ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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記念の10話。 ドヤ顔はダリアに勝てるのか。


ドヤ顔、模擬戦闘開始

 

 月夜の錬磨を終えた私は静かに部屋に戻った。 部屋に戻ると、寝ている二人を起こさないようにシャワー室に入る。 蛇口を捻り冷たい水を頭から被り思わず身震いした。 錬磨で火照っていた身体だったが、城の中の冷気に急激に身体を冷やされていた。 徐々に暖かくなるシャワーを浴びながら思う。

 

 いい月夜だったわね。 あれ程充実した錬磨は久しぶりだわ。 それもこれもあの人のおかげ。 私の“相棒”を私以上に使いこなし、あまつさえ明日の模擬戦闘のアドバイスまでしてくれた。 私には先見眼はないけど、分かる。 あの人は強い。 それも桁違いに。 

 

 排水溝に流れる水を見ながらぼんやりと考えていく。

 

 やっぱり誰かに教えて貰うのは違うわね。 独学でやってきたけど、新しい発見も見えるし。

 

 明日、アレを試してみるけど上手くいくかしら。 上手く誘い込まないといけないわ。 私にはダリアの動きを完全に見る事はできないし、だからこそ“アレ”が上手くいけばきっと勝てる。 うん、私は強いから大丈夫。 きっと。

 

 適度にシャワーを浴び、持ち込んだタオルで髪や身体を拭いていく。 私は備え付けられた鏡に自身を映した。 

 

 うん、完璧なプロポーション。 そして完璧な可愛さ。 我ながら惚れ惚れするわね。でも───。

 

 この眼よね。 先見眼か。 小さい頃には確かにあったけれど、なんで無くなったのかしらね。 何かがあったような気がするけど思い出せない。 思い出したくない? うーん、分からないわね。

 

 ガシガシと髪を拭き、下着と寝具を身に着けていく。

 

 今から寝ても直ぐに朝だけど、少しだけでも身体を休めないとね。 動いたから直ぐに眠れそう。 

 

 私はベッドに潜り込むと数秒もしないうちに眠りについた。

 

 

 

 

 

 「さっさと起きなさい」

 

 「ふぇ!?」

 

 私は深い眠りについている最中、突然の痛みと衝撃でベッドから落とされる。 寝ぼけ眼でその人物を見ると、ノーティスが制服のボタンを留めながら見下ろしていた。 どうやら蹴り飛ばされたらしい。 エマは三つ編みを作りながら笑顔を向けている。

 

 「何すんのよ」

 

 「いつまでも寝ているあなたが悪いのよ」

 

 「おはよ~朝の錬磨の時間だよ~」

 

 「ふぁ・・・。 眠い」

 

 「朝が強い訳でもなさそうな癖に夜中にコソコソ錬磨してるからよ」

 

 「気づいてたの?」

 

 「シャワーまで浴びて気づかないと思ったの? いいからさっさと顔洗って着替えなさい。 時間に遅れるわ」

 

 「急いでね~一人でも遅れたら連帯責任だから私達も怒られちゃうよ~」

 

 「ふぁあ。 はいはい」

 

 私は心底気だるそうに洗面所に向かう。 シャワー室と洗面所は一体化しており、カーテンに仕切られた奥がシャワールームとなっている。 ぼけっとした顔を鏡に映しながら歯を磨き、顔を洗う。 冷たい水で無理やり意識を覚醒させると、私はバスケットに入っていた適当なタオルで顔を拭きながら部屋へと戻った。

 

 「制服って洗濯はどうするの?」

 

 「自分達でするんだよ~洗濯場があるから名前を内側に書いておいてね~間違われちゃうから~」

 

 「あら、なら今日にでも洗濯しなきゃね。 替えの制服も元々クローゼットに三着しかないし」

 

 「うん~一緒に行こう~教えるよ~」

 

 「ありがとう、エマ」

 

 「いいからさっさ・・・と」

 

 妙に歯切れの悪いノーティスに振り返ると、ノーティスは目を見開き口をパクパクさせていた。 

 

 朝から変な子ね。 何かの錬磨かしら。

 

 「何よ」

 

 「あ、あなたそれ!」

 

 「え? これ? タオルが何よ」

 

 「あ~それノーティスちゃんのだよ~」

 

 「あら、そうなの? ごめんなさい間違えたわ」

 

 「ごめんで済むわけないでしょ!!」

 

 「何をそんなに怒って───。」

 

 ん? 何この刺繍。 何かのキャラクターかしら。 魔物ではないわね。 うーん、それにしても子供が好きそうな刺繍ね。 あ、そういう事か。 

 

 「可愛いわね。 私はいいと思うわよ」

 

 「うっ、うるさいわね! 返しなさい!」

 

 真っ赤になり怒鳴りながらタオルを奪い取ると、ノーティスは私をキッと睨みつけた。

 

 「エマにしか知られてなかったのに・・・誰かに言ったら許さないから!」

 

 「言わないわよ。 バカにもしない。 いいじゃない。 そのキャラクター?が好きなんでしょ? 堂々としなさいよ」

 

 「ノーティスちゃんはクールなイメージ持たれてるからね~」

 

 「成程? でも敢えてのギャップってやつよ。  ファンが増えるわよ」

 

 「私はファンなんて要らないわ! もう!さっさと着替えなさい!」

 

 私はぷんぷん怒るノーティスをこれ以上待たせてもいけないと、着替え始めた。 その間ノーティスは何やらぶつぶつ言いながら洗面所に入って行った。 

 

 そんなに怒る事かしらね。 まぁ、自分の秘密の一つを知られたら怒るか。 仕方ない、不本意ながら私がしっかり確認しなかったのが悪いんだし。 何かで埋め合わせするしかないわね。

 

 着替え終わった私とノーティスが部屋に戻って来たのは同時だった。 お互い視線が合い、私は先に口を開いた。 

 

 「悪かったわね。 間違えちゃって」

 

 「もう、いいわよ。 誰にも言わないって約束してくれるなら」

 

 「ん、任せて。 こう見えて口は堅いから」

 

 「信じるわよ?」

 

 「大丈夫だって。 それに私は可愛いと思うけどね」

 

 「だよね~私もあれ可愛いと思うよ~」

 

 「あ、ありがとう。 早く行きましょう!」

 

 真っ赤になり先に部屋を出るノーティス。 私とエマは互いに笑みを合わせるとその後についていった。

 

 

 

 朝の錬磨に向かうため三人で城内を歩いて行く。 寒さは無い。 私はノーティスとエマとたわいない話をしながら宿舎兵の錬磨場へと向かった。 錬磨場は城内ではなく、城と城壁の間にある建物にあった。 中はかなり広く、中央には石の舞台もあり既にほとんどの宿舎兵が各々錬磨を始めている。

 

 「ここが宿舎兵の錬磨場なのね。 昨日行った所と全然逆じゃない」

 

 「あなた昨日どこで錬磨したのよ」

 

 「確か研鑽場って書いてあったわよ」

 

 そう言うと二人共ギョッとした顔で私を見つめた。

 

 何よ。 何かおかしい事言ったかしら。

 

 「研鑽場ですって!? あそこは宿舎兵が行く事なんて許されてないわよ!?」

 

 「誰にもばれなかった~? 研鑽場は幹部部隊の方が行かれる所だよ~?」

 

 「そうなの? 昨日他に人が来てね。 いろいろ教えてくれたのよ」

 

 私がそう言うと、二人は先程より酷く焦り始め、私に詰め寄ってきた。 あのエマでさえ興奮気味に迫って来ている。

 

 「だ、誰に会ったの!?」

 

 「どんな人だった~!?」

 

 「あ、名前聞くの忘れていたわ。 そうねー凄い強そうだったわね。 私の“相棒”を簡単に使いこなしてたし。 いろいろアドバイスも貰ったのよ」

 

 「し、信じられない! 幹部部隊の方と会って名前も聞いて無いなんて!」

 

 「アドバイスまで貰ったの~!? 凄い事だよそれ~」

 

 そんなに凄い事なのかしら。 二人の反応から確かに凄い人だったんだって分かるけど結構親しみやすい感じもしたんだけどね。

 

 「まぁ、また行ったら会えるでしょ。 その時名前聞いてみるわよ」

 

 「また行く気なの!? 宿舎兵が行くような所じゃないって言ったでしょ!」

 

 「止めておいた方がいいよ~どなたか分からないけど同じ人がいるとは限らないし~」

 

 「確かにそうね。 でも残念ねー、ダリアに勝ったって報告したかったのに」

 

 「誰に勝ったですって?」

 

 「おはようございます」

 

 聞き覚えがある声が聞こえ、私達は振り向いた。 その先にはダリアと付き人のフレデリカが立っていた。 朝から嫌な顔見たわね。 

 

 「あんたに勝ったって報告をしたい人がいるって話よ」

 

 「あらあら、朝から随分寝ぼけた事を言うのね? 目を覚まさせてあげましょうか?」

 

 「結構よ。 そっちこそエマに謝る言葉を考えてきたんでしょうね?」

 

 「あはは。 ほんとに口だけは達者ね。 いいわ、今日の模擬戦闘で思い知らせて上げる。 行くわよ、フレデリカ」

 

 「はい。 それでは皆様、また後で」

 

 私達は笑いながら去っていくダリアとフレデリカを見つめた。

 

 朝から本当に嫌な女ね! まぁ、今日あの女の謝り顔が見れると思うと今から楽しみで仕方ないけどね。

 

 「とにかく錬磨を始めましょう。 あなたはまずロザリー様に挨拶をしないと」

 

 「あぁ、宿舎兵長さん。 何処にいるの?」

 

 「今色々な人の所に行って指導されてる人がいるでしょ~? 鎧を着てる方だよ~」

 

 あの人か。 他の宿舎兵の所で身振り手振り指導している人がいるわね。 よし、まずは挨拶しとかないとね。

 

 「じゃ、行ってくるわ」

 

 「ええ。 私とエマはここで錬磨してるから終わったら来なさい」

 

 「行ってらっしゃい~」

 

 二人と別れ、私はロザリーさんの所に向かった。 私が近づくとロザリーさんは振り向き、私を凝視した。

 

 「昨日入隊しました。 よろしくお願いします」

 

 「話は聞いているよ。 私は宿舎兵長をしているロザリーだ」

 

 「あ、私は───」

 

 「ドヤ顔だろう? オリガから聞いている。 面白い空気をしているとな。 確かに、君の空気は興味深いな」

 

 「え、いや、ドヤ顔は名前じゃなくってですね?」

 

 「ほら、また同じミスをしている。 その場合こちらへの対処もしないといけないな」

 

 急にロザリーさんは近くの宿舎兵に指導をし始めた。 流石に宿舎兵長だけあって周りにもしっかりと目を向けている。

 

 じゃなくて! オリガさん、どういう説明したのかしら!? なんで私の名前がドヤ顔ってなってるのよ! 私にはちゃんと名前が───。

 

 「ロザリー様。 今日は模擬戦闘をなさるんですよね?」

 

 いつの間にかダリアが近くまで来ていた。 

 

 気づかなかった。 やっぱりコイツ速い。 付き人もフレデリカって人はいないみたいだけど。

 

 「ダリアか。 お前の相手はフレデリカだろう?」

 

 「いいえ。 今日はこの新人の娘に色々教えてあげたいと思っていますの。 よろしいですか?」

 

 「・・・お前とこの娘ではまだ力に差がある。 フレデリカとにしろ」

 

 「ですから色々教えてあげたいのです。 この娘も私と模擬戦闘するのを楽しみしているみたいですし」

 

 意地悪な笑顔で私を見るダリアに私は目だけそちらに向けると口を開いた。

 

 「私はいいですよ。 井の中の蛙って言葉もありますし」

 

 「あはは。 ここまで言ってくるんですから自信もあるみたいですし、よろしいですよね?」

 

 「殺すなよ」

 

 「わかっています。 私もそこまでするつもりはありませんわ。 ではロザリー様の了承も取れた事ですし、また後ほど」

 

 そういうとダリアはその場から姿を消した。

 

 速いわね。 でも速さだけじゃ勝てないって分からせてあげるわ。

 

 「本当にダリアと模擬戦闘するつもりか?」

 

 「はい。 ダメですか?」

 

 「ダメではないが、あいつは性格さえ良ければメイドになれるかどうかというレベルだ。 宿舎兵の中でも一、二を争っている。 今の君では勝つことは難しいだろう」

 

 「大丈夫です、私強いので! じゃあ錬磨してきます!」

 

 「大した自信だな。 同部屋は誰だ?」

 

 「ノーティスとエマです! それでは!」

 

 私はそう言うと走って二人の元に向かった。

 

 「問題児部屋か。 また妙な奴が入ったものだ」

 

 

 

 

 「遅かったわね」

 

 「お帰り~」

 

 「ちょっとダリアが来てね。 面倒ったらないわ」

 

 「もう構うの止めなさいよ」

 

 「向こうが絡んでくるのよ」

 

 そんな話をしながら三人で錬磨を始める。 私は“相棒”を手に、月夜に教えて貰った動きを何度も繰り返す。 刀を自身の身体の一部にする意識を強く持ちながらだ。 ノーティスはナイフを藁で出来た人形に次々と投げ刺しており、エマはバラバラになった武器を組み立て新しい武器を作っていた。

 

 「へー、二人の得意な物ってそうなんだ」

 

 「まぁ、ね。 これくらいしか取り柄がないから」

 

 「ノーティスちゃんは戦況を冷静に分析もできるから凄いよ~私は戦闘は全然ダメだから~こうやって何かを組み立てるのは好きだからそれを伸ばしてるの~」

 

 「槍? バラバラだったあそこからそこまで復元できるのは凄いわね。 でも見た目は普通ね」

 

 「ちょっと違うよ~はい、できたよノーティスちゃん~」

 

 受け取ったノーティスが槍を前に突くと、矛が伸び藁の人形に突き刺さった。 槍の先端と鎖が繋がっており突く反動で矛が伸びたのだ。

 

 「すっご! 何これ見た目は普通の槍なのにこんな仕掛けになってたの?」

 

 「奇襲には使えるけど元には戻らないの?」

 

 「そこもまだ改良中だよ~伸縮性のある素材じゃないと難しいね~」

 

 「鎖じゃなくて魔物の素材を使ったら?」

 

 「なかなか手に入らなくてね~私じゃ魔物は狩れないから~」

 

 「なら私が狩ってきてあげるわよ。 そしたらいろいろ改良できるでしょ」

 

 「ありがとう~助かるよ~」

 

 「ファンの為よ。 任せなさい!」

 

 エマは胸を張る私を見ながら拍手しながら笑っていた。 ノーティスはそんな私達を横目に投げナイフで汗を流していた。

 

 

 「集合しろ! 模擬戦闘を開始する!」

 

 ロザリーさんの声が響き、宿舎兵は舞台に集まっていく。 ロザリーさんは既に舞台に上がっており、集まった皆に声を掛けた。

 

 「今日は事前通達の通り模擬戦闘を行う。 決められた相手でペアを組め。 まずは───」

 

 「私がやりますわ」

 

 少し離れた所からダリアの声が聞こえる。 そして舞台に上がると、私を見ながら口を開いた。

 

 「良いでしょう? こういうのは早くしないとつまらないわ」

 

 「上等よ」

 

 そういうと私は舞台に上がっていく。 周りの宿舎兵からひそひそと声が漏れている。

 

 ふふん、見てなさい。 私の強さで皆を虜にしてファンにして上げるわ。

 

 「よし。 分かっているだろうが模擬戦闘とはいえ危険性はある。 その時は私が止めに入る。 いいな?」

 

 「存じ上げています。 ですが殺さないよう加減するのが難しいですわね」

 

 「言ってなさい。 その減らず口叩き直してやるわ」

 

 「二人共準備はいいな? 模擬戦開始!」

 

 ロザリー様の声が響き渡り、私はダリアに向かって一気に駆けだした。

 

 

 

 

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