ドヤ顔が得意な女剣士は勘違い病が凄まじい   作:nagiayu

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離反

 

 「クッ・・・!  あんな“狂った女”に先を越されるとは何という屈辱カ・・・!」

 

 

 闇が支配する城。  灯り一つ無い廊下を、ガルムボーンは歯軋りを立てながら歩いていた。  そんなガルムボーンの前に、数名の魔族の女達が姿を現した。  咄嗟に顔を手で覆ったガルムボーンだったが、普段なら、頭を垂れる者達の筈が今日は違った。    

 

 

 「ドケ」

 

 

 「噂は本当だったんだあ」

 

 

 「ねっ。  本当だった本当だった」

 

 

 「正かガルムボーン様が、ねえ?」

 

 

 「ナニ?」

 

 

 魔族達の会話に、ガルムボーンが目だけを光らせると、魔族達は笑いながら口を開いた。

 

 

 「気づいてないんですかあ?  マスクが無いから“城中に人間の匂いが充満してるんですよ”」

 

 

 「ねっ。  美味しそうな匂い」

 

 

 「前から怪しいと思ってたけど、やっぱり人間だったんだ」

 

 

 「貴様ラ・・・!」

 

 

 ガルムボーンは自身の顔を隠す手を外した。  知られてしまったのなら隠す必要は無い、そして、素顔を見たからには生かしてはおけない。

 

 

 「わあ、綺麗な顔。  人間にしておくのは勿体ない」

 

 

 「ほんとほんと。  それに、いい匂い。  齧りたい」

 

 

 「私が先よ。  オルベルス様から命じられたのは私なんだから」

 

 

 「オルベルス様・・・ダト?」

 

 

 魔族達の言葉はガルムボーンが全く想像にしていなかった。  正か、オルベルスが、自身の主人が───。  一刻も早く、事の真相を確かめるべく、ガルムボーンは魔族達を睨みつけながら口を開いた。

 

 

 「用事がでキタ。  失セロ」

 

 

 「そうはいかないのよねえ」

 

 

 更に奥からゾロゾロと集まって来る魔族達を見て、ガルムボーンは拳を作り上げると、見下した赤い瞳をギラつかせた。

 

 

 「雑魚共ガ。  手負いの私に数でかかれば勝てると思っタカ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ビギィ!!  ぐはっ・・・」

 

 

 城の内部であったと言われても信じれ無い程、周囲の光景が瓦礫の一体と化した時、最後の魔族がガルムボーンによって顔を握り潰された。

 

 

 「フッー!  フッー!!  クソ!  “名持ち”まで現れるとは誤算だッタ」

 

 

 夥しい数の魔族を殺したガルムボーンだったが、自身もかなりの傷を負っており、その場に膝をついた。   赤い血液が流れ落ちる中、事の真相を知る為、ガルムボーンは足を引きずりながら主人の元へと向かって行った。

 

 

 勢いよく部屋の扉を開けるとたガルムボーンに対し、オルベルスは美しくガルムボーンへと振り向くと、口角を上げた。

 

 

 「静かになったと思ったら。  酷い姿ね」

 

 

 「オ、オルベルス様。  ご報告が───」

 

 

 「やっぱり美しくない者じゃ駄目ね。  こんな手負いすら殺せないなんて」

 

 

 オルベルスの言葉に、魔族達の言っていた言葉に嘘は無かったと、ガルムボーンは怒りの声を上げた。

 

 

 「何故デス!!  私は渾身に貴女に仕えてキタ!  何故私ヲ!!」

 

 

 ガルムボーンの問いに、オルベルスは首を傾げながら不思議そうな顔で赤い唇を開いた。

 

 

 「私が何かしたかしら?」

 

 

 「貴女が私を───!」

 

 

 詰め寄るガルムボーンに、オルベルスは目を細めて牙を剥き出しに答えた。  その圧力に、ガルムボーンは歩みを止め、全身が動けなくなる程に震え上がった。

 

 

 「言って見なさい。  私が貴女に何をしたと?  逆に貴方は私の命に従わなかった。  それは美しくないのよ。  人間にしては面白かったから傍に置いて上げていたけれど」

 

 

 「グッ・・・クッ・・・!」

 

 

 「美しくないものは私には必要ないの。  貴女、もう汚れているわ」

 

 

 「オル、ベルス・・・!」

 

 

 「それに、貴女人間臭いのよ。  耐えるのが大変だったわ」

 

 

 鼻を摘まみ、眉間に皺を寄せながら放ったオルベルスのその言葉に、ガルムボーンの全てが爆発した。  “元”主人であったオルベルスへと殺意を剥き出しに迫り狂った。

 

 

 「オルベルスウウ!!」

 

 

 「いい美しさね。  でも“まだまだ足りないわ”」

 

 

 殺意に狂ったガルムボーンだったが、オルベルスが掌を向け衝撃波を放った。  途轍もない威力がガルムボーンを襲い、ガルムボーンは壁を粉砕しながら彼方へと吹き飛ばされた。

 

 

 「部屋が台無しね」

 

 

 言いながらオルベルスが指を鳴らすと、魔族の女が現れた。  その女に、オルベルスは笑みを浮かべながら口を開いた。

 

 

 「地下牢にでも入れておきなさい」

 

 

 「殺さないのですか?」

 

 

 魔族の女の問いに、オルベルスは笑い声を上げた。  心の底から楽しそうに、歪んだ表情は同族である魔族の女の顔を引きつらせた。

 

 

 「うふふっ!  殺さないのか?  ですって?  どうして?  あんなに殺意を剥き出しに私に迫ったのよ?  美しいと思わない?」

 

 

 「美しい、ですか」

 

 

 「いい事を教えて上げる。  人間であっても、魔族であっても、一番美しい瞬間は何だと思う?  誰かを殺したいと思う時なのよ。  そして、その怒りや憎しみ、悲しみ、全てを私の手で壊した時、最も美しい光となるの」 

 

 

 「はあ・・・」

 

 

 オルベルスの言葉に、魔族の女は首を傾げた。  そんな女を見て、オルベルスはやれやれと首を振ると、テーブルに置かれたグラスへと手を伸ばした。

 

 

 「もっと大きな光になれば、それだけ美しい光になる。  うふふ。  あの娘がどんな光になるか楽しみだわ」

 

 

 

 

 

 

 

 地下牢に放り投げられたガルムボーンは倒れたまま動けないでいた。  全身へのダメージと尽くしてきた主人に裏切られた事で、肉体的にも精神的にも動けなかった。  その瞳には、自分でも涸れ果てたと思っていた涙も流れていた。

 

 

 「グッ・・・グウッ・・・!」

 

 

 しかし、その心の中は憎悪の炎が燃え盛っていた。  そんなガルムボーンへ、同じ牢の中である暗闇から声が掛かった。

 

 

 「無様な姿だ、ね・・・ガルムボーン」

 

 

 「!  貴様ッ・・・!」

 

 

 牢の壁に背中を預け、座り込んでいたのはレベルカだった。  レベルカもまた、ガルムボーンとの戦いで付けられた傷が深く、肩で息をしていた。

 

 

 「何故、貴様が此処に・・・イル」

 

 

 「さあ、ね。  はぁはぁ、気づいたら此処にいた。  あんたが放り込んだんでしょ?」

 

 

 「貴様の事は、プラムベティに・・・任セタ。  その後の事など、知ラン・・・」

 

 

 「ふふっ。  もう“様”をつける必要もない、か。  どうする?  私を、殺す?」

 

 

 「身体がまともなら、そうしてやりたいガナ・・・グッ!  クソォ・・・!」

 

 

 歯軋りを起こしながら身体を震わせるガルムボーンに、レベルカは意外な言葉を発した。

 

 

 「あんた、まだあいつの言いなりに、なる気?」

 

 

 「何・・・?」

 

 

 「分かった、でしょ。  あいつ等に仲間意識なんてない。  私を殺した所で・・・使い物にならなければ、どんなに長く使えても、殺される」

 

 

 「・・・」

 

 

 「馬鹿を見るだけ、よ。  それが魔族何だろうけど・・・。  でも、あんたは人間でしょ?  ゴホッゴホッ!」

 

 

 話しながら吐血するレベルカを見て、ガルムボーンは何かを考えながら無理矢理に身体を動かし、レベルカの隣へ壁を背に座り込んだ。

 

 

 「フッー!  フッー!  ハァハァ」

 

 

 「動ける、じゃない」

 

 

 「馬鹿をイエ・・・。  これが限界、ダ」

 

 

 お互いに荒い息を上げ、二人の間に静寂が訪れた。  どれ位経ったか、お互いがある程度の息が整のった後、静寂を破ったのはガルムボーンだった。

 

 

 「私は、人間カ・・・?」

 

 

 「自分がそう思えば、人間でしょ。  それに、空気が人間だしね」

 

 

 レベルカの言葉に、ガルムボーンは子供の様に膝を抱えると、小さく声を発した。

 

 

 「私の故郷は魔族に滅ぼさレタ」

 

 

 「同情、して欲しいの?」

 

 

 「黙レ。  その時、私は魔族の戯れとしてこの地に連れて来らレタ」

 

 

 自らの過去を語るガルムボーンの瞳には何の感情も無かった。  ただ、暗闇の虚空をぼんやりと眺めていた。

 

 

 「必死に生キタ。  いつ喰われるか分からないまま、時を過ごシタ。  魔物に追われ、魔族共のオモチャにさレタ。  それでも、私は生かされてイタ。  人間を甚振るのが好きな魔族共のおかげデナ。  そんな時、私の前にあの女が現レタ」

 

 

 「オルベルス?」

 

 

 「そウダ。  人間である私をオルベルスは傍に置イタ。  骸のマスクを着け、人間の空気を限りなく消シタ。  オルベルスは私に言ッタ。  美しくなれ、トナ」

 

 

 「それで、忠誠を誓ったの?  ハッ、馬鹿みたい」

 

 

 「そうする事しか生きる術はなかッタ」

 

 

 「そこまでして、何で生きたかったの?  死んだ方が楽になっただろうに」

 

 

 レベルカの言葉に、ガルムボーンは暫く答えなかった。  レベルカも、直ぐに答えを聞く訳ではなく、ただ黙って言葉を待った。

 

 

 「約束、したンダ」

 

 

 「約束?」

 

 

 「ウィンクドレスを知っていルカ?」

 

 

 「知らない訳ないでしょ」

 

 

 「ドレスが・・・いや、ドレス様が何があっても生き抜けとそう言ってくレタ」

 

 

 「ウィンクドレスが?  本当なの?」

 

 

 意外な人物が意外な事を言った事に、レベルカは驚いた。  三美凶の一人として恐れられている人物の言葉とは到底思えないと、レベルカは苦笑しながら口を開いた。  そんなレベルカに、ガルムボーンは鋭い目付きで言葉を返した。

 

 

 「私の言葉が信じれないノカ?」

 

 

 「そうじゃない、けど。  でも、あのウィンクドレスでしょ?  同族だって無感情に殺す奴。  あり得ない」

 

 

 「貴様が知らんだケダ。  ドレス様は、いつも私に食料を与えて下さッタ。  血反吐を吐いて倒れていれば、傷の手当をして下さッタ」

 

 

 「じゃあ、なんでウィンクドレスの手下にならなかったの?」

 

 

 「馬鹿をイエ。  その時の私はオルベルス直属の駒だ。  ドレス様の元に行くなどしてミロ」

 

 

 ガルムボーンの言葉に、レベルカは息をついた。  そう、三美凶は姉妹と言われているが、ウィンクドレスだけは異質とされている。  オルベルスネーシアやプラムベティと違い、この東の大陸に居る事も少なく、魔族や魔物を必要以上に手に掛けている。  人間より魔族や魔物を敵視しているのではないかとさえ言われていた。  そんなウィンクドレスにオルベルスネーシアもプラムベティも手を焼いており、隙あらばお互いにその命を狙っていると言われている程だった。

 

 

 必然的に、オルベルス直属の駒であるガルムボーンがドレスの元に行くような事があれば、それはドレスが表立ってオルベルスに逆らったとされ、三美凶同士の戦争へ発展してしまう事態になってしまう。

 

 

 「馬鹿だね、あんた。  ついさっきオルベルスにやられたっていうのに、次はウィンクドレス?  節操が無い」

 

 

 「黙レ。  生きる糧を与えて下さったドレス様に迷惑が掛かる様な事はでキヌ。  それに、ドレス様は他の二人と違ウ」

 

 

 深い、それでいて強い眼差しを闇に向けるガルムボーンの横顔を見ていたレベルカは、何かを決心したかの様に口を開いた。

 

 

 「迷惑、ね。  確かに、ウィンクドレスが違うって言うのは分かるよ。  うん。  決めた」

 

 

 「ナニ?」

 

 

 レベルカは一人頷くと、その場で横になった。  傷を気遣いながら落ち着く体勢を整えた後、目を閉じるレベルカを見て、ガルムボーンが口を開いた。

 

 

 「オイ。  何の話ダ?」

 

 

 「あんたが信じる人を私も信じてみるって話。  このまま此処で野垂れ死ぬくらいならやってやる」

 

 

 「ドレス様カ?  だが、貴様にはロイヤルクラウンの奴等がいるだロウ」

 

 

 その言葉に、レベルカの脳裏には共に錬磨してきたメイド達やクイーンの姿が浮かび上がった。  しかし、レベルカはそれを言葉にせず、笑みを浮かべた。

 

 

 「私は蝙蝠。  何処にでも飛ぶさ。  多分“あの人”もそうしろって言う」

 

 

 

 

 

 

 「ふふふ~ん。  さーて、そろそろ死んだかな?  ちょっとつまみ食い~」

 

 

 ガルムボーンとレベルカが地下牢へ放り込まれ数日が経った。  そんな地下牢へ、一人の魔族が鼻歌交じりにやって来た。  魔族は牢の前に立つと、牢には触れない様に中を覗き見た。

 

 

 「えっ」

 

 

 牢の中を見ていた魔族の前に、ガルムボーンとレベルカが突如姿を現した。  魔族は二人が生きていた事にも驚いたが、何より、二人の傷が明らかに減っている事に驚愕した。

 

 

 「ど、どういう事!?  いくら魔族だってあの傷がそんな簡単に治る訳ない!」

 

 

 「私は人間だガナ」

 

 

 「そ、そうよ!  お前は人間でしょ!?  なんで傷が・・・!」

 

 

 「ヒントを教えて上げようか?  空間を移動できる“信じてみよう”って魔族もいるって事」

 

 

 「どういう意味よ!」

 

 

 「自分で考えなよ」

 

 

 牢の外で叫ぶ魔族に、ガルムボーンが近づいていった。  後退る魔族だったが、牢には封が施されている事を思い出し、汗をかきながらも顔を歪めた。

 

 

 「はっ、ははっ!  この牢は破れない!  直ぐにオルベルス様に報告してっ・・・!」

 

 

 「舐めルナ」

 

 

 そう呟いたガルムボーンは鉄格子に手を掛けた。  瞬間、凄まじい衝撃と強力な封がガルムボーンを襲った。  しかし、ガルムボーンは鉄格子から手を離さす、更に力を込めた。

 

 

 「ヌアアッ!!」

 

 

 「ひっ・・・ひぃ!」

 

 

 協力な封にも退かず、鉄格子を破壊しようとするガルムボーンの姿に、魔族はその場で尻もちをついた。  

 

 

 「ガアアッ!」

 

 

 勢いをつけたガルムボーンは、遂に鉄格子を広げ、封を完全に破壊してしまった。  ガルムボーンから焼けた匂いと煙が上がっていたが、それも意に介さず、二人は牢の外に悠然と歩みを進めた。

 

 

 「ちょっと、死なないでよ」

 

 

 「フッー!  フンッ。  非力な貴様の代わりに開けてやったンダ。  感謝シロ」

 

 

 「はいはい。  じゃ、私は“例のヤツ”を探してくるから」

 

 

 「アア。  話した場所で落ち合ウゾ」

 

 

 戦意を喪失し、怯え切った魔族を尻目に、二人は地下牢を後にした。  残された魔族はその場で震え上がり、我に返るのに長い時間が掛かったという。  そして、そんな現場を地下牢奥深くから見つめる瞳があった。  牢の入り口は空いているが、中にいる“それ”は自ら出てくる様子は無かった。

 

 

 

 

 

 「お待たせー。  悪いけど、コレしか無かったよ」

 

 

 レベルカがガルムボーンにある物を投げ渡すと、ガルムボーンはそれを受け取り、苦虫を噛み潰した表情をした。

 

 

 「他に無かったノカ?」

 

 

 「言ったでしょ、ソレしか無かったって」

 

 

 「・・・間に合わせだが、無いよりまシカ」

 

 

 「口元が隠れれば十分でしょ。  贅沢言わないでよ」

 

 

 「チッ」

 

 

 ガルムボーンが舌打ちしながらソレを顔に付けると、二人は同じ方を向いた。  振り向けば闇が支配する土地があるが、二人はもう、振り向く事は無かった。

 

 

 「取り合えず、ウィンクドレスに会わなくちゃ始まらないね」

 

 

 「当てはあるノカ?」

 

 

 「さあ?  でも、探すしかないでしょ」

 

 

 「使えない奴ダ」

 

 

 「ふあーあ。  あんたに言われたくないよ」

 

 

 欠伸をしながら答えるレベルカに、ガルムボーンは怒りを覚えたが、直ぐに深い溜息を付くと、頭を振った。

 

 

 「言い合っても始まラン。  追っ手ハ?」

 

 

 「気づいてるでしょ。  あんたが始末してよ?」

 

 

 「リハビリには十分だロウ」

 

 

 拳を握るガルムボーンを横目に、レベルカは足の爪先で地面をトントンと何度か叩いた。

 

 

 「さて、行くよ。  ちゃんとついてきてよね、鈍間さん」

 

 

 「もう一度顔を破壊されたい様ダナ」

 

 

 二人は互いに言い争いながら夜を掛けた。  二人の離反は後に、人間と魔族との戦争に大きく関わってくる事となった。

 

 

 

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