23師団と実験戦車隊が攻撃しルーシ軍と支援していたモンゴリ軍はほぼ全滅となる。第23師団は6月1日までハルハ河に展開していたがルーシ軍の増援が無かったので撤退を開始した。

 これが第一次ノモンハン事件であり第一次ノモンハン事件は関東軍の勝利であった。

 敗退したルーシ軍であったがそこからの行動は早かった。ルーシ連邦書記長のスターリンは第57軍団のフェクレンコ司令を更迭、後任は白ロシア軍管区副司令官であったゲオルギー・ジューコフ中将が就任しルーシ軍第57軍団は戦力の回復及び増強を進めるのである。

 

「次は第二次か……」

「本当に来るのか司令?」

「あぁ、奴等はまたノモンハンに来るぞ」

 

 将和の第一機動部隊は黄海に進出して名目上は演習としていた。

 

「関東軍から連絡が来たらプラン『甲』だ。その間は宇垣、艦隊を任せるぞ」

「任せておけ司令ッ」

 

 将和の言葉に宇垣は頷いた。そして6月17日になってルーシ軍航空部隊の再訓練の目途がつくとジューコフは航空隊に出撃を許可し、6月18日に15機のルーシ軍爆撃機が越境して温泉方面の地上部隊を爆撃し人馬多数が死傷、カンヂュル廟には30機のルーシ軍爆撃機が来襲して燃料集積所を爆撃、500缶の燃料が焼失するという損害が生じた。さらに爆撃は後方のロンアルシャンにも及んだのである。

 それに危機を感じたのが辻政信少佐だった。辻は第一次ノモンハン事件でも戦火拡大を唱えていたが梅津によって却下されていた。だが、このルーシ軍の一連の爆撃により独自の飛行偵察を行いタムスクを爆撃する事を決断するのである。無論、これは梅津にも黙っていた独断専行による爆撃である。

 6月23日、タムスク爆撃は行われ爆撃は成功してしまう。

 

「あのクソ戯けが!?」

 

 タムスク爆撃の報を聞いた梅津は思わず机を薙ぎ倒してしまう。そしてそのまま辻らその一派を拘束するのであるがルーシ軍はタムスク爆撃を本格的な関東軍の作戦行為と認識してしまいジューコフは本腰を入れてハルハ河の戦闘を行うのであった。

 後に言われる『第二次ノモンハン事件』の始まりであった。

 

 

 

 




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