ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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槍使いと錬磨の成果

 

 「どんだけいるのよ! 多すぎでしょ!」

 

 「ほら、ごちゃごちゃ言わずに手を動かす。まだ来るよ」

 

 「もうっ! 死んでも知らないわよ! 雪華・胡蝶蘭!」

 

 私とリースさんは街の酒場の店主に言われた通りに草原を二日歩いた。 そして三日目の昼、付近の森の中からぞろぞろと盗賊団が現れた。 最初は五、六人くらいの人数だったのが、次第に数が増え、今では数十人もの盗賊が此方へ向かってやって来ていた。

 

 そんな盗賊団を相手に私は出来るだけ殺さない様に手加減を加えて相手をしていたが、途切れる事無くやってくる盗賊団に霹靂し、遂には技の一つまで繰り出すようになってしまっていた。

 

 【お前等! あんな上玉二人中々見つからねぇぞ! 絶対に逃がすな!!】

 

 【おおっ!!】

 

 ちょっとこれ、先が見えないんだけど? 胡蝶蘭で結構な数を倒したって言うのにまだやってくるし。 確かに私は世界でも一、二を争う程の美少女かもしれないけど、もっとこう・・・違うのよね。 こういう求められ方じゃないのよ。

 

 「リースさん、これ終わるんですか?」

 

 「さあ? まあでも、無限に湧いてくる訳でもないだろうし。 何れは終わるんじゃない?」

 

 【うおお! 黒服姉ちゃん頂き!】

 

 後ろからリースさんを羽交い絞めにしようとした大男だったが、リースさんは腕を組んだまま視界から消えた。 そして、大男を蹴り付けると、止めに踵落としで大男の下半身を地面に埋めてしまった。

 

 「汚い手で触るんじゃないよ。 無理矢理ってのはモテないよ」

 

 「うわっ、死んでませんよね?」

 

 「知らないよ」

 

 息一つ乱さす数人の男を蹴り飛ばすリースさんを見て、私は違和感を感じていた。 普段から飄々として掴みどころがない人だけど、何だか今日は妙にピリピリしてる気がする。 魔物でも魔族でもない人間相手にあれだけ容赦無く攻撃するなんてリースさんらしくない。

 

 そんな戦闘を続け、漸く盗賊団の無限沸きが終わった。 周りには完全に意識を失っている者や、痛みでのたうち回っている者もいた。

 

 「ふー。 終わりですかね? 数だけは多かったですけど、大した事なかったですね」

 

 「そうだね」

 

 「まあ? 私が強すぎるって言うのもあるんですけどね」

 

 「そうだね」

 

 「・・・リースさんの残念食いしん坊」

 

 「そうだね」

 

 おかしい。 絶対におかしい。 心此処に非ずって感じ。 こんなリースさん見た事無い。

 

 「リースさん、どうしました?」

 

 「アンタさ、おかしいって思わなかった?」

 

 「思ってますよ。 リースさん変ですよ」

 

 「アタシの事じゃないよ」

 

 「えっ?」

 

 戦闘が終わってもリースさんは険しい顔つきで辺りを見渡していた。 その時、私にも感じた。 何だろうこれ、肌がひりつく感じ。 この感じ、何度か経験した事があるわ。 確か───

 

 「店主が言ってたでしょ。 手練れの者も討伐に出たけど返り討ちにあったって」

 

 「えっ、ああ。 言ってましたね。 それよりもリースさん、あの───」

 

 「こんな奴等、街の自警団でも倒せる。 だけど、それでも返り討ちにあった。 それはつまり───」

 

 「リースさん。 さっきから凄い肌がひりつくんですけど」

 

 「だろうね。 コイツが原因か・・・」

 

 その時、森の中から歯を見せながら楽しそうな笑顔の女性が姿を現した。 手には槍を持ち、笑みを浮かべながら歩いてくる。 そんな女性を見て私は一目で分かった。

 

 (この人、強いわ)

 

 女性は辺りを見渡すと、大きく溜息を付き、倒れている盗賊団の一人を足蹴にすると、呆れた空気を出しながら口を開いた。

 

 「全く。 そんなだからお前等はいつまで経っても強くなれないんだよ」

 

 【か、頭あ・・・】

 

 「ほら、さっさと立つ。 五秒以内。 はい、いーち、にーい・・・」

 

 女性が声を発していくと、倒れていた盗賊団の者達が身体を震わせながら立ち上がり始めた。 有無を言わさずカウントを続ける女性に対し、私とリースさんは黙ってその光景を見つめていた。

 

 「よーん、ごー。 はい。 立った奴等は倒れている奴等を担いでアジトまで全力で走る。 急ぎな」

 

 【ヘ、ヘイ!】

 

 「後、女共に手当の準備。 どうやら死んでる奴はいないみたいだからね。 早くしなっ!」

 

 女性が一喝すると、立ち上がった盗賊団の者達は言われた通りに全力で森の中に走り去って行った。 黙ってその光景を見ていた私達だったが、女性が此方を振り向くと、私の肌のひりつきが更に強まった。

 

 「さ、て。 仲間を此処までやられたとあっちゃあ黙ってはいられないね。 俺が相手をしてやる」

 

 「やられたって、こっちが先に襲われたんだから不可抗力でしょ」

 

 「あー、確かにそうかもしれないね。 まあ、そういうのはどうでもいいんだ。 唯、興味があるのさ。 一人も殺さず制圧するなんざ簡単に出来る事じゃあない。 俺は強い奴が好きでね」

 

 あーこの人もそういうタイプの人ね。 強い奴と戦いたいって戦闘狂の一人、か。 リースさんはどう考えてるかしら。

 

 私は隣に立つリースさんをチラッと横目で見ると、リースさんも私の方を横目で見た。 お互いの視線が合うと、リースさんは口を開きながら後ろに下がって行った。

 

 「アンタに任せる。 相手してやりなよ」

 

 「えっ、私でいいんですか? あの人、強い人と戦いたいみたいですけど?」

 

 「アンタでいい。 油断するんじゃないよ」

 

 「油断なんてしませんよ。 この肌のひりつく感じ。 あの人強いですよね」

 

 「分かってるならいい」

 

 リースさんはそう言うと適当な岩に腰かけて私達を見つめた。 

 

 「先ずはお前さんが相手かい? よっしゃ! 気合入れていくぜ!!」

 

 槍を振り回し、私と対峙する女性はワクワクした表情で此方を見ていた。 仕方ないわね。 勝てるか分からないけど、やれるだけやってみよう。

 

 「行きますよ」

 

 「来なっ!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 強い、ね。 手下共は全く話にならなかったけど、この女は強い。 驚いたね。 これだけの強さを持ちながら盗賊なんて真似をしてる奴がいるなんてね。 今のままのあの娘じゃキツイ相手だろうけど、少しでもレベルが上な相手と闘う事で成長も早くなるだろうし。 此処はあの娘がどうやり合うか、お手並み拝見と行こうかね。

 

 「雪華・胡蝶蘭!」

 

 「甘い甘い!!」

 

 初めて見るだろう技でも簡単に捌いてる。 胡蝶蘭は上方、中央、下方からの斬撃だけど初見で捌くのにはかなりの対応力が必要となる。 それにあの女の槍、普通の槍より短い。 成程。 防御に特化した作りか。

 

 「今度はこっちから行くぜ! おらよっと!」

 

 「くっ! なんの!」

 

 あの娘も突きの連撃を捌いてるけど、完全に捌き切れてない。 だけど、致命傷は避けている。 上手くなったね。 ヴラナとの錬磨がいい結果を生んだみたい。 アタシじゃヴラナみたいに手加減してやれないからね。

 

 「へへっ。 やるな、お前さん。 俺の突きを交わす奴なんてそうはいねえ」

 

 「防御こそ戦闘の要。 相手の攻撃を捌き切れるかどうかで生きるか死ぬかが大きく違いますからね」

 

 「違いねえ。 しかし、お前さん剣士だろう? それにしちゃあ・・・」

 

 「何か?」

 

 「いや、何でもねえ」

 

 (剣士にしちゃあ接近戦がぎこちねえな。 確かに俺の槍を捌く程の防御は出来ている。 攻撃は中距離から斬撃を飛ばしてくるが、接近すれば完全に防御に廻ってやがる。 と、なると───)

 

 「うっし! こっからはちっと本気で行かせてもらうぜ!」

 

 そう言うと、女は自身の槍を逆手に持ち、私に向かって投げつけた。 

 

 「くぁ!!」

 

 凄まじいスピードで迫る槍を寸でで躱したが、女に目を移した時には既にその姿が無かった。 バシッと私の後ろで音がすると、相手の狙いが分かった。 

 

 (後ろを取られたね)

 

 (しまった!!)

 

 「今のは躱すんじゃなくて捌くのが正解だ! もらった!」

 

 「くっ!!」

 

 相手の槍が私目掛けて突き下ろされたが、瞬間、私は自身の身体の中に眠る悪魔を呼び起こした。

 

 「なっ・・・なんだこりゃあ!?」

 

 相手の槍は私の硬質化された髪の毛で塞がれると、女は驚愕したまま動きを止めた。 勝機! 私は動きが止まった相手に向かって横薙ぎの一撃を放った。 しかし、相手も並の者ではなく、瞬時に我に返ると、空に飛び上がって躱した。

 

 「くっ! はぁはぁ・・・」

 

 やっぱりこれ使うとかなり疲れる。 それに、身体も暑い。 まだ完全に悪魔の血に慣れていないからあまっり使いたくはないんだけど、そうも言ってられないわ、さっきのは危なかった。

 

 「てめえ・・・」

 

 肌に感じる空気のひりつきが激しくなる。 離れた位置から相手の女が此方を睨みつけている。 その目に宿る威圧は先程までの楽しむ様な空気から恨む様な空気へと変貌していた。

 

 「妙な空気してやがると思ったが、魔族だったとはな」

 

 「はぁはぁ。 いえ、私は魔族じゃ・・・」

 

 「そこで観戦してる女はダブルだろう? だが、てめえは違う。 なんだ、お前は?」

 

 「私は魔族じゃないです。 ちょっと変わってるみたいですけど」

 

 「まあ、何でもいい。 さっきのあれは魔族の力なのは確かだ。 お前の事は気に入ってたんだがな、魔族の力を使うなら仕方ねえ。 殺すしかねえ」

 

 明らかな殺気を放つ相手を見て、私は喉を鳴らした。 本気だ。 この人は本気で私を殺しに来る。 悔しいけど、さっき後ろに回り込まれた時、私には向かって来る槍を交わすのが精一杯で相手の姿から目を離した。 一瞬の油断、己の獲物を相手に投げつけるなんて想像もしてなかったから面食らってしまった。

 

 私はチラリとリースさんに目を向けると、リースさんは唯ジッと此方を見ていた。 その表情からは特に何か言いたい様な事もなく、私に任せると言った時と同じ表情をしていた。

 

 「ふうー」

 

 私は大きく息を付くと、相手を見つめる。 私を殺しに来るのなら此方も殺すつもりで行く。 相手が人間であろうが、私はこんな所で死ぬわけには行かない。 よし、試してみようかしら。 私がヴラナさんと錬磨している時に考えた技。 

 

 私は新たな銀雪花を鞘に納め、腰に構えた。 腰の回転と脱力した腕の振りを利用した剣撃。 唯、この技は足に力を貯め、一足飛びで相手に接近する。 接近戦が得意じゃないと相手に分からせればこの技の威力は更に上がる筈。

 

 (何だ、この構え。 何をする気だ?)

 

 「行きますよ」

 

 「・・・ハッタリじゃねえな。 いいぜ。 その技を捌いた時、俺の勝ちだ」

 

 相手の女も槍を振り回し、自身の前で防御の構えを取った。 その時、相手の女が真剣な表情から険しい顔つきへと変わった。

 

 「“氷華───”」

 

 (何だ・・・この空気。 あいつの周りの空気が揺らめいてやがる。 やべえ・・・)

 

 女の顔から汗が流れ落ちる。 その雫が頬を伝い、顎から地に落ちた。 乾いた大地に雫が染み込む真際、その瞬間がやって来た。

 

 

 

 (やべえ!!)

 

 

 

 「“朧牡丹”」

 

 

 (く、くそっ!!)

 

 

 「ぐあっ・・・っ!!」

 

 「なっ!?」

 

 一足飛びで接近し、相手と交錯した瞬間、鞘から放たれた剣撃。 確実にこれで仕留めきれる筈だった。 しかし、相手の女は私の剣撃を躱した。 槍で捌いた訳じゃなく、己の身を翻して完全な回避へと回った。

 

 私の最高速の一撃を躱すなんて! 仕留めきれなかった! くっ、やっぱり足の痺れが酷い。 あれで仕留めきれなかったのがまずい。

 

 「くっ・・・うう!」

 

 「はぁはぁ」

 

 

 血を流し膝をつく女と、限界まで力を貯めた影響で足が震えているドヤ顔の二人を見ながらリースは冷静に考えた。

 

 (完全には躱しきれていないね。 あれがヴラナと錬磨してる時に編み出した技、か)

 

 「て、てめえ・・・!」

 

 「くっ・・・!」

 

 「何て速さしてやがる・・・! くそったれが!」

 

 (確かに速いね。 足腰を鍛える為に雪の積もる場所での錬磨が役に立った、か。 それにしても、あの女。 初見のあの技を寸でで躱すなんてね。 流石にやるね)

 

 「あんな技があるなんて思わなかったぜ・・・!」

 

 「あれを躱すなんてやりますね! はぁはぁ」

 

 (ここまで、かな)

 

 リースは立ち上がると、睨み合う二人の間に歩いて行った。 そして、二人を交互に見ながら口を開いた。

 

 「よし、ここまで。 これ以上やったら二人共死んじまうよ」

 

 「ざ、ざけんな! こいつもてめえも俺が倒して・・・!」

 

 啖呵を切る女だったが、リースさんの一睨みで押し黙ってしまう。 

 

 「威勢がいいのはいいけどね、アンタじゃこの娘は倒せてもアタシには勝てない。 分かるでしょ」

 

 「ちっ・・・!」

 

 図星を突かれたのか、女はその場に座り込んだ。 私もそれを見て大の字に倒れ込んだ。 しんどすぎる。 やっぱりあの技は一撃必殺の技。 外したり、仕留めきれなかったらその後が完全に隙だらけね。 まだまだ錬磨不足かしらね。

 

 「いい勝負だったね。 さて、アンタには聞きたい事がある」

 

 「・・・分かったよ。 俺の負けだ。 この傷も治さなきゃいけねえしな。 ったく、あいつ等に合わす顔がねえぜ」

 

 「ま、傷の方は然程深くは無いし、これなら大丈夫だね。 ほら、薬草も上げるからさ」

 

 「あ? ああ、悪いな。 あんたダブルなのに良い奴だな」

 

 「ダブル全員が悪い奴じゃないよ」

 

 「魔族の血が流れてる奴等は全員敵だ。 そう思ってたんだけどな」

 

 「そこだよ。 魔族を恨む気持ちは分かるが、アンタのその恨みは尋常じゃない。 何があった? あの連中は何?」

 

 リースさんに問われた女は座り込んだまま黙ってリースさんを見つめていたが、暫くすると、大きな息をついて口を開いた。

 

 「俺らは魔族によって大切な者や故郷を滅ぼされた者の集まりだ」

 

 「だろうね。 でも、それだけじゃないでしょ? 何で盗賊なんて真似してる?」

 

 「───入りたかったんだ」

 

 「何?」

 

 小さく呟く相手の女はリースさんに言われると、赤面しながら大声を張り上げた。

 

 「ロイヤルクラウンに入りたかったんだ!」

 

 その言葉を聞いた時、リースさんは私の方を振り向き、私とリースさんはお互いに顔を見合わせた。

 

 

 

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