ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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11話。 冷たい空気。 それは悍ましい過去。


ドヤ顔と冷たい者

 

 勢いよく向かった私だったが、ニヤリと笑ったダリアに一瞬で弾き飛ばされてしまう。 

 

 一瞬だけダリアの手に獲物があるのが見えた。 だけど、やっぱり鮮明には見えないわ。

 

 「やるわね」

 

 「諦めてもいいのよ? ほら、跪いて忠誠を誓いなさい」

 

 「言ってなさい!」

 

 ダリアは旋棍を二丁持ち、高速で回転させている。 

 

 旋棍か。 リーチは短いけど小回りも効くし何より速い。 弾かれた時、手の動きが見えないなんてとんでもない速さね。 でも───。

 

 「確かに凄い手技だけどリーチが足りないんじゃないの」

 

 「貴女ほんとに馬鹿ね。 貴女のその長い刀、リーチが長い獲物って事は───」

 

 「っ!!」

 

 瞬間的に目の前に現れるダリアに私は対応が遅れてしまう。

 

 しまった!

 

 「懐に入られたら対処する術がないでしょう?」

 

 高速回転する旋棍に殴り飛ばされ、吹き飛ばされてしまう。 “相棒”を舞台に刺しながら飛ばされる威力を抑えるが口から血が滴り落ちている。

 

 「っ、あ・・・!」

 

 「長い獲物を持っているということは自分に速さが無いと言っている様なものよ」

 

 そうかコイツ、自分の速さを最大限生かせる獲物で旋棍なのね。 くそっ、口を切った。 血の味が不快だわ。 兎に角コイツを近づかせない様にしないと!

 

 私はダリアに駆け出し、月夜の錬磨で鍛えた刀を身体の一部として行う連撃を繰り出す。 それを涼しい顔で受けながらダリアは口を開いた。

 

 「へぇ。 その長い刀をある程度は使いこなせるみたいね」

 

 「くっ、これならどう!?」

 

 連撃から動きを変え一撃必殺の振り下ろしを繰り出す。 が、ダリアは私の目の前から消えていた。 瞬間、真後ろから声が聞こえる。

 

 「舐められたものね。 その程度で私に勝てると思ったのかしら?」

 

 「しまっ────!」

 

 私は全身を殴りつけられ、止めに蹴りを受けて吹き飛ばされた。 私は再度“相棒”を舞台に刺し、吹き飛ばされる威力を抑えた。 

 

 「う・・・あ!」

 

 痛った!! なんて奴! コレあばらが折れてるかもしれない。 ぐぅ、やっぱり嫌な女だけど強いわ!

 

 「もう終わりかしら? ならこのまま止めよ」

 

 「くっ、うぅ!」

 

 「そうそう。 立ち上がってくれないと面白くないわ」

 

 私はなんとか立ち上がるものの、足にダメージがきているのか、力が入らない。

 

 やばい。 変な汗が止まらないわ。 あばらは、なんとか大丈夫、折れてはいないわ。 でもどうすればいいかしらね・・・近づいてもいなされる、離れていちゃあのスピードで一気に距離を詰められる。 “アレ”はまだ少ししか出来ていないしこのままじゃ───。 ってダメダメ! 私は強いんだから絶対勝てるわ! 諦めない!

 

 

 

 

 

 sideノーティス

 

 

 「やっぱり無理ね」

 

 「ドヤ顔ちゃん負けちゃうのかな~」

 

 「ダリアは私達の中でも一、二を争うのよ。 鼻から無理だったのよ」

 

 「ダリア強いもんね~無理なのかなぁ~」

 

 そう、無理なのよ。 なのに何処からあの自信が来るのか不思議でしょうがないわ。 足もふらふらだし、ここまでね。 ほら、また無暗に突っ込んで吹っ飛ばされてる。 スピードも技のキレもダリアが断然上ね。 

 

 「でも凄いよ~ダリア相手にあそこまでやれるなんて~」

 

 「根性は認めるけど、それだけじゃダリアには勝てないわ」

 

 「だけど諦めてないよ~ほら、また攻めに行ってる~」

 

 「また吹っ飛ばされてるけどね。 刀を刺して舞台から落ちないようにしてるのは良くやってると思うけど。 おかげで立ち直りが早いわ。 あ! ダメよ! そんな考え無しに突っ込んだら!」

 

 観戦しながらつい言葉に力が入るのが自分でも分かった。 気づいたら私は握り拳を作って観戦している。 言葉では無理だと言っていても、心では違う事を考えてる。 

 

 たった一日、少し話しただけだけど、あの娘には不思議と色々世話を焼いて上げたくなる。 薄っすら見える暖かい空気がそうさせているのか分からないけれど。

 

 「ふふふ~」

 

 「な、何よ」

 

 「ノーティスちゃんが誰かを応援する所なんて初めて見たよ~」

 

 「ち、違うわよ! 私もダリアが気に入らないから仕方なくよ!」

 

 「そういう事にしといてあげる~」

 

 「もう!」

 

 私は揶揄うエマを睨む。 そして、目を舞台に戻しながら感じる。 顔が熱い、赤くなっているのが分かる。 こういう耐性は本当に無いわ、私。 でも、あの娘には負けてほしくない。 あの娘には何かそう思わせる空気がある。

 

 「私もここで見ていいですか?」

 

 横から急に声を掛けられるとそこにはフレデリカが舞台を見つめながら立っていた。

 

 「ええ。 それにしてもあなたのご主人様は容赦ないわね」

 

 「ダリア様は手を抜かれない人です。 性格は悪いですが人一倍錬磨をされてきました」

 

 「見れば分かるわよ。 入隊した当初はそうでもなかったのにいつの間にか宿舎兵の中でも一、二を争う様になってるんだから」

 

 「うんうん~ダリアは凄いよ~」

 

 「昨日は申し訳ありませんでした」

 

 隣にいるエマに深々と頭を下げるフレデリカにエマは慌て始めた。

 

 「フレデリカちゃんが悪い訳じゃないからいいよ~!」

 

 「ありがとうございます」

 

 再度頭を下げるフレデリカ見ながら思う。

 

 なんでこんないい子がダリアの付き人なのかしら。 いくら昔馴染みって言っても限度があるでしょうし。 今度聞いてみてもいいかもしれないわ。 

 

 「ダリア様は少しずつ打点をずらされてますね」

 

 「ええ。 あの娘がギリギリで致命打を免れてる」

 

 「面白い人ですね。 不思議な空気をほんの少しだけ感じます」

 

 「ただの自信過剰の馬鹿よ」

 

 「ふふっ。 そう言いながら先程は熱が入っていましたよ」

 

 「うるさいわね。 同部屋のよしみよ。 本当に、負けたら許さないんだから」

 

 私の呟きは周囲の歓声にかき消されていった。

 

  

 

 

 「いい加減しつこいわ!!」

 

 「あぐっ!!」

 

 何度もダリアに向かっていく私だがその度にダリアに殴り飛ばされていた。 しかし、舞台に刺した“相棒”のお蔭でなんとか舞台上から落ちないように踏ん張れていた。

 

 「あなたしつこさは一級品ね。 でもそろそろ終わりでしょう」

 

 「うぅ! はっー、はっー!」

 

 刀を支え踏ん張る私を見てダリアは歯軋りしながら睨みつけた。

 

 ふ、ふん。 いつもの上から目線の嫌味面が歪んできてるわよ。 

 

 「いいわ。 終わらせて上げる」

 

 瞬間、ダリアがふらふらの私の目の前に現れると嫌な笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 まずいっ、反応が・・・!

 

 「死になさい」

 

 「ダリア!!」

 

 急にロザリーさんの凄まじい声が響き、周囲の歓声もシンと静まり返った。 ダリアはロザリーさんに震えながら振り返っている。 そんなダリアをロザリーさんは凄まじい眼で威圧していた。

 

 「殺すなと言った筈だ」

 

 「も、申し訳ありません。 つい力が入ってしまって」

 

 「それを制御出来ない様では部隊兵に上げる訳にもいかん。 お前の悪い癖だ」

 

 「・・・はい」

 

 「ドヤ顔、まだ続けられるか?」

 

 「は、はい!」

 

 殴られすぎて口の中が血の味しかないし、身体中も痛い。 でも最初の頃より体のダメージは抑えられてきてる。 “アレ”もほとんど準備できたし、ここから私のターンよ!

 

 「それでは再開する。 始め!」

 

 ロザリーさんの声が掛かる。

 

 一度離れたダリアなら速攻で向かって来る筈。 何にしろ私にダリアの速さは見えないわ。 それなら一か八かの勝負よ!!

 

 ダリアが距離を詰める前に私は勢い良く舞台に“相棒”を突き刺した。 そんな私を見て、ダリアが不思議そうな顔をしていた。

 

 くらいなさい! 昨日できたばかりの新技!

 

 「何を───」

 

 

 【雪華・彼岸花】

 

 

 突き刺した“相棒”の衝撃で舞台に亀裂が入り、亀裂は広がりを見せ舞台を破壊していった。 周囲で観戦していた者達は悲鳴を上げながら離れていく。 更に破壊された舞台は幾つもの鋭利な石の棘となりダリアを襲った。 そんな中、ロザリーは高く飛び上がりそれを回避していた。

 

 「なっ!?」

 

 「危ない!エマ!」

 

 「これが狙いだったんですね!」

 

 「うわわっ! ありがとうノーティスちゃん~」

 

 石の破片が周囲を襲っていたが、他の宿舎兵は回避するなり自身の獲物で防いだりしていた。

 

 ロザリーは飛び上がりながら、舞台を見つめながら新入りの狙いを分析する。

 

 (やはりドヤ顔の狙いはコレか。 別々な方向に吹き飛ばされる度に刀で舞台から落ちないようにしていたが、予め舞台に傷を入れその線が集まった一点に深い力を入れる。 これを仕込む為に馬鹿みたいに突っ込んでいたな)

 

 急な舞台の破壊に対応できなかったダリアの足に、鋭利な石の棘が突き刺さった。

 

 「ぐっ!(足を削られた!)」

 

 「ボコスカやってくれたわね。 お返しよ!」

 

 「っ!」

 

 (ほう。 後ろに飛んで威力を流したか。 ダリアもあの足でよくやる)

 

 ダリアの顔面に思いきり拳を叩きつけ吹っ飛ばす。 石の棘を幾つか壊しながら吹っ飛んだダリアは旋棍を地面に突き刺し威力を抑えた。 ダリアは口から流れた血を舌で舐め取ると、睨みながら口を開いた。

 

 「やってくれたわね」

 

 「お望みならもう何発かお見舞いしてあげるわよ」

 

 「あは、あはは。 残念だけどさっきみたいな真似もうできないでしょう? その前に仕留めて上げるわ」

 

 「やれるもんならやってみなさいよ」

 

 嘘でしょ? 全力を込めた一撃だったのにコイツあんまりダメージ受けてないじゃない! 確かに感触は妙だったけど。 ヤバイ。 正直言ってもう立ってるのがやっとなのに!

 

 ダリアが前に進もうとするとバランスを崩し膝をついた。 忌々しく自身の足を見ながら舌打ちするダリアに勝機を見た私も前に進もうとしたが───。

 

 「あっ・・・」

 

 私はその場に倒れこんだ。

 

 身体が動かない。 アイツの攻撃を受け過ぎたんだ。 くそっ、ここまでやったのに! あともう少しなのに! 動いて私の身体!!

 

 「あはは。 限界みたいね。 よくやったわ。 この私にここまで傷をつけるなんて褒めてあげる」

 

 なんとか立ち上がり、足を引きずりながらやってくるダリアを見ながら私は思う。

 

 ごめんエマ。 私勝てなかった。 あんな事言っておいてごめん。 ダメ、意識が遠くなっていく。 母様・・・やっぱり私じゃ───。 

 

 

 

 

 

 『ほほほっ。 早うこちらへ来ぬか。 我が娘よ』

 

 

 

 

 

 名前も知らない見覚えのある顔が浮かび、そして聞き覚えのある誰かの声が聞こえた気がした。  瞬間、私を冷たい何かが包み込んだ。 

 

 

 そして、私の意識はそこで完全に途切れてしまった。

 

 

 (なんだあの空気は!? いかん!!)

 

 「ダリア!! 近づくな!!」

 

 既に地面に降り立ったロザリーの声もダリアには届かなく、否、届いてはいたがダリアは止めの一撃を止めれず振り下ろしていた。

 

 

 「うああっ!!」

 

 

 新入りの娘が苦しそうに叫んだ。 瞬間、今度はダリアの苦痛の声が響いた。

 

 「かはっ!」

 

 冷たい空気の者はダリアの首を掴むとそのまま地面に叩きつけた。 あまりの衝撃に地面にヒビが入りダリアは口から吐血している。 

 

 「はぁー、はぁー!」

 

 「あぐっ! ぐぅ!!」

 

 冷たい空気の者は首を掴んだままダリアを片手で持ち上げ締め上げていく。 ダリアの手には旋棍も無くダラリと力なく下がっていた。

 

 豹変した娘と、死に掛けているダリアを見て、ノーティス達が慌ただしく動き始めた。

 

 「ちょっとあの子どうしたのよ!」

 

 「分からないよ~!」

 

 「様子が変です! 止めましょう!」

 

 「近づくな!!」

 

 三人が止めに入る前にロザリーが声を張り上げる。 瞬間、冷たい空気の者の後ろに周り込んだロザリーは戦斧で抑え込もうとするが、長刀に弾き飛ばされた。

 

 「ちっ!」

 

 「ロザリー様の攻撃を弾いた!?」

 

 「痛い思いをするかもしれんが許せ」

 

 ロザリーはそう言うと戦斧を地面に落とし、冷たい空気の者に向かって突っ込んで行く。 冷たい空気の者はロザリーに斬撃を繰り出すが、ロザリーはそれを交わしダリアの首を絞めている腕を捩じり回しへし折った。

 

 鈍い音が響き、ダリアを解放したのを見たと同時に、ロザリーは更に冷たい空気の者の顔を掴み爆発的なスピードで錬磨場の壁に押し当てた。

 

 「うぐぁ!」

 

 「はあぁ!!」

 

 押し当てた衝撃で冷たい空気の者の身体が壁にめり込んだのを利用し、ロザリーは拳打を打ち続けた。 余りの衝撃に錬磨場の壁が破壊され、野外に出ると同時に地面に押し合てると止めの一撃を鳩尾に叩きこんだ。

 

 「ふー・・・。 大人しくなったか。 何だコイツは」

 

 「・・・」

 

 ピクリともしないドヤ顔を見ながらロザリーは考えた。 あのままだと間違いなくダリアは死んでいた。 それどころか周りの宿舎兵もやられていたかもしれん。 あの時の空気。 あれは人間が放つものではない。 コイツまさか・・・。

 

 「ロザリー様!」

 

 破壊された壁穴から宿舎兵がやってくる。 それを見ながらロザリーは口を開いた。

 

 「模擬戦闘は中止! ダリアを医務室に運べ。 それ以外は各自自室で待機しろ。 追って連絡する」

 

 「ダリアさんの方はフレデリカさんが既に医務室へ」

 

 「ロザリー様、その子はどうしますか?」

 

 「同部屋は誰だ?」

 

 「私達です」

 

 ノーティスとエマが不安な顔で前に出る。 そんな二人を見てロザリーは内心頭を抱えた。 

 

 そうだった、この新入りは問題児部屋だったな。 全く、厄介な奴を入隊させたものだ。

 

 「お前たちも部屋に戻れ。 後に調書を取る。 そう心配するな死んではいない」

 

 「分かりました」

 

 「はい~了解しました~」

 

 命令された宿舎兵達はぞろぞろとその場を後にした。

 

 

 残されたロザリーは倒れたドヤ顔を見ながら口を開いた。

 

 「そう、死んではいない。 ただの宿舎兵が私の拳打を受けながら生きていられる筈はないんだがな。 取り合えずお前は特別医療室行きだ」

 

 

 ロザリーは意識の無いドヤ顔を担ぐとその場を後にした。

 

 

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