ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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43話。 ソフィアは北の大陸最強の剣士


見えない剣

 

 「今、何か音が聞こえませんでしたか?」

 

 「確認済。 南東方向、爆発音有り」

 

 「南東ですか。 ソフィア様、少し寄り道しても構いませんか? 南東、東と西の大陸境にはロイヤルクラウンの部隊がいる筈です。 何かあったのかもしれません」

 

 「了承」

 

 イリーナとソフィアはブルデンバウム王国からロイヤルクラウンへ向かっていたが、小さな音を聞き洩らさず、そちらへと足を向けた。

 

 (嫌な予感がする。 音そのものはかなり遠いけれど、あそこには今はミルノアの部隊がいた筈。 東からやってくる魔物や魔族の数も増えているし。 それに、さっきから誰かが此方を見ている。 かなりの手練れね)

 

 誰かに見られている事を感じながらも、駆けながらイリーナは横を走るソフィアへと目を向ける。

 

 (やはり速い。 本気を出せば私等簡単に置いていける筈だけど、私に合わせている。 これだけの強さを持ちながら協調性も持っている。 ブルデンバウム最強はただの噂じゃない)

 

 二人が駆け続けていると、前方から悲鳴が聞こえて来る。 声が聞こえた二人はすぐさまそちらへと駆ける方を変えた。

 

 

 「来るな化け物共!!」

 

 「女、子供は後ろへ下がってくれ!」

 

 二人が声のする所を到着すると、そこには数十名の人間がいた。 女子供を中心に周りを武器を持った男達が囲んでいるが、その周囲には倍以上の魔物の群れが迫っていた。 イリーナは直ぐにその者達に近づくと、周囲の人間達に声を掛けた。

 

 「下がってください」

 

 「あ、貴方は・・・?」

 

 「ロイヤルクラウンの者です。 此処は私に任せてください」

 

 「お、おおっ! ロイヤルクラウン! 皆! ロイヤルクラウンの方だ!」

 

 人間達に喜びと安堵の声が上がり、イリーナが前に出ようとした時、ソフィアが先に魔物の群れに近づいて行く。

 

 「ソフィア様」

 

 「十分」

 

 「しかし・・・」

 

 「地面に伏せる事」

 

 一人前に出るソフィアに対し、イリーナは人間達を伏せさせる。 何をするつもりか、イリーナはその場で唯一人しっかりとソフィアへと目を向けていた。

 

 魔物の群れが一斉にソフィアに飛び掛かったその時、数十はいた魔物の群れが一瞬で細切れと化した。 ボトボトと肉片と化した物が散らばる中、イリーナは唇を噛んだ。

 

 (見えなかった。 剣を獲物にしているのは分かってはいるが、その剣閃さえ見えない。 確かに魔物の群れの中にはそれほどレベルの高い奴はいなかった。 それを差し引いても、強い。 ロイヤルクラウン最高の剣士であるアンナ様より・・・強いかもしれない)

 

 「終わりましたよ。 皆さん、顔を上げて大丈夫です」

 

 イリーナが声を掛けると、人々が恐る恐る顔を上げる。 周囲の状況を見て、歓声を上げる人々を見て、イリーナはホッと息をついた。

 

 「ありがとうございます!」

 

 「いえ、怪我人はいますか?」

 

 「大丈夫です」

 

 「疎開ですか?」

 

 大きな荷物をいくつも持っているのを見て、イリーナは問いかけた。

 

 「はい。 我々はブルデンバウム王国へ向かっている所です。 その途中、魔物の群れに襲われてしまって・・・」

 

 「運が有ります」

 

 剣を片手にソフィアがそう言いながらやってくる。 息一つ切らさず、赤い髪を靡かせながらやってくるその姿に、周囲の人々が羨望の眼差しを向けていた。

 

 「ソフィア様、一度ブルデンバウム王国を戻りましょう。 この方々をお送りしたいのですが」

 

 「否。 それには及ばない」

 

 ソフィアはそう言うと、指笛を鳴らす。 その音を聞いて、ブルデンバウムから続く視線の正体が姿を現した。

 

 「なんですかー! ソフィア様ー!」

 

 「五月蠅い」

 

 「御免なさいー! それで、どうしましたー!」

 

 近くにいるというのに馬鹿に大きい声で言う少女。 イリーナはその少女を一目見ると、その強さに驚いた。

 

 (まだかなり若い。 だけど強い。 ブルデンバウムを出てから視線は感じていたけど、姿までは確認出来なかった。 それに、私達の速さにもついてきていた。 でも、頭の方は・・・弱いわね)

 

 「この者達をブルデンバウムへ」

 

 「えー!? あたしソフィア様の御付きなんですけどー!?」

 

 「又、戻る事」

 

 「えー!? めんどくさいですよー!」

 

 「命令」

 

 「はーい・・・あっ、そうだ!」

 

 ソフィアにそう言われ、渋々引き受ける事になった少女は、何かを思い出したのか、イリーナへと身体を向けると、声を発した。

 

 「紹介が遅れましたねー! あたしはジュナって言います! よろしくお願いしまーす!」

 

 「え、ええ。 イリーナです。 よろしくお願いします」

 

 イリーナの手を握り嬉しそうにぶんぶんと振るジュナに対して、ソフィアは頭を小突いた。

 

 「急ぐ事」

 

 「いたっ! はーい。 分かりましたー! さー皆さん! これからブルデンバウムに向かいますよー! あたしについて来てくださーい!」

 

 元気よくそう言うと、ジュナは人々の先頭に立ち、人々を引き連れて森の中へ消えて行った。 それを見送ったソフィアは軽く息を付きながら呆れ気味に口を開いた。

 

 「強さは有ります。 しかし、頭が弱い」

 

 「忍んでいる者としては致命的でしょうが、彼女なら大丈夫ですね」

 

 「信頼は有ります。 先を急ぎましょう」

 

 そう言うと、ソフィアとイリーナは微かに聞こえた爆発音の場所へと駆けた。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 「ふっー。 ようやく途切れたわね」

 

 幾度となく襲い掛かってくる魔物の群れ。 積み重ねられた屍の上にアンナは座り込んだ。 牡丹の姿を持つ者との戦闘から数時間が経っていた。 そんな中、アンナは唯一人、東の大陸からやってくる魔物達を狩っていた。 その数の多さは、大爆発で起きたクレーターが魔物達の屍で埋められている事から分かる。

 

 「経った数時間でこの数。 ミルノア達に無理させすぎたわね」

 

 遠くを先見眼で見つめながら、アンナは先にロイヤルクラウンへ戻った仲間達の事を思った。

 

 (あの子達がロイヤルクラウンに着くのに後三日は掛かるわね)

 

 「・・・紅茶が飲みたいわ」

 

 「アンナ様」

 

 一人愚痴るアンナに対し、積み重ねられた屍の元から声が聞こえる。 それを見て、アンナは小さく笑うと屍の山から飛び降りた。

 

 「あら。 イリーナ、どうして此処に?」

 

 「微かに聞こえた音を頼りに。 アンナ様がそこまで服をお汚しになられるとは。 ミルノアの部隊は・・・駄目みたいですね」

 

 「ええ。 私がもう少し早く来れれば良かったのだけど。 悪い事したわ」

 

 「アンナ様の服から見てかなりの使い手ですね」

 

 「相手が悪かったわ。 それより・・・」

 

 「ソフィアと申します」

 

 イリーナの横に立つソフィアを見て、アンナは手を伸ばす。 伸ばされた手を見てソフィアも又、手を伸ばし、二人は握手を交わした。 そして、二人とも同じ事を思う。

 

 ((強い))

 

 「ロイヤルクラウン第五部隊部隊長、アンナです。 ブルデンバウム最強の剣士に会えて光栄だわ」

 

 「・・・」

 

 ソフィアはジッとアンナの目を見つめていた。 何を考えているのか、その真意は読めない。 自然と二人の手が離れると、イリーナが口を開いた。

 

 「アンナ様、一度ロイヤルクラウンへお戻りください。 その服では流石に」

 

 「大事な所は隠れているから問題ないわ。 イリーナ、貴方はソフィア様の案内を申し付けられているでしょう?」

 

 「しかし」

 

 「良いから。 ソフィア様、どうぞイリーナと共にロイヤルクラウンへ」

 

 「否。 ジュナが戻るまで此処に」

 

 「ジュナ?」

 

 「ソフィア様の御付きの者です。 先程、疎開中の人々を助けました。 その方々をブルデンバウムへと護衛されています」

 

 「そう。 それじゃ、その子が戻るまで二人共よろしくお願いするわ」

 

 「はい」

 

 「了承」

 

 三人が話していると、そこに魔物の群れがやってくる。 それを見た、アンナは溜息を付くと、剣を構えた。

 

 「水を差してくれるわね。 本当にキリが無いわ」

 

 「アンナ様、此処は私にお任せください」

 

 イリーナは黒い手袋を付けると、拳を鳴らし始めた。 それを見て、アンナも負けじと前に出る。

 

 「ようやく身体が暖まってきたのよ。 一緒にやりましょう」

 

 「でしたら、ソフィア様・・・」

 

 「否」

 

 ソフィアもまた剣を構え、前に出て来る。 そんな実力者二人の姿を見て、イリーナは心の中で苦笑した。

 

 (負けず嫌いな二人だ。 相性はいいのかもしれない)

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 「はっ! やぁ!!」

 

 「遅いな。 空気を感じる事が出来る様になったんだろう?」

 

 「はぁはぁ・・・何となくボヤッとした感じですけど」

 

 「それを鮮明に感じれる様にならねばな」

 

 「難しいですね。 それに、悪魔の力ってのも扱える様にならないと・・・」

 

 「少しずつだ。 確かに時間は無いが、焦りは禁物だ」

 

 「ねー、ヴラナ。 これも食べていい?」

 

 私がマキさんから別の刀を貸してもらい、錬磨している時、ヴラナさんがその相手を買って出てくれた。 一人で錬磨するより、格上を相手にした方が良いというヴラナさんの配慮だった。 肝心の私の師匠はずっと食べてばかりで、今も私とヴラナさんが真面目な話をしている中、話の腰を折る様に口を出してきた。

 

 「もー、リースさん! 今大事な話をしてるんですよ!」

 

 「分かった分かった。 それで? どうなのヴラナ」

 

 「ようやくぼんやりと空気を感じる様になったみたいだな。 後はそれの精度を上げる。 問題は悪魔の力の方だ」

 

 汗を拭う私に対して、息一つ切らしていないヴラナさんを見て嫉妬してしまう。 一時間近く私の猛攻を捌き続けながら汗もかいてないなんて、ほんと実力差ありすぎよね。

 

 「そっちに関してはアタシが考えてるよ。 取り合えずは徐々に悪魔の力に慣れさせる。 明日くらいから力を使わせていくよ。 詳しくはその時に話すよ」

 

 「えっ?」

 

 「何?」

 

 「いや、ちゃんと考えてくれてるんだなーって」

 

 「アンタ、アタシを何だと思ってんの」

 

 「大食い残念美人・・・あいたっ!!」

 

 リースさんが投げた雪玉が顔面に思いっきり当たった私は大の字で倒れた。 そのまま空を見上げる。 ヴラナさんがいるお蔭で雪は降っていない。 青い空を眺めたまま私は思う。

 

 (悪魔の力・・・か。 速く使いこなせる様にならなきゃ)

 

 そんな私を見て、何かを感じ取ったリースさんとヴラナさんが眉を顰めたのを私は知らなかった。

 

 

 

 

 

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