ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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蝙蝠

 

 クイーンさんのお茶会を終えた私は、その足である場所を目指していた。  ロザリーさんから聞かされた事実の一つ。  ダリアがリハビリをしている、と。  言われた時は意味が分からなかったけど、エマを待つ間に考えてみると、前線に出た時に負傷。  そして、現在は治療とリハビリを行っているという、当たり前の答えに行きついた。

 

 

 正直、エマとノーティスには早く会いたい。  けど、ノーティスは遠征に出ているし、エマは食堂でいくら待ってても来なかった。  流石に、夜も更けてくれば部屋には戻る筈だし、エマと話すのはその時でいい。  そう考えた私は、以前ダリアを殺しかけた時に見舞いに行った医務室へと足を向けた。

 

 

 医務室にまで来ると、部屋の灯りが落とされている事を知った。  そっか、もう夜も遅いし、皆寝てるわよね。  軽く溜息を付きながら踵を返そうとすると、医務室の隣の部屋のドアから、灯りが漏れていた。  ドアの前まで行き、プレートを確認すると、そこには回復錬磨場と書かれていた。

 

 

 私は、灯りの漏れる隙間から中を覗いた。  そこには、木で出来た手摺に片手で捕まり、ゆっくりと歩く赤毛の人物がいた。  負傷したであろう右足を引きずりながら、ゆっくりとだが、それでも確実に前に進んでいた。

 

 

 「ダリア様!  もう少しです!」

 

 

 「はぁはぁ・・・うっ、くっ!!」

 

 

 声が聞こえた。  懐かしい声だった。  私は、視線を声の方に動かした。  見れば、ダリアの傍でタオルを手に声を掛ける女性がいた。  髪が少し伸びているが、覚えている。  フレデリカだ。  汗を垂らしながら歩くダリアに向けて、フレデリカはずっと声を掛けていた。  私は、そんな二人を静かに見つめた。

 

 

 「あぅ!?」

 

 

 「あっ!」

 

 

 「ダリア様!」

 

 

 思わず声が漏れた。  順調に歩いていたダリアが、その場に倒れた。  フレデリカが急いで近づき、手を差し伸べていた。  その時、私は目を見張った。  あの、あの高飛車で嫌味な言い方ばかりして、だけど、実は面倒見は良くて。  それでも、人には弱った所なんて滅多に見せないダリアが、フレデリカの肩に捕まって立ち上がっていた。

 

 

 「ありがとう、フレデリカ」

 

 

 「いいえ。  少し休みましょう」

 

 

 「でも、早く治さないと・・・」

 

 

 「駄目です。  クラウディア様にも少しずつと言われているではないですか。  守れないのであれば、またあの苦ーいお薬ですよ」

 

 

 「うっ、あれはもう嫌よ。  分かったわ。  休みましょ」

 

 

 フレデリカの肩に支えられ、二人はドアの近くに置かれた椅子に近づいて来た。  私は咄嗟に空気を消し、慌てて顔を戻すと、壁際に隠れた。  二人が椅子に座った音が聞こえると、会話まで聞こえてきてしまった。

 

 

 「ふっー。  タオル、ありがとう。  汗は際限なく出て来るから嫌になるわね」

 

 

 「終わったらお身体をお拭きします。  具合はどうですか?」

 

 

 「腕の方は大分いいわ。  クラウディア様にも、ほぼ元に戻ると言われているし。  問題は、こっちね・・・」

 

 

 声だけ聞こえる私には二人の姿が見えないが、言葉で分かる。  足だ。  速さを武器に戦うダリアにとって足を負傷するのは今後の事に関わる重大な事だと分かった。

 

 

 「でも、前に比べて歩ける様になっていますよ。  頑張りましょう」

 

 

 「ええ。  悪いわね、付き合わせてしまって。  貴女は貴女の錬磨もあるでしょうに」

 

 

 「好きでやっている事です。  気にしないでください。  それに、私は医療の錬磨をやっています。  まだクラウディア様の元で、とはいきませんが。  少しはお力になれる筈です」

 

 

 「クラウディア様の部隊兵になりたいなんて、変わってるわね」

 

 

 「そうですか?  何度かお部屋にも行かせてもらいましたよ。  変わってる方ですが、悪い人ではないです。  それに、医療の腕は凄いです」

 

 

 「でしょうね。  私の怪我を此処まで治して下さったんですもの。  ようやく貴女は貴女の道を見つけたのだから、良かったわ。  フレデリカ、しっかりね」

 

 

 「はい!  ダリア様もですよ。  オリガ様もイディス様も、ダリア様が戻られるの首を長くして待っていますよ」

 

 

 「御二人と話したの?」

 

 

 「いえ・・・きっと、そうだと思います、よ?」

 

 

 「まったく、調子がいいわね」

 

 

 二人の明るい声が聞こえる。  良かった。  ダリアの心は諦めていないみたい。  それに、フレデリカは相変わらずダリアに様付けで敬語だけど、以前に比べて友人みたいな雰囲気になってる。  ダリアもまた、前に進んだのね。

 

 

 「そう言えば、リース様がお戻りになられているみたいですよ」

 

 

 「リース様が?」

 

 

 「はい。  メイドの方からお聞きしました。  リース様がお戻りになられているという事は・・・」

 

 

 そこまで聞くと、私の胸がドキドキと鳴った。  もしかして、私の話をするのかしら?  聞いちゃまずいわよね、流石に。  ダリアも頑張っているし、また、明日にでも───

 

 

 「フレデリカ!  何をしているの!  続きを始めるわ!」

 

 

 「えっ!  まだ、休憩が・・・」

 

 

 「あの娘にこんな姿見せられるものですかっ!  見たらどうせ“錬磨が足らない”とか“実力に差が付き過ぎたかしら?”とか言うに決まってるわ!  また、あの憎たらしいドヤ顔を見ると思うと吐き気がするわっ!」

 

 

 いっ、言わないわよ!  流石の私でもそんな事言うわけないじゃないのっ!  前言撤回!  ダリアの奴、何にも変わってないわ!

 

 

 「じゃあ、後少しだけですよ。  それにしても・・・ふふっ、あははっ!」

 

 

 「何よ、可笑しな事言ったかしら?」

 

 

 「いーえ。  相変わらず、ドヤ顔さんの事になると、ダリア様のリハビリが励むなと思いまして」

 

 

 「ふんっ。  ほら、早く肩を貸して。  まだ一人で立ち上がるのは辛いんだから」

 

 

 「はいはい。  くっ・・・あははっ」

 

 

 「もうっ!」

 

 

 二人が離れていく気配を感じながら、私はその場を後にした。  私がその時の話を聞いていた事を知ったダリアが、顔を真っ赤にして慌てふためいたのは、ずっと先の話。

 

 

 

 

 

 

 

 「という訳でーオリガとイディスの二人が今回の獲物でーす」

 

 

 「そう、ご苦労様。  今度はいつ向こうへ戻る予定なの?」

 

 

 「そうですねー暫くはこっちにいますよー。  ちょっと調べたい事もありますしー。  それでー誰を行かせますー?  オリガとイディスなら牡丹様なら対応できるかなーと思いますけどー」

 

 

 オルベルスの部屋でニコニコと笑顔を絶やさず話すのは、クイーンと共にいたメイドの魔族だった。  優雅に椅子に座り、赤い液体の入ったグラスを傾けながらオルベルスは微笑んだ。

 

 

 「言われるまでもないわ。  私のお気に入りよ?  牡丹、いらっしゃいな」

 

 

 オルベルスの言葉に、一人の女性が姿を現した。  牡丹と呼ばれた女性だったが、以前と姿が変わっている。  メイドの魔族はそんな牡丹を見て笑顔を絶やさずに口を開いた。

 

 

 

 「あれー?  また姿が変わってるじゃないですかー。  死んだんですかー?」

 

 

 「相手がアンナだと五体満足とはいかないわ。  だけど、今度の姿の方が私は好みね」

 

 

 「やっぱりネヴァナローナじゃ無理でしたかねー?  可哀想な事しちゃいましたねー」

 

 

 「可哀想?  一時的とはいえ、私のお気に入りになれたのよ?  感謝して欲しい位ね」

 

 

 言いながらグラスに口を付けると、オルベルスは牡丹の目を見た。  赤い瞳が紫の瞳を見つめると、牡丹は姿を消した。

 

 

 「牡丹様なら安心ですよねー。  あ、オルベルス様ー地下に行ってもいいですかー?」

 

 

 「何故かしら?」

 

 

 「封印された魔族を見てみたいんですよねー。  二人は外に出ちゃってるんですよねー?  一人だけでも見てみたくてー。  凄く強いって聞きますしー」

 

 

 「・・・それが貴女に必要かしら?」

 

 

 「だってー私、ロイヤルクラウンの人間の強さを知ってるんですよー?  封印された魔族っていうのがどれくらいの強さを持っているか、力が測れるじゃないですかー」

 

 

 明るい声で、笑顔でそう言うメイドの魔族に、オルベルスはジッと目を向けた。  ニコニコと視線を返してくる相手に、オルベルスは口角を上げた。

 

 

 「貴女は良く働いてくれているものね。  見るのは構わないけど、余り近づかない方がいいわよ」

 

 

 「大丈夫ですよー。  ちょっと見るだけですからー。  見終わったらそのまま休みますねー。  じゃー私はこれでー」

 

 

 「ええ。  “ゆっくり休んで頂戴”」

 

 

 オルベルスの言葉にメイドの魔族はにこやかに部屋を後にした。  そして、オルベルスだけが残ったかに思われた部屋に、暗闇から重厚な足音を立てながら近づいてくる者がいた。

 

 

 「ヨロシイノデスカ」

 

 

 「何が?」

 

 

 「生マレタバカリノ アノ女ニマカセテ」

 

 

 「ガルムボーン。  何なら“貴女”が行く?  オリガとイディスなら少しは楽しめるかもしれないわよ」

 

 

 「命令トアラバ」

 

 

 「うふふ。  “今度”の牡丹ならいい働きをしてくれるわ。  私のお気に入りですもの」

 

 

 「ソウ デスカ」

 

 

 「それより、ガルムボーン。  久しぶりに“運動”でもしてらっしゃいな」

 

 

 「命令トアラバ」

 

 

 重厚な足音を立てていたガルムボーンが、音も無くその場から消えた。  一人残ったオルベルスはグラスを傾けながら口を開いた。

 

 

 「馬鹿な娘」

 

 

 

 

 魔女の居城の地下。  そこには三人の魔物が封印されていた。  しかし、現在では二人は外へ、一人は未だに封印されたままである。  魔族であっても近づかない地下に、一人の人間の女性がいた。  鎖で繋がれ、身体中には無数の傷跡と、古いものから新しいものが混ざり合った血液が流れている。

 

 

 頭を垂らし、手足を拘束された女性に一人の魔族の女が近づいてくる。  足音が目の前まで来ても、女性は頭を上げる事はなかった。  傍から見たら死んでいる様にしか見えないが、魔族の女はその人物が生きている事を知っている。

 

 

 「やっぱり此処にいたー。  牡丹様が新しく生まれたって事はー生きてますよねー」

 

 

 メイドの魔族が女性の身体に触れると、女性はピクリと身体を反応させた。

 

 

 「やっぱりー」

 

 

 「・・・て」

 

 

 「何ですー?」

 

 

 「こ・・・ろ、して」

 

 

 消え入りそうな声で呟く女性に、メイドの魔族は笑顔を絶やさず、女性の耳元へ顔を近づけた。  笑顔でありながらも、先程までの声の質が変わった。

 

 

 「もう少しの辛抱です。  “牡丹様”。  貴女を此処から逃がします。  明日、同じ時間に来ますね。  アンナ様とクイーン様がお待ちですよ」

 

 

 「!」

 

 

 メイドの魔族の言葉に、女性が頭を上げた。  牡丹と呼ばれた女性は魔族の女を見つめたが、メイドの魔族の女は笑顔を残して女性の元を後にした。

 

 

 (やっぱり、此処にいたね。  オルベルスの奴、惨い事をする。  力だけを引き抜き他人に移しているとは。  これも魔女の力?  何にせよ、牡丹様の力を持った者が大量に増える様な事になれば、ロイヤルクラウンの戦力だけでは対抗出来なくなる。  何としても牡丹様を───っ!!)

 

 

 考え事をしながら地下の通路を歩いていると、首筋に冷たい物が刺さった。  否、刺さった感触がした。  汗が止まらない、一歩も動けないままでいると、メイドの魔族の背後から声が聞こえる。

 

 

 「あの女に何か用ですか?  レベルカ」

 

 

 「プ、プラムベティ様。  何故、此処に・・・」

 

 

 「何故?  それは私が聞いています。  あの女が気になりますか?」

 

 

 背後からの声の主はプラムベティだった。  まずい。  まさか三美凶の一人がこんな所にいるなんて思ってもいなかった。  適当な魔族なら誤魔化しも効くが、この女には効かない。  どうする、どうするどうする。

 

 

 頭をフル回転させ、レベルカは一瞬で考えた。  先ずは、落ち着く。  そして、努めて冷静に、いつもの私を演じればいい。  大丈夫。  ロイヤルクラウンと魔族の間を行き来し、どちらにも私の正体はバレてはいない。  いつも通り。  大丈夫だ。  

 

 

 「牡丹様が生まれ変わったと聞いてーそれでオリジナルがどうなってるか気になりましてー」

 

 

 「聞いた?  誰にです?」

 

 

 「オ、オルベルス様にですー」

 

 

 レベルカの言葉に、プラムベティからの返事はない。  直ぐ後ろにいる事は分かっているが、振り向く事も出来ない。  冷たい何かが私の首筋に当てられている感覚。  一つでも、何か間違いがあれば、私の首と胴は一瞬で亡き別れる事になる。

 

 

 「そう、お姉様にですか。  失礼しましたね。  行っていいですよ、レベルカ」

 

 

 「は、はーい。  失礼しますー」

 

 

 ようやく身体が動く様になり、首筋の冷たい感覚も消え、レベルカは冷静に歩き出した。  此処で焦ってはいけない。  慌てて飛び出すと、不信感を募らせる。  あくまで、冷静に、何も知らない体で歩みを進めた。

 

 

 「レベルカ」

 

 

 もう一歩で地下を抜け出せると思った矢先、背後からプラムベティの声が響いた。  ビクリと身体を震わせ、動きが止まる。  ついて来ていた?  気配何て全然分からなかった・・・。

 

 

 「な、何ですかー?」

 

 

 振り返らないレベルカに対し、プラムベティは耳元で囁く様に声を発した。  冷たく、深い闇の中から放たれた声は、レベルカに演技をさせる事すらさせなかった。

 

 

 「策は、上手く行きそうですか?」

 

 

 「何のことですかー?」

 

 

 バレている。  牡丹様を此処から逃がす計画は、この女にはバレている。  嫌な汗が止まらない。  私は此処で死ぬのか?  いや、それならそれでいい。  せめて、せめて私の独断で行った事とすればいい。  何が何でもクイーン様の事は隠し通す。  それが私の使命なのだから。 

 

 

 「蝙蝠は最後どうなると思います?」

 

 

 「コ、コウモリ・・・ですか?」

 

 

 「そう、蝙蝠です。  私は、貴女の事は嫌いではありません。  これまでも良く使えてくれています。  一度考えてみて下さい。  それと───」

 

 

 「・・・」

 

 

 「“蝙蝠は一匹だけじゃないんですよ?”」

 

 

 「っ!!」

 

 

 レベルカが勢いよく振り向くと、そこには暗闇があった。  声の主はそこにいた筈。  だけど、既に姿は見えない。  噴き出した汗が止まらないレベルカは、唇を噛みしめ、壁を叩きつけて破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 「ねえ、アルメリア。  今度部隊兵になるって本当?  凄いじゃない」

 

 

 「ほんとにね。  最近宿舎兵として入ったばかりなのに、追い越されちゃった」

 

 

 「戦闘能力はピカ一だもんね。  あーあ、私も早く部隊兵になりたいなー」

 

 

 更衣室で着替えをしながら話す宿舎兵達の中、アルメリアと呼ばれた女性は笑顔で口を開いた。

 

 

 「うんっ!  大変だったけど、頑張った甲斐があったよ!  褒めてもらわなきゃ・・・ねっ!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

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